ウルトラ父子餅つき大作戦!


データ

脚本は石堂淑郎。
監督は山際永三。

ストーリー

クリスマスが過ぎ正月が近いある年末の日。
光太郎は南原と車でパトロールに出ていた。
するとクリスマスツリーの星の飾りがフロントガラスに張り付く。
車を止めてそれを取り除く光太郎。
それを見ていた小学生の女の子が星が欲しいと光太郎に頼む。
女の子に星をあげる光太郎。
パトロールを続ける二人は餅つきを羨ましげに見ている子供の集団に遭遇する。
餅つきをしてる大人たちは子供たちをその場から追い払う。
そこへ子供たちの住む寮の園長が来て、子供たちを連れて帰った。
一緒に餅つきを見ていたさおりに話を聞くと、子供たちは近くのはこべ園という母子寮に住んでいるという。
「お父さんのいない子ばっかりなんだねえ」と南原。
光太郎の発案で子供たちに餅つきをプレゼントすることにする3人。
早速臼を車に積んで母子寮に向かう。
母子寮にはクリスマスの星を欲しがった女の子もいた。
餅つきのことを聞いて大喜びする子供たち。
張り切って杵を持った園長は腰を痛めてしまう。
代わりに餅をつく光太郎。
すると月の方から何かが爆発したような音がした。
本部に異常がないか確認する光太郎。
しかし特に異常はないとのことだった。
餅の様子を見て「怪獣の食べるガムみたいだ」と男の子。
「そんなこと言っちゃあ怪獣が食べに来るわよ」と女の子。
すると突如空の方から笑い声がして怪獣モチロンが飛来した。
逃げ惑う子供たち。
中にはつきかけのお餅を食べる子供も。
子供に逃げるよう言う光太郎。
一方地上に降り立ったモチロンはつきかけのお餅をペロリと食べてしまった。
光太郎が攻撃すると、モチロンは風船のようなものにぶら下がって逃げて行く。
さっきの大人たちが餅をついているところに行き、餅を食べるモチロン。
さらにあちこちに飛び回って餅つき中のお餅を奪う。
ホエールとコンドルで空から攻撃するZAT。
しかしモチロンの吐き出す炎に北島のコンドルは墜落してしまう。
ホエールはモチロンがぶら下がる風船を狙って攻撃。
モチロンは地上に落下する。
民家を破壊するモチロン。
モチロンは手足を臼の中に入れると辺りを転がり家や車を破壊し始めた。
さらにモチロンは道路を走っていたトラックを破壊。
そのまま転がり続けて逃げる運転手も追い詰める。
モチロンを見失った荒垣は本部の森山に確認するが、レーダーには怪獣らしきものは捕捉されてないという。
モチロンを月の怪獣と推測する荒垣。
「月なら地球と同じ元素でできているから、宇宙怪獣の反応がないことの説明はつく」と荒垣。
はこべ園を訪れる光太郎。
そこにはさおりもいた。
怪獣に逃げられたと光太郎。
「正月が逃げてしまうよ」と男の子。
「つまんないわ。せっかくのお餅が食べられなくて」と女の子。
「すまない。でも明日は必ずやっつけるからね」と光太郎。
すると外からピアノの音が聞こえてきた。
外へ出る光太郎。
その音は光太郎にしか聞こえなかった。
空からピアノを弾く夕子が舞い降りる。
「あなたウルトラマンタロウさんでしょ」。
光太郎に語りかける夕子。
頷く光太郎。
「怪獣のことでお話しがあります。一緒に来てください」。
ついていく光太郎。
「私、前のエースと一緒に働いていた夕子よ」。
「エース兄さんに聞いたことがあります。月の方だった」。
「あなたが一生懸命地球のために働いていらっしゃるのを私、いつも月から頼もしく拝見していました」。
「僕なんかまだまだ」。
謙遜する光太郎。
「今度はうちのモチロンが馬鹿なことをしてすいません」。
「じゃあ、あの怪獣は月の?」
「はい。でも半分は地球のって言ってもいいんですよ」。
「どうしてです」。
「月の表面にある黒い影。あれは実は私たちの海なんですが、地球の人はウサギがお餅をついていると長い間信じて、お月見にはお団子まで供えたのです。その気持ちが月に到達して長い間に遂に本当に臼のような生き物になったのです」。
「なるほど」。
「そしてとうとうあのモチロンは、今度は逆に地球の本当のお餅が食べたくなってしまった」。
「しかし、もう十分食べたはずですよ」。
「すいません、色々ご迷惑をおかけして。私にはあれが何処にいるかわかります。私が帰るように説得します。あれがうんと言ったら、すいません、タロウさん。モチロンを地球の引力の外まで連れ出して欲しいの」。
承知する光太郎。
夕子は光太郎の手を掴むと空へ飛び立った。
そのままモチロンの潜む山の方へ飛んでいく2人。
2人がモチロンの周りをグルグル回ると、モチロンは目を回してしまう。
一緒に月に帰るよう説得する夕子。
お餅を腹いっぱい食べると言って帰ろうとしないモチロン。
「第一おらあ、地球の連中の気持ちが凝り固まってできたモチロン様なんだ。この際大いにご馳走して貰いてえと思ってるんだ」。
新潟の米はうめえから新潟で暴れまくるつもりだとモチロン。
「おめえ、人間のくせして何で俺と話せる」。
光太郎に尋ねるモチロン。
「僕はウルトラマンタロウだ」と光太郎。
「おら、前々からお前と力比べしたいと思ってたぞ」とモチロン。
向かってくるモチロンに対してタロウに変身する光太郎。
取っ組み合うタロウとモチロン。
タロウはモチロンを投げ飛ばすが、逆に投げ飛ばされ馬乗りにされる。
「モチロンやめなさい」と夕子。
タロウに投げ飛ばされたモチロンは炎を吐いてタロウを襲う。
さらに手足を引込め臼になり回転するモチロン。
タロウに捕まり持ち上げられるモチロン。
「タロウさんに降参しなさい」と夕子。
一思いに殺してみろとモチロン。
しかし自分を殺すと月の影がなくなり月見ができなくなるとモチロン。
その時ウルトラの父が現れた。
「タロウ。許してやれ」と父。
「モチロン。いい加減にして月に帰れ。新潟にまで行って餅を食うなどとんでもない話だ」。
「帰る前にお前が盗んだ分の餅を返すのだ」と父。
食べてしまったものは返せないとモチロン。
お前が臼になって餅をつくのだと父。
巨大化してモチロンの臼の中にある餅を引っくり返す夕子。
杵を振り下ろすタロウ。
見守る父。
翌朝、はこべ園の庭から餅をつく音が聞こえてきた。
外に出るさおり。
すると一人餅をつく光太郎がいた。
周りには大量のお餅が。
「この餅どうしたの?」とさおり。
飛び立つウルトラの父を指さす光太郎。
寮の子供たちもモチロンを連れて飛んでいく父に手を振る。
美味しそうに餅を食べる子供たち。

解説(建前)

モチロンは何物か。
モチロンは怪力でおまけに炎まで吐き、風船に乗って空まで移動できる。
かなり狂暴かつ強豪な怪獣である。
月星人はなんのためにモチロンと一緒に住んでいるのか。
これはやはり用心棒的な存在と考えるのが妥当であろう。
モチロンは地球に対しては容赦なく破壊行為を行っているが、夕子の言うことはある程度聞き入れている。
夕子としてもモチロンは危険な怪獣ではあるが、月に対する愛星心というものはあるので、普段から上手く付き合い、防衛力として利用しようということなのだろう。

ただ、モチロンは月では普段から臼として餅つきにも利用されている。
本人は嫌がってるのに、大人しく臼となっているのはなぜか。
ウルトラの父やタロウが月に常駐しているわけではないので、モチロンがその気なら臼になることを拒否するのは容易いはずである。
これは皮肉な話ではあるが、モチロン自身が餅を食べないと生きていけないからと考えるのが素直であろう。
モチロンが食べる餅を作るには自らが臼になるしかない。
ついたお餅は月の人たちの主食というだけでなく、モチロン本人にも主食なのだろう。
そもそもモチロンは地球人の月のウサギへの思いが凝り固まってできた怪獣である。
やはり餅がないと生きていけないのであろう。

モチロンが月の影というのはどういうことであろうか?
モチロンが地球へやって来ても月に異常はなかった。
そもそも影はモチロン誕生以前からあったはずである。
せいぜい月の海が荒れないように、番をしている程度ではなかろうか。
以前にも考察したが、月はルナチクスに滅ぼされてまだ復興の途上である。
夕子たち月星人もまだ冥王星に住んでおり、月には常駐していないと解釈される。
レオで出てくるかぐや姫との関係は微妙だが、基本的に月に常駐しているのはモチロンだけなのだろう。
おそらくZATの宇宙基地から見えない月の地中にモチロンは住んでいる。
そして月の復興のために訪れる月星人からその報酬として糯米を貰い、餅をついてもらっているのであろう。
ただ、やはり冥王星の米は地球の物よりは品質は劣るので、いつか地球に来たいと野望を抱いていたと思われる。



感想(本音)

緩い話なので解釈に苦労した。
なかなかの問題作で賛否両論ある話だが、私個人の意見では否の方が強い。
それはやはりモチロンの破壊行為。
スタッフはノリで作ってるだけで深くは考えてないのであろうが、モチロンは自我のある怪獣なのでやはり民家を焼き尽くしたり、車や家を押し潰したり、人間までも殺してはいくらなんでもまずいであろう。
ウルトラマンタロウは特に教育番組的色彩の濃い番組なので、ここまで大暴れしてちょっとしたお仕置きで放免は疑問が残る。
モチロンは話のわかる怪獣であり、夕子という保護者がいるから更生の余地があるとはいえ、これでは自分たちの身内に甘いと見られても仕方ない。
ちょっと穿ちすぎではあるが、大人目線からはどうしても疑問が残るところである。

かように全体的な印象としてはあまり良くない本話であるが、その辺りを抜きにして娯楽作品として見れば出来はかなり良い。
まずモチロンのキャラであるが、完全に臼の妖怪という感じでその言動、ルックスともに面白い。
そして個人的にツボだったのは風船に乗って移動するモチロン。
このミニチュアが妙にかわいく見てて飽きない。
おまけにZATの攻撃で風船が大爆発するし。
ヒンデンブルク号かというくらい大爆発して、よくモチロン無事だったなあと笑ってしまった。
そしてあのモチロンのテーマとも言うべきファンキーなBGM。
モチロン登場時の四谷怪談のような効果音とともに耳に残って仕方ない(笑)。

また、本話で注目はやはり夕子と父の再登場だろう。
エースファンとしてはああいう形で降板した夕子がメインゲストとして再登場というのは素直に嬉しいところ。
この扱いを見る限りは、星さんの降板は決して星さんに原因があったわけではないというのが容易に想像できる。
月のお姫様という感じで美しい夕子の姿を見るにつけ、さぞかしスタッフからもかわいがられていたのであろう。
そして個人的に印象に残ったのは餅つきの前に夕子が服が邪魔にならないようにタスキを掛けるところ。
凛とした美しさを感じるシーンであった。
また餅つきをしている時の幻想的なシーン。
夕子の美しい笑顔が素晴らしい。

一方ウルトラの父もエースの夕子登場編以来の再登場。
なぜか夕子の保護者みたいになってるのが不思議だが、父はタロウにはほとんど客演しないので貴重なシーンであろう。
タロウで父がほとんで出てこないのは母の存在が大きいと思われるが、あまり父が活躍するとヒーローたるタロウが弱く見えてしまうという配慮もあったのではないか。
さすがに両親ともにしゃしゃり出てきたら、親離れできてない印象になるし。
ところで父は夕子と会うのは久しぶりだったようだが、何でわざわざモチロンのために地球まで来たのであろう。
話を聞いてるとモチロンとは面識があるようだし、もしかすると以前暴れた時に父が収めたのではないか。
モチロンも父には頭が上がらないようであったし、やはり一度懲らしめられたのであろう。

本話はタロウでお馴染みの親のない子供たちが出てくるが、母子寮というのが今までとちょっと違う。
まあその割に母親が全く出てこなかったが、子役の中にバサラのカナエ役の子がいたのが注目される。
もちろん別人設定であろうが、バサラ編が後味の悪いエピソードだっただけに普通の女の子役の彼女を見て少しホッとさせられた。
ただ、相変わらず笑顔はなかったような気もするが。
はこべ園の子どもたちの演技はあまり本格的に子役として出てる子がいないせいか、全体的に棒読み。
カナエ役の子も一度出演してるのもあってセリフ多めだが、こちらもかなり棒読みであった。
前回も書いたが、当時は今ほど専業の子役がいなかったのであろう。
今やってるニンニンジャーに小林星蘭がゲストで出ている回を見たが、びっくりするほど演技が上手かった。
キャリアが段違いなので比べるべくもないが、隔世の感がある。

本話で気になったのはZATのレーダーが月の怪獣をキャッチできなかった点。
月と地球は双子の星という設定からは理解できるが、しかしそれではあまりにも使えないだろう。
話の都合上モチロンの行方がわからないという風にしたかったのであろうが、それでレーダーとしてどうなのかという疑問も残る。
因みにグロンの時はレーダーにキャッチされていたので、地球の怪獣でも妖怪変化のような特殊な怪獣はレーダーに映るのであろう。
まあ、そもそもグロンが地球の怪獣かという疑問もあるが。
もう一つ気になったのはやはりパトロール中に餅つきができるZATの規律面。
怪獣がいないのだから休めるときは自由というある意味合理的ではあるのだが、さすがに緩すぎないか。
市民の理解あっての暴力装置という宿命からこういうサービスは奨励されているのかもしれないが、さすがに如何とは思う。

本話の監督は山際永三。
エースの「復活!ウルトラの父」で見られたコミカルな音楽や意味深な赤ちゃんの写真等山際監督らしい演出が光るが、正直意味不明なところもあった。
モチロンの襲撃を戦争と重ね合わせるのは何故だろう。
まあ遊びなのだろうが、さすがに違和感があった。
山際監督と言えば「さようなら夕子よ月の妹よ」も担当しており、石堂氏とともにすっかり夕子担当という感じ。
一方特撮監督の方は固定されていないため、特撮シーンの雰囲気は作品ごとにトーンが違うようだ。
とにかく夕子役の星さんがTAC在籍時より美しく撮れており、ちょっと引退は勿体なかったなと今更ながら思ってしまった。

本話の脚本はお馴染みの石堂淑郎。
宇宙人は三下やくざという石堂氏らしく、モチロンは口調も行動もやくざそのものであった。
話は月だから餅、餅だから臼という単純な発想の元に作り上げられており、相変わらず力技の脚本。
解釈に困るくらい粗い脚本だが、エンターテインメントとしてはツボは押えており、その辺りはさすがである。
ただ、これは脚本か演出かいずれに問題があるのかわからないが、上記したようにモチロンは普通の怪獣と変わらず大暴れしており、何でモチロンだけ許されるのか腑に落ちない話になってしまった。
その辺りを解消すれば文句なしに佳作と言える作品だけに残念なところだ。

最後に本話のテーマだが、正直完全に娯楽編だけにテーマと言えるテーマはなかった。
無理に解釈すると、悪いことをしたらちゃんと責任を取ろうねってことになるが、こんなの当たり前。
そもそもモチロンは奪ったお餅は返したが、破壊した家や死んだ人に対しては何もしなかったし、できなかった。
これに関してはモチロンは人殺しまではしていないという意見もあるようだが、やはりあのトラック運転手は映像作品的には死んだと解するのが妥当。
単に潰されるシーンをカットしただけで、普通の想像力があればあの運転手が潰されたのは容易に想像できるであろう。
それに、そもそもあれだけ派手に民家を破壊して焼き尽くして死人がいないなんてありえない。
前回でキングトータス編での被害を描いたばかりではないか。

単なる娯楽編、イベント編にケチをつけるのは大人げないという意見もあるであろう。
しかし、そうやって大目に見てると、作品そのもののレベルが劣化する恐れがある。
やはりイベント編だろうが何だろうが、筋を通すところは通してもらいたい。
いくらファンであろうとも批判的な目は失ってはいけないのである。
まあこう言うと融通が利かない頑固おやじとか言われそうだが、頑固おやじで結構。
私自身、作品の楽しさについ甘く見てしまいそうになるが、こういう文章を書いている以上好き嫌いで手心を加えるのはフェアではないであろう。
ちょっと個人的な話になり過ぎてしまったが、本話の評価としてはもう少し何とかしてもらいたかったというのが本当のところだ。
ただ、筋を通し過ぎると堅苦しくなり娯楽性が損なわれるので難しいところではあるのだが。

タロウ第38話 タロウ全話リストへ タロウ第40話