怪獣よ故郷へ帰れ!


データ

脚本は石堂淑朗。
監督は筧正典。

ストーリー

ある山村の別荘。
別荘の老人が庭を散歩してると近くに巨大な怪獣が落ちてきた。
それを見て驚く老人。
怪獣出現の報を聞き出動するZAT。
ホエールとコンドルから様子を窺うZATだが、怪獣は攻撃してくる気配がない。
荒垣は別荘を守るため怪獣を谷底の方へ誘導するよう指示を出す。
しかしヘルツが別荘に近づいたためZATは攻撃を開始する。
怪獣が抵抗しないことから攻撃を中止して地上に降りる隊員たち。
「どうも何か感じが違うなあ」と荒垣。
「しかし副隊長。怪獣はあくまでも怪獣です。いつまた暴れ出さないという保証はありません。攻撃しましょう」と南原。
「問題は一体こいつは如何なる怪獣で、如何なる目的をもってこの地球にやって来たかです」と光太郎。
本部の計器に隕石と同じ反応があったことから宇宙怪獣には間違いないと北島。
しかし宇宙の何処から来たかはわからない。
「宇宙の何処から来たのか、それがわかれば対策の立てようもありますか?」と光太郎。
「宇宙の何処から来たのか、それを確かめに行ってきます」。
怪獣に近づく光太郎。
「おい、怪獣。お前の体の一部分をいただかせてもらうぜ」。
怪獣の足に乗り、ナイフで体を刻もうとする光太郎。
しかし体が硬くてナイフがボロボロに。
痛がる怪獣に蹴り飛ばされる光太郎。
踏みつぶされそうになる光太郎だったが、土踏まずの裏にうまく入り込む。
「ここなら柔らかそうだぞ」。
足の裏を抉り取る光太郎。
こそばがる怪獣。
光太郎が切り取った体の一部を本部に持ち帰り分析する北島。
残った3人は野宿して怪獣の様子を窺う。
すると3人の下へ一人の若い女性がやってきた。
「ZATの方ですのね」と女性。
「あの怪獣を早くやっつけてください。あれは大変悪い怪獣です。一刻も早く殺して」と女性。
「我々は今、あの怪獣が本当に悪い奴かどうか。一体どこからこの地球に紛れ込んで来たのか調査中なんです」と光太郎。
「そんなことは調べるまでもありません」と女性。
「そうですよ。怪獣のほぼ100%は悪い怪獣ですからね」と南原。
あの怪獣に祖父を殺されたと女性。
「早く仇をとってください」。
女性に案内されて別荘へ行く隊員たち。
そこには女性の祖父の死体があった。
「怪獣出現によるショック死のようですね」と荒垣。
そこへ北島から連絡が入る。
北島によると怪獣はメドゥーサ星座に住む怪獣で、電磁波の混乱から何か争いがあったのではないかという。
光太郎の提案で森山を女性の付き添いに呼ぶ荒垣。
「副隊長。夜明けとともに行動しないと、ZATは一体に何をしてるって世間の非難が起こりそうですね」と南原。
「本当に悪い怪獣とはっきりしてれば、簡単なんだが」と荒垣。
その頃森山は女性に付き添って別室にいた。
「森山さん。どうしてZATは直ちに行動を起こさないの」とめぐみ。
「現実に悪いことをしているか、あるいは今は何もしなくても、本当に悪い怪獣であるという確信が持てぬ限りZATは攻撃しません。怪獣もやはり人間と同じ生き物ですから」と森山。
「あの怪獣は私のおじいさんを殺しました。悪い怪獣です」というめぐみに対し、「ショック死ですから。直接殺されたわけでは」と森山。
しかしめぐみは怪獣が現れなければおじいさんは死ななかったと言い張る。
「森山さん。あなた一人で怪獣をやっつけて」とめぐみ。
「私はZATの一員です。勝手な真似は許されません」。
「そこを何とかして欲しいの。森山さん。お願いします」。
いきなり森山の首を絞めるめぐみ。
「結局は言いなりになるのよ」。
気を失った森山に乗り移るめぐみ。
応接間で寝てしまう3人。
スワローの爆音を聞いて目を覚ます光太郎。
「北島さんが来た」と南原。
しかしスワローに乗っていたのはメドゥーサ星人に乗り移られた森山だった。
「おのれヘルツめ。よくも地球まで逃げたな。もう生かしてはおかぬ。ZATの武器を借りて殺してやる」。
スワローが怪獣を爆撃し始めたため、慌てて北島に攻撃を止めるよう呼びかける荒垣。
「何をするって。怪獣の生態についての調査を続行してるだけですよ」と本部の北島。
急いで森山たちのいる部屋へ向かう3人。
しかしそこはもぬけの殻だった。
「森山君があの娘に唆されたんだ」と南原。
「もしかしたらあの娘さんは人間じゃないかもしれません」と光太郎。
「森山。どうしたんだ。ZATの規律に違反しているぞ」。
呼びかける荒垣。
それを聞いて荒垣たちを攻撃する森山。
「仕方ない。ホエールで森山君のスワローを攻撃しよう」と荒垣。
「森山君はかわいそうです。あの娘に唆されたに違いありません」と南原。
「このままではZATそのものが崩壊してしまう」と荒垣。
スワローの攻撃で炎上するホエール。
近くに停めてあるコンドルに乗り込む光太郎。
「森山君。正気になってくれ」と光太郎。
「邪魔する奴は皆殺す」と森山。
本部の北島も出撃。
「同士討ちか」と呟く荒垣。
「北島さん。森山隊員の体は星人に乗っ取られてるんです」と光太郎。
「それじゃ撃てないな」と北島。
「燃料が切れるまで、逃がさないように牽制します」と光太郎。
しかし北島のコンドルは森山の攻撃で被弾してしまう。
やむなくタロウに変身する光太郎。
墜落寸前のコンドルを助けるタロウ。
しかし森山の乗っているスワローを攻撃できない。
「私は蝶のように舞い、蜂のように刺すのだ。メドゥーサ星人の力を思い知るのだ」と森山。
タロウは両腕をクロスするとスワローと逆に回転し、その引力によりスワローの動きを封じる。
地上に降りた森山はめぐみの姿に変身し、続いてメドゥーサ星人本来の姿に戻り巨大化した。
「わしはメドゥーサ星人だ。怪獣ヘルツを星座から追い出してメドゥーサ星座を我が物にしようとしたのだ。ヘルツはZATの力を借りてやっつけた。タロウ、お前もやっつけてやるぞ」と星人。
気を失った森山を見つける荒垣、南原。
「森山君。君の体にメドゥーサ星人が乗り移っていたんだ」と南原。
そこへ北島も合流。
星人と格闘するタロウ。 タロウのピンチにヘルツは援護に入る。
しかし星人に叩きのめされるヘルツ。
互角に戦う星人とタロウだったが、最後はストリウム光線で星人は大破。
タロウを見送る隊員たち。
そこへメドゥーサ星人に乗り移られたはずのめぐみが車に乗ってやってきた。
怯える森山。
「ZATの皆様ありがとう」とめぐみ。
「あそこの別荘におじいさんがいるんです。怪獣が出たと聞いてお見舞いにきました」とめぐみ。
「貴様、タロウにやられたはずじゃなかったのか?星人の幽霊か?」
銃を向ける南原。
怪訝そうにするめぐみ。
北島が計器を使って調べると、めぐみに宇宙人反応はなかった。
「大丈夫だ。この人は人間だよ」と北島。
隊員たちが別荘に行くと、そこにはおじいさんを介抱する光太郎の姿が。
それを見て驚く荒垣。
「おじいちゃん」とめぐみ。
「めぐみ」と老人。
「おじいちゃん。本当に死んだかと思ったわ」。
「このわしがそう簡単に死ぬものかい」。
「いったいどうなってるんだ」と南原。
「星人がめぐみさんに化けておじいさんに近づきメドゥーサ磁気で仮死状態にしてそれを利用したんだよ」と北島。
「この地球でも色々と争いが絶えないけれど、宇宙でも同じなんだなあ」と北島。
「そして我々ZATもいつも正しい方の味方だ」と光太郎。
ホエールとコンドルでヘルツを牽引するZAT。
「かわいそうな怪獣さん。今度は幸せにね」とめぐみ。
ヘルツはZATによって宇宙空間へと戻された。

解説(建前)

ヘルツはなぜ地球へ逃げてきたのか。
メドゥーサ星人はヘルツをメドゥーサ星座から追い出したと言ってるが、それなら追いかけてきて殺す必要はないはずである。
したがってヘルツは自らの意志で逃げてきたのであろう。
おそらくメドゥーサ星座(のヘルツ星?)の先住民だったヘルツは、メドゥーサ星人の侵略により星を追い出され、他の星に囚人として囚われた。
このヘルツはそこから一人脱走し、地球まで逃げてきたのであろう。

ヘルツには宇宙空間に耐える能力はあるようだが、自ら空を飛ぶことはできない。
したがってヘルツは囚人星への輸送途中に脱走した可能性が高い。
星人はその責任を問われヘルツを始末するよう本国の命令を受けた。
本国としては脱走そのものも問題だが、これをきっかけに侵略行為が他の星の人間に露見することを恐れたのもあるであろう。

星人がめぐみに変身したのはなぜか。
まずめぐみの容姿や名前等であるが、怪獣が出て気を失った老人の脳波から読み取ったのではないか。
写真を見て変身したにしては、体型から声までそっくり同じである。
人間の脳波を操る能力を持つ星人のことだから、相手の脳波を読み取ることもできたのではないか。
恐らく老人と一番親しい人間がめぐみだったのであろう。

では、なぜ星人はそういうめんどくさいことをしたのか。
星人は結局老人を殺さなかった。
一方ZAT隊員は容赦なく殺そうとした。
この辺りは民間人と軍人を区別する戦時法的なものがあるのであろう。
地球では地球のルールに則ってヘルツを始末する。
ウルトラマンタロウという宇宙人が出てきたので星人も巨大化したが、民間人を巻き添えにしてはいけないという遵法意識の高さはうかがえる。

感想(本音)

怪獣が被害者という石堂氏らしい話。
このパターンは新マンのザニカ編でも見られたが、今回はよりはっきりとヘルツを侵略を受けた被害者と設定した。
宇宙人を三下やくざと同視する氏ならではの、人間臭い設定である。
また女性隊員が敵に乗り移られるという展開は「狙われた女」の丘隊員を思い出させるし、本話は石堂氏の特に新マンにおける一連のエピソードを想起させるシーンが多い。
以下順を追って見ていくことにしよう。

まずヘルツであるが、メドゥーサ星座から追い出されたというが、メドゥーサ星座って元々メドゥーサ星人が住んでるからそういう名前ではないのか?
この辺りは解釈でも書いたように、星座の中のヘルツ星というとこにでもいて、そこから追い出されたということにしておこう。
しかし解釈に従うとメドゥーサ星座にはまだまだ多くの星人がおり、ヘルツの仲間は未だに捕まったままである。

子供目線からは一見ハッピーエンドに見える本話も大人の目から見れば何も解決していないのがわかる。
この点ザニカはバキューモンが倒されたことにより、一応帰る場所ができた。
一方地球を追い出されても、帰る場所のないヘルツ。
「我々ZATもいつも正しい方の味方だ」と言う光太郎。
しかし怪獣との共存が不可能な以上、それも偽善にしか響かないのである。

本話は石堂氏お得意の女性の怪獣化、星人化が出てくるが、今回はめぐみと森山という二人の美女が星人に乗り移られた。
まあ見てるとめぐみは変身、森山はブローチに潜り込んで操っただけのようだったが、美人女優にこういう役をやらせたがるのは石堂氏の趣味だろう(笑)。
しかし森山隊員のメイクと声はインパクト大。
あの顔とあの声で「蝶のように舞い、蜂のように刺す」は完全にギャグ。
この辺りの人間臭いセリフは新マンのグロテス星人を思い出させる。

一方めぐみ役はレオの百子さんでお馴染みの丘野かおり。
こちらは時期的に次のレオのレギュラー候補だったのは間違いないであろう。
星人に憑かれたちょっと不気味な役から祖父思いの健気な役までしっかりとこなしており、最終テスト合格といったところか。
まあ、その辺りの選考過程は知らないので適当なことは言えないが、エースに続いてのゲスト出演ということでウルトラと縁があるのは間違いないであろう。

個人的に本話で一番インパクトがあったのは、荒垣が「同士討ちか」と呟くシーン。
東野氏の噛みしめるような演技が何ともいえないシーンである。
このシチュエーションを見てウルトラファンならすぐ新マンのパラゴン編の岸田隊員の暴走を思い出すと思うが、ZATの危機という本来シリアスなシーンのはずがコミカルに見えるのはやはり演出によるのだろう。
ただ、これはあくまで大人目線なので、子供がどう感じるかは別問題ではあるが。
また、南原が世間の非難を気にするシーンなど、ZATという国家権力が置かれている現実を織り交ぜてくるのは如何にも石堂脚本と言ったところ。

一方本話ではZATのいい面も多々描かれている。
ヘルツをすぐには攻撃せず、まずその氏素性を調査するZAT。
光太郎が初期を思わせる無鉄砲なやり方でヘルツの体成分を採取するのもいい。
また、北島も持ち前の科学知識を遺憾なく発揮しており、各隊員のキャラクターを上手く描いていたと思う。
ただ、メドゥーサ磁気の件を見ていたかのように語るのはさすがにどうかと思うが(笑)。
南原のキャラだけは違和感があったが、美人に弱い、世間の目をちょっと意識してしまう軽いキャラという風に石堂氏は捉えたのであろう。

本話のテーマはズバリ正義。
怪獣保護と市民の安全の相克に関してはフライングライドロン編やキングゼミラ編で描かれていたが、それはあくまでおすぎや正一個人の感情レベルの話であり、ZAT全体の方針というものではなかった。
しかし本話では森山のセリフにあるように「現実に悪いことをしているか、あるいは今は何もしなくても、本当に悪い怪獣であるという確信が持てぬ限りZATは攻撃」しないという風に怪獣保護はZAT全体の方針となっている。
その根っこには光太郎が言う「正しい方の味方」という正義感があるのは間違いないであろう。

もちろん市民の安全を担っているZATが怪獣を理由もなく野放しにすれば、南原が危惧するように世間の非難は免れまい。
その点ZATは科学的にヘルツのことを調査した。
左翼的な感情論ではなく合理的に物事を考える姿勢は評価に値しよう。
ただ、それも限界がある。
結局、本話ではメドゥーサ星人が自分の悪事をベラベラと話すことにより、善悪が確定した。
子供向け番組である以上、善悪が曖昧なままヘルツ側を擁護することはできないのだ。

ZATおよびウルトラマンタロウは正しい方の味方をする。
それは子供向けヒーロー番組では暗黙の前提とも言えることで、わざわざ明言する必要のないものである。
しかしそれを敢えて光太郎に言わせた。
結局ヘルツは亡命先の地球を追い出され、どこか知らない星に飛ばされた。
もちろん、メドゥーサ星座の争いをZATはどうしようもできないし、それが能力的に可能なウルトラ兄弟ですらそこまで介入することは難しいであろう。
一見ハッピーエンドの本話であるが、結局部外者の人間ができることなんて大したことではない。
捻くれた大人の解釈かもしれないが、逆説的にそういうことが言いたいのではと勘ぐってしまう。

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