ひきょうもの!花嫁は泣いた


データ

脚本は阿井文瓶。
監督は深澤清澄。

ストーリー

タロウがカタン星人を倒したその夜から既に物語は始まっていた。
石焼き芋を売り歩く女性とその弟。
そこへパトロール中の光太郎と南原が通りかかる。
女性の名前は陽子といいさおりの知り合いだった。
「さおりさんから聞いたんだけど、結婚するんだってね」と光太郎。
陽子は建築中のマンションの現場作業員岩坪と婚約していた。
弟の清彦によるとそのマンションに3人一緒に住む予定という。
帰り際、光太郎は清彦に防犯用のベルを渡す。
光太郎が帰った後、ふとマンションの方を見上げる清彦。
すると空から怪しい光がマンションに下りてきた。
「今あのマンションに宇宙人が下りたんだ」。
陽子にそう告げる清彦。
しかし陽子は信じない。
焼き芋を売り歩きながら岩坪の働く建築現場に行く2人。
岩坪は現場の仲間も呼び出し、皆で焼き芋をほおばる。
「岩坪さん。何か変わったことなかった?僕ここの屋上に宇宙人が下りるのを見たんだ」と清彦。
「そんなことよりね清彦君。もうじき完成だぞ」と意に介さない岩坪。
「温まったところでもう一働きだ」。
作業員の仲間とともに現場に戻る岩坪。
「岩坪さん。宇宙人に気を付けてね」と清彦。
宇宙人の一人や二人、捻り潰してやるからと岩坪。
夜の街を焼き芋を売り歩く2人。
不気味に光るマンション。
翌朝、陽子と一緒に岩坪の下へ差し入れに行く清彦。
しかし何故か顔見知りの建設作業員に無視される。
岩坪を見つけた陽子は岩坪に差し入れの焼き芋を渡すが、それを手にした岩坪は急に熱がり焼き芋の袋を投げ捨てた。
「こんな熱いものを」と岩坪。
謝る陽子に帰るよう言い捨てる岩坪。
芋を拾った清彦。
「少しも熱くなんかないのに」と清彦。
「せっかく温めて持ってきてやった弁当にケチつけやがって」と怒る清彦。
「岩坪さんは疲れているのよ」。
岩坪を庇う陽子。
帰ろうとする2人だったが、清彦は昨晩の宇宙人のことを思い出した。
陽子にそのことを言うが、取り合ってもらえない。
「姉ちゃん。もし、もしだよ。岩坪さんのとこにお嫁に行けなくなったらどうする?」と清彦。
「死んじゃう」と陽子。
驚く清彦。
「嘘よ。清彦を一人ぼっちにできないもんね」と陽子。
「ほんと?」
「二人っきりの姉弟よ。本当に決まってるでしょ」と陽子。
「姉ちゃんのことは僕が絶対に守ってやるからね」と清彦。
「たとえ相手が宇宙人であろうと」。
陽子と別れた清彦は宇宙人が気になり、再びマンションに引き返した。
地階へと降りる清彦。
しかしそこは異様に寒かった。
部屋に入ると壁には昨夜見た宇宙人の顔が。
宇宙人の目が光る。
咄嗟に隠れる清彦。
そこへ岩坪が入ってきた。
跪く岩坪。
「グロストさま。何か御用でございますか?」
そっと部屋を抜け出そうとする清彦。
しかし物音を立ててしまった。
「誰だ」。
追いかける岩坪。
必死で逃げる清彦。
他の作業員も一緒に追ってくる。
作業員たちに包囲される清彦。
縄を巻く車や脚立を作業員にぶつけて何とか脱出する清彦。
作業員もマンションの外までは追ってこなかった。
警官を見つけた清彦はマンションに宇宙人がいると言うが取り合ってもらえない。
学校が始まってる時間じゃないかと警官。
逃げ出す清彦。
光太郎の家へ向かう清彦だったが、道中さおりに遭遇する。
さおりに宇宙人のことを言うが信じてもらえない清彦。
光太郎が家にいないと聞いて、清彦はZATに連絡する。
電話に出た北島は「もし怪獣か宇宙人がそのマンションにいればZATの計器がとっくに探知してるはずだからね」と取り合わない。
「どうしたの?」と森山。
「お姉さんの婚約者が宇宙人でお姉さんが危ないって言うんだよ」と答える北島。
それを聞いた南原は「わかるわかるその気持ち。姉さんを取られてしまうような気がするんだな」という。
「なるほどねえ」と北島。
そこへ光太郎がやってきた。
北島から怪獣退治に来て欲しいという清彦の伝言を聞かされる光太郎。
一方清彦は自分の力で怪獣を倒すことを決意した。
「あいつらの弱点を知ってるのは僕だけなんだ」。
石焼き芋の屋台を引っ張ってマンションに向かう清彦。
清彦は火をくべ石を焼き、それを岩坪たちに投げつける。
焼いた焼きごてを持って地下室へ行く清彦。
しかし焼きごてを取られ岩坪に捕まってしまう。
さらに壁の宇宙人の目が光る。
「この光で宇宙人に操られているのか」と清彦。
その時階上から光太郎と北島の声が聞こえてきた。
気を取られる岩坪の手を振りほどこうとする清彦。
そのはずみで光太郎に貰った防犯ベルが落ちた。
大きな音を立てるベル。
それを聞いた2人は地下へと降りてくる。
作業員と格闘する2人。
北島に本部に連絡するよう頼む光太郎。
壁の面を撃てばいいと清彦。
銃を構える光太郎だが作業員に捕まり銃を落としてしまう。
清彦に銃を拾うよう指示する光太郎。
拾った銃で面を撃つ清彦。
マンションを破壊して巨大化するグロスト。
同時に変身したタロウは清彦と作業員を助け出す。
グロストの冷凍光線に苦戦するタロウ。
氷漬けにされたタロウのカラータイマーが点滅。
そこへZATがやってきた。
ホエールのレーザー攻撃で体が解けるグロスト。
しかし冷凍光線を受けたホエールは墜落してしまう。
一方タロウはキングブレスレットを使い太陽光を集めて氷の解凍に成功する。
復活したタロウはハンドビームでグロストを爆破する。
数日後、岩坪と陽子の結婚式に招待される光太郎たち。
マンションが壊されたため今のアパートに3人で暮らすと陽子。
「ウェディングケーキを食べて行ってよ」と清彦。
清彦が持って来たのは焼き芋だった。
「今日はお祝いだから、お代はいらないよ」と清彦。

解説(建前)

グロストは何物か。
清彦はグロストを宇宙人と言ったり、怪獣と言ったりしてるが、清彦にグロストの正体がわかるはずもなく参考にはならないだろう。
劇中グロストは一言も喋っていない。
作業員を操ってることからそれなりの知能はあるようだが、それはあくまで自分の身を守るためであり、どんな生物でも持っている本能とも言えるだろう。

結論から言うと、グロストはやはり怪獣若しくは宇宙生物と考えるのが妥当と思う。
けだし、グロストには明確な侵略目的というものが感じられない。
地球に飛来したのもただ新しい住処を求めていただけに見えるし、あたかも1匹の羽蟻が女王蟻となるように、単に地球のマンションに巣を作っただけではないか。
グロストが地球に来たのもただの偶然と思われる。

グロストの出す煙はグロストの出す光と反応して相手の行動を制御できるのであろう。
そのため建設作業員のみグロストに操られた。
グロストがマンションの地下に住み着いたのもマンションでは一番涼しい場所だから。
グロストは冷凍ガスで物を凍らせることができる。
行く行くはマンションの地下も氷漬けにするつもりだったのかもしれないが、いずれにせよいつかはマンションが完成し人が入居するのだから、そのまま地下に居座ることは難しいだろう。
この辺りもやはり何の考えもない本能的な行動を証明している。

岩坪たちが熱さを嫌がったのはなぜか。
これも煙を吸った時に体に入った物質のせいと考えられる。
岩坪が元に戻ったのは、人間の免疫力で体に入った物質を退治したから。
そもそもグロストの植え付けた抗体自体、それほど強力なものではないのだろう。
日々近くにいることにより更新されてただけで、抗体そのものは数日で消える程度のものだったのではないか。
ただ、グロストに操られていたとはいえ体は岩坪その人の物なので、おそらく清彦にぶつけられた石で負った火傷の方が治るのに時間が掛かったと思われる。

感想(本音)

およそウルトラマンとは思えないタイトルに驚かされるが、正直内容にはあまり関係ないような。
ただ、結婚を控えた姉のため、姉を裏切った婚約者に仕返しするというストーリーはかなり一般のドラマに近い。
もちろん岩坪は宇宙人に操られてるから裏切ったわけではないのだが、南原のセリフに表れてるように、この話のテーマは弟の姉への思い。
姉弟の絆というテーマに関してはよく描けていた。

本話は出演者が豪華。
平泉征氏はファイヤーマンのレギュラーだが、ウルトラシリーズは初登場。
後にレオでも熱血漢の青年役を好演しており、今ご活躍中の平泉成氏しか知らない人は兄弟俳優か何かと勘違いするのではないか。
まさにその名の通り勢いのある役者という感じ。
逆に今は成熟された演技をされているが。

また、平泉氏以外では、菊池英一氏と遠矢孝信氏が出演されている。
もちろんお二人は言わずと知れた新マンとその敵怪獣のスーツアクター。
これは桂木美加氏や西恵子氏出演といった過去の役者さん出演の流れであろうか。
子役の矢崎君は「人食い沼の人魂」に次ぐ二度目の登場。
なぜかタロウでは三度出ており、スタッフのお気に入りのよう。
ただ、矢崎君はこれ以外にも多数特撮に出演しており、結構売れっ子の子役ではあったようである。

本話はカタン星人編の後日談的に始まるが、ストーリーには全く関係なかった。
試みとしては面白いが、何か尺が足りなくて付け足したようにも見えた。
朝日奈隊長はすぐいなくなってるし。
しかし東京にカタン星人が現れた夜なのに、街のあの静けさは何だ。
やはりこの世界では怪獣や宇宙人が暴れるのは日常茶飯事なのだろう。
まあ、その割に誰も清彦の言うことを信じないけど(笑)。

清彦は星人に操られた岩坪らが熱いものに弱いと直感して焼きごてでマンションに突入。
ただ猫舌宇宙人でなくても、普通焼いた石投げつけられたり、焼きごて振り回されたら逃げると思うが。
操られてる作業員が不憫。
手で焼きごて掴んだ作業員は結構な火傷を負ったであろう。
ところでマンションが爆発したときタロウが助けたのは3人だけだったような。
北島は先にマンションを脱出したとして、他の作業員もそれを追ってマンションを脱出していたのであろう。
いずれにせよあの大爆発は近くにいたらアウトである。

グロストについては解釈でも書いたが正直意味不明な敵。
壁に張り付いて部下を操る姿なんかは宇宙刑事シリーズのラスボスのようでもあるが、特に高度な作戦や会話がなされた節もなく、ただ目の前の生物を保身のために操ってるにすぎなかったのであろう。
まあ、あれで作業員の体に卵でも産みつけてたらエイリアンになったのだが、さすがに子供向けでそんなグロイのはできないか(笑)。
ビルを乗っ取るのはバルタン星人ジュニアを思い出させるが、こちらはやはり宇宙人というのは微妙だと思う。

清彦の通報をZATの計器が探知してないからとあしらう北島。
こういうシーンはエースのブロッケン編他でもお馴染みだが、一応北島の言うことは筋が通っており、結果論で怪獣がいたとしても責めるのは気の毒。
また、ここで南原にテーマに関わることを言わせたのは上手いと思った。
ただ、直接清彦を知っていた光太郎は清彦がそういうウソをつく子ではないというのを知っていたのであろう。
光太郎が渡した防犯ベルが偶然鳴って救出に行く件なども伏線を上手く回収しており好感が持てるところ。

今回はストーリーの都合か、健一君の出番はなし。
最後の結婚式くらいはいてもいいと思うが、清彦役の矢崎君が目立たなくなるから配慮したか。
ところで結婚式にはZAT隊員以外いないようだったが、建築現場の同僚やその他の友達はどうしたのか?
まあ、こういうツッコミは野暮なので気にしてはいけないのだが、敢えて解釈すると、親しい仲間はこれから披露宴等二次会のため中に残り、仕事がある隊員たちが先に帰るのを見送りに2人が出てきたというところか。

因みに岩坪たちはマンションが潰れて財産を失ったように言っていたが、建築中だったので岩坪たちに損害はないと思われる。
マンションが潰れたのは怪獣のせいなのだから、一種天災による不可抗力と同視できる。
完成後引き渡し済みだと所有権とともに危険負担責任も岩坪側に移って、マンションが壊れた責任も負うことになるが、まだ建築中であり危険は負担してないと解釈されるので、マンション崩壊の危険は施工主側が負うことになろう。

まあ、岩坪こそ施工主で建築会社の社長という可能性はあるが、さすがにそうは見えなかったので、岩坪が責任を負ってマンションの代金を支払うという可能性は低いであろう。
じゃないと、マンションがないのにローンだけ背負うという洒落にならない状況になるし。
まあ、会社が潰れて岩坪が失業したとかだと出直しというのはわかるが。

今回タロウはグロストの冷凍ガスでかなりのピンチに陥った。
ウルトラが冷凍系の攻撃に弱いのは新マンのスノーゴンやレオのブニョを持ち出すまでもなく定番。
今回もブレスレットがなければ危なかったであろう。
まあ、どうせならZATが熱線の温度を下げてタロウを解凍してあげるくらいの活躍を描いても良かった気もするが。
しかしそうすると今度は滅多にないキングブレスレットの活躍の場面がなくなるので痛し痒しといったところ。

本話の脚本は阿井文瓶。
タロウでの脚本も3本目と徐々に慣れてきたところだろう。
阿井氏の脚本の特徴は田口氏以上とも言える子供中心の作劇。
ムカデンダー編での父子愛、グロン編での子供の友情、そして本話の姉弟愛。
以後の脚本もそうだが、子供の心情の機微を描くのは上手い。
これが後のウルトラマン80に繋がっていくのであろう。

一方阿井氏の弱点はやはりイベント編に代表される強敵の描写であろうか。
この辺りは田口氏に一日の長があるだろう。
本話で言うとやはりグロストの行動原理のなさが挙げられる。
ドラマパートはよく描けてるのだが、怪獣に関しては結局グロストは何をしたかったんだとなってしまう。
この辺り、やはり阿井氏はメインライターよりもサブとして好編を描くタイプの作家という気がする。
まとまってはいるがパンチに欠けるというのが、本話に対する率直な感想である。

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