ゾフィが死んだ!タロウも死んだ!


データ

脚本は田口成光。
監督は深沢清澄。

ストーリー

バードンの執拗な嘴攻撃を受けるタロウ。
タロウを援護するZAT。
しかしバードンの吐き出した火炎により、タケシは炎に巻かれてしまう。
タケシを救出に行く上野。
一方タロウは遂にエネルギーが切れ力尽きてしまう。
勝ち誇ったバードンはケムジラを襲う。
逃げるケムジラだがバードン相手だと一溜まりもなかった。
ケムジラをバラバラに食いちぎるバードン。
目玉を抉り出し捕食するバードン。
満腹になったバードンはそのまま空の彼方へ飛んで行ってしまった。
タケシを救出したZAT。
そこへタケシの母が現れる。
光太郎の捜索をするZAT。
横たわるタロウに黙祷する隊員たち。
「タロー!」。
合唱する子どもたち。
その祈りが空に通じた。
地上に降り立つウルトラ兄弟の長男ゾフィ。
ゾフィはウルトラフロストでタロウを冷却し、ウルトラの星へ送り返す。
ZAT中央病院へタケシのお見舞いに行く健一。
そこへ荒垣と森山もお見舞いにやってきた。
光太郎のことを聞かれて言葉を濁す荒垣。
タケシの母親はタケシを父親のいる大熊山の病院に転院させる手続きを取っていた。
行水する鳥の様子が気になるタケシ。
そこへ健一がやってきた。
歓迎するタケシの母親。
しかし一緒に入ってきた荒垣たちを見て眉をひそめる。
「ZATの方はお引き取りください」と母親。
「我々がついていながらタケシ君を危険な目に合わせたことをお詫びに来たんです」と荒垣。
「どうせお詫びを言っていただくんならあの東さんに言っていただきたいですわ」と母親。
「あの方はどうしてるんですか」。
「それが未だに行方不明なんです」と荒垣。
「逃げ出してしまったんじゃないでしょうね」と母親。
「オバサンの馬鹿」。
病室を飛び出す健一。
「東は逃げるような男じゃありません。しかし多分、死んでるでしょう」と荒垣。
「光太郎さ~ん」。
夕陽に向かって叫ぶ健一。
その夜大熊山の病院に転院するタケシ。
父親の病室に行くタケシ。
「鳥はまた行水してるの」とタケシ。
「いいえ暴れてるのよ」と母親。
その夜大熊山周辺を飛ぶ旅客機がバードンに襲われた。
大熊山一帯を調査するZAT。
しかしバードンの手がかりは掴めない。
旅客機の墜落現場には乗客が一人もいなかった。
深刻な表情になる隊員たち。
森山は「イライラする時はガムが一番よ」と隊員たちにガムを進める。
ガム風船からヒントを得た荒垣は鳥もちを使うことを決意。
「鳥もちに絡めて焼き鳥にしてしまうんだ」と荒垣。
大熊山の火口から飛び立つバードン。
大熊山一帯が白い煙に包まれた。
養豚場を襲うバードン。
さらに近くの池で行水する。
鳥もちを持って現場に向かうZAT。
鳥もちを降下するもバードンの体が濡れてて鳥もちがくっつかない。
何とか鳥もちはくっついたが、バードンの力に鳥もちは耐えられなかった。
バランスを失い病院の方へ倒れそうになるバードン。
病院を守るため攻撃するZAT。
病院から避難するよう看護士に言われたタケシだが、動けない父親と一緒に病院に残るといって聞かない。
「お父さんと一緒じゃなきゃ嫌だ。死ぬならみんなで死ねばいい」とタケシ。
タロウに助けを求めるタケシ。
その時再びゾフィが救出に現れた。
バードンに蹴りを浴びせ病院を守るゾフィ。
さらに光線を浴びせバードンを痛めつける。
しかしバードンの炎で形勢は逆転。
頭に火がつき呻くゾフィ。
さらにバードンの嘴攻撃を浴びたゾフィはその場に力尽きてしまった。
ゾフィを踏みつけ得意げなバードン。
唖然とする隊員たち。

解説(建前)

タロウは何故敗れたか。
嘴攻撃を受けたから敗れたのは間違いないが、タロウはデッパラス戦では牙が刺さっても大したダメージは受けなかった。
バードンの嘴と牙は一体何が違うのだろう。
まず考えられるのはバードンの牙には毒が仕込まれていて、それがタロウの動きを封じた結果エネルギーが切れて動けなくなってしまったという説。
これはメビウスでも採用されており、特に破綻なくタロウの敗北を説明できるだろう。
ただ根本的な疑問にウルトラ一族に効く毒ってなんだろうというのがある。
したがって私は別の説でタロウの敗北を解釈したいと思う。

それはバードンは嘴から相手のエネルギーを吸収するという説。
バードンは火口に住んでいることから熱には強いと思われる。
そして太陽の子ウルトラマンは、体の内部に一種の太陽を持っていると仮定しても差し支えないだろう。
バードンはタロウに嘴を刺して内部のエネルギーを吸収した。
そしてそのエネルギーはウルトラ一族の活動には根本的なものであり、普段使う体力エネルギーとはまた別のものなのである。
タロウはその謂わば生命エネルギーを吸い取られることにより活動能力を奪われ、なす術もなく時間切れしてしまった。
ただ全ての生命エネルギーを奪われたわけではないので、命を落としかけたものの復活が可能だったのであろう。
どちらの説でも問題ないが、個人的には後者の説を採用しておく。

ゾフィは何故敗れたか。
弱いから(笑)というのはなしにして、強い前提で解釈してみよう。
まず皆が疑問に思うのは何故ゾフィはM87光線を使わなかったかという点。
一応光線は使っていたが、威力はあまりなくバードンにはほとんど効いていなかった。
まあ、痛め技として軽い光線を放ったとも考えられるが、そんな余裕のある状況ではなかったので、これはやはりゾフィにはもはやM87光線を撃つだけの余力はなかったと考えるのが妥当であろう。
すなわち、ウルトラの星から地球に来たゾフィはタロウをウルトラの星に送り届け(途中で誰かに引き継いだ可能性が高い)その足でさらにバードンと戦いに来た。
したがってかなりの体力を消耗しており、M87光線を撃つだけの余裕はなかったのである。

加えてウルトラの戦士にとって地球はあまりいい環境ではないというのも挙げられる。
客演ウルトラマンが弱い原因の一つにこの地球の環境というものもあるだろう。
地球に滞在しているウルトラマンはそれなりに地球の環境に馴染んでおり変身して戦った時、能力のかなりを発揮できる。
対して客演ウルトラマンはウルトラの星からやって来て疲れてる上、地球の環境も負担になり本来の力をなかなか発揮することが出来ないのであろう。
今回のゾフィもかなり疲れてる上、本来の動きが出来ず、バードンに生命エネルギーを奪われ敗北したものと思われる。
もちろん、頭の炎も相当のダメージがあったことは言うまでもない。

感想(本音)

いわくつきの3部作の中篇。
ゾフィヘタレ説の証拠映像としてよく取り上げられるファイヤーヘッドゾフィが見られることでも有名である(笑)。
ただストーリー的には主役不在ということもありあまり進まない。
とはいえ映像的には凝っており、中だるみになっていない点評価できるだろう。
それでは気になるところを見ていくことにする。

いきなりのタロウ敗北は映像的にもかなりショッキング。
私自身、子供の頃再放送で見てやはりショックを受けた。
ただ、ウルトラマンの敗北って何となくドキドキするんですよね。
やっぱり背徳的な何かがあるんでしょうね。

タロウは血まみれになっているように見え、従来のウルトラのイメージとはかなり違う。
この辺りの解釈は難しいが、エネルギーが漏れ出したとでも解釈しておきましょうか。
もちろんこれを血とし、バードンの毒にやられたとしてもいいのだが、個人的にウルトラマンはエネルギーの塊だと思っているので、その解釈は何となく違和感がある。
別にメビウスで公式設定になったからといって、タロウとメビウスをパラレルと捉えることは可能なので、あまり設定に縛られない方が見る側の自由度があっていいだろう。

タケシを庇って瓦礫の下敷きになった上野隊員はなかなかカッコよかった。
しかしその後母親が来るのはタイミング良過ぎ。
そもそもタケシも迂闊に怪獣に近づいて炎に巻き込まれるなど迷惑かけ通しなので、母親ももう少しその辺りをわきまえるべきであろう。
謝罪に来た荒垣に対する、あの態度はさすがにフォローが難しい。
おまけに光太郎も誹謗中傷。
これでは母親が徒に嫌な人間だと思われても仕方ないであろう。
その辺りについてはまた後編で。

前述したように今回は主役の光太郎がほとんど出てこない。
今まで主役が捕まって行方不明になることはあったが、丸々一話いないのはスケジュールの都合とはいえ珍しいであろう。
しかし荒垣の「東は逃げるような男じゃありません。しかし多分、死んでるでしょう」というセリフは。あまりにもストレート。
状況からは確実だが、まだ死体は見つかったわけではないのにちょっと健一に酷であった。
ただ、常に戦闘の最前線にいる身としては、死というものはそれほど特別なものではないのであろう。
戦闘のシビアさ、それに対する隊員たちの覚悟みたいなものを感じさせる場面でもある。

ケムジラの捕食シーンはなかなかグロイ。
特に目玉を抉り取って食べる場面はなかなかショッキングであった。
正直ここまで描写する必要があるのかとも思うが、当時は子ども番組乱立期でありどんどん描写がエスカレートするのもやむを得なかったのであろう。
この容赦なさ、妥協のなさは2期の特色の一つである。
あまりやり過ぎるとハヌマーンみたいになってしまうが、これくらいは許される範囲であろう。
まあ、ハヌマーンは制作がタイだし…。

旅客機を襲って人を食うバードン。
しかし大熊山を調査しながらバードンを発見できないZATはかなり情けない。
そもそもあの辺りは危ないから近寄らないようにしてもいいくらいだと思うが。
田口脚本の特徴の一つに防衛隊の不甲斐なさがある。
おそらく特に意図して不甲斐なくしてるわけではないだろうが、話の展開に無理があるのでこういう不備が出てくるのであろう。

ZATの鳥もち作戦にもその不備は表れてる。
イライラする時はガムというのもよくわからないが、あのシーンはさすがに唐突。
まあ、軽い息抜きみたいなシーンなのでその辺りはあまり気にしてはいけないが、ただそれにしても作戦自体もかなり穴だらけで問題が多かった。
まず一番の問題は、病院が近くにあるのに先に患者を避難させなかった点。
やはりああいう作戦は安全を確かめてからやるべきで、折角行水してるバードンを刺激するようなことはしないのが基本であろう。
また相手の体が濡れてるのに鳥もちを落としたのも迂闊。
結局、ZATは病人たちを助けることが出来ず、ゾフィが来たから良かったものの、あれで被害が出たらかなりの批判を浴びたのは間違いないであろう。

今回の見所は何といってもゾフィの活躍。
特に最初の登場シーンは神秘的で、客演ヒーロー史上最もカッコいい登場の仕方だったと思われる。
私も久々に見て、ゾフィってこんなにカッコイイのかと改めて驚きました(て書いてもネタ振りにしか見えんな笑)。
まあ、それは置いといて、演出面から見ていこう。

まず子どもたちの「タロー」という声が集まって行くシーン。
ちょっとこういうシーンは気恥ずかしいものがあるが、タロウの過去の活躍映像と被ってなかなか情緒に訴えるシーンになっている。
さらばウルトラマンを思い起こさせ、ちょっと最終回みたいな雰囲気も感じられた。
そして嵯川氏のナレーションに続いて星が光り飛来するゾフィ。
テーマは名曲ウルトラ6兄弟の歌。
このシーンは鳥肌物にかっこいい。
おまけに地上に降り立ったゾフィの威厳のあること。
子どもたちや隊員たちの絶望が希望に変わるシーンとして実に説得力のあるものになっていた。

さらにタロウを冷凍してウルトラの星へ送り返すシーン。
映像的にも凝っており、神秘性がよく表れていた。
黙々と仕事をこなすゾフィはさすが宇宙警備隊の隊長といった感じ。
ただこのシーンで残念だったのは、「ウルトラフロスト」の声がタロウの声だったこと。
細かいが、こういうところにもしっかり気を配って欲しいところである。

さて、ネタ振りは終了(笑)。
ゾフィの敗北については解釈したので、ここではその感想を。
まずやっぱり子どもの時はゾフィ大好きだったので、この敗北はショックだった。
まあゾフィが勝ってしまったら話にならないので仕方ないが、それにしても一方的過ぎ。
それだけバードンの強さは印象付けられたので狙いは成功してるが、別に頭に火までつけなくても。
そこまでやるプロ根性には恐れ入るが、後年このようにネタ扱いされてるとやはり寂しいものがある。
ただ、主役を引き立てるためにはこういう噛ませ犬も重要。
世の中そんなに甘くない。
私たち子どもの願望をあっさり打ち砕くことにより、制作側はそのことを伝えたかったのであろう。
て、んなわけないか(笑)。

今回はタケシのわがままぶりも気になった。
家族一緒にいたいという気持ちもわかるが、「タロウ助けて~」というのはちょっと傲慢。
そもそもタケシのせいでタロウは敗北したんだろが。
いくらゾフィがタロウを星に返したからといって、そんなに都合よく復活するわけはあるまい。
て、あそこは「ゾフィ助けて」で良かったと思う。
まあ、何も言わないのが一番であるが。
ああいう演出はやはり子ども向けを意識したものなのだろう。

隊員たちがタロウに黙祷するシーンは隊員たちのウルトラ一族に対する感謝と敬意が表れておりなかなか良かった。
今回は光太郎がいない分他の隊員たちが頑張っている。
特に最後の呆然とゾフィの敗北を見守るシーンは良い。
また、バードンの捕食を息を呑んで見守るシーンなど、演出、演技とも秀逸である。
隊員たちの側からバードンの脅威をよく描いていたと思う。

3部作中篇は何と言っても2人のウルトラマンの敗北が衝撃。
今まで複数のウルトラマンが敗れるパターンはあったがいずれもヤプールやヒッポリトの罠に嵌まったものであり、今回のようにガチで敗れたものではなかった。
嘴や火炎という武器を使ってはいるが、基本的には肉弾戦のバードンはまさに正攻法の戦いで2人を倒したといえるであろう。

今までウルトラマンを倒した怪獣、宇宙人といえば、例えばゼットン、ガッツ星人、ヤプール、ヒッポリトなどスマートな戦いが多かった。
例外はナックル、ブラックキングコンビであるが、これは2対1の変則マッチである。
それに引き換えバードンは野生のパワーでウルトラ一族を圧倒した。
その存在感はウルトラシリーズを通しても際立っているといえるであろう。
正直この3部作の脚本は誉められたものではない。
しかし、バードンのキャラや演出、映像面など、それを補うに余りある魅力もあり、やはりこの3部作がタロウを代表する作品であるのは間違いないであろう。

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