2大怪獣タロウに迫る!


データ

脚本は田口成光。
監督は深沢清澄。

ストーリー

異常噴火を始める大熊山。
その火口の底には白い巨大な卵が。
一方、付近一帯に落下した火山岩からは不気味なミミズ状の虫が這い出し、畑のスイカの中に身を潜めていた。
光太郎、健一、タケシの3人は夏休みを利用しタケシの父親が勤める大熊山の地震研究所に遊びに来ていた。
畑でスイカを買う光太郎。
その時大きな地震が。
農夫の話によると今年は地震が多いという。
また畑のスイカは得体の知れない虫に食い荒らされ、農協でもその正体を掴めないという。
畑で買ったスイカを研究所に持ってくる光太郎。
しかしそのスイカからは怪しい物音がしていた。
車で家路につく3人。
タケシはスイカの中から音が聞こえるのに興味を持ち、光太郎にそのスイカを譲って欲しいと頼む。
家に帰ったタケシは早速スイカの物音をテープレコーダーに取り、スイカに包丁を入れた。
すると中から巨大な虫が飛び出す。
タケシに襲い掛かる虫。
「これは怪獣の子だぞ」。
網で捕獲しようとするタケシ。
しかしタケシは虫の吐き出した白い糸を目に浴びてしまい、母親に助けを求める。
ZAT基地では光太郎のおみやげのスイカが振舞われていた。
そこへ電話が。
タケシの家から怪獣が出たとの通報であった。
家の付近を捜索するZAT。
タケシの母親は光太郎が持ってきたスイカから怪獣が出たと光太郎を責める。
タケシは怪獣の音の入ったテープレコーダーを光太郎に聞かせる。
その頃大熊山では火山怪鳥バードンが孵化していた。
大きな地震が起こったため、外に出て大熊山を観測する研究所の職員たち。
そこへスイカから現れた虫が襲い掛かる。
大熊山が噴火したとの連絡を聞いた光太郎。
タケシの父親に渡したスイカからも同じ音がしていたことを思い出した光太郎は研究所に電話をかける。
しかし研究所にはバードンが襲来しており連絡が取れない。
バードンは虫を食べるとさらに研究所の職員を捕食する。
それを目撃するタケシの父。
研究所を破壊するバードン。
翌朝研究所を訪れたZAT。
そこにはタケシの父を搬送する救急車が来ていた。
地元の警官に事情を聞くZAT。
警官によるとタケシの父の容態はかなり悪いという。
現場を捜索したZATはスイカの臭いのする白い糸とカメラを見つける。
フィルムを現像するZAT。
写真には月の様なものが写っていた。
科学班が分析したところによると、白い糸は絹とゴムの中間のような物で古代博物館によく似たものがあるという。
また古文書にはその糸はケムジラという蚕に似た動物の吐き出す糸であり、ケムジラはどうして死滅したかわからないと記載されていた。
さらに古文書によると、ケムジラは甘い物を好み口から強い酸を出すという。
志願してタケシの家に行く光太郎。
しかしタケシだけではなくタケシの父まで被害に遭った母親は光太郎を責め光太郎の見舞いを断る。
家の周りを警備するZAT。
すると光太郎が持ってきた見舞いの果物を狙ってケムジラが現れた。
ZATガンで攻撃するZAT。
しかしそのエネルギーでケムジラは巨大化してしまう。
巨大化したケムジラの白い糸を浴びる上野。
上野は糸に絡まり宙吊りになってしまう。
タロウに変身する光太郎。
上野を助けて貯水池に落とすタロウ。
さらにケムジラと格闘するタロウ。
ケムジラはお尻から黄色い煙を出して姿を隠す。
ウルトラスコープでケムジラの居場所を突き止め攻撃するタロウ。
しかしタロウはケムジラの吐く糸に絡まれピンチに陥る。
そこに目の見えないタケシが迷い込んできた。
身を挺してタケシを庇うタロウ。
そこへバードンが襲来。
バードンの目玉は例の写真に写ったものであった。
バードンを見て怯えるケムジラ。
バードンはタロウに襲い掛かる。
タロウはタケシを守るためバードンを反対の方向に誘い出す。
ケムジラにストリウム光線を撃とうとするタロウ。
しかし背後からバードンに嘴で刺されてしまう。
倒れたタロウに襲い掛かるバードン。
バードンの嘴攻撃を受け絶体絶命のタロウ。

解説(建前)

ケムジラは何物か。
普通に考えたら死滅したはずの生物が復活するというのはおかしい。
密かに火口で生息していた可能性もあるが、火口の中では餌がなくそれも無理であろう。
これはやはりケムジラが冬眠状態で火口にいたと考えるしかなさそうである。
正確に言えば熱眠、火眠であろうか。

ケムジラは親バードンに連れられて火山の火口に連れられてきた。
おそらく孵化してくる雛のための餌だったのであろう。
しかしその親バードンが事故か何かで死亡してしまった。
その結果火口には卵とケムジラが取り残されたのである。
その後地殻変動でケムジラと卵は地中に埋まってしまう。
ケムジラは生命を温存するため岩の間に潜り込み仮死状態になって延命したのである。

それではバードンは何物か。
バードンは比較的熱に強いため火口を巣にしていた。
卵も少々の熱では割れたり溶けたりしないのであろう。
ただ地殻変動で卵が地中に埋没した結果、酸素が不足し孵化が出来なくなったのではないか。
それが今回の変動により地表に出てきた結果、酸素を得て卵が孵化したのであろう。
バードンがいきなり成体なのは、長い間卵の中にいて熱エネルギーを吸収していたからと考えられる。

ケムジラは何故ZATガンで巨大化したか。
そもそも蚕状のケムジラはケムジラの幼虫だと考えられる。
したがって成虫ケムジラは2本足で歩行するタイプなのであろう。
ただしあそこまで巨大なのはやはりZATガンの副作用と思われる。
ZATガンの仕組みはよくわからないが、ZATガンは相手の細胞に直接働きかける作用でもあるのではないか。
その結果成長が異常に促進され、巨大ケムジラへと変貌したのである。

感想(本音)

ウルトラ初の前中後編の3部作。
子どもだった当時を振り返っても、バードンはやはり別格。
今でも最強の地球怪獣だと思っている。
ただ、物語的には少々問題も多い。
それはおいおい書いていくことにして、早速この話を見ていこう。

まず冒頭の地殻変動シーンとそのナレーションがいい。
竜隊長でお馴染の嵯川氏だが、タロウ、レオで聞かせるナレーションは一種講談調であり、さすが一流の舞台役者。
「不気味な前兆を伴って、この物語は始まる」というセリフも期待感を盛り上げ秀逸であろう。
ただケムジラの造型は芋虫そのもので、虫嫌いの人にはちょっときついかもしれない。
空っぽのスイカといい、子供の頃ちょっとスイカ嫌いになりかけた記憶がある。

タケシ一家はタロウにしては珍しく片親ではない。
家族がテーマなのでそれが普通なのだが、タロウはここまで片親設定が多すぎた。
ギャラの関係もあるのかもしれないが、こうやってしっかり家族愛を描いた点は評価していいだろう。
ただ、父親が仕事で忙しく一緒に暮らせないという点、普通の家族と違うといえば違うが。
父親の「健一君はお父さんがいない」云々のセリフは死亡フラグかと思わせたが、タケシの父親は母親の行きすぎを押える役回りだったので、それは考えすぎであろう。

今回の最大の焦点はやはりスイカの件であろう。
正直この話を見る限り、光太郎は責められて仕方ない。
確かにスイカの中に怪獣の幼虫がいるなんて普通では考え辛い。
農協の方でもケムジラの存在は探知できておらず、あの段階でスイカの中に怪獣がいることを疑えというのは酷に過ぎるだろう。
またタケシの持って帰ったスイカはタケシが自ら音がするという理由で選んだものだった。
普通ならそんな気味悪いものを自ら選ぶなんてことはしないし、光太郎に音について尋ねるのが普通であろう。
以上の事実は光太郎の責任を軽減する方向に働く。

しかし、光太郎は民間人ではなく怪獣の専門家ZATの隊員である。
当然通常人以上の注意義務が課せられてしかるべきである。
すなわち、光太郎はスイカを食い荒らす虫の存在は知っていた。
それにも関わらず大して確かめもせず漫然とタケシにスイカを渡した行為は軽率の謗りは免れないだろう。
そして決定的なのが、タケシの父親に渡したスイカの件。
このスイカは光太郎が自ら選んでタケシの父親に渡しており、しかもスイカから音がするのにも気付いていた。
ZAT隊員であるということ及びスイカを食い荒らす虫のことを知っていたことを考慮すると、何の注意もせずスイカを渡した行為に過失が認められるのは間違いないであろう。
以上のことから小林家に被害を与えたのは光太郎の過失によると言っても過言ではない。

その結果光太郎はタケシの母親から忌み嫌われることになる。
これは前述したように光太郎に責任がある以上ある程度仕方がない。
この一事をもって母親を非難するのは公平とは言えないであろう。
すなわち、タケシに落ち度があるとはいえ怪獣の専門家であるZAT隊員が怪獣の潜んでいるスイカを2つも自分の家族に渡してしまった。
偶然ではあるが、その無神経さに一般人である母親が苛立つのはある意味当然である。
また荒垣が自分たちも同じスイカを食べたが異常がなかったというのも、身内を庇う詭弁に過ぎず、誠意を欠く態度といわれても仕方ないであろう。
こういう物言いが余計に相手の態度を硬化させたとも考えられる。

したがってこの話の展開ではタケシの母親が光太郎に対して厳しい態度を取るのはむしろ当然である。
これだけで母親を悪く言うのは妥当ではない。
ただ、やはり大方の視聴者は母親に対していい感情は抱かないであろう。
それは中篇、後編にも随所に表れるが、前編で言うとお見舞いの果物にも怪獣が入っているのではないかと言いがかりをつけるシーン。
ああいう態度にはやはり底意地の悪さを感じざるを得ない。
家族を思う母親の気持ちはわかるが、この脚本、演出では母親が悪役に見えても仕方ないであろう。
この辺りについては、また後編の時に語りたいと思う。

その他気になった点。
スイカの音をテープに録音しようとするタケシ。
正直、私だったらあんな気味の悪いスイカ切ってみようとは思わない。
まあ、子どもは虫とか怪獣の類は好きではあるが、ウルトラ世界の子どもたちの怪獣好きは度が過ぎたものがある。
現実に死傷者が多数出てるのというのに。
ただ、これはやはりドラマなのでそこまでリアリティを求めるのも妥当ではない。
ドラマに出てくる子どもたちはあくまで一般の視聴者の代表である。
少々現実感がなくてもそこは突っ込んではいけない。

バードンが人間を襲うシーンはなかなかエグイ。
今回監督はレオの凄惨描写でもお馴染み深沢氏。
こういう凄惨な話だから深沢氏なのか、深沢氏だから凄惨なのか。
まあ特撮パートが凄惨なだけで深沢氏に責任はないのかもしれないが、いずれにせよ、深沢氏はタロウ、レオにおける残酷路線の鍵を握る存在なのは間違いないであろう。

このシリーズはとにかくバードンの存在感が凄い。
タロウ、ゾフィを叩き伏せる破壊力、ケムジラや人間を容赦なく捕食する凶暴性、その相手を震え上がらせるような鳴き声。
私なんかはあの鳴き声だけで身震いします。
しかしあの鳴き声はどうやって録音したのだろうか。
とにかくその存在感は、タロウ怪獣の中でも際立っている。
メビウスの初期にも強敵怪獣として選ばれてるし、その知名度はなかなかである。
ところで字幕ではバートンとなってるが、どちらが正式名称なのだろうか。

相変わらず怪獣を巨大化させるZAT。
このパターンも2期ではお馴染み。
また古文書に怪獣の言い伝えがあるのもお約束である。
伝説といえばジレンマもそうであった。
いずれも光太郎が連れてきた怪獣だが(笑)。

本話の展開は基本的には帰ってきたウルトラマンのグドン、ツインテール編に類似している。
テーマ自体は全く違うが、バードンとケムジラの捕食関係はやはりグドン、ツインテールの関係がモデルであろう。
ただ、グドンはツインテールを捕食しなかったが、バードンは容赦なくケムジラを食いちぎっている。
この辺りは当時の子ども向け番組の残酷描写のエスカレートの一端であろう。

今回腑に落ちなかったのはタケシが危険な街を一人彷徨っていたこと。
母親は何してるんだと思うが、彼が危険を犯して街に出る理由が正直考えられない。
好意的に解釈すると、怪獣出現のため避難していたが途中で母親とはぐれてしまったとでもなろうが、展開としてはやや強引。
まあ、タロウが苦戦する理由付けのためであろうが、こういう風にやたらと同じ少年とばかり関わってしまうのも2期の弱点の1つであろう。

今シリーズはあさかさんの降板によりさおりさんの登場はなし。
光太郎が一大事というのに不自然ではあるが、家で光太郎の安否を心配してるという風に解釈しておこう。
タケシ役の西脇くんはエースのヒッポリト編でお馴染み。
彼は特にイベント編での起用が目立つが、何か縁故でもあるのだろうか。
特に演技が上手いわけではないのだが。
まあ、初期よりは上手くなっているだろう。
今回上野隊員がアクション面で頑張っていた。
タロウが上野を貯水池に落としたのは、単に急いでいたから地上にゆっくり降ろす余裕がなく水に落としたと解釈しておこう。

2,3話、4,5話に続く久々のイベント編。
相変わらずその引きの上手さはあざといながらも、次週への興味をいやが上にも盛り上げる。
この辺りの妥協しない作りは2期の持ち味であろう。
ただ話の筋的にはどうしても既視感のあるプロットが目立つ。
これは長いシリーズだけにある意味仕方ないであろう。
とにかく力技で視聴者の興味を引く外連味には恐れ入る。
もちろん、それに相応して粗もあるが、それについては中篇、後編で語ることにしよう。

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