ウルトラの母愛の奇跡


データ

脚本は田口成光。
監督は深沢清澄。

ストーリー

3日後。
バードンの行く先を追跡するZAT。
しかしバードンの動きはあまりにも速く広範囲であるため居所を突き止められない。
焦燥する隊員たち。
横浜の食肉倉庫街、動物園、養魚場など肉のある場所が次々とバードンに襲われた。
大雨に見舞われる大熊山一帯。
バードンに敗れ雨ざらしになるゾフィ。
「母さん、ゾフィも雨に濡れてるの」とタケシ。
「そりゃ雨が降れば何でも濡れてしまうのは仕方ないわね」と母親。
「かわいそうだな。ゾフィは僕たちのことを助けてくれたんでしょ」。
「それというのもみんなZATがだらしがないからよ」と母親。
「ZATだって一生懸命やっているのさ。現に東君だって命を落としたんだ」と父親。
「あなたはどっちの味方なの。私たちは被害者なのよ」と母親。
「ウルトラの兄弟も被害者だよ。彼らは命を失ったんだ」。
雨の中光太郎を探しに彷徨う健一。
光太郎の面影をジョギング中のランナーに見る健一。
その頃ウルトラの母はタロウの治療に専念していた。
傷が癒えたタロウにエネルギーを与える母。
「タロウ、お前には新しい力があるのですよ。起きなさいタロウ」とウルトラの母。
「あなたは危うく命を失うところだったのです。でももう大丈夫。早く地球に戻りなさい。子どもたちがあなたを呼んでいます」。
「お待ちなさいタロウ。このブレスレットはあなたの新しい武器です」。
「ありがとう」とタロウ。
家畜や食肉倉庫が全国各地で襲われ、その対策を検討するZAT。
ZATは食肉をバードンから隠すよう全国に通達を出す。
ポチを使って光太郎の居所を探す健一。
街の肉屋は全て休業していた。
公園で健一が休んでいると、そこへバードンが飛来。
肉を隠されたバードンは遂に人間を襲い始める。
滑り台の下に避難する健一。
健一が周りを見回すと、人の影一つ見当たらなかった。
さらに団地の住民を襲うバードン。
陸空から攻撃するZAT。
健一はウルフの中に避難する。
しかしバードンの炎でウルフが炎上。
ZATの攻撃を物ともせず暴れまわるバードン。
絶体絶命のZAT。
そこへタロウがやってきた。
タロウはバードンの嘴攻撃を避けつつ格闘。
さらにキングブレスレットを投げつけバードンを攻撃する。
形勢不利と見て逃げようとするバードン。
それを捕まえようとするタロウ。
しかし、助けを呼ぶ健一の声を聞いたタロウはバードンを逃がしてしまう。
健一の乗っている車の火事を消火するタロウ。
健一を救出するZAT。
そこへ光太郎が現れた。
驚く隊員たち。
喜ぶ健一。
「おい東。足はちゃんとついてるだろうな」と南原。
「ウルトラの母に助けられたんですよ」と光太郎。
タケシの見舞いに行く光太郎。
「東君、生きていたのか」と父親。
「色々ご迷惑を掛けてすいません」と光太郎。
「帰ってください。二度とここには来ないで。あなたが来ると必ず怪獣が現れるわ」と母親。
「東君はそんな人じゃない。私の怪我はあの鳥のせいだ」と諌める父親。
その時病室で飼ってるカナリアが行水を始めた。
父親によると時々わけもなくカナリアが暴れる日があるという。
「ゾフィの死んだ日も暴れていたね」とタケシ。
研究所が襲われた日もカナリアが暴れていたと父親。
光太郎はこの近くに怪獣の巣があるのではないかという。
「あなたにはいつも怪獣がついて回ってくるのね」と母親。
光太郎の報告を受け大熊山の谷を調べるZAT。
火口に鳥の卵を発見する隊員たち。
銃で卵を爆破するZAT。
すると卵を割られて怒ったバードンが現れる。
ホエールで攻撃するZAT。
光太郎は病院へ戻るとタケシたち家族を避難させる。
バードンの攻撃を受け墜落するホエール。
タロウに変身する光太郎。
キングブレスレットでバードンの嘴を塞ぐタロウ。
タロウは空中にバードンを誘き出し、ブレスレットを使い分身の術を使う。
タロウに撹乱され大熊山に衝突するバードン。
最後は火口に落ち爆破して果てた。
倒れるゾフィの下へ向かうタロウ。
そこへウルトラの母も現れた。
「お母さん、我々家族は恵まれているんだ。ウルトラの兄弟やZATに助けられたんだからね」と父親。
「ウルトラの母は、死んだ子どもを連れに来たんだ」。
それを聞いて目の包帯を外すタケシ。
しかしウルトラの母の姿を見ることが出来ない。
涙を流すタケシ。
優しくタケシの目に口づけする母親。
その時奇跡が起こった。
タケシの視力が回復し、ウルトラの母やタロウの姿が目に入る。
ゾフィを連れてウルトラの星に帰るタロウと母。
「ゾフィー」。
それを見送るタケシ。

解説(建前)

何故タケシの視力は回復したのか。
一見するとタケシの母愛の奇跡かのようであるが、これはやはり偶然であろう。
タケシは別に失明したわけではなかった。
療養中に目はある程度回復していた。
すぐに見えなかったのは、目が光に馴染んでなかったからであろう。
涙を流すことにより目の感覚が蘇り、視力が回復したものと思われる。

バードンの巣にあった卵は何であろうか。
バードンの性別はわからないが、バードン自身最近孵化したばかりであることを考えると、バードンの子である可能性は低い。
素直に兄弟と考えるのが妥当であろう。
仮にバードンの卵だとすると無精卵であろうから、いずれにせよ雛が育った可能性は低いと思われる。

感想(本音)

大風呂敷を力ずくで畳んだ感のある完結編。
色々問題もあるが、一応話はまとまっているだろう。
ただ個人的にはやはり粗の方に目がいってしまう。
中篇まではまずまずの内容だっただけに、完結編の出来には不満が残る。
その辺り、注文をつけながら見ていくことにしよう。

まず気になるのが光太郎の帰還であるが、これはウルトラのお約束なので仕方ないだろう。
「ウルトラの母に助けられたんです」というのはあまりにも素直であるが、そこまで開き直られると何も言えない。
光太郎の強運さは隊員たちも周知なので、この件に関してはあまりとやかく言わないのが妥当である。
ただ、光太郎の復活はタケシの母から見ると光太郎逃亡説を裏付けるようでありちょっと苦しい。
それまでの流れを断ち切るようでもあり、この辺りは完結編の悩みであろうがやや強引と言わざるを得ないだろう。

タロウが母から授かったキングブレスレットはイマイチその性能がよく伝わらなかった。
ウルトラブレスレットとの差別化でマジックウェポンのようにしたのであろうが、やはり見た目のインパクトの乏しさは否めない。
最後も騙まし討ちみたいな形になっているし、これ以後あまり活躍の場がなかったのもある意味仕方ないであろう。
私自身キングブレスレットの活躍に期待したのに、よくわからずバードンが事故死して拍子抜けした記憶がある。
この辺りはラドンがモデルなのかもしれないが、ウルトラはウルトラらしく最後はバードンをぶっ飛ばして欲しかった。
まあ、それくらいバードンが強いということでもあろうが。

バードンに敗れ雨ざらしになるゾフィは見ていて気の毒。
おまけにタケシの母には何となくモノ扱いだし。
まあ、この辺りの表現はリアリティを目指したのだろうが、レオに通じる苛烈な描写の先駆けともいえる。
しかし母とタロウに抱えられて帰っていくゾフィの姿は正直悲しい。
戦いの厳しさの描写であろうが、この辺りは賛否両論分かれるであろう。
個人的には子供の頃に見たこともありこういう描写には慣れてしまっているため何とも言えない。

今回はタケシの父親がいいお父さん振りを発揮していた。
母親が完全にヒステリーだったので際立って見えるが、この辺りの役割分担はやや極端に過ぎよう。
最後は母親も改心したようではあるが、さすがに演出的に行き過ぎた感は否めない。
例えば母親のゾフィに対するセリフ。
「そりゃ雨が降れば何でも濡れてしまうのは仕方ないわね」。
仮にも命の恩人であるゾフィに対してこの言い方は冷たすぎる。
家族や自分のことばかりに目がいって他人のことを考える余裕がないということであろうが、これではあまりにも母親が冷酷な人間に見える。
この辺り演出意図はわかるがもう少し抑えて欲しかったところである。

また生き返った光太郎に対する態度も冷たい。
この辺りは収まりがつかないということであろうが、怪獣を全部光太郎にせいにするのはさすがにヒステリック。
正直母親の描写はステレオタイプに過ぎる。
この辺りは脚本を書いた田口氏の資質によるのであろう。

すなわち、田口氏の人間観というのは氏の作風を見る限り決して甘いものではない。
むしろ人間に対する不信感みたいなものが感じられる。
それは「子どもを純粋だと思うのは人間だけだ」というセリフにもよく表れているが、氏の話によく登場する意地悪な人間を見てもそれは感じられる。
例えば「怪獣少年の復讐」では正義の側であるMATの隊員ですら少年を疑っていた。
また、レオにおいても仲間がゲンを殺人犯だと信じ込む描写があり、この辺りにも人間不信が感じられる。

まあ、大抵そういう場合最後はわかってもらえるのであるが、氏の場合はそういうハッピーエンドでも何とも納得できないものが残ることが多い。
単なる構成力の問題かもしれないが、氏のハッピーエンド作品にそういう無理やり感を感じるのは、おそらく氏のそういう冷めた人間観が背景にあるからであろう。
本話においてもおそらく演出意図的には母親を悪役にするつもりはなかった。
ただ単に家族を愛するあまり周りが見えなくなっている普通の母親を描いたつもりだったのであろう。
しかし完成作品を見る限り、決してそういう風には見えない。
これはやはり氏があまりにも嫌な人間を描くのが得意だからではなかろうか。

本話において一番の問題はやはりZATの不甲斐なさ。
話の辻褄を合わせるためであろうが、ここまで酷いとZATは解散でも仕方ないくらいである。
まず問題なのは大熊山の谷を調査してなかった点。
これは何ゆえに調査しなかったのかよくわからない。
こんなところにまさか怪獣がいるまいと思ったのかもしれないが、これでは怠慢だと言われても仕方ないであろう。
大熊山は度々バードンに襲われており普通なら危険と考える場所である。
病院が何度も危機に陥ったのはZATのミス以外の何ものでもないだろう。
タケシの母がZATを批判するのも実は正論なのである。

そして最大の失策は言うまでもなく食肉を隠すように指令したこと。
人が襲われたのは結果論とも言えそうであるが、既に人は食べられており食肉を隠せば人が狙われるというのは考えればわかるはずである。
とにかく何でもやってみようという荒垣のセリフに象徴されるように、これはバードンの行方がわからず困った末の苦肉の策。
世間の批判を交わすためにも見え、ZATに寛恕の余地は乏しい。
そして結果は大量の人間が食べられるという惨憺たるもの。
この被害は当然ZATの作戦と因果関係があり、ZATが責任を問われるのは仕方ないであろう。
少なくとも作戦の立案者である荒垣が処分されるのは間違いない。
ZAT解散でも文句言えないレベルである。

本話はこのように御都合主義で筋を組み立てすぎた結果、ZATの行動が極めて理不尽なものになっている。
ある程度はお約束で許されるが、ここまで凄惨だともはやフォローのしようがないだろう。
せめてもう少し穏便な描写なら誤魔化せるかもしれないが、バードンが団地を襲うシーンはレオのMAC全滅回並の演出がなされており、それも難しい。
健一君が無神経にポチを外に連れ出してることといい、バードンの脅威を見せることだけに意識を取られて肝心の人間描写がお座なりになってるのではドラマとして欠陥があると言わざるをえないだろう。
かなり厳しい書き方になったが、いくらドラマとはいえあまりに人命を軽視するのは個人的に許せないので、この辺りはやはり深く反省して欲しいと思う。
まあ、今さら言っても何だけど、これからまだウルトラは続くわけだから、その辺りは気をつけて欲しいと思う。

この3部作は光太郎のミスに始まり、タケシのミス、ZATのミスと人のミスの連続である。
話を盛り上げるためであろうが、この辺りはやや安易と言わざるを得ない。
またこの3部作は容赦ない残酷描写や非常に冷たい人間描写が垣間見られる。
これらは監督である深沢氏の思想の反映か、脚本家の田口氏の思想の表れかはっきりとはわからないが、タロウ、レオという一見子ども向けで勧善懲悪な物語の底に、これら人間に対する不信とでも呼ぶべきものが流れているのは確かであろう。

タロウ、レオはしばしば道徳主義的、教訓主義的などの批判を浴びる。
ただ道徳主義、教訓主義自体は別に悪いものではない。
ウルトラが子ども番組である以上、そういう要素が入ってくるのはある意味当然だからである。
別に1期ウルトラでそれらを否定していたわけではない以上、その点を捉えてタロウ、レオを貶めるのは妥当でないだろう。
ただ問題なのは、それらのテーマがきっちり消化されてないように感じられる話が散見されること。
今回の話でもやはり最後の母親の改心はやや唐突に見えた。
話の筋的には父親に戒められ、命がけで戦う光太郎やタロウの姿や子どもを思いやるウルトラの母の姿を見て改心したのはわかるのだが、正直それがあまり心に響いてこない。
これはやはりそれまでの過程であまりにも熱心に母親の嫌な面を描きすぎたことによるのだろう。

3部作の完結編である本話は、それまでのエンターテインメントに徹した展開のツケを回される形でかなり強引に話を纏めている。
この辺りもう少し丁寧に運んで欲しかったが、田口氏はじめスタッフはかなり強行スケジュールで作品を作っていたと思われ、勢い任せになるのはある意味仕方なかったのであろう。
このシリーズを見たファンは大抵タケシの母の身勝手ぶりに腹が立つという。
ストーリーをよく見ればそんなに酷い母親ではないのだが、やはりその辺りは伝わりにくい。
これはやはり残酷描写や嫌味描写に力を入れすぎたことが大きいであろう。
かように問題の多い作品になってはいるが、ドラマ的な不備を除けばそのスケールといい緊迫感といい、やはりタロウを代表するだけの作品である。
バードンの存在感、破壊される街のまるで戦場にいるかのような臨場感、パニックに陥る団地の緊迫感。
タロウやゾフィのダイレクトにビジュアルに訴える敗北描写などなど。

タロウは従来のウルトラに比べてよりエンターテインメントの方向に舵を切っている。
何だかんだ言ってウルトラ一族が一杯出てくるのは楽しいものである。
もちろんやりすぎは問題だが、レギュラーで複数ライダーが登場する平成ライダーに比べたらまだまだ客演は希少な方。
残酷描写に関しては賛否両論あるだろうが、そのエンターテインメント重視の作風は見てて爽快感すらあるだろう。
この3部作も基本は見てて楽しい。
粗があってもそれを補ってあまりあるワクワク感があるのである。

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