悪魔の住む花


データ

脚本は上原正三。
監督は鈴木俊継。


美しい花が咲く花畑を駆け回る3人の少女。
花を手に取り見とれる香織。
そこへ1枚の花びらが落ちてきた。
花びらを拾い、軽く口づけする香織。
その直後、香織は吐血して倒れてしまう。
キリヤマは病院からの依頼でアマギに輸血のため病院へ行くよう命令。
「若い娘が担ぎ込まれたそうだ。君の血液を必要としている。行ってやってくれ」。
また患者の容体に不審な点があることからダンも一緒に行くよう命令する。
輸血を終えたアマギは医者から感謝される。
「いやあ助かりました。特殊な血液型のもんですからね、急患の時に困るんですよ」。
「いつでも呼んでください」とアマギ。
「ところで病名は何ですか?」とダン。
医者によると血液中の血小板が急激に減少するのは確かだが原因は不明という。
香織の友達に状況を聞くダン。
「花の匂いを嗅いでいたんです。すると急によろよろっとして」。
ダンはふと香織の持っている花びらに気が付く。
『確かどこかで見たことがある』。
何かに思い当たるダン。
夜の病院を巡回する看護婦。
看護婦が香織の部屋に入るとベッドはもぬけの殻だった。
慌てて警備隊に連絡する看護婦。
連絡を受け出動したアマギとソガは病院内を捜索。
すると地下室から看護婦の悲鳴が聞こえてきた。
急いで駆けつけるアマギ。
そこには気を失った看護婦が倒れていた。
隠れていた香織に背後から殴られ気を失うアマギ。
ベッドの上で眠るアマギを心配そうに見つめるソガ。
そこへキリヤマたちが入ってきた。
医者にアマギの容体を尋ねるキリヤマ。
「後頭部をやられてます。暫く安静が必要です」と医者。
「犯人はやっぱり彼女なのか」とキリヤマ。
「間違いありません」とソガ。
「それにしても意識不明の人間がどうやって地下室へ行ったんだ。なんのために」とキリヤマ。
「地下室には輸血用の血液が保管してあります」とソガ。
アマギの首筋に血を抜かれた痕があることから、ダンは香織の狙いは血液ではないかという。
香織の寝室に行き様子を確かめるキリヤマたち。
「この人が信じられん」とキリヤマ。
「そうよ。隊長の言う通りよ」とアンヌ。
皆が香織の顔を見ていると口から血が流れ落ちた。
驚くキリヤマたち。
『こんな美しい顔で血を吸うわけがない。きっと何か原因がある』とダン。
アマギと香織を基地に移して原因を調査するよう命じるキリヤマ。
分析の結果、香織の肺の中に宇宙細菌ダリーがいることが判明する。
「血液中のフィブリノーゲンを食って生きている恐ろしい奴らですよ」と医者。
「こいつのために恐ろしい吸血鬼にされているんだ」とダン。
また香織が口づけした花びらはダリーの卵の殻であった。
「どうすれば退治できるんですか」とアンヌ。
しかし博士によると現代の医学ではどうにもならないという。
「そんなバカなことがあっていいものか」。
フルハシにメディカルセンターの香織の様子を見に行くよう指示するキリヤマ。
よく眠っている様子の香織を見て安心するフルハシ。
フルハシはキリヤマに異常なしと報告して雑誌を読み始めた。
その隙に部屋を抜け出す香織。
香織がいないことに気が付き慌ててキリヤマに報告するフルハシ。
「ダン、ソガ。フルハシに協力して彼女を探し出せ。被害者が出ぬうちに保護するんだ」とキリヤマ。
キリヤマとアンヌも基地内を探索する。
基地内を彷徨う香織。
香織は出会った隊員に口からガスを吐きかける。
そのまま倒れる隊員。
それを見ていたキリヤマとアンヌ。
「どこへ行くんだ。君には休養が必要なんだ。さ、帰りなさい」とキリヤマ。
しかしキリヤマとアンヌもガスを浴びて倒れてしまう。
メディカルセンターに入っていく香織。
香織はベッドで寝ているアマギを連れ出し外へ出ていく。
「アマギ、行っちゃいかん。アマギ戻るんだ」とキリヤマ。
体が動かないキリヤマはポインターのダンたちにアマギを探すよう連絡。
香織に連れ出されたアマギは香織と一緒にメリーゴーランドに乗っていた。
楽し気な2人。
遊園地に到着するダンとソガ。
メリーゴーランドが回っていることを不審に思う2人。
すると1人でメリーゴーランドに乗っているアマギを発見。
アマギはメリーゴーランドが止まるとそのまま崩れ折れる。
逃げる香織を追跡するダンとソガ。
そこへフルハシが合流。
フルハシはソガにショックガンを撃つよう指示する。
ショックガンで気を失う香織。
病院に運ばれた香織は衰弱が酷く、医者によると生命の保証ができないという。
「宇宙細菌を殺す方法はありませんか」とキリヤマ。
しかし今のところないと医者。
そこへアマギが入ってきた。
「彼女を直してやってください。ねえ先生。お願いします。輸血が必要なら僕のをいくらでもあげます。お願いします」。
懇願するアマギ。
首を振る医者たち。
『たった一つだけ方法がある。ミクロ化して体内に潜り込むことだ。だがこれは非常に危険だ。人間の体とはいえども広大な宇宙とは変わりはない。いわば未知の世界だ。何が起こるかわからない』。
思案するダン。
部屋を出る隊員たち。
しかしダンは一人香織の部屋に引き返す。
『よし、未知の世界に挑むぞ』。
セブンに変身するダン。
ミクロ化して香織の鼻の穴から体内に侵入するセブン。
うなされる香織。
気管を突破し肺の中にたどり着くセブン。
しかし生体防御反応によりセブンの体力はかなり消耗していた。
漸くダリーの巣を発見するセブン。
壁にぶら下がるダリーに向かってエメリウム光線を発射。
光線を浴び落下するダリー。
体内でダリーと戦うセブン。
再び壁に張り付き泡を吐き出すダリー
泡を浴びたセブンはそのまま倒れこんでしまう。
苦しむ香織の様子を見て黄色い薬剤を注射する医者。
すると薬剤の効果でセブンを包んでいた泡も消えた。
ダリーに再びエメリウム光線を浴びせるセブン。
さらにセブンは手からシャボンを出すとそれをダリーに浴びせる。
溶けて消えていくダリー。
すると香織が目を覚ました。
起き上がる香織。
「私どうしたの」と香織。
「何にも覚えてないの?」
驚く友人。
「まあ、綺麗」。
花瓶に差してあるバラを取り上げる香織。
そこにはミクロ化したセブンの姿があった。
アンヌと一緒に花畑を散歩する香織。
そこへダンとアマギがポインターでやってきた。
アマギの顔を見つめる香織。
「あのう。お会いしましたわ。どこかで」。
「さあ」とアマギ。
「でも」と香織。
笑顔で香織を見つめるアマギ。
「ごめんなさい」と香織。
花を摘んで香織に手渡すアマギ。
パトロールに戻るダンとアマギ。

解説(建前)

ダリーが作った巣はダリーの死後どうなったのか?
電子顕微鏡ではっきり映っていたはずなので、すぐに消えたとも考えづらい。
ただ、香織はダリーが死んだらすぐに回復した。
結局巣はダリーがフィブリノーゲンを食べるための足場程度のもので、人体には無害なものだったのであろう。
時間が経てば消滅し人体の外に排出されたと考えられる。

ウルトラ警備隊や防衛軍はセブンがダリーを倒したことなど知る由もない。
では香織が全快した理由をどのように結論づけたのであろうか?
宇宙細菌ダリーについては防衛軍の医者も知っており医学的には既知の存在であった。
ただその治療法については確立されていないことから、恐らく他の症例では全員死亡か植物状態になっていたと思われる。
本来なら香織も衰弱死した可能性が高い。
それがいきなりダリーが消滅したのである。

さすがに医学的に奇跡という結論を出すわけにはいかないのでその後も色々検査したであろうが、セブンが戦った痕跡は残ってないであろうし、まさかセブンがミクロ化できるなんて夢にも思わないだろうから、結局香織の免疫力という結論にならざるをえないだろう。
したがって世界中の感染者をセブンが助けるわけにはいかないので、ダリーの脅威はこの後も続いていくと思われる。
ただ、ダリーは細菌という割には感染したり増殖したりはしないので、寄生虫の類と変わらない。
芽殖孤虫のように稀に症例が報告される程度で済むのかもしれない。

香織はなぜアマギを遊園地に連れ出したのか?
ダリーが取りついた香織は血液を求めて地下室まで行った。
そしてアマギの頸静脈から血を吸った痕跡すらある。
とするとアマギの血液が目当てとも思われる。
ただ、それなら遊園地に行く意味はない。
これはやはり半分は香織の意思としか解釈できないであろう。
ダリーとしては良質の血液を確保するためにアマギを連れ出したのかもしれないが、香織の心の奥底に潜む恋愛への憧れ。
それが作用して遊園地のデートになったのであろう。

ではアマギは遊園地で香織とデートした記憶はあるのだろうか?
結論から言うと夢の中の出来事として薄っすら覚えている程度であろう。
これは香織と同様である。
アマギは意識を失う前から香織に輸血したり香織のことは知っていた。
ただデートをしたときはダリーの特殊能力により操られていただけで意識は戻っていなかった。
遊園地のことは後で仲間から聞かされたのであろう。

香織が注射を受けるとセブンが復活したが、これはなぜか?
まず注射の成分であるが、香織が衰弱していることから栄養剤とも考えられるし、治療のための抗生物質とも考えられる。
栄養剤とすればセブンにも栄養が効いたのであろう。
抗生物質とすれば、ダリーの吐き出した泡を無力化する効果があったのであろう。
偶然の産物であるが、結果的にセブンが助かったのだからラッキーであった。

感想(本音)

解釈的には難しい話。
ただ、ストーリーは単純明快なので普通に楽しめる娯楽作となっている。
元ネタは「ミクロの決死圏」。
「恐怖の報酬」といい、やはり当時のテレビ人は洋画の影響をかなり受けているようだ。
香織の体の中での戦闘シーンは今ならCGで描くのだろうが、当時はセットを組んで撮影している。
人体の中という未知の世界を映像化するのは難しいと思われるが、創意工夫によって雰囲気は出てると思う。

前置きはさておき、本話は何と言ってもデビュー間もない松坂慶子が出ていたというので有名。
私も本話を見る以前からテレビのバラエティなどで本話に松坂慶子が出ているのを知っていた。
本人的には特に黒歴史ではないのであろう。
まあ、散々再放送されている番組なので、松坂サイドもどうしようもないのかもしれないが。
ただ、知らない人が本話を見て松坂慶子と気付くのは案外難しいと思われる。
まだ中学を卒業するかしないかくらいの頃なので、かなり雰囲気が違う。
これが後にバニーガールの格好をして艶っぽい歌を歌う女優になろうとは誰も想像もできないであろう(笑)。

本話はアマギ隊員役の古谷氏も語ってるようにメロドラマ風。
ただ、展開的には遊園地でデートする必然性はなかった。
これはただ病気の少女をセブンが直すというのでは絵的に地味というのがあったのであろう。
正直解釈には困ったが、アマギと香織の淡いラブロマンスにすることで本話は幻想的な作品に仕上がった。
美少女が不治の病にかかって血液型が特殊でその適合する男性と恋に落ちる。
何とも大映ドラマテイストであるが、赤いシリーズなんかよりはこちらが先なので、一般的なメロドラマのテンプレを集めた感じ。
敵も侵略宇宙人ではないし、セブンの中ではやや異色作である。

香織はダリーの花びらに口づけした直後に吐血して倒れた。
その感染力の高さ、速さには驚かされる。
しかし解釈でも書いたがダリーはどう見ても細菌ではない。
まあ、バイキンマンとかムシバラスとか細菌のイメージを具現化するとあんな感じなので、ダリーあんなもんかもしれないが。
今回から怪獣のデザインは池谷仙克氏に交代したが、細菌の気持ち悪さは出ていたと思う。
人体の中での戦いということで苦戦するセブンだったが、医者が香織に注射すると復活するのは如何にもお約束という感じ。
やはりセブンにとって人体の中での戦いは甘くはなかったということであろう。

ダンはダリーの卵に見覚えがあると言った。
レオでは頻繁に見られるダンの博識ぶりだが、ダリーの卵の知識まであるというのはさすが。
しかしダリーってそこまで有名な細菌なのだろうか?
宇宙には沢山のダリーがいる?
ダンの表情からもかなり厄介な存在のようだ。
ダリーに繁殖力があったら地球人も滅亡したかもしれない。
今さらながら細菌やウィルスの恐ろしさを痛感させられる。

ラストシーンは微笑むアマギと香織、そしてダンたち。
アマギは香織に自分のことを言わなかったが、よく見たらダンがさりげなく言わないよう指示している。
香織は自分が何をしていたのか全く覚えていなかった。
アマギが自分のことを言うと香織に自分が気を失ってる間に何をしたのかバレてしまう。
ダンは瞬時にそう判断したのであろう。

アマギもすぐにそのことに気づいた。
そっと花を摘んで渡すアマギ。
少し切なく、そして爽やかなラスト。
宇宙細菌という恐ろしいものが相手の話であったが、鈴木監督の演出のおかげでちょっとしたラブロマンスになっている。
メロドラマに出るのが夢だったという古谷氏だが、あの松坂慶子の相手役ができたのだから役得としか言いようがないであろう。

本話の脚本は上原正三。
氏の実力については今さら言わずもがなであるが、こういう話を書かせても上手い。
美少女が細菌に侵されるというプロットが先にあったのか、ミクロの決死圏をやりたかったのかはわからないが、本話では上手く融合させている。
その分解釈に苦労したが、鈴木監督の演出もあって爽やかな一編となっている。
大人が見ても子供が見ても楽しめるSFテイスト溢れる娯楽編。
個人的にも好きなエピソードの1つである。

セブン第30話 セブン全話リストへ セブン第32話