北へ還れ!


データ

脚本は市川森一
監督は満田かずほ

ストーリー

母親が病気との連絡を受け、故郷の北海道へ帰省したフルハシ。
迎えに来た妹と一緒にジープで実家へ向かう道中、母の病気が嘘である旨妹から聞かされる。
母親はどうしてもフルハシに牧場を継いでもらいたくて、嘘をついて呼び戻したという。
「でも兄さん、ウルトラ警備隊やめる気ないんでしょ」と妹。
「いや。あるよ」とフルハシ。
驚く妹。
「あんなウルトラ警備隊なんか、実を言うともう飽き飽きしてんだ」とフルハシ。
エンジンの調子が悪いから前を見てくれと妹を車から降ろすフルハシ。
するとフルハシは妹を置き去りにして車で去ってしまった。
その頃地球防衛軍のジェット機が北極上空で異変に遭遇していた。
ジェット機の舵が利かなくなったのだ。
接近する旅客機にコースを変えるよう無線で連絡する隊員。
しかしジェット機はそのまま旅客機と正面衝突してしまった。
事の重大さからキリヤマに調査を命じるタケナカ。
キリヤマは北極上空へ飛ぶようフルハシに命令する。
そこへフルハシの母から東京へ出てきたと電話が入った。
忙しいと電話を切るフルハシ。
それを見たダンたちは代わりを申し出るが、フルハシはそれを断りホーク3号で出動した。
ダンとアンヌはフルハシの母親を近くのホテルまで送っていく。
ベーリング海上空でホークを自動操縦に切り替えるフルハシ。
フルハシのホークに向かって地上の灯台から怪しい光線が発せられる。
突如自動操縦が利かなくなるホーク。
フルハシはキリヤマの命令で普通操縦に切り替えて調査地点へ向かう。
喫茶店でフルハシの母親の話を聞くダン。
フルハシを連れ戻しに来たと聞きダンは驚く。
そこへアンヌがダンを呼び出しに来た。
アンヌはフルハシが大変だから基地へ戻るようにとダンに伝える。
その頃基地にはフルハシから操縦が利かなくなったと連絡が入っていた。
何かに誘導されているようだとフルハシ。
基地に戻ったダンはフルハシ救出のためホーク1号で出動する。
ウルトラ警備隊は各航空会社に北極上空を飛ばないよう要請。
しかし1機だけ北極上空を飛ぶ旅客機があった。
旅客機も運転不能になりホークの方へと誘導されていたのだ。
コンピューターの計算では20分後に接触するという。
フルハシに360秒後にホークを自爆するようセットして脱出するよう指示するキリヤマ。
しかしフルハシが脱出しようとレバーを引いても脱出装置は起動しない。
フルハシに慌てないよう指示するキリヤマ。
自爆を中止するよう進言するソガ。
「わかってる。自爆を中止したところで、いずれホーク3号と旅客機は正面衝突するんだ」とキリヤマ。
「ホーク3号が自爆すれば旅客機は助かる。自分の命を犠牲にしても300人の命を助ける。それがウルトラ警備隊の使命なんだ」。
アンヌにフルハシの母親を作戦室に連れてくるよう指示するキリヤマ。
フルハシは必死に脱出装置を動かそうとするが、装置は動かない。
「母さん」。
思わず声に出すフルハシ。
その頃灯台から電波を送ってフルハシのホークを誘導していたカナン星人たちは、北極上空に近づいてくるダンのホークを捕捉していた。
「北極は今や我らカナン星人のものだということを思い知らせてやる」。
ダンのホークにも誘導電波を送る星人。
しかし怪電波に気付いたダンは計器のスイッチを切ってその場に着陸した。
作戦室に入ったフルハシの母は無線でフルハシと話をする。
「何してるんだい、お前」。
「パトロールさ」。
「遠いのかい」。
「遠いよ。北海道より遠いんだ。何しろ、北極まで来てんだからね」。
「じゃあ私の声も北極まで飛んでってるんだね」。
「ああそうだよ。北極まで来て、寒い寒いって震えてらあ」。
笑いあう二人。
椅子に腰かける母。
緊迫した基地内の様子を見ながら「ウルトラ警備隊って大変な仕事なんだねえ」と思う母。
一方怪しい灯台を発見したダンはウィンダムに偵察へと向かわせる。
それを見て高笑いする星人。
ウィンダムは灯台から発せられた光線により、電子頭脳を狂わされてしまった。
ダンの方へと向かってくるウィンダム。
ダンはセブンに変身してウィンダムと対峙する。
ウィンダムを組み伏せるセブン。
ウィンダムと追いかけっこを始めたセブンは、ウィンダムが壊れたように円を描いて走るのを見て離脱。
ウィンダムが疲れるまで待った。
大人しくなったウィンダムの電子頭脳を正常に戻したセブンは、ウィンダムを再び灯台へとけしかける。
しかしカナン星人に攻撃されたウィンダムは倒れこんでしまう。
ウィンダムを回収するセブン。
セブンはロケットになって空を飛ぶカナン星人の灯台をワイドショットで爆破。
一方ギリギリでコントロールを免れたフルハシは咄嗟に旅客機を避け、爆破タイマーもオフにする。
無事基地に戻るフルハシ。
しかし母親はもう帰った後だった。
キリヤマからパトロールを命じられるフルハシ。
今度は誰も代わりを申し出ない。
渋々引き受けるフルハシ。
しかしキリヤマが命じたパトロール先は北海道上空であった。
笑顔になるフルハシ。
「母さんはね。男が自分で選んだ仕事、それが一番いいってことがわかったんですよ。シゲルはやっぱりウルトラ警備隊の隊員」。
母の気持ちを思い遣るフルハシであった。

解説(建前)

フルハシは360秒(6分)後に自爆装置をセットしたのに、なぜ旅客機とぶつかりそうになったか。
コンピューターの計算では20分後に衝突するはずだったので、時間的余裕はかなりあったはず。
まず考えられるのはコンピュータの計算ミス。
しかし本部の計器に異常はないはずなので、ホークと旅客機の位置と速度を把握している限り間違える可能性は低いであろう。

それでは自爆タイマーそのものがカナン星人に狂わされたのか?
しかし以下の理由でその可能性も低いと考える。
けだし、6分と20分では体感的にかなり違う。
いくら精神的に追い詰められていたからとはいえ、そこまでフルハシの体内タイマーが狂うことはないであろう。
またタイマーも見た感じアナログ式で電波で狂うようなものには見えない。
加えて本部の計器は正常なので、6分が経過したらわかったはず。
以上より、やはりタイマーは正しく動いており、旅客機とニアミスしたのは6分経過直前と考えられる。

となると、残すは前述した「ホークと旅客機の位置と速度」が間違っていた可能性しかないであろう。
すなわち当初の計算時点では等速で飛ぶことを前提に衝突時間を割り出していたが、いつのまにか両機ともかなり加速していた。
ホークの脱出装置まで起動できなくする等、機体を完全にコントロールしていたカナン星人なら造作もないことであろう。
もちろん基地のレーダーがそれを捕らえていた可能性は高いが、皆6分後のホークの自爆の方に気をとられて、再計算する余裕がなかった。
もし再計算して4分後ということにでもなれば、キリヤマは時限装置ではなく直接自爆することをフルハシに指示しなければならない。
心理的にもあまり考えたくなかったのではなかろうか。

カナン星人の目的は何か。
これについてはあまりにも情報が乏しく判断が難しいが、地球侵略に来た割には装備が手薄なのでやはり偵察目的と考えるのが妥当であろう。
飛行機を操縦不能にしたのも、本格的な侵攻の前に自分たちの能力を試したのではないか。
ただ、2回目の実験であっさり見つかってしまったのは、地球防衛軍およびウルトラ警備隊を舐めすぎた結果であろう。
ウィンダムを簡単に倒すなどまあまあ強いが、やはり相手がセブンだと相手にならなかったというところか。

感想(本音)

子供の頃見たはずだが、あまり印象に残っていない話。
実はセブンはそういう話が案外多い。
改めて見直して思うが、本話は内容的にはグダグダ。
しかも子供にフルハシや母親の感情の機微を読み取れと言うのも無理であろう。
本話の脚本は市川森一。
本人が述懐していたが、当時若手の市川氏は予算の節約を求められる話の担当が多かったという。
本話は戦闘シーンがなんとセブン対ウィンダム。
しかも明らかに尺が長い。
色々と制作側の苦労が見えて興味深くはあるが、果たして子供がこれを見て面白いかは微妙なところだ。

本話はよく指摘されるようにフルハシが爆破を解除する前に旅客機とニアミスするという、明らかな矛盾がある。
解釈では無理やり上記のようにこじつけたが、これは単に制作サイドのミスであろう。
脚本がどうなっていたかはわからないが、仮に脚本がおかしくても撮影段階で直せばいいだけ。
あるいは緊迫感を増すために順番を変えたのかもしれないが、やはり今の目線からは気になる。
また、6分後に自爆するはずが母親を呼んで会話までする余裕があった。
これはそういう脚本だから仕方ないが、正直無理があったと思う。

と、いろいろ問題の多い話であるが、フルハシ役の石井氏の好演もありドラマ部分はなかなかよくできている。
まず、母親役がいい。
演ずる市川春代は戦前のサイレント映画時代から活躍したという凄い人だが、そういうことを全く感じさせない素朴な演技。
本当に田舎から出てきたのではないかと思わせる演技はさすがである。
また、個人的に注目したのは母親がホテルで見てたテレビ。
大相撲、しかも柏戸!
ただし、ネットで調べると音はアフレコなので映像は別物の可能性が高いとのことである。
因みに本話冒頭の飛行機事故のシーンは新マンのビーコン編で流用されたが、この時母親が見てたテレビはメロドラマだった。
特に関連性はないが、当時のテレビ事情というものが垣間見えて面白い。

本話はキリヤマとフルハシの緊迫したやり取りも見どころの一つ。
何とかフルハシを助けようとするキリヤマ。
しかしフルハシの脱出が不能となり、せめて乗客の命を助けるため名誉の戦死を遂げさせてやろうと苦渋の決断をする。
「それがウルトラ警備隊の使命」なのだと。
死を覚悟したフルハシ、そして最後に母親の声を聞かせてやりたいとキリヤマ。
冷静に考えると母親を呼んでる時間も余裕もないはずだが、それはこのドラマの肝なので突っ込むのは野暮であろう。
キリヤマの人としての優しさが感じられるシーンである。

そして、母親とフルハシの会話。
「何してるんだい、お前」という母親のセリフの後の沈黙が事態の深刻さを強調する。
漸く「パトロールさ」と答えるフルハシ。
「遠いのかい」という母親に対し「遠いよ」と答えるフルハシ。
この時のフルハシの言い方は物理的な遠さよりも心理的な遠さを強調する感じで、石井氏の演技が光っている。
そして冗談を言い、空笑いしあう二人。
ただし、母親の方は事態の深刻さはわかっておらず、それが物悲しさを強調する。

おそらく母親は最後までフルハシの陥っていた状況について説明は受けなかったのではないか。
助かったのだからわざわざそれを言う必要はないし、フルハシもそれを言って欲しくはないだろうので。
ただし、現場の安堵の空気から息子に何かあったのは気付いていた可能性は高い。
そもそも息子と通信すること自体がおかしい。
母親は母親でそういう状況を冷静に見て、ウルトラ警備隊の仕事が命がけの尊い仕事というのを理解したのであろう。
この辺り、くどくどと説明するよりシチュエーションでそれをわからせる。
さすが市川氏という構成力である。
ただし、子供にそれを読み取るのは難しいであろうが。

その他気になった点。
タイトルの「北へ還れ!」は今だと違う国を思い浮かべそうだが(笑)、なぜ命令調なのだろうか?
この時期命令調タイトルがやたら多いのはタイトルで視聴者を引き付けようとしたのであろうか?
よくわからない。
妹を騙してジープから降ろすフルハシ。
しかし妹が止めようとしているのにジープを走らせるのは結構危険では?
まあ、レオの特訓に比べたら比較にはならないけど(笑)。
旅客機と防衛軍の飛行機が衝突って、実際あったら洒落にならなさそう。
と言っても、この数年後に雫石の事故があるのだが。
まあ、旅客機の方も恐らくコントロールされていたので、フルハシの時同様どうしようもなかったであろう。
しかし、カナン星人が何をやりたいのかは正直言って意味不明だった。

フルハシを故郷に連れて帰るという母親に対して露骨に嫌な顔をするダン。
ちょっと拗ねたような感じのダンがかわいい。
ダンの仲間思いの一面が見られるシーンである。
一方アンヌは今回は冷静な感じ。
満田監督の割にあまり目立たなかったのはあくまでフルハシメインだからであろう。
カナン星人に操られて挙句に倒されるウィンダム。
ダン、何がしたいんだというのはあるが、これも予算の制約上仕方ない。
ただし怪獣を出せないからと言って、これを長々と見せられるのは結構辛い(笑)。

本話の脚本は前述したように市川森一。
「ウルトラセブン研究読本」によると、準備稿の段階では気丈な母は息子の決心を鈍らせるということで、息子との最期の通信を拒む展開だったという。
元々のタイトルも「自爆命令」だし、そっちの方が確かに市川氏らしいハードな展開だ。
ただ、それではあまりにも特攻を強調した話になるであろう。
サブキャラ大事典でのインタビューによると、市川氏的には軍服ドラマとして本話を書いたとのことであるが、最終的には人情面に重きを置いた完成作品の方がバランスとしてはよかったように思う。
ただし、カナン星人やウィンダムのパートがグダグダなのは変わらないが。

市川氏と特攻というと、ウルトラマンエースの「銀河に散った5つの星」を思い出す。
あの時も北斗は死を覚悟してゴルゴダ星に突っ込んでいった。
「太陽の命 エースの命」でも夕子は死を覚悟して変身した(上原氏との共同脚本だが)。
市川氏のテーマの一つに自己犠牲、殉死というものがあったのは間違いないであろう。
ただ、市川氏が特攻礼賛の右翼というわけではない。
市川氏がクリスチャンなのは有名だが、これもキリスト教の精神の一つなのであろう。

本話の監督は満田かずほ。
次回の「零下140度の対決」と二本撮りだったようだが、予算をそちらに使いすぎたのであろうか?
まあ上記したように整合性がおかしいなどツッコミどころも多かったが、フルハシの魅力を引き出した点は評価できるであろう。
ウルトラセブンはとかくSF的要素やミリタリー的要素が強調されるが、本話は人情物に寄せた結果、非常に見やすい話になった。
その分引っかかりは少ないかもしれないが、人間ドラマとしては緊迫感もあり、悲壮感もあり、人情もありということで及第の出来である。
ウルトラシリーズとしてはグダグダなのは確かだが、ドラマとしてはよくできているのではないか。

セブン第23話 セブン全話リストへ セブン第25話