零下140度の対決


データ

脚本は金城哲夫
監督は満田かずほ

ストーリー

地球防衛軍の上空を覆う黒い雲。
あっという間に辺り一面は銀世界に変わる。
猛吹雪の中ポインターでパトロールするダンだが、寒さのためポインターが停止した。
異常寒波の原因を探ろうとするダン。
一方基地でも異常寒波の原因を調査していた。
寒波は基地周辺一帯を覆っており、アマギの報告によると零下112度という。
「地下18階の動力室では原子炉が赤々と燃えてるんだ。人類の科学万々歳だよ」と余裕を見せるソガ。
ソガの差し出すホットコーヒーを一口飲み「美味い」とアマギ。
そこへダンから連絡が入る。
ポインターがエンストしたというダンに対し、ポインターを捨てて基地へ戻れと命令するキリヤマ。
浮かない顔のダン。
「ダン。あったかいコーヒーがあるわよ。早く帰ってらっしゃいよ」とアンヌ。
ポインターを出てエンジンが動かないのを確かめると、ダンは歩いて基地へと向かった。
その頃基地では大きな地震が起き、停電が発生。
キリヤマが内線で動力室に連絡すると、原子炉がやられたとの報告。
フルハシ、アマギに様子を見に行かせるキリヤマ。
猛吹雪の中を歩くダン。
光の国、M78星雲から来たセブンは普通の人間以上に寒さに弱かった。
破壊された動力室に到着するフルハシとアマギ。
班長の向井によると、壁をドリルのようなもので突き破られたという。
キリヤマからの内線に出て現状を報告するアマギ。
当分回復の見込みはないというアマギに対して
「地下ケーブルはこの基地の命だぞ。全力を挙げて復旧作業に取り掛かれ」
と命ずるキリヤマ。
アマギとフルハシが破壊された穴を調べていると、穴の奥に怪獣らしき大きな口が見えた。
怪獣の口から冷凍光線が吐き出される。
作業員を退避させて火炎放射器で戦うフルハシとアマギ。
しかし怪獣には通用しない。
医務室では医者とアンヌが負傷者の治療をしていた。
そこへソガがやってきてアンヌに防寒服を用意するよう依頼する。
真っ暗な基地内は既に氷漬けになっていた。
ヤマオカに怪獣の件を報告するフルハシとアマギ。
「マグマライザーは?」とヤマオカ。
しかし原子炉と地下ケーブルがやられたためシャッターが開かず、ホーク等の超兵器も使用不能となっていた。
時限爆弾で怪獣を爆破することを提案するフルハシだが、基地ごと爆発したら元も子もないとキリヤマ。
そこへ防寒服を配りにソガがやってくる。
「一発心臓部を破壊されるとさすがの科学基地も脆いものです」とソガ。
ヤマオカの下へ医師のアラキとアンヌがやってきて、300名の全隊員の退避を訴える。
このままでは全員凍死してしまうとアラキ。
「医者としてとても責任は持てません」
「基地を見捨てることは地球を見捨てることと同じだ。我々は地球を守る義務がある。退却はできん」。
アラキの申し出を却下するヤマカオ。
一方ダンは基地の近くまで来ていた。
「基地に着けば、温かいコーヒーとスチームが俺を待っているぞ」。
しかしダンは力尽きて倒れてしまう。
その頃アンヌは基地内で寝てしまった隊員に対して起きるよう呼び掛けていた。
その呼びかけが聞こえたのか立ち上がるダン。
しかし再び倒れこんだダンに対して何者かが呼びかける。
「光の国が恋しいだろうね、ウルトラセブン。でも自業自得というものだ。M78星雲には冬がない。冷たい思いをするがいい。ウルトラセブン」。
「誰だお前は」。
「地球を凍らせるためにやってきたポール星人だ。我々はこれまでにも二度ばかり地球を氷詰めにしてやった。今度は三度目の氷河時代というわけだ」。
「地球上の生きとし生けるものが全て氷の中に閉じ込められてしまうのだ。ウルトラセブン。もちろんお前さんも一緒だ。ついでに言っておくが地球防衛軍とやらをまず手始めに凍らせてやった。あいつらがおると、何かと邪魔だからな。ハッハッハッハ」。
幻覚から覚めるダン。
「幻覚を利用して姿を現すとは。ポール星人め」。
基地が危ないとウルトラアイを取り出そうとするダン。
しかし胸ポケットにウルトラアイがない。
必死に探すダン。
その頃動力室では怪獣が姿を消したため作業が再開されていた。
基地内は零下140度に達していた。
「ウルトラセブン。お前の太陽エネルギーはあと5分もすれば空っぽになる。地球がお前の墓場になるのだ」。
再びダンに呼びかけるポール星人。
ウルトラアイを探すダンの近くに怪獣ガンダーが飛来した。
ミクラスを差し向けるダン。
しかし寒さに弱いミクラスはガンダーの攻撃に対して劣勢。
一方復旧作業を進める基地でもほとんどの隊員が倒れてしまい、動力室にも4人しか残っていなかった。
惨状を見て再びヤマオカに隊員の退避を訴えるアラキ。
「隊員がどうなってもいいと仰るんですか。全員ここで討ち死にしろと仰るんですか」。
「君には長官の気持ちがわからないのか」とキリヤマ。
「わかりません。いいえ、わかりたくありません。使命よりも人名です。人間一人の命は地球よりも重いって、隊長はいつも私たち隊員に」とアラキ。
「地球防衛軍の隊員も一個の人間。人間の命は何より大切だ」。
退避を決断するヤマオカ。
動力室で必死に復旧作業をするフルハシたち。
しかし遂に班長のムカイまで倒れてしまった。
そこへ遠くから地響きが聞こえてくる。
必死に戦うミクラスであったがガンダーの前に倒されてしまう。
ウルトラアイを発見するダン。
ダンはセブンに変身しエネルギー補充のため太陽の下へと急ぐ。
一方基地では遂にヤマオカまで倒れてしまった。
長官に代わり館内放送で基地からの退避を告げるキリヤマ。
一人復旧作業を続けるフルハシ。
フルハシの執念で遂に基地の電気が復旧する。
ガンダーを倒すためホークで出撃する隊員たち。
そこへエネルギーを補充したセブンが帰ってきた。
アイスラッガーでガンダーを切断するセブン。
それを見たポール星人は負けを認める。
「第三氷河時代は諦めることにする。しかし我々が敗北したのはセブン、君に対してではない。地球人の忍耐だ。人間の持つ使命感だ」とポール星人。
セブンはこの戦いの影響でエネルギーの上限が低くなり、活動時間が制約されることになった。
セブンに弱点を作ったことに満足して去っていく星人。
空は急速に晴れ渡り、セブンはダンの姿に戻りミクラスを回収する。
歩いて基地へ向かうダン。

解説(建前)

ポール星人とは何者か。
ポール星人はかつて二度地球を氷河時代にしたという。
これは本当だろうか?
普通に考えて地球全体を氷漬けにするなんて、簡単にできるわけがない。
やはりオリオン星人同様、ホラ話だろうか?
ただ、ポール星人は現実に基地周辺を零下140度まであっという間に下げた。
ポール星人に気象を操る能力があるのは確かであろう。
一応ポール星人の言い分を信じて、彼らが氷河期を作り出したということにする。

ではポール星人が実際に地球を氷河期にしたとして、その目的は何か?
まず考えられるのが地球侵略目的だが、ポール星人は自ら地球を氷漬けにするのをやめて去っていったことからその可能性は低いであろう。
侵略目的ならそれくらいで諦めるのはおかしいし、そもそも二度の氷河時代に地球を侵略せず去っていることから今回も侵略ではないと考えるのが自然。
では何のためにこんなことをしたのか?

ポール星人がまず攻撃対象にしたのは地球防衛軍。
地球防衛軍を何かと邪魔と言っていることからやはり侵略目的のようにも見える。
ただ、これは単に地球を氷河期にしてガンダーを暴れさせる上で邪魔という程度の話であろう。
あくまで手段の問題である。
ポール星人の話を聞いていると人間やセブンを苦しめて楽しんでるように見える。
では単なる愉快犯であろうか?

セブンに弱点を作って満足した点を見るとそうとも見えるが、ポール星人が負けを認めたのは地球人たちの忍耐や使命感である。
つまり、星人にとってそれは意外だった。
人間とはもっと自分勝手で情けない連中と思ってた。
ポール星人はそういう人間たちに定期的に罰と試練を与えていたのではないか?
地球人やセブンから見たら傍迷惑な話であるが、自分たちを秩序を守る人間と考えてた可能性もある。
客観的に見たら愉快犯の一種ではあるが、星人たちは大真面目に色んな星で天誅を加えていたのかもしれない。

セブンが寒さに弱いとはどういうことか?
セブンは地球より遥かに温度の低い宇宙を自由に飛行している。
寒さに弱いのなら矛盾するのではないか?
これは恐らくセブンのエネルギー消費とエネルギー蓄積能力の問題であろう。
セブンに限らずウルトラ兄弟は宇宙でエネルギー切れを起こすことはない。
逆に地球上では3分程度しか活動できない。
これは地球がウルトラ兄弟にとって極めてエネルギー消費が大きい環境であることを示しているであろう。

彼らが普段人間の姿をしているのはエネルギー消費の少ない人間体になり、その間充電池さながらエネルギーを貯めるためと考えられる。
一方宇宙では無駄なエネルギー消費がないのでエネルギーを体温を維持するために使用できる。
ゴルゴダ星のように急激に温度が下がるとそれも追いつかないが、通常の宇宙空間なら体温を維持しながら活動することも可能なのであろう。

では、ポール星人の言うセブンの活動時間が短くなったというのはどういうことであろうか。
これも充電池で考えるとわかりやすいであろう。
すなわちダンは極度の低音状態に置かれたためエネルギーを蓄積する機能が低下し、充電できる容量も小さくなってしまった。
地球の過酷な環境の中、戦い続けるセブン。
ダンのエネルギー蓄積能力も徐々に低下していたのであろう。
それを解決するにはやはりM78星雲に帰って体をメンテナンスするしかないのだ。

感想(本音)

大作。
大娯楽作。
そして地球を守るとは、人間の命とはというテーマも盛り込んだ傑作であろう。
まず驚かされるのは映像のリアルさ。
前話のウィンダムとの鬼ごっこは何だったんだというくらいお金のかけ方に差がある(笑)。
予算をほぼこちらに回したのであろうか?
ガンダーの操演も見事。
やっぱり力作は子供の頃見ても面白かった。
個人的にセブンは当たり回と外れ回の差が大きいが、文句なくこれは当たり回である。

冒頭、ポインターがエンストして歩いて基地に戻るダン。
零下112度であの服装は自殺行為としか。
まあ、設定上は警備隊の服は暑さにも寒さにも強いことになっているが、基地内では皆防寒着を来ていたようにそれも限界がある。
むしろあれで死なないのはダンがセブンだからとしか思えない。
寒さに弱いウルトラ一族でも人間よりは強いのであろう(笑)。
今回ソガはコメディリリーフ的な役回り。
ウルトラマンのイデ隊員を彷彿とさせるが、阿知波氏はこういう軽妙な芝居も上手い。

ウルトラシリーズでは定番の原子炉。
帰ってきたウルトラマンの最終回でも原子炉が破壊されていたが、放射能とかは大丈夫なのだろうか?
見てると今回は原子炉よりもその周りの配線の方に問題がありそうだが、いずれにせよ物騒な響きである。
まあ、ウルトラの世界での科学力なので、電源が失われたからといってあっさりメルトダウンするような代物ではないのであろう。
時代背景的にも原子力はアトムやドラえもんのように夢のエネルギーだった時代。
今の時代とは捉え方が違う。
ただ、原子力には当然負の側面もあるわけで、それは次話で描かれることになる。

ガンダーの冷凍ガスを直接浴びる隊員たち。
火炎放射器なんかで戦えると思えないのだが。
今回のドラマの肝はやはり地球防衛の使命と隊員の命。
隊員が死んだら地球防衛どころではないと思うのだが、基地がなければ地球防衛どころではないのも事実。
確かにジレンマではある。
と言って基地に残って隊員が全滅したらそれは基地を放棄したのに等しい。
最終的に退避の決断になったが、これは妥当な判断であろう。
旧日本軍なら玉砕の可能性もあるだけに、ヤマオカがまともな長官で良かったと思う。

今回ダンはひたすら警備隊と別行動。
ここにも別のドラマが展開される。
と言っても、解釈でも難渋したようにポール星人は何をしたいのかよくわからない宇宙人だった。
単に自分たちの大きな力をひけらかしたいだけにも見える。
不思議なスキャットと炎をバックに現れる星人。
演出的には神様風でもある。
ただ、言葉遣いが何故か変。
「お前さん」「地球防衛軍とやらを」「あいつらがおると」。
これを甲高い声でやられると、ふざけてるのか真面目なのかわからない。
しかしこんな大きな事ができる上に怪獣まで飛ばして、無駄に能力が高い。
最終的にはセブンのエネルギーの上限まで下げてしまうし、何気に最強レベルの敵であった。
ホラ話くさいオリオン星人とは比較にならないであろう(笑)。

相変わらずウルトラアイをよく落とすダン。
しかしカプセル怪獣だけは落としたことはない。
ウルトラアイは頻繁に使うため取り出しやすいところに入れてるのだろうが、もう少し管理しろよと思う。
また落としたときどこに落としたのかわからないのも問題。
今時のiphoneなら探知できるのに(雪の中だと電源落ちてるかもしれないけど)。

セブンが太陽の下へエネルギー補充に行くシーンはやはり新マンのベムスター編を思い出す。
どれだけ熱に強いんだというのは置いておいて、太陽の中でも平気なセブンはかっこいい。
今回はガンダーとミクラスの対戦シーンが長い。
この特撮も雪景色が見事。
研究読本によると、人間のシーンと特撮のシーンでは雪のサイズまで変えていたという。
いや、前話はなんだったんだというお金の使い方(笑)。

警備隊はミクラスには攻撃しないでガンダーだけを攻撃していた。
敵味方の見分けがつくのか、単にミクラスが倒れていたから無視したのか。
雪の中をホークが編隊で飛ぶのもかっこいい。
セブンとガンダーの戦いは一瞬で終わった。
切断されたガンダーの首はなかなかグロい。
最後の雪原を歩くダンのシーンは実際のロケとのこと。

本話の脚本は金城哲夫。
前話との予算の差は、駆け出しの市川森一、メインライターの金城哲夫の差もあったのだろう。
ストーリーとしてはある意味定番の極寒もの。
それをスケールの大きな映像で見事に描き切った。
監督は満田かずほ。
このコンビは「ウルトラ警備隊西へ」と同じ、セブンにおける保守本流だろう。
「北へ還れ」も満田氏だったので、意図的な予算使い分けかもしれない(しつこいw)。

セブンは予算の関係か、なかなか苦しい脚本も多いが、本話は前後編にしてもいいくらい気合が入っている。
前後編なら人間側の英知で逆転するシナリオもありだろうが、本話はそうはならなかった。
人間の使命感や忍耐に敗北して去っていく宇宙人と言うと、メフィラス星人と少し被る。
彼らの真意はよくわからないが、人間の心に挑戦するという敵。
単純な侵略ものではない話をこの中盤に入れてきたというのは番組としてのセブンが軌道に乗ってきた証でもあろう。
個人的にもセブンは漸く停滞期を脱してきたかなという印象だ。

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