緑の恐怖


データ

脚本は金城哲夫
監督は野長瀬三摩地

ストーリー

ある夜、巨大な隕石が民家の庭に着陸した。
翌朝それを見つけた女主人はお手伝いを呼びつけ「困るわ。あんな物庭に置いたりしちゃ」と注意する。
知りませんとお手伝い。
女主人は隕石を蹴ってみるが反応はない。
女主人はお手伝いに隕石を片付けるよう言い残し、ロケットで帰還する夫の地球防衛隊員、石黒を迎えに車で出かけて行った。
その直後、お手伝いは郵便局員から一つの郵便小包を受け取る。
その頃警備隊の基地では帰還した石黒を隊員たちが迎えていた。
1週間の休暇をもらった石黒。
「せいぜいかわいい奥さんと地球のバカンスをエンジョイしてくれ」とキリヤマ。
迎えに来るはずの奥さんが来ないことからポインターで石黒を自宅まで送るよう指示されるダン。
そこへ石黒の妻が到着した。
車がエンコして遅れてしまったと妻。
「そんなこともあろうかと思ってポインターを用意してもらったよ」と石黒。
石黒夫妻を家まで送り届けるダンとアンヌ。
お茶でも飲んでいかないかという石黒の誘いを勤務中だと断るダン。
庭に置いてある巨大な隕石を見つけ、それを見つめる石黒。
妻がお手伝いにどうして隕石を片付けなかったのかと聞くと、警察官が来たが重くて持って行けなかったと答える。
隕石に気づいたダンは隕石を透視しようとする。
「おかしいぞ。透視できない。待てよ。この物質はどこかで見たことがある。そうだ。チルソナイト808。確かワイアール星から産出される金属だ。地球には存在しないはずのチルソナイト808がなぜこんなところに」。
その夜、石黒の妻が置いて行った車を石黒邸まで届けに来たダンとアンヌ。
ダンはまだ隕石があることを訝しく思う。
「警察は一体どうしたんだろう。多分普通の金属だと思って気にも留めてないのだ。しかしこのままほおっておくわけにはいかん」。
家を出てきた石黒の妻は2人にお礼を言い、車をガレージに移動させた。
挨拶をして帰る2人。
お手伝いは石黒の妻に石黒宛に届いた小包を渡す。
石黒の部屋にその小包を届ける妻。
石黒は明日までに書類を長官に提出しなければならないとタイプに向かって作業をしていた。
小包を受け取った石黒は妻を先に休むように部屋から追い出すと、ドアに鍵を掛け小包の封を開けた。
中からは庭にあるのと同様の小型の隕石が。
それを机にしまう石黒。
隕石が発光し始めると苦しむ石黒。
石黒はみるみるうちに植物の姿に変身した。
植物は窓から這い出すと邸の外へと抜け出し通行人に襲い掛かる。
襲われた通行人は植物の液体を浴びせられ瀕死の重傷を負う。
歩いて帰路についていたダンとアンヌはその悲鳴を聞き駆けつけた。
ポインターを迎えに寄越すようアマギに連絡するダン。
メディカルセンターに運び込まれた男は急に苦しみだすと、植物に変身した。
植物を撃とうとするソガを制止するアンヌ。
植物の写真を撮るアマギ。
「ダン。パラライザー」とアンヌ。
ダンからパラライザーを受け取ったアンヌはそれを植物に向かって放射。
倒れこむ植物。
「なぜ撃ったんだ」とソガとアマギ。
「大丈夫。神経を麻痺させて動きを止めたの」とアンヌ。
次の夜も同様な事件が発生。
被害者は搬送する救急車の中で変身し運転手を襲った。
運転を誤り転落する救急車。
その頃石黒邸では妻が石黒の部屋に紅茶を持ってきたが、ドアに鍵が掛かっており中へ入れなかった。
ドアを叩いて石黒を呼ぶ妻。
一方窓から這い戻って来た植物は石黒の服の中に潜り込み、石黒の姿に戻る。
漸くドアを開ける石黒。
「宇宙ステーションの習慣でね、つい部屋には鍵を掛けてしまうんだよ」と石黒。
「ここはあなたの家なのよ」と妻。
3日で十数人の被害者が出ていると警察から連絡が入ったとタケナカ。
「しかも恐るべきことには、それらがみんな怪物化し、人間に襲い掛かるのだ。襲われたものはさらに怪物化し、次の人間を襲う」とタケナカ。
「ネズミ算式で増えていくわけですね」とキリヤマ。
「このままいけば、数か月後には地球上の全人類が怪物化してしまう」とタケナカ。
学者の説では植物人間は宇宙の生物らしいとタケナカ。
「これは明らかに人類への挑戦か、侵略である」。
「これ以上被害者は出せん。市民の夜間外出を禁止しよう」。
隊員たちに命令を出すキリヤマ。
そこへダンが入ってきた。
「隊長。例のものをお持ちしました」。
作戦室へ移動すると巨大な隕石が。
「なんだろう、この物質は」とタケナカ。
「未知の金属です」とダン。
科学班に分析させるよう指示するタケナカ。
夜間外出令で獲物をなくしたワイアール星人は無人の街から血に飢えて石黒邸へ戻って来た。
窓の外にワイアール星人の姿を目撃し夫を呼ぶ石黒の妻。
そこへ来たお手伝いも星人の姿を目撃する。
星人は姿を消し、そこへ石黒が駆けつける。
庭を確認する石黒。
「何もいないじゃないか」。
警察に連絡するというお手伝いを制止する石黒。
「地球防衛軍の隊員の家が襲われたなんて物笑いになるだけだ」。
しかしというお手伝いに対して
「彼の言うとおりにして」と妻。
石黒は妻に、東京は物騒なので明日の朝箱根の別荘に行こうと誘う。
一方警備隊は巨大な隕石をのこぎりで切断しようとするが傷一つつけられなかった。
そこへお手伝いからダンに連絡が入った。
すぐ石黒邸に向かうダンとアンヌ。
「机の引き出しの中から変な音が聞こえてくる」とお手伝い。
ダンが引き出しを開けると例の隕石が出てきた。
ハンマーを借り隕石を割ろうとするダン。
「そんなことをしても大丈夫なの」とアンヌ。
ダンがハンマーで隕石を叩くと隕石に穴が開いた。
と同時に基地にある隕石にも穴が開く。
そしてその中には本物の石黒隊員が。
ダンは隕石の中から発信機付の電子頭脳を発見する。
アマギから巨大な隕石の中から石黒が出てきたと連絡を受け驚くダン。
「嘘ですよ。旦那様は奥様とご一緒に箱根行の電車の中です」とお手伝い。
その頃電車で妻と一緒に箱根へ向かう石黒の体に異変が。
我慢できなくなりワイアール星人に変身する石黒。
それに気づき叫び声をあげる妻。
電車内はパニックになる。
トンネルに入ったところで、それに気づいた運転士は驚いて急ブレーキをかける。
脱出する乗客たち。
現場に来ていたダンとアンヌはそれを見てトンネルに向かう。
電車の中で逃げ遅れた石黒の妻を見つけるダン。
ウルトラガンを星人に放ち石黒の妻を助けだす。
巨大化する星人。
一人逃げ遅れた老人を見つけたダンは再びトンネル内へ。
セブンに変身するダン。
星人の光線を浴びるセブン。
組み敷かれるセブン。
星人を振りほどいたセブンはアイスラッガーで星人を切断。
最後はエメリウム光線で爆破する。
隊長たちが本物の石黒隊員を連れて現場に到着した。
石黒の姿を見て驚く妻。
しかし本物と知って石黒に抱き着く。
抱擁する二人。
「しかし敵はどうやって石黒隊員に化けたんでしょうね」とソガ。
「あの鉛色のマシーンですよ。あれに石黒隊員を閉じ込めておいて電送に似た方法で石黒隊員の姿を借りたんです。そしてこの電子頭脳で行動をコントロールしていたんです」とダン。
そこへ本部から被害者のすべては人間に復活したと連絡が入る。
ポインターで箱根まで石黒夫妻を送っていくダンとアンヌ。

解説(建前)

ワイアール星人は完全に石黒隊員に成りすましていたが、如何なる方法を用いたのだろうか。
宇宙で石黒を捕獲した星人は石黒を隕石に閉じ込め石黒邸へ着陸させた。
石黒の脳内を読み取って石黒邸を突き止めたのであろう。
石黒を閉じ込めた隕石からは石黒の脳内データを電送して、偽の石黒隊員が本物らしく振る舞えるようにした。
石黒邸の庭に隕石を置いたのもできるだけ近い場所からデータを電送するためであろう。
また、星人は小包を受け取る前から完璧に石黒を演じており、データはおそらく星人の脳に直接届くようになっていたと思われる。

では、小包に入った隕石はなんだったのか。
偽の石黒は小包を開封した後星人の姿に戻って市民を襲った。
このことから考えると、小さな隕石は星人の姿に戻るために必要だったと解釈できる。
すなわち、普段は大きな隕石の中に入った本物の石黒のデータの制御が強く、星人は植物の姿に戻ることはできないが、小さな隕石が発光したときはそのデータの制御を脱して植物の姿に戻ることができる。
最後、電車の中で星人が植物の姿に戻ったのは、本物の石黒が助けられたからであろう。

ダンが小さな隕石を破壊したとき、大きな隕石も破壊されたのはなぜか。
前述したように、偽の石黒に植物に変身して街を襲うよう指示していたのは小さな隕石と思われる。
おそらく小さな隕石から大きな隕石に石黒のデータを送るよう指示が出ていたのであろう。
そしてダンが小さな隕石を破壊したとき仕様なのか誤作動なのかはわからないが、大きな隕石のロックが解けるよう指示が出た。
その結果大きな隕石も破壊されたのである。

偽の石黒が妻を箱根に連れて行ったのはなぜか。
これは単純に都内では警戒が厳しいから妻を利用して箱根で人を襲うつもりだったのであろう。
この作戦についてもやはり小さな隕石から発せられたと思われる。
小さな隕石を持っていかなかったのは、箱根なら十分電波が届く範囲だったためであろう。

それではそもそもこの小さな隕石は誰が送ったものなのだろうか。
小さな隕石は石黒が地球に帰還する前には郵便に投函されていた。
おそらく大きな隕石を石黒邸に送り込んだのと同時刻に郵便ポストに投函されていた。
郵便ポストなどの地球の習慣は石黒隊員の脳内から探り出したのであろう。

そしてここからは推論だが、ワイアール星人には偽の石黒に化けていた者以外の仲間がいた可能性が高い。
偽石黒の本来の姿は植物の怪獣だった。
石黒に変身して本人らしく振る舞うなど一見高度な知能を持つように思われるが、これも隕石からの指示のおかげと考えると実は星人自体はあまり知能は高くないのではないか。
そもそも星人が地球に来て人間を植物に変えて行く作戦自体がよくわからないので、第三者が星人を送り込んだと考える方が素直である。

では星人を地球に送り込んだ者の狙いは何か。
これもやはりワイアール星人の植物としての特性を熟知したものが地球侵略のために星人を送り込んだと考えるのが素直であろう。
そいつはあるいはワイアール星人を食物にしてたのかもしれないが、いずれにせよ人類をワイアール星人に変えてしまって自分たちの奴隷にしようとした。
このように考えると、第二、第三の星人が送り込まれる可能性も否定できないだろう。

星人が倒されたとき、他の被害者が人間の姿に戻ったのはなぜか。
これは星人が倒されたことと直接は関係ないと考えるのが妥当であろう。
もしかすると石黒の閉じ込められていた隕石の中に何らかのヒントがあったのかもしれないが、普通に被害者の体から種子なり胞子なりを除去する手段が見つかったと考えれば問題ない。
因みに星人が巨大化したのはウルトラガンを浴びたことにより成長が促進されたと考えるのが素直であろう。

感想(本音)

ホラーとしてなかなか面白い話なのだが、解釈に苦労したように整合性をつけるのがなかなか厄介な話であった。
思わせぶりなギミックが多い割にご都合主義な展開であったのがその原因と思われる。
しかも、これはウルトラである以上仕方ないのだが、最後のセブン対星人が蛇足にすら思えてしまう。
よく「ウルトラセブン」はセブンが登場しなければ名作なんて揶揄されるが、ドラマとしてのち密な運びとは対照的な大味な仕掛けとの矛盾は本話でも感じられる。

本話を見て真っ先に思い出したのが「遊星からの物体X」。
まあ、当時はまだ「遊星からの物体X」は制作されていないのだが、その原作は「遊星よりの物体X」として映画化されるなど有名だったので、やはりその影響はあったのではないか。
物体が植物である点、全人類を同化するという点、類似性を感じさせる。
まあ吸血鬼ゴケミドロやマタンゴなどSFにはよくある設定なので断定はできないが、YR星人というネーミングからはやはり物体Xに対する意識が感じられる。
因みにShoryuさんによると、YRはYouRyokuso(葉緑素)からきているとのこと。

本話では早くもダンとアンヌがコンビで行動している。
普通新米隊員にはベテランをつけると思うが、なぜ女性のアンヌなのだろう。
まあ、制作サイドの都合というのは置いておいて(笑)、単に2人が警備隊の中では若輩なので今回のような事件性の低い段階では使い走りにされているだけと考えるのが素直であろう。
結局この2人が関わったちょっとした事件が大きな事件へと発展するのであるが、それは主役とヒロインという作劇上のセオリーなので気にしてはいけない。

今回はアンヌの冷静な行動が印象に残った。
特にパラライザーで植物化した大村千吉氏を麻痺させる場面はアンヌの優秀さをアピールしている。
また、隕石を壊そうとするダンに対しても「そんなことしていいの」と冷静に質問している。
アンヌはアマギとともに学究肌の人なので、このようなセリフにつながるのであろう。
女性隊員でありながら通信員ではなく医者であるアンヌの個性をうまく描写していると思う。
ところで今回フルハシがいなかったのはなぜ?

今回もダンは特殊能力を発揮して隕石を透視しようとする。
また、隕石がチルソナイト808であることも見抜いていた。
この辺りの設定は後のウルトラマンレオでも踏襲されている。
ただワイアール星人についてはさすがのダンも知識がなかったようである。
ウルトラマンレオではほとんどの宇宙人や怪獣を知っていたことから、宇宙警備隊員に採用されてから猛勉強したのであろうか。

今回は石黒隊員の奥さんがかわいい。
しかし久しぶりに宇宙から帰ってきた石黒隊員に相手してもらえない奥さんは気の毒。
まあ、相手してもらって植物の子供ができたらホラーすぎるけど(笑)。
しかしキリヤマ隊長も「かわいい奥さんと地球のバカンスをエンジョイ」って。
当時から「エンジョイ」なんて日常会話で使っていたのだろうか。
石黒隊員が植物になるシーンは完全にホラー。
子供のころこの話を見て怖かった記憶がある。

ワイアール星人の姿を見て電車を止める運転士。
しかしトンネルの中で電車を降りるのはかなり危険だと思うぞ。
実際のロケはどのようにして撮影したのだろうか。
ウルトラセブン研究読本に書いてあったのだが、最後石黒夫妻が抱き合うシーンでスタッフが映り込んでしまっている。
本放送で気づく人はかなりの注意力だと思われるが、ちょっと心霊写真に見えなくもなく不気味(笑)。
セブンとワイアール星人の格闘中、セブンがバランスを崩して後転してるように見えたがどうなんだろう。
格闘自体はアイスラッガーからエメリウム光線となかなか贅沢な流れであった。

今回の脚本は一話に引き続きメインライターである金城哲夫。
金城氏にしては珍しいミステリータッチの話であるが、この辺りはセブンで対象年齢を上げたのを意識したのであろう。
ただ、石黒宛の隕石が郵便で送られてくるなど(まさに郵政からの物体X・笑)、ちょっとミステリーに舵を切りすぎた感もあった。
あの局員もどことなく怪しかったし。
また前述したように、ちょっと解釈に苦しむ場面も多い。
この辺りはやはりミステリーというのは金城氏の得意分野ではないことを伺わせる。

ただ、第一話に引き続き宇宙人の侵略作戦と警備隊の戦いが地味に描かれてる点、セブンの特徴がよく出ている。
子供に受けるのは次回のエレキングが暴れる「湖のひみつ」であろうが、この話を2話に持って来たところにセブンの方向性が表れているといえるだろう。
正直、今回見るまで内容を忘れてるくらい地味な話だったのだが、ミステリーとしてはなかなかよくできている。
石黒隊員を死なせないために隕石に閉じ込めるなど少々強引な展開にはなったものの、単なる子供向けにはしないという制作側の意気込みは感じられた。
設定紹介編だった第一話に比べて、よりセブンのコンセプトが打ち出された作品である。

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