ウルトラ警備隊西へ(後編)


データ

脚本は金城哲夫
監督は満田かずほ

ストーリー

キングジョーの攻撃を受け朦朧とするセブン。
セブンはセンターを破壊せんとするキングジョーの脚をすくってキングジョーを転倒させた。
立ち上がれなくなったキングジョーは再び分離してそのまま飛び去る。
「素晴らしいメカニズムだ」。
感心する土田。
「感心してる場合じゃありませんよ。ドロシーアンダーソンはペダン星人のスパイだったんです」とフルハシ。
驚く土田。
「ペダン星人に関する資料は全部彼女が持ってるんだ。我々が敵のロボット一つ倒すこともできないのに。もし今挑戦されてきたら、手も足も出ない」と土田。
「しかし隊長。会議は中止と決まったわけですから、ペダン星人はもう地球には用がないはずじゃ」とアマギ。
「そうじゃない」。
ダンが突然現れた。
「ダン。何処にいたの?」とアンヌ。
「敵は地球を徹底的にやっつけるまで攻撃を繰り返すと思う」とダン。
「なぜだ」とアマギ。
「ペダン星人は人間がいつか自分たちの星を侵略すると信じ込んでいるからだ」とダン。
「それは誤解だ」。
「そんな言い訳は彼らには通用しないよ」とダン。
「よし。こうなったら徹底的に戦うだけだ」とキリヤマ。
キリヤマは隊員たちにスパイが入り込まないよう厳重に監視するよう指示。
また土田にはロボット攻略の研究、諜報員の男には本物のドロシーを探すよう指示する。
フルハシはホークで空から、アマギは登山家に扮して山を、ソガは船長に扮して港を、アンヌは車で都内を監視。
一方ダンは観光客に扮して展望タワーから地上を監視。
すると波止場を歩くドロシーらしき女を発見する。
急いでタワーを降り会いに行くダン。
それはドロシーに扮したペダン星人だった。
「さすがはペダン星人だ。我々をまんまと罠に陥れるとは」とダン。
「ウルトラ警備隊に宇宙人がいるとは知らなかったわ。ウルトラセブン。どう?私たちの味方にならない?地球はいずれ私たちの物だわ。その方が身のためよ」とドロシー。
「断る。僕は地球の平和を守るために働くんだ」。
「地球が平和なら、他の星はどうなってもいいというの?」
「地球人はペダン星を侵略するつもりはないんだ。あのロケットは単なる観測ロケットだったんだ」。
「観測?如何にも立派な名目だわ。でも、何のための観測なの?それはいずれ自分たちが利用するためにやっていること。その手には乗らないわ」。
「そうじゃない。我々地球防衛軍の本当の目的は宇宙全体の平和なのだ」。
「そう考えてるのはウルトラセブン。あなただけよ」。
「なに?」
「人間は狡くて欲張りでとんだ食わせ物だわ。その証拠に防衛センターではペダン星人を攻撃するために密かに武器を作っている」。
「それはお前たちが地球の平和を乱すからだ」。
「それはこっちの言うことよ。他人の家を覗いたり、石を投げたりするのはルールに反することだわ」。
「なるほど。地球人も確かに悪かった。こうしよう。僕は今度の事件を平和に解決したい。ウルトラ警備隊はペダン星人と戦うための武器の研究を中止する。その代り、ペダン星人も地球から退却して欲しい」。
「宇宙人同士の約束ね」。
「そうだ」。
「わかったわ。あなたを信じることにする。私たちの誠意の印として、本物の私、つまりドロシーアンダーソンを返すわ」。
防衛センターに帰ったダンはキリヤマに研究を中止するよう進言する。
偽ドロシーと約束したというダンに対し、「あんなスパイの言うことが信じられるか」とフルハシ。
「本当です。宇宙人同士。いや、地球人とペダン星人の約束としてそのことを協議してきたんです」とダン。
「もし本当なら最高にいいわ。私たちが欲しいのは平和なんですもの」というアンヌに対し、「その言葉が真実ならな」とアマギ。
「まず相手を信じることです。そうでなければ人間は永遠に平和を掴むことなんかできっこないんだ」とダン。
そこへ諜報員の男が本物のドロシーを連れて入ってきた。
「ペダン星人が約束を守った。ダンの言うことが本当です」と男。
一方ペダン星人はこの機に乗じて一気に地球を侵略する算段だった。
「こんな美しい星は初めて見た。必ず手に入れてみせるぞ」と星人の首領。
第八銀河系の彼方から地球へ向けて飛び立つペダン星の宇宙戦闘機。
防衛センターではダンの説得に応じて土田が研究中止を決断する。
しかしその直後アンヌが部屋に入ってきた。
ペダン星人によりドロシーの記憶が全て消されているとダンに告げるアンヌ。
「ペダン星人の誠意とやらも、怪しいもんだね。え、ダンくん」と土田。
研究を続ける土田。
宇宙戦闘機の襲来をキャッチしたV3から連絡が入る。
「裏切ったなペダン星人め」とダン。
さらに神戸港に再びキングジョーが出現。
衝撃で展望タワーのエレベーターが停止して中に人が閉じ込められてしまった。
それを聞いたアマギとダン。
アマギがエレベーターの人を助けに向かう。
タンカーを持ち上げ投げつけるキングジョー。
大破するタンカー。
ホークで応戦するフルハシ、ソガ。
しかし全く歯が立たない。
キングジョーを食い止めるためセブンに変身するダン。
しかしキングジョーの圧倒的パワーに再び苦戦を強いられる。
一方アマギはエレベーターを修復して閉じ込められた人たちを救出した。
センターでは懸命の開発が続く。
「ドロシーアンダーソンの協力がどうしても必要です」と土田。
「我々の武器では到底あのロボットを破壊することはできません。ドロシーアンダーソンなら何か掴んでるかもしれない」。
アンヌの治療により漸くドロシーの記憶が元に戻った。
「ペダン星人が使っている特殊な金属は、ライトンR30を使用した弾丸で破壊できるはずです」とドロシー。
2人の努力でライトンR30爆弾が遂に完成。
爆弾を持ち急いで港へ向かうキリヤマたち。
港ではセブンとキングジョーの死闘が続いていた。
出来るだけ至近距離で弾丸を撃つためセブンとキングジョーに接近するソガ、フルハシ。
的にしやすいように、キングジョーを後ろから羽交い絞めにするセブン。
そこへライトンR30が発射された。
弾丸を撃ち込まれたキングジョーはそのまま倒れて爆発。
すると中からペダン星人の円盤が出てきた。
逃げようとする円盤にワイドショットを浴びせるセブン。
爆破炎上する円盤。
宇宙船もそのまま引き返した。
「今度のペダン星の事件は私たち地球も責任があります。これから観測ロケットを打ち上げるときには、十分注意しなければ」とドロシー。
頷くキリヤマ。
「おーい!」
そこへダンが帰ってくる。

解説(建前)

ドロシーは何故ライトンR30がキングジョーに効くとわかったのか。
これはやはりワシントン基地が打ち上げた観測ロケットが採取したデータによるのであろう。
観測ロケットはペダン星の大気の成分や鉱物等を採取してそのデータを地球へ送った。
そこからキングジョーの組成を推定し弱点を割り出したのである。

しかし同じデータはワシントン基地にあるはず。
そのデータを日本に送ってもらうなりすればよかったのではないか?
この辺りは管轄の問題か、ワシントン基地的に出せないデータを持っていたか、何らかの理由で秘密にされたのであろう。
ドロシーもライトンR30が効くとだけしか言っておらず、ペダン星やキングジョーに関するデータは軽々には出せないようである。

ペダン星人がドロシーを殺さなかったのはなぜか。
これはやはり取引の材料としてまだ利用価値があると判断したのであろう。
ペダン星の本隊が来るにはまだ時間があった。
本隊が到着するまで時間稼ぎをする必要があったのである。
ただ、アンヌの活躍によりあっさりドロシーの記憶が戻ってしまった。
これはペダン星人側としては大誤算であったと考えられる。

感想(本音)

偽ドロシーに論破されるモロボシダン。
ペダン星人の言うことが一見正論なだけに一筋縄ではいかないエピソードとなっている。
ただ、よく聞くとペダン星人側の言ってることは単なる巧言で結局ダンが騙されただけ。
論者によっては国家間の騙し合いに翻弄されるダンと金城氏を重ねるなど深読みする者もいるが、さすがにそこまでこじつけるのは無理があろう。
それはともかく、地球側に問題があったのも確かであるので、科学のあり方に一石を投じるエピソードなのは間違いあるまい。

前回の引きで大ピンチだったセブンだが、意外とあっさり敵は退散した。
仰向けに倒れたら立ち上がれないのはさすがに欠陥品では(笑)。
この辺りはストーリーの都合ということだろうが、素晴らしいメカニズムにしては詰めが甘い。
しかし前編でも触れたが、結局セブンはキングジョーに敵わなかった。
せいぜい時間稼ぎと警備隊が弾丸を打ち損じないよう動きを止める程度。
キングジョーの動きはあのゼットンを彷彿とさせるが、最後に人間の発明した兵器で倒されるところもゼットンと同じだった。
しかし、星を破壊できる人間の科学力だったらキングジョーくらい破壊できそうなものなのだが、この辺りはやはり核に伴う放射能の問題であろうか。
まあ、強力な兵器は基本1回きりというウルトラの伝統があるので、この辺りは作劇上の都合ということでスルーしておこう(笑)。

今回は警備隊員のコスプレが見られる。
正直あまり意味はないと思うのだが、この辺りは監督のお遊びであろう。
特にアンヌはウィッグまでつけてちょっとしたモデルさんのような格好だった。
アンヌを長髪にするのは満田監督の趣味のようだが、アンヌを干す一方でヒロインであることを強調するところは、やはり監督にとってアンヌはお気に入りなのだろう。
初代マンのフジ隊員も実相寺回では目立っていたが(セブンではゲスト出演さえしている)、こちらも監督のお気に入りなのだろうな。
あくまで子供向けと割り切って撮ってる監督と違い、単なる趣味かもしれないが、将来大人になる子供たち向けのシーンを盛り込んだ両監督には拍手。
まあ、要はアンヌがとてもかわいかったということだが(笑)。

本話のポイントはやはりダンと偽ドロシーことペダン星人のやり取りに尽きるであろう。
まずペダン星人の「地球人がペダン星を侵略するためにロケットを打ちこんだ」という主張はどうであろうか。
逆の立場で考えれば、宇宙から地球に偵察ロケットが飛んできて「侵略の意図はない」と言われてもおいそれとは信じるわけには行かないだろう。
それ相応の対策を立てるのはむしろ当然である。
侵略される前に核を撃ちこむという選択肢もあり得るだろう。
ただ、実際問題としては核らしきものの発射が認められれば相手も核を撃つ可能性があるので、やはり相手の戦力を調べるのが常套である。
そういう意味では偵察部隊を送り込んできたペダン星人の行動は至極合理的といえよう。

ではペダン星人が防衛会議を妨害するためにキングジョーを送り込んで来た点はどうであろうか。
まず地球側が防衛会議を開くのは、ペダン星から宣戦布告されているのだからむしろ当然である。
そしてその会議をペダン側が妨害するのも合理的であろう。
ただ、これはもはや既に戦争が勃発している状態ではなかろうか。
もちろん先に仕掛けて来たのはペダン星側。
地球は偵察ロケットを送り込んだだけであるし、しかもそれは無人の星だと思っていたのであるから。

こう見ると、さすがにペダン側の言い分に理があるとは思えない。
実際の世界に置き換えるとあたかもペダン側の言い分に理があるように思えなくもないが、それは国同士での話。
日本が無人島に観測ロケットを送り込んだらたまたま原住民がいたという場合を想定しても、他人の家を覗いたり、石を投げたりしたとまでは言えまい。
ましてそれを言い分に武力行使されれば防衛するのが当然である。
やはりペダン側の言ってることは単なる詭弁に過ぎない。
結局、宇宙人同士の仲裁者たらんとするダンの甘さが露呈したということであろう。

では、本話のテーマはダンの理想主義の敗北という点にあるのであろうか。
すなわち、お花畑の理想では人の命は守れない。
国同士の関係なんてお互いの利害が衝突するリアリスティックな関係でしかないということが言いたいのであろうか。
ペダン星人が結局利己的な理由で地球侵略を企てた点からはそう解釈するしかないようにも思える。
しかしダンの言った「まず相手を信じることです。そうでなければ人間は永遠に平和を掴むことなんかできっこないんだ」というセリフもまた真実であろう。
ただ、お互いの信頼なんてそうそう簡単に醸成できるものでもない。
フルハシが言ったとおり、女スパイと宇宙人であるダンとの間の約束ごときで成立するものでもないのである。
人間同士、国同士の信頼の難しさ。
敢えて言えばそれがテーマとも言えようか。

もちろんドロシーの言うように、行き過ぎた科学開発による他者との衝突というテーマもあるだろうが、これはやや取ってつけた感は否めない。
読み方によっては、気を付けないと輩を刺激して大変なことになってしまうとも解釈できるし、そもそも他人のテリトリーを犯さずに開発するというのは当たり前のことなので、テーマとして掲げるほどのものでもないであろう。
現在の世界に当てはめても、偵察機が偶然文明を発見するというケースは考えにくい。
海底を探索したらノンマルトが住んでたとか、それはSFの世界だろう。
大航海時代のマゼランやコロンブスならいざ知らず。

本話の脚本は金城哲夫。
我々はどうしても本土と沖縄の懸け橋となろうとした金城の苦悩とダンの苦悩を重ねたくなるが、冷静にセブンにおける金城脚本を見ても、そういうテーマはあまり表には出ていないように思う。
せいぜい「ノンマルトの使者」くらいではなかろうか。
本話は前述したように先に攻めてきたペダン側の方が悪いし、地球人が武器を作るのは当然なのだから、基本的に善悪ははっきりしてる。
その点、一応お互いの利害が衝突していた「ダークゾーン」や一方的に人間が悪い「超兵器R1号」とは話が違うであろう。

因みに「ダークゾーン」と「超兵器R1号」の脚本は若槻文三。
もちろんメインライターのチェックが入っている以上、これらのエピソードに金城の思想が全く入ってないとは言わないが、人間と宇宙人の間で苦悩するダンという一般に浸透したイメージは主に他の脚本家によるものと見ることもできる。
そういう先入観を捨てれば本話も金城らしい娯楽大作。
子供の頃そうだったように、素直にペダン星人と地球人、セブンの攻防を楽しむのが吉であろう。

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