V3から来た男


データ

脚本は市川森一
監督は鈴木俊継

ストーリー

正体不明の宇宙船と戦闘状態に入る宇宙ステーションV3。
ステーションホークで迎え撃つV3だが、敵の宇宙船の前にホークは撃破された。
地球防衛隊のキリヤマにもその知らせが届く。
V3の隊長クラタはキリヤマと士官学校時代からの親友であった。
防衛網を突破した宇宙船は地上に潜入。
「あいつはきっと生きている。生きているに違いない」とキリヤマ。
ホーク1号でクラタのステーションホークを迎えに来たフルハシとアマギだったが、帰還途上敵の宇宙船の攻撃に遭い不時着。
また、クラタのステーションホークも攻撃を受け、クラタは辛くも脱出するも仲間を失ってしまう。
マナベ参謀に帰還の挨拶をするクラタ。
「また一人で戻りました。今度は月へでも放り出しますか」。
ダンに案内されてキリヤマと再会するクラタ。
「おう、モグラめ。元気か?」とクラタ。
「元気そうじゃないか」とキリヤマ。
握手する2人。
「俺と出迎えのパトロール機がやられた」とクラタ。
「それはホーク1号です」とソガ。
「不時着飛行で墜落していったから死んじゃおらんだろ。もっとも、アイロス星人に捕まったら最期だが」とクラタ。
秩父山中に燃料を切らした宇宙船がいるとクラタから聞かされ出動しようとするキリヤマ。
それを止めるクラタ。
「奴は俺に任せろ」。
しかしキリヤマは「地上の侵略者は警備隊の管轄だ」と制止する。
その頃アイロス星人はフルハシ、アマギのダミーを作り警備隊基地へ送り込もうとしていた。
固形燃料を奪ってくるよう指示する星人。
基地に戻って来た2人のダミーを迎える労うキリヤマたち。
「少し顔色が悪いようですね」。
不審がるダン。
そこへクラタが入ってきた。
「どうした。そんな幽霊でも見るような顔をして。まさかこの顔を忘れたわけじゃないだろう」とクラタ。
「覚えてます」とアマギ。
「2人とも疲れてるようだから、下がって休め」とキリヤマ。
「ひょっとしたらあいつら、不時着のショックで記憶喪失にかかってるんじゃないか」。
キリヤマに耳打ちするクラタ。
「確かに変だ。あの目は人間の目ではない」と思うダン。
一方二人のダミーは燃料室へと侵入していた。
後をつけるダン。
固形燃料に手を付けようとする2人。
「二人とも待て」。
それを制止するダン。
2人はすかさずウルトラガンをダンに向け発射。
応戦して2人を倒すダン。
「ダン、何をしてるんだ」。
キリヤマが警備員を引き連れて入ってきた。
「なぜ殺した」とキリヤマ。
「偽物です」とダン。
すると2人のダミーは蒸発して消えてしまう。
「燃料を奪いに来たんです。この分ではフルハシ隊員とアマギ隊員は」とダン。
「よし、燃料はやろう。その代りフルハシとアマギをすぐに返せと発信を」。
警備員に命令するキリヤマ。
「モロボシダン、やるな」。
そこへ奥からクラタが出てきた。
燃料室に先回りしていたクラタは一部始終を見ていたのだ。
アイロス星人との取引は成立したが、30分以内に燃料を届けないと隊員の命は保証しないという。
「攻撃しよう」とクラタ。
しかし「部下の命には代えられん」とキリヤマは交渉に応ずることにする。
「俺の復讐はどうなる。部下を皆殺しにされたんだぞ」。
「立場が逆ならどうする。部下を見殺しにするか」とキリヤマ。
「燃料を与えてみろ。犠牲者は二人じゃ済まなくなるぞ」。
「侵略はしないと言っている」。
「約束など守る相手じゃない」。
「攻撃するだけが、指揮官の務めでもあるまい」。
「なんだと」とクラタ。
「隊長、時間がありません」。
止めに入るダン。
ホーク3号に乗り、自ら敵地へ飛び立つキリヤマ。
落ち着かない様子のクラタ。
「クラタさん。何にしても我慢するのは体に悪いそうですよ」とソガ。
それを聞いたクラタは出動することにする。
キリヤマからの通信に異常なしと返事するソガ。
ホークの発着場に向かうクラタをマナベが待っていた。
発着場の鍵をクラタに渡すマナベ。
「キリヤマを守ってもらいたい。奴はいい友人を持って幸せだ」。
「ありがとうございます」。
礼を言うクラタ。
「ソガ隊員。クラタ隊長が出動しましたよ。僕たちはどうするんです」とダン。
「そろそろ出かけようか」とソガ。
2人も出動する。
敵宇宙船の上空に来たキリヤマは敵の指示に従い、固形燃料を落とす。
「部下を渡す。着陸せよ」。
星人の指示に従い降下するキリヤマ。
しかし敵は攻撃を仕掛けてきた。
急上昇して交わすキリヤマ。
そこへ追いついてきたクラタが後方から敵を爆撃して援護。
「キリヤマ。久しぶりで組んでやるか」。
「よし、よかろう」。
2機で組んで一斉に攻撃するキリヤマとクラタ。
敵も円盤を分離して反撃する。
そこへポインターでダンとソガもやってきた。
円盤を追うホーク。
すると宇宙船から何やら液体のようなものが入ったカプセルが外に置かれた。
地上から宇宙船を攻撃していたダンとソガはアマギとフルハシを救出しようと宇宙船に近づく。
しかしソガが攻撃を受け負傷してしまった。
ダンはソガを残しセブンに変身して宇宙船に乗り込む。
2人を助けるセブン。
宇宙船はさっきのカプセルを攻撃し、爆破とともに怪獣が現れた。
宇宙船を脱出したセブンは巨大化して怪獣と格闘。
口から光線を吐く怪獣。
光線を交わしてエメリウム光線を放つセブン。
しかし怪獣の翼に阻まれ、エメリウム光線が通用しない。
さらにアイスラッガーまでも怪獣の回転防御の前に弾き返されてしまった。
おもむろに腕を交差させるセブン。
敵の光線を交わしたセブンは腕から新必殺技ワイドショットを放ち怪獣を撃破した。
一方宇宙船を追うクラタ、キリヤマのホークも宇宙船を破壊する。
「クラタ、いい腕だ。まだまだ捨てたもんじゃないな」とキリヤマ。
「お前こそ。部下たちに見せてやりたかった」とクラタ。
ホーク2号で宇宙へ戻るクラタ。
「本部よりホーク2号へ。応答せよ」とキリヤマ。
「おう。こちらホーク2号。ホーク2号だ」。
「こちら、キリヤマだ」。
「キリヤマか。もう会えそうもないな」。
「クラタ。気を付けてな。命を粗末にするなよ」。
「おう。お前もな」とクラタ。

解説(建前)

セブンと戦った怪獣は何物か。
一般にはアイロス星人という名称になっているが、カプセルを破壊することにより登場したことから、宇宙人ではなく怪獣と解釈したい。
けだし、宇宙人にしては知性を感じさせるような発言や行動がないこと。
また、宇宙船は別行動を取っており、本来のアイロス星人はそちらにいると考えるのが妥当であるからである。
一応アイロス星に住む別種の宇宙人という解釈も成り立たなくはないが(所謂アイロス星人B)、行動が完全にアイロス星人のコントロール下にあることから、固有の人格を持った存在と考えるのは難しいであろう。
やはりカプセルに入っていたことから、生物兵器的な怪獣と考えるのが妥当である。

感想(本音)

解説を見てもわかるように、粗がほとんどないよく出来た脚本。
市川森一のウルトラシリーズ初脚本だが、ドラマもしっかり描けておりさすがというところ。
脚本段階ではもっと濃密な人間関係が描かれていたようではあるが、子供向け特撮としては適度なバランスに落ち着いたとも言えよう。
正直子供の頃見た記憶では、ドラマ部分よりアイロス星人の強さとワイドショットの方が印象深い作品ではあったし。
では以下感想を。

本話は何と言ってもクラタを演じた南廣氏のかっこよさに尽きるだろう。
氏がジャズのドラマーだったというのは有名な話であるが、我々団塊ジュニア世代にとってはやはりクラタ隊長及び梶キャプテン。
本来はマイティジャックが代表作になるのだろうが、私が子供の頃は視聴困難だったのでやはりセブンの印象が一番強い。
クラタ隊長は市川氏のお気に入りらしく「月世界の戦慄」でも再登場するが、金城脚本の最終回にも登場するなど結果的にセブンに欠かせないキャラとなった。
これも市川氏の人物造形と南氏の好演によるだろう。

一方本話はクラタとの関係を通してキリヤマの人間性にも焦点を当てている。
2人は士官学校時代からの親友という設定だが、士官学校というのが何とも軍隊軍隊していて、ウルトラ警備隊らしい(笑)。
部下を助けるためにアイロス星人との取引に応じるキリヤマ。
この辺りは正直難しい判断だと思うが、ウルトラ警備隊の戦力面を考えると簡単に2人を切り捨てられないのも事実であろう。
部下思いの温情家という一面は描けていた。

ただ、敵の誘導に引っかかるなど、クラタを引き立たせるためとはいえキリヤマの迂闊さが目立ったのは残念ではあった。
フルハシ、アマギのダミーも見破れなかったし。
また、自らが出撃したのもTACの竜隊長やMATの加藤隊長同様、指揮官としては問題ある行動であろう。
ただ時には指揮官たる者、部下のために命を掛けるのも必要であるから、偶になら許容できようか。
そういう熱くなりすぎるキリヤマを描いたことにより、キリヤマの人間味は伝わった。
キリヤマは決して「出動!」「攻撃!」を言うだけの存在ではないのである。

個人的に本話の注目ポイントはやけに冷静なソガ。
フルハシ、アマギが捕まるだけの役割だったのに対し、ソガはキリヤマに次ぐ副隊長的なポジションで描かれている。
やや冷静さを欠くキリヤマに対し、ソガは初めから出動するつもりだった。
ソガは端からアイロス星人を信じていなかったのであろう。
キリヤマがピンチに陥ることはわかっていたのでクラタを出動させ、自分たちもアマギたちを助けるために出動するつもりでいたのである。
しかし「そろそろ出かけようか」。
ソガってこんな軽いキャラだっけ?
結局あっけなく怪我してダン1人が円盤に乗り込むなど、ややコメディリリーフ的ではあった。

隊員といえば、一番気になるのはアンヌ。
のはずだが、正直あまり気にならなかった。
本話はダンですらあまり目立っていなかったため、アンヌが出てもそれほど見せ場はなかったと思われる。
一方代わりと言ってはなんだが目立っていたのがマナベ参謀。
脚本段階ではクラタとの因縁とかが描かれていたようであるが、本編では2人の会話は僅か。
しかし、その中でも因縁と信頼の両方を感じさせるシーンになっており、これは両者の演技力の賜物といえよう。

本話の注目は前述したがやはりワイドショットであろう。
唐突に繰り出すのはウルトラのお約束であるが、これをリアルで見てた子供たちは大興奮だったろうな。
そんな凄い技あるならもっと前に出しといてよというツッコミはさておき、アイスラッガーまで破るアイロス星人はリアルタイム世代ではない私ですら強豪という印象を持っている。
考えてみれば、ベムスターってこういうところも焼き直しなんだけど、あれはあれで違う面白さがあるのでよしとしよう。
同じ市川脚本だし。

話は戻ってアイロス星人だが、私の世代はあの怪獣がアイロス星人と刷り込まれているので、解説では怪獣兵器としたが、呼称はやはりアイロス星人とせざるを得ない。
そもそも宇宙船に乗ってる星人の姿が出てこないのだから、この怪獣をアイロス星人としないわけにはいかないであろう。
逆転の発想としては、ナックル星人の部下みたいに宇宙船に乗ってるのが別の宇宙人で怪獣の方が星人という可能性はあるが、さすがにナックル星人ほどの知性やリーダーシップをこの怪獣に感じることはできないので、その説は採用しずらい。
準備稿では怪獣とされていたようであるし、素直に怪獣と解するのが妥当であろう。

本話はマナベ、キリヤマ、クラタといういわば大人のサブキャラの友情と信頼を描くという、異色編になっている。
主人公がここまで目立たないのも、極めて異例といえるであろう。
この辺りはシリーズ初参戦の市川氏がメインキャラ、特にアンヌが活躍するような脚本を書ける立ち場になかったというのも大きいであろうが(本人はアンヌが活躍する話を書きたかったらしい)、途中参加のライターとして新しい風を吹き込む役目は十分果たしたのではないか。
そういう意味で成功作といえよう。

本話の問題を敢えて挙げれば、アイロス星人が何者かがほとんどわからない点である。
それがあの怪獣の呼称の問題をも引き起こしてるのであるが、逆に言うと怪獣をおまけにして隊員たちの人間ドラマにスポットを当てた最初の作品とも言えるであろう。
市川氏がそれをどこまで意識したかはわからないが、「ウルトラセブン研究読本」によると、市川氏はセブンの軍隊ドラマとしての可能性に意欲を燃やしていたとのことであるので、ある意味確信犯的に敵を描かなかった可能性が高い。
個人的にはこの辺りが本話の弱点で素直に傑作とまでは推せないところではあるのだが、後の人間ドラマ中心のウルトラの先駆けになった点は評価できるであろう。
本話は2期ウルトラのエポックとまでは言えないが、萌芽となった作品であることは間違いない。

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