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天国と地獄 島が動いた!
データ
脚本は石堂淑朗。
監督は筧正典。
ストーリー
ある満月の夜、船舶が大蟹怪獣に襲われ沈没する。
海上保安庁から5隻の船が消息を絶ったと連絡を受けたZATは、すぐに捜索に出動。
DS海域の上空を飛ぶホエールは、海域に船舶の姿が見当たらないのを不審に思う。
その頃光太郎は風邪をこじらせ家で休養していた。
光太郎は出動しようとするが、「風邪には安静が大事」とさおりに止められる。
DS海域上空のホエールは怪しい岩礁を発見。
岩礁に着陸して調査に入る。
岩の上に藻があるのを見て、最近隆起して海面に出てきたのではないかと荒垣。
この付近が怪しいと見た荒垣は暫くこの岩礁に留まることにする。
小休止して釣りをする北島。
南原は海に飛び込み、それを見た北島も海に入る。
2人は2本の岩に向かって競泳を始めた。
するとその岩が動き出す。
それを荒垣に報告する2人。
荒垣は2人に海から上がるように指示。
魚がいないことから近くに巨大な生物がいるのではと推測する3人。
3人は暖を取るために海藻で焚き火を始める。
海老や蟹のようないい匂いがすると3人。
すると海面に大きな泡が吹き出してきた。
夜に備えて3人は交代で寝起きして見張りをすることにする。
しかし当番のはずの北島が一緒に寝込んでしまった。
そこへ本部から連絡が入る。
「捜索海域から離れて何をしてるんだ」と隊長。
岩はいつの間にか八丈島に近づいていた。
急いで岩から脱出しようとする3人。
すると巨大なタコが海中から姿を現した。
同時に岩も動き出し、3人は思うように動けなくなる。
何とかホエールに乗り込んで脱出する3人。
岩礁は巨大な蟹の姿を現し大蛸怪獣と格闘を始める。
本部から連絡を受けた光太郎はコンドルで現場に向かった。
八丈島ではガンザがダカールを退け島へ上陸していた。
ホエールで攻撃するZAT。
そこへ光太郎がコンドルでやってくる。
波状攻撃を仕掛けるZAT。
埒が明かないZATは光太郎の提案で、蟹の弱点であるハサミの付け根を集中攻撃する。
蟹のはさみの付け根を攻撃するのに成功するホエール。
しかしホエールは怪獣の吐き出す泡を浴び墜落させられた。
さらにコンドルも泡を浴び光太郎は脱出する。
しかし脱出した光太郎は蟹の目に捕まってしまう。
そこから飛び降りる光太郎。
光太郎はタロウに変身してガンザと格闘する。
蟹の爪をもいだタロウだったが、爪は後から後から生えてきた。
さらに泡を浴び悶絶するタロウ。
タロウ危ない、タロウ溶けるな!
タロウは腕を交差すると光をリング状にして体の泡を払いのけた。
復活したタロウは蟹の腹を開く。
すると蟹は絶命し小さな蟹の群が現れた。
タロウは小さな蟹を特殊光線で巨大化できないようにする。
「勝った。しかし我々は東を失ってしまった」と荒垣。
そこへ光太郎が駆けつける。
光太郎は手に蟹を持っていた。
一月後、東京湾で蟹が無数に取れた。
それはタロウから子ども達へのささやかなプレゼントだったのだ。
解説(建前)
ガンザは何者か。
まず考えられるのは巨大な蟹型の怪獣。
ただそれだと死後急に姿を消したことの説明が難しい。
そこで私はガンザは普通の蟹が何らかの原因によって巨大化したものと考える。
なぜなら、ガンザの子どもたちである子蟹もタロウの光線を浴びなければ巨大化する可能性を秘めていたからだ。
ウルトラの世界では、怨念から人や動物が怪獣化したり巨大化したりする例は数多見られる。
巨大化のメカニズムは謎だが、ウルトラ一族に代表されるように、エネルギーが物質化するというのはこの世界では可能なのであろう。
ガンザも何らかの作用で巨大化した。
それは怨念エネルギーなのか、カオスヘッダーなのかわからないが、いずれにせよ元は普通の蟹なのだと思われる。
感想(本音)
タロウ初登場の石堂脚本。
いきなりこの話というのに、まず驚かされる。
とにかくストーリーは単純明快。
大蟹が暴れるので、ZATとタロウが怪獣を退治しに行くというもの。
しかも作戦らしい作戦も大してなく、荒垣たちは釣りまで始める始末。
とまあ、ここまで書くと批判してるようにも見えるかもしれないが、それでも何も問題を感じないのがこの話の凄さである。
細かい理屈も細かいドラマも取っ払って、単純に楽しめるストーリー。
ある意味タロウを象徴する話であろう。
今回の話、光太郎は比較的脇役である。
話の中心は、荒垣、北島、南原の3人。
この3人のコメディリリーフ振りがいかんなく発揮された、最初のエピソードといえるだろう。
ここまでZATは比較的コミカルに描かれてきた面があるが、調査中に釣りを始めたり海水浴をしたり、挙句の果てには眠り込んで岩ごと流されたり、さすがにここまで気の抜けた組織には描写されてこなかった。
これは当初の設定に沿ったというのもあるだろうが、やはり石堂氏特有のセンスが出たと考えるのが素直である。
すなわち石堂氏は帰りマン42話に代表されるように、防衛隊を比較的コミカルに描くことが多かった。
石堂氏はそもそも軍隊とか権威みたいなものは信じておらず、ウルトラマンですら平気でバラバラにしてしまう作家である。
そういう石堂氏にとっては、ZATが少々気が抜けてても何も問題ないのであろう。
それでは石堂氏がZATを小馬鹿にしてるかというと、本話を見る限りそのようニュアンスは感じられない。
逆に、釣りに勤しむ隊員たちには小市民的な親しみやすさすら覚えるであろう。
ウルトラマンタロウにおいて、ZATはあまり権威のある組織には描かれていない。
むしろ怪獣を倒せないことを子どもに馬鹿にされたり、非常に庶民に近い組織として描かれている。
上層部もトータス編を最後に出てこないし、非常にアットホームな組織といえるであろう。
そしてZATがそういう設定であるなら、石堂氏も権威に対するアンチテーゼとしてZATを小馬鹿にするような描写をする必要はなかった。
普通に考えたら不真面目と取られかねない行動すら持ち味に変えるのが、ZATという組織の新しさ、特異さである。
石堂氏もその点を弁え、ZATの魅力をそのまま引き出すことに意を配ったのではなかろうか。
今回はいきなり怪獣に船が破壊されるシーンから物語が始まる。
5隻もの船が沈没したのだから、さぞや人的被害は甚大であったろう。
そういうのにあまり拘らないのがお約束とは言え、さり気に結構酷いシーンである。
それでいて、最後は皆で蟹を食べて目出度し目出度しなんだから、冷静に考えると子供の頃は凄いのを見てたんだなあと改めて思う。
しかしダカールは結局どうなったんだろう。
1隻くらい船を沈めてても不思議ではないと思うが。
タロウが泡で溶かされそうになるシーンの、「タロウ危ない、タロウ溶けるな!」はなかなかシュール。
気持ちはわかるが、その励ましはあまり意味がないと思うぞ。
タロウは蟹に巨大化しないように光線を当てていたが、一体どういう光線を当てたのだろう。
ある種のお祓いみたいなものか?
光太郎は今回なぜか風邪を引いて休んでいた。
これはやはりスケジュールの都合か?
しかし最終的には戦闘にも加わっており、それほど影響はないように見えた。
単に白鳥家を出すためのものだったのだろうか?
今回はとにかく蟹怪獣の上でリラックスするZATという、所謂アイディア一発物の話になっている。
その意味では非常に石堂氏らしい脚本といえるであろう。
この話を見て、ZATの不真面目さに違和感を覚える人もいるかもしれない。
しかし前述したように、石堂氏の狙いは特にそういうところになかったように思われる。
もちろん、現場段階で修復された可能性もあるが、こういう描写を許容する懐の深さがZATにはある。
逆に言うと、その分脚本にパンチがなくなるというマイナス面もあるが、終始一貫した親しみやすさはZATならではといえるであろう。
本話はZATのイメージ、さらにはウルトラマンタロウという作品のイメージに大きく影響を与えたという点、重要なエピソードといえる。
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