親星子星一番星


データ
脚本は上原正三。
監督は吉野安雄。

ストーリー

真空渦巻きに巻き込まれたタロウに危機が迫っていた。
渦巻きから投げ出されるタロウ。
タロウは回転して地底に潜った。
2匹を攻撃するZAT。
2匹は岩陰に隠れていた残る二人の捕獲隊員を襲い、彼らを飲み込んだ。
復讐を遂げた2匹は大人しくなる。
卵が東京にあることからその付近で孵化を待つ2匹。
そこへさおりから差し入れのおにぎりが届く。
おにぎりの入ったバスケットを見て、バスケット作戦はどうかと隊長が提案。
そこへ鮫島参謀と地球警備隊極東支部のスミス長官が入ってきた。
亀怪獣をどうするのかと問われ、オロン島に帰すと隊長。
しかし長官は亀怪獣を殺すように指示する。
オロン島に怪獣がいると潜水艦や軍艦の航行に危険が及ぶとスミス。
2匹は第四桜丸を沈めウルトラマンタロウも倒している、大人しい動物ではないとスミス。
復讐を終えたとたんに大人しくなったと荒垣。
しかし卵から4匹生まれたら合計6匹になり、オロン島が亀だらけになるとスミス。
オロン島を亀の保護区にしてはどうかと光太郎は提案するが、怪獣を飼育することは出来ないとスミスに反論される。
結局スミスは、オロン島で亀怪獣の巻き起こす事件の全責任はZATにあると言い残し帰って行った。
隊長も全責任をZATが負うと参謀に約束する。
ZATはバスケット作戦を開始した。
卵をバスケットに入れ、咥えて持って帰るように促すZAT。
しかし子どもを危険に晒すのを嫌がる2匹は指示通り咥えて持って帰ろうとしない。
ZATはスカイホエールでバスケットを運ぶことにし、2匹もそれに従ってオロン島に帰還する。
オロン島に帰ってくつろぐ2匹。
しかしそこには連合艦隊が待ち構えていた。
ミサイルで総攻撃する艦隊。
卵とクイントータスを庇うキングトータス。
攻撃を中止するよう連絡する光太郎。
しかし艦隊の猛攻により卵は割れ、クイントータスも傷ついた。
海中に没するオロン島。
「連れて来るんじゃなかった。連れて来るんじゃ」と光太郎。
重い足取りで白鳥家に帰る光太郎。
するとさおりと健一が光太郎を出迎えた。
2人はZATが2匹を島に無事に送り届けたことを感謝する。
「ZATが怪獣を殺すようだったら、悪いけど光太郎さんにもこの家を出て行ったもらおうと思ってたのよ」とさおり。
「ZATが怪獣を殺すわけないじゃないか」と光太郎。
光太郎は複雑な心境で庭に出る。
そこへクイントータスが日本に戻ってきたとの連絡が入る。
負傷したクイントータスは東京を滅茶苦茶に破壊し始めた。
参謀に早く出動するように言われるが、なかなか出動しようとしないZAT。
しかしトータスはもはや正常な判断力を失っていた。
危機に陥る若葉団地。
それを見て苦渋の決断をする隊長。
「出動」。
仕方なく光太郎も出動する。
避難する住民たち。
クイントータスは火炎玉を辺り構わず撒き散らす。
その時光太郎の腕のバッジが輝いた。
タロウは火炎玉の攻撃を受けるが、ストリウム光線を放ってクイントータスを倒す。
その時一つだけ無事だった卵が割れ、ミニトータスが誕生した。
参謀はミニトータスを攻撃するよう指示。
しかしタロウは身を挺してミニトータスを庇おうとする。
それを見て攻撃中止を指示する隊長。
「何故クイントータスを殺したんだ」と健一。
そこへキングトータスが飛来した。
キングトータスはミニトータスを背負い、タロウに攻撃を加える。
火炎玉に晒されるタロウ。
さらにキングトータスは角から光線を出し、ミニトータスを巨大化させた。
「この親子亀を攻撃することは出来ない。俺には出来ない」とタロウ。
ミニトータスが頼りに出来るのはキングトータスしかいないと考えるとタロウは攻撃できなかった。
「このままでは俺が殺されてしまう。一体どうすればいいんだ」とタロウ。
「そうだ」。
タロウはクイントータスの亡骸を持ち上げ空を飛ぶ。
それを追いかけようとミニトータスを背負って飛ぼうとするキングトータス。
しかし巨大化したミニトータスを背負って飛ぶのは難しい。
そこへセブンが現れた。
セブンはミニトータスを背負い、タロウとともに宇宙へ。
キングトータスも自力で空を飛び、それについていく。
セブンに3匹を任せるタロウ。
健一とさおりに亀の親子はウルトラの星へ行ったんだよと光太郎。
3人の目には3匹で仲良く遊ぶ亀親子の姿が見えた。

解説(建前)

セブンはなぜタロウの危機がわかったのか。
タロウがセブンに救援を求める描写がなかったことから、これは偶然近くにいたと考えるしかなさそうである。
しかしそんな偶然はあるのだろうか。
これはやはりウルトラ兄弟が頻繁に太陽系をパトロールしていたと考えるのが自然である。
すなわち、初代ウルトラマンが来た当時は太陽系は辺境の地であり警備の重要ポイントではなかったが、この頃には侵略宇宙人を始め、宇宙怪獣、地球怪獣など様々な脅威が地球を襲っていたので、パトロールの強化地域に指定されていたのであろう。
もちろん、戦士として新人のタロウに対する配慮というものもあったに違いない。

3匹はなぜ宇宙空間でも死ななかったか。
これはやはり3匹が宇宙怪獣であることによるのであろう。
キングトータスは回転して飛ぶだけでなく、普通に飛ぶことも出来る。
地球の古代亀にそんな能力があったとは考え難いし、他の地球怪獣と比べても、翼もなく空を飛ぶというのはかなり特異である。
大気圏を容易に突破していることからも、トータス親子の先祖は地球外から来たと考えた方が素直であろう。

それではクイントータスが復活したのはなぜか。
そもそもクイントータスの復活した姿は健一、さおり、光太郎の想像という可能性もあるが、これはセブンが3匹の復活を教えるためにテレパシーを3人に飛ばしたと考えることも可能である。
セブンはエースの体からオニデビルの豆を取り除くなど、医学の知識も備えていた。
おそらくクイントータスにも何らかの医術を施したものと思われる。

感想(本音)

重いテーマと軽い作戦とファンタジーな結末が混在した複雑な話。
ただ全体的にはやはり重さが勝っている。
一見ハッピーエンドだが問題は何ら解決されておらず、新たな問題まで残すことになる。
タロウでも最重要なエピソードの1つであることは間違いない。

いきなりタロウは2匹の真空渦巻きに敗戦。
渦巻きから解放されたのも2匹の意志であるし、2匹が協力した時の力は相当なものである。
しかしその後タロウは土に潜ったが、何を考えてのものであろうか。
展開的には光太郎が姿を消した言い訳のためにしか見えない。
それとも空を飛ぶとトータス夫婦に捕まるのを恐れ、地中に潜って変身を解いたのであろうか。
いずれにせよ悪人とはいえ、捕獲隊員の2人を助けられなかったのは不甲斐なかった。

ただ、悪人とは言え捕獲隊員がトータス夫婦に呑み込まれるのは子ども心に怖かった。
彼らは別に亀夫婦を殺したわけではなく、卵も割れていたものを食しただけなのにここまでの仕打ち。
しかもZATからもあまり同情されていないし、正直大人の目線で見るとかなり気の毒である。
ただこれはあくまで勧善懲悪を描いただけで、彼らが罪のない他者に危害を加えたというだけで報復されるには十分なのであろう。
子ども番組で強盗殺人犯人とかを出すわけには行かないので、怪獣を人に擬えて因果応報を描く。
ある意味常套手段なので、子どもに正義とは何かが伝わればそれでいいのであろう。

ZATのバスケット作戦は作戦というほどのものではないが理には適っていた。
さおりの差し入れのおにぎりから着想する辺りはタロウらしくて面白い。
ZATは緊張感がないとも言われるが、こういう日常の描写を多用することにより今までの防衛隊にない雰囲気を出すのに成功している。
科学特捜隊は隊員たちが仮眠を取っていたり、服が逆になってたり、カレーを食べてスプーンでハヤタが変身しようとしたりかなり生活感が出ていたが、ZATは科特隊のコミカルさを最も引き継いだ組織であろう。
この辺り、セブンから2期のシリアスすぎる路線の反省が垣間見えて興味深い。

オロン島に帰った2匹にはスミス長官率いる艦隊が待ち構えていた。
この島が砲弾で沈む描写は凄まじい。
上原氏はインタビューなどで、日本が戦争になれば沖縄が一発で海に沈む旨発言されていたが、オロン島に沖縄を重ねていたのは間違いないであろう。
そもそもオロン島という名は与論島から来ている。
与論島は琉球や島津の支配を受けてきた過酷な歴史を持つ島であるが、上原氏がこの名を引用したのもやはり沖縄の現状を憂慮してのものであろう。
もちろんスミス率いる艦隊がアメリカ艦隊をモデルにしてることは言うまでもあるまい。
ただ、この部分だけ取り上げて本話を沖縄の寓話と捉えることには無理がある。
あくまで本話を構成する一要素と捉えるのが正解であろう(脚本家の意図はともかく)。

健一とさおりに怪獣を殺さなかったことを感謝されるシーンは見ていて辛い。
しかしZATが怪獣を殺したからって光太郎まで追い出すことないと思うのだが。
この辺りの異常な怪獣に対する入れ込みは理解に苦しむ。
前編のレビューで書いたように、この辺りの描写は帰りマン「恐竜爆破指令」に共通している。
上原氏は地球に居場所のない怪獣の姿に自分を重ねているのだろうか。

今回一番問題を感じるのは、暴れるクイントータスに対してZATがすぐ出動しなかったところ。
防衛隊としては如何なる理由があろうと暴れる怪獣を放置することは許されない。
それは人間側に元々の責任があった場合も同様であろう。
度々指摘しているように、この辺りの展開は帰りマンの「恐竜爆破指令」によく似ている。
同話の場合はMAT内で意見が分かれ、最初南と郷だけが作戦への参加を拒否した。
結局仲間のピンチを見て2人は作戦に参加するわけだが、全員がステゴンに同情していたわけではない点、本話とは異なる。

本話の場合は怪獣への同情は隊員全員に共有されている。
何より非情であるべき隊長が攻撃命令を躊躇しているのが大きな特徴だ。
もちろん「恐竜爆破指令」においてはそもそも同情の理由である「怪獣が工事の爆破により復活したか否か」という事実認識で差異がある点、全員がクイントータスが被害者である点認識している本話とは異なっている。
ただ、そこにはまだ現実と理想の調和、リアリティというものが存在した。
しかし本話にはそれは存在しない。
はっきり言って防衛隊が破壊される街を見殺しにして怪獣を守ろうとするのは、現実的には考えられない。
実際自分が隊員なら、そこまで怪獣に感情移入せず、まず危険に晒されている団地の人を助けるだろう。

しかしZATの隊員たちはそれを一旦躊躇した。
最終的には危険に晒されてる団地の住民を助けるため出動したが、それも苦渋の決断であった。
ここには上原氏の願いが全面に出ている。
侵略されている立場の人のことも考えて欲しい、マイノリティの気持ちも考えて欲しい。
それが上原氏が未来を担う子どもたちに伝えたかったメッセージではあるまいか。
沖縄はタロウが放送される前年、昭和47年に日本に返還された。
しかし基地は相変わらず沖縄を占領しており、事態は何も変わっていない。
上原氏が「恐竜爆破指令」とは異なりZATにここまで現実離れした態度を取らせたのも、そういう背景があったからなのかもしれない。

最終的に親子怪獣はセブンの手によってウルトラの国、若しくはアニマル星に連れて行かれた。
地球に棲み場がない以上、これも仕方ないであろう。
ウルトラではガヴァドンやステゴンなどでお馴染の解決法である。
この辺り、西イリアンに戻れば平穏な生活に戻れるシーモンス、シーゴラスとは決定的に違う。
トータス親子の場合そもそも帰るべき故郷が海に沈んだのだから当然であるが、これはもはや人間と自然の調和、若しくは加害者と被害者の和解が難しいことの現れであろう。

人間の都合で破壊される自然。
大国の都合で翻弄される小国。
それは今も何ら変わらない。
しかし現実にはウルトラマンはいない。
これは結局我々人間自身の手で解決するしかないのである。
ただ実際問題、それらを調和させることは困難である。
私自身今の便利な生活は放棄したくはないし、自衛隊という軍隊による自衛権まで放棄したくはない。
それでも理想だけは忘れてはならない。
理想を失った時、人間にはもはや未来などない。
それが上原氏及びスタッフが子ども達に一番伝えたかったことではなかろうか。

本話には実は後日談たるエピソードが存在している。
それはタロウ後半にまた出てくるので、レビューはその時に。
とにかく色々な問題が詰まった本エピソード。
最後唐突にセブンが出てくる辺り御都合主義との批判は免れないが、子どもはそれで嬉しいのであり、そのことだけで作品の評価を貶めるのは間違いであろう。
正直好き嫌いで言うとあまり好きな方ではないが、色々と考えさせられるエピソードではある。

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