大海亀怪獣 東京を襲う!


データ

脚本は上原正三。
監督は吉野安雄。

ストーリー

ジョギングから帰ってきた光太郎は、ジョギングに出かけようとする健一と出くわす。
「遅い遅い、子どもは6時に起きなきゃ」と光太郎。
その時光太郎は危うく足下の亀を踏み潰しそうになる。
その亀は白鳥家のペットとして飼われている親子亀の親亀だった。
「うんと餌やったら、オロン島のキングトータスみたいになるかな」と健一。
「オロン島の大亀は特殊な例だよ」と光太郎。
光太郎は深い地層に埋まっていた古代亀の卵が、地震により圧力の弱い地上に飛び出した結果巨大化したと説明する。
「出てるわよ」とさおり。
新聞には巨大亀の生け捕り作戦についての記事が出ていた。
「そっとしておいてやればいいのに」と光太郎。
オロン島は海底火山の爆発により出来た新しい島で、その影響で誕生したのが2匹の巨大亀であった。
その二匹は付近の人々にキングトータス、クイントータスと名づけられた。
2匹は静かなオロン島で仲良く平和に暮らしていた。
二匹を捕獲しようとする日本の興行師は捕獲隊を組み、クイントータスの産卵の機会を窺っていた。
夏の夜、産卵のために上陸するクイントータス。
それを見た捕獲隊は麻酔弾で攻撃する。
首に麻酔弾を打ち込まれたクイントータスは逃げようとするも、捕獲隊の放った網により身動きできなくなる。
そこへクイントータスを助けようとキングトータスが現れる。
麻酔弾をキングトータスにも打ち込む捕獲隊。
さらに網でキングトータスを捕えるも、キングトータスは捕獲網を破り海底に逃げ込んだ。
麻酔弾のため体の自由が利かなくなるキングトータス。
翌朝、クイントータスの卵を掘り起こす捕獲隊。
クイントータスと卵を収穫し、意気揚々で日本に帰国することにする。
その夜、船でクイントータスを曳航する捕獲隊。
船長に何のために捕獲したのかと問われ、怪獣ショーを行うためだと隊長。
さらに船員と捕獲隊は割れた卵をスープにして食していた。
それを見て麻酔からさめたクイントータスが暴れだす。
ZATに第四桜丸から救助信号が入った。
マスコミを騒がせて世間の目を集める魂胆ではないかと南原。
隊長はパトロール中のコンドルに連絡を取り、第四桜丸が襲われてる現場に急行するよう命令する。
現場に到着したコンドルは第四桜丸がクイントータスに襲われてると報告。
命令を受けトータスを攻撃するコンドル。
「止めろ、殺すんじゃない」と訴える捕獲隊。
結局クイントータスは海中から助けに来たキングトータスにより網を切られ、逃げてしまった。
捕獲隊隊長に攻撃したことを咎められるZAT。
怪獣捕獲には2年もの準備期間と1億円もの費用がかかっていたと隊長。
しかし船長はZATのおかげで助かったと感謝する。
体を痒そうに掻く船員と捕獲隊員を見て理由を尋ねる荒垣。
船長によると、昨夜亀の卵を食べてから蕁麻疹が出たという。
研究所に卵を持ち込み、保温器で卵を温める捕獲隊。
その夜車での帰途についた捕獲隊員の2人は、怪しい光を見て車を止めた。
車を降りて辺りを調べる2人。
その時突如2人は何物かに襲われ、1人が食べられてしまった。
翌日調査に来たZAT。
しかし異常は見当たらない。
「あの岩が佐久間を喰っちまったんだ」と生き残った男。
捕獲隊隊長は交通事故ではないかと言う。
しかし車は上から潰されており、交通事故ではないのは明白であった。
その頃海上を航行する第四桜丸は空飛ぶ円盤に襲われていた。
第四桜丸は沈没し、乗務員は全員死亡する。
蕁麻疹になった者が次々死亡していると隊長。
光太郎はクイントータスの復讐ではないかと言うが、荒垣は第四桜丸は空飛ぶ円盤に襲われたと打電してきたと言ってそれを否定する。
そのころ研究所では卵に変化の兆しが見えていた。
「亀のたたりだ」隊員の一人白井が突如狂ったように研究所を飛び出した。
それを見て白井を追いかける光太郎。
しかし突如男の走っている道路が割れ、男は割れ目に飲み込まれてしまう。
割れ目から姿を現すクイントータス。
それを見て光太郎はタロウに変身する。
しかしタロウはクイントータスの火炎玉に苦戦。
何とかストリウム光線を放つも怪獣には通じなかった。
さらに空からキングトータスも飛来。
円盤状に回転するキングトータスを見て、第四桜丸を襲ったのはキングトータスだと荒垣。
二匹は甲羅のなかに手足を入れ、回転を始めた。
二匹の作り出す真空渦巻きに巻き込まれるタロウ。
我らがウルトラマンタロウの運命は。
来週を待とう。

解説(建前)

キングトータス、クイントータスは何物か。
光太郎によると、古代亀の卵が地底深くの圧力から解放されて巨大化したというが、そのようなことは可能なのか?
そもそもそのような巨大な圧力がかかれば、卵自体が壊れてしまうはずである。
これはやはり卵そのものが普通の古代亀のものではなかったと考えるのが素直であろう。

それでは卵は何処から来たのか。
これは後編の内容からも、やはり宇宙から来た可能性が最も高いであろう。
巨大な亀の卵が隕石に乗って地球に飛来した。
卵はすぐに孵化せず、地殻の変動で地底深くに沈んでしまった。
そこで高い圧力を感じ、卵は成長を止めたのであろう。
そして最近の地殻変動で地表に現れ、その結果2匹が誕生したものと考えられる。

感想(本音)

今見ると、かなり欝な話。
子どもの時も、とにかく興行師たちの蕁麻疹が気持ち悪くあまりいい印象は残っていない。
嬉しかったのは後編のセブン参上くらいであろうか。
とにかく、ライブキング、コスモリキッドの前後編とかなり趣が違い、重い話。
そういう意味では一般のタロウのイメージからは離れているエピソードであろう。
この前後編は上原正三のウルトラ、ラストワーク。
長くシリーズを支えた氏のラストワークだけあり、メッセージ性の非常に高いものとなっている。

今回白鳥家では亀をペットとして飼ってることが判明。
しかしこれ以後亀を見た記憶がないような。
それはさておき白鳥家の庭は広く、おまけに小さな池まであり、この辺り平均的な庶民の生活よりはかなり裕福に見える。
ウルトラでは次郎君を始め、ダン、トオルと金銭的には決して恵まれていない家庭が多く、片親である点を除けば健一はかなり恵まれている生活をしている。
父親がタンカーの船長をしてるのだから当然ではあるが、この辺りは今までのシリーズとの差別化もあるのだろう。
そしてさおりというキャラ設定上も重要な要素であるに違いない。
その点についてはいずれまた詳しく述べることにする(と、フニャ子フニャ夫並みの大風呂敷を広げて後の回に丸投げする)。

大亀に対する光太郎の考察は何を根拠にしてるのか。
正直かなり無理な説明のような気がするので、解説ではその説を否定させて頂いた。
普通に考えればあの二匹がただの古代亀ではないのは明らか。
もしかすると古代亀が全部巨大なのかもしれないが、それなら化石などからわかるはずであり、やはり突然変異と考えるのが素直であろう。
結局逃げの常套手段で宇宙怪獣ということにさせてもらった。
て、後編で宇宙飛んでるし、まあいいでしょ?

大亀を捕まえそれを見世物にしようとする興行師はなかなかのチャレンジャー。
しかし2年の準備期間と1億ものお金をつぎ込んだのには恐れ入る。
そこまでしたんだから、あれだけ必死になるのは当然であろう。
ただ、そもそもそれだけお金を出せるということは、なかなかのやり手の興行師なのではないか。
今までどんな興行をしたのかは、興味あるところだ。
しかしあの亀のスープは正直あまり美味しそうではなかった。
卵ならもう少し固まってもいいと思うが。
あまりよく煮ずに食べたため蕁麻疹が出たのかもしれない。
まあ、ただの祟りなのだが。

トータス夫婦は捕獲隊員と船員全てに復讐を遂げた。
これは正直かなり容赦なく残酷である。
見世物にしようとしていた捕獲隊員はともかく、船員にはそれほど罪があるようには思えない。
もちろん卵スープを食べたのは悪いが、それも我々の日常の感覚からはそれほど特異なことではなく、卵も割れていたのだからそこまで恨まれるのはややかわいそうである。
この辺り、脚本的にはどういう意図なのだろうか。

上原氏の脚本については常に沖縄の問題との関連性が指摘される。
東京を執拗に廃墟にすることからそれは一定の真実であろうが、何でもかんでも沖縄や差別で語りつくすことが乱暴なのも事実である。
例えば、亀夫婦を沖縄人、興行師たちを本土の軍人と置き換えてその復讐と考えることも可能ではあるが、やはりそれは少し強引であろう。
本話のベースになった話としては、「帰ってきたウルトラマン」第13話、14話のシーモンス・シーゴラス編が挙げられる。
この2編も上原氏の筆によるものであるが、本編との違いは復讐の要素がなかったことにある。
あくまでシーモンス・シーゴラスは自然の象徴として描かれ、大津波、大竜巻という自然の驚異を象徴する存在として描かれていた。
郷が力を持ちすぎた2匹を倒すことに躊躇を覚えるというシーンはあったが、決して2匹を被害者として見ていたわけではなかったのである。

一方、本話におけるキングトータス、クイントータスは完全に被害者として描かれている。
そして加害者は資本主義の象徴たる興行師。
興行師は2匹の大亀をお金儲けの手段としか見ていない。
当時日本は高度経済成長を終え、その傷跡である公害や自然破壊に悩まされていた。
まさに自然からの復讐。
シーモンス・シーゴラスはあくまで天災であった。
しかしキングトータス・クイントータスはもはや人災である。
その人災に加担した船員たちは、それだけで復讐されるに十分な資格を有していたのである。

そしてそれは直接自然を破壊していない我々にも当てはまる。
我々も日々の生活で知らず知らず自然破壊に加担している。
経済的に豊かになった日本人に対するアンチテーゼ。
実はシーモンス・シーゴラス編以上にこのエピソードに似ているエピソードがある。
それは「帰ってきたウルトラマン」第10話「恐竜爆破指令」である。
ここに登場するステゴンは古代恐竜の生き残りで、設定上はトータス夫婦に共通する。
そしてステゴンが暴れだしたのも、道路工事という資本主義的行為による自然破壊が原因であった。
私は同話のレビューで辛口な意見を書いたのだが、ステゴンを発見した子ども達はステゴンをウルトラマン以上に擁護し、大事に思っていた。
それは今回の健一、さおりのトータス夫婦に対する異常ともいえる入れ込みに通底するであろう。

しかしなぜ上原氏はウルトラマンをさしおいてまで子ども達に怪獣を応援させるのであろうか。
常識的な感覚からは理解しがたいが、やはりそこには未来のある子どもたちに対する何らかの期待が込められているのは確かである。
それは善悪に拘らないものの捉え方であろうか。
あるいは虐げられてる者に対しても愛情を注げる優しさであろうか。
いずれにせよ、大人がして来た過ちに対する批判が込められてるのは間違いあるまい。

話が少し脱線したが、船員たちまで復讐の対象にされたのはやはり無神経に対する批判というものがあったのであろう。
それは沖縄問題とも結びつくが、いずれにせよ上原氏が当時の日本の状況をかなり覚めた目で見ていたことは間違いない。
そして、それは今も変わらず続いているようである。
それは各メディアにおけるインタビューでも窺うことが出来る。
もちろん本話におけるトータス夫婦と興行師たちとの関係を、琉球と島津とか、中国系住民と琉球民族とかの関係に置き換えることも可能である。
ただ、上原氏の出自に拘って話を沖縄にばかり帰着させるのは、作品の評価を矮小化させる危険もあり妥当でないであろう。
やはりスタッフ全員の意図として、自然と人間の関係、あるいは人間の業というものに対する意識があったのではないか。
完成作品からアプローチするという当サイトの方針からは、作品メッセージを出来るだけ普遍的に捉えて行きたいと思う。

それでは他に気になった点。
クイントータスは何気にストリウム光線に耐えており、とても普通の亀が巨大化したとは思えない。
また火炎玉という爆弾も装着しており、いっそう地球怪獣とは思えないであろう。
真空渦巻きに巻き込まれるタロウ。
この状態で一週間待たされるのは視聴者的には辛い。
ただ大津波の前に立ちはだかるウルトラマンや磔になったウルトラセブン、ブロンズ像になった5兄弟など当時のウルトラはショッキングなシーンで引っ張るのが得意であった。
何でもありで作れた時代というのもあろうが、最近のウルトラはそういう前後編の引張りが今一つな気がする。
そういう面ではむしろライダーや戦隊の方が上手いと思う。

まだまだ書きたいことはあるが、後編もあるので続きはそちらに回すことにする。
とにかく、色々考えられるエピソードである。
タロウでも屈指の問題作と言えるであろう。

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