歌え! 怪獣ビッグマッチ


データ

脚本は石堂淑朗。
監督は前田勲。

ストーリー

怪獣の絵を見ながら談笑するZAT隊員たち。
それらは目撃した市民が資料として送ってきたという、ボッチ谷に何百年と住む怪獣オルフィを描いたものであった。
「みんな非常に優しそうな顔をしてますね」と光太郎。
「これは草食動物の顔だな」。
「草食動物は馬にしても象にしても皆優しい目をしているんだ」と北島。
実際オルフィが害をなしたという話はなく、それどころか歌を歌うことで有名であった。
マニアが録音したというテープを皆で聞く隊員たち。
「はた迷惑なことをしない限り、怪獣はちゃんと生かしておいてやらなければいけないんだ」と荒垣。
その頃ボッチ谷では怪獣オルフィが出現し、歌を歌い始めた。
それを見物に集まる村人たち。
オルフィは一声唸ったあと谷に掛かっている吊り橋を破壊してどこかへ逃げて行った。
オルフィの声が去年より低かったから今年は米の出来がいいと村人たち。
オルフィは長い年月の間にすっかり村のアイドルになっていた。
その頃パトロール中の東と北島は街の売店で「オルフィを捕える会」が出発準備を始めたという新聞の見出しを見つける。
記事にはZATが怠けてるから民間でオルフィを捕まえるという趣旨のことが書かれていた。
憤慨して荒垣に抗議するように訴える東と北島。
正装して「オルフィを捕える会」の本部に乗り込む荒垣。
「何の害もしない怪獣を捕まえるとは、あまりにも興味本位すぎます」と荒垣。
しかし団長の坂本はオルフィを見られるのはごく少数の地元人だけなので、日本中の人が見たい時に見られるようにしてあげようとしていると譲らない。
さらに坂本は元大臣、大学総長、有名代議士たちの署名を見せ、我々の探検は半ば国の公認に近いと自信満々にいう。
「わかりました。ではどうぞ。その代わり万一のことがあってもZATは出動しません」と荒垣。
「出動を要請する気は毛頭ありませんよ」と言い放つ坂本。
とはいうものの、万一のことがあってはいけないと東と北島に尾行を命じる荒垣。
2人は捕える会のベースキャンプ地を遠くから双眼鏡で監視する。
捕獲隊が猛獣狩り用の麻酔銃を持ち込んでるのを見た2人は登山客を装い隊員たちに接近。
2人は別の地点でオルフィを目撃したと嘘をつき、東が団長をその場所まで案内する。
東が団長を連れ出した隙に麻酔銃を盗み出す北島。
東と合流した北島は予備の弾まで盗んできたと悦に入る。
調子に乗って地面の石を蹴ろうとして脚を痛めた北島。
東は応急処置として盗んだ麻酔弾から麻酔薬を取り出し、患部にそれを振りかける。
暫くすると痛みがなくなってきたと北島。
しかし北島は急に気が立ってきて、東に殴りかかった。
麻酔弾の中身は興奮剤であった。
団長の目的はオルフィを暴れさせることだったのだ。
東からの報告を受けた荒垣は森山に鎮静剤を届けるよう命じる。
鎮静剤を打たれて眠りにつく北島。
森山が試験薬で調べたところ、やはり神経を昂奮させる薬が入っていた。
一方麻酔弾を盗まれたことに気が付いた団長はオルフィを暴れさせる手段はいくらでもあると、不気味に目を光らせる。
団員たちにZATに麻酔弾を盗まれたと告げる団長。
憤慨する団員たち。
団長は団員たちにオーケストラの扮装をさせ、テープでワルツを流し始めた。
音楽好きのオルフィはそれに釣られて姿を見せる。
曲に合わせて歌いだすオルフィ。
いったん演奏を止める団長。
するとオルフィは木の枝を毟ってそれを指揮棒にして振り始める。
さらにへその穴から楽譜も取り出す。
それに合わせて演奏を再開させる団長。
さらに団長は音楽のテンポを徐々に速めていき、オルフィを動揺させる。
速いテンポに目を回したオルフィはフラフラと民家の方へ。
思わず民家を踏みつぶしそうになるオルフィ。
しかし正気に戻ったオルフィはすんでのところで足を止めて回避。
その弾みで後方に数歩歩いて倒れるオルフィ。
その際足を痛めたオルフィは地中に潜ってしまった。
捕獲団はオルフィが逃げ込んだ穴の上に爆弾を仕掛ける。 その頃坂本の身元を調べていたZATは、その経歴が不明であることから坂本が宇宙人ではないかと推測。
オルフィを暴れさせてZATを全滅させるのが目的だと睨んだ荒垣はその旨を東に連絡する。
ダイナマイトを爆破しようとする坂本を制止する東。
「坂本さん、あんたは宇宙人だ」と喝破する東。
カーン星人の姿に変わる坂本。
「もう遅いわい。ZATよ。オルフィと戦って全滅せよ」と星人。
ダイナマイトを起爆させるカーン星人。
「団長が宇宙人だったなんて」。
驚く団員。
爆破により地上に現れたオルフィに光線を浴びせる星人。
それによって凶暴化したオルフィは暴れだす。
やむなく攻撃する東。
星人はオルフィのへその中に飛び込んで中からオルフィを操る。
岩をぶつけて発電所を破壊するオルフィ。
タロウに変身する東。
「オルフィを助けてやってください」。
タロウに懇願する村人たち。
タロウがオルフィを投げ飛ばすと、へその中にいた星人も衝撃で姿を現した。
それを見たタロウはブレスレットをマジックハンドに変形させ、オルフェのへその中のカーン星人をつまみ出す。
そのままカーン星人を地面に投げ捨てると、星人は爆破炎上。
星人を取り除かれたオルフィは元の大人しい怪獣に戻った。
歌を歌いながら去っていくオルフィ。
それを見届けるタロウ。
オルフィが歌った歌を覚えたと北島。
しかし北島の歌に対して地中から顔を覗かせたオルフィは鐘を一つ鳴らす。
悔しがる北島。
皆でオルフィが歌った歌を歌いながら引き上げる隊員たち。

解説(建前)

オルフィはなぜ「こうもり」の楽譜を持っていたのか。
「こうもり」は19世紀後半にヨハンシュトラウスが作曲した曲。
したがって、オルフィがそれを入手したのはそれ以後ということになる。
すなわち、オルフィがボッチ谷に住み着いたのは数百年前であるから、オルフィはボッチ谷にいながら楽譜を入手したことになる。

では、誰がオルフィに楽譜を渡したのであろうか?
これはやはり宇宙人がオルフィのために入手したと考えるのが素直である。
地球人があれだけ大きな楽譜を作る必要がないし、わざわざオルフィのために作ったと考えるのも不自然だからである。
そしてその楽譜を与えたのもカーン星人と考えるのが最も筋が通るだろう。
坂本が「こうもり」のテープを用意してたのは単なる偶然ではない。
オルフィが「こうもり」の曲を好きなのを知っていたから用意していたのだ。

では、なぜカーン星人はオルフィに楽譜を与えたのか?
それについては、このように考えれば辻褄が合うだろう。
実はオルフィは元々坂本とは別のカーン星人が地球に連れてきた。
しかしオルフィは地球上で成長しすぎたため母星に連れ帰ることができなくなった。
そこでそのカーン星人はオルフィが寂しくないように楽譜を与えて地球に残して帰ったのだ。
その話を知っていた坂本は地球にいるオルフィを使って地球侵略を企てた。
オルフィのへその中に入ってオルフィを操ることができたのも、元はカーン星の動物であったと考えると筋が通るであろう。

感想(本音)

正直脚本のクオリティはあまり高くない話。
コメディ回なのでハチャメチャなのはいいが、笑いどころも少なく凡作と言われても仕方ないであろう。
エース終盤の石堂脚本はなかなかレベルが高かったのだが、タロウ、80辺りになるとさすがにネタ切れ感は否めない。
本話も演出や役者の演技等でそれなりに楽しめる作品にはなっているが、ストーリー的にはかなり無理がある。
構図的には「怪獣よ故郷へ帰れ」と近いし、自然と解釈もその線になったのは偶然ではないであろう。

と例によって辛口コメントから入ったが、ストーリーは単純だし、坂本のキャラは立ってるし、北島のコメディ演技もいいので、30分弱退屈せずに見られる話にはなっている。
不快な展開もないし、タロウ的には及第の作品であろう。
というか、本話で何が気になるかというと、やはり荒垣の声。
子供の頃はその風貌とあまりに違う声にだんだん混乱して、荒垣のそっくりさんが演じてるのかと思いました(笑)。
特に普段見慣れない正装をして抗議に行くシーンなど別人に見えました。
しかしもう少し似た声の人はいなかったのか。
東野さんの声は個性的というか特徴があるので、そう急には見つからなかったのでしょうね。

大人になって、と言うか最近見て気が付いたのは、オルフィ探検隊が実は社会風刺であったこと。
坂本が大臣や国会議員の署名を差し出すシーンを見て、漸く気が付いた。
私はタロウ本放送時にはまだ幼かったため記憶にないが、ちょうどこの頃某作家兼国会議員が団長になってネッシー探検隊なるものが世間を騒がせていたという。
キングトータス編もおそらくネッシー探検隊を念頭に置いていたと思われるが、本話も同様のプロットであろう。
ただ、ネッシーとの違いはキングトータスやオルフィは既に存在が確認されていた点。
いずれも動物愛護がテーマなので、ネッシー探検隊とは趣旨が違うであろう。

本話は北島役の津村氏のコミカルな演技が光っていた。
団長から麻酔弾を盗み取ったり、興奮して東に殴りかかったり、メモールの時のシリアスな演技とは全く違う演技を見せている。
最後もオルフィに鐘一つ鳴らされてるし、本話の実質的な主役と言ってもいいだろう。
一方麻酔弾の成分も調べずにそれを治療に使う東。
もし団長がオルフィを殺す気で毒でも入れていたらどうしたのだろうか?
さすがにZAT隊員としては軽率に過ぎると思う。

本話のゲストはウルトラではお馴染み草野大悟氏。
この人も大泉氏同様胡散臭い役がよく似合う。
草野氏と言えば怪奇大作戦の「死神の子守唄」の吉野役が印象深いが、岸田森氏ともども特撮にもよく出てくれた貴重なバイプレーヤーだけに早くにお亡くなりになられたのは惜しい限りだ。
本話では抗議に来た荒垣を追い返すシーンなど、憎々しい演技が光っていた。
正直演者にも理解不能な役だと思うが、そういうのを感じさせないのがプロだと思う。

オルフィについては明らかに高めの知能を有しているので、地球産の怪獣や恐竜の類ではなかろう。
設定的には民間信仰の妖怪の一種なのだろうが、解釈的には宇宙怪獣若しくは宇宙生物とした。
先ほど「怪獣よ故郷へ帰れ」と構図が似ていると書いたが、オルフィもヘルツ同様カーン星から逃げ出した可能性もあるだろう。
またメドゥーサ星人に対応するカーン星人も人間に変身してオルフィ捕獲隊を結成するなど、こちらもなかなか強かだ。
しかしいつの間にあれほど地球に順応して国会議員の署名まで集めたのか?
オルフィを暴れさせる目的はZAT壊滅であるし、一一回りくどい。

本話で一つだけ気になったのは、オルフィが山に掛かってる吊り橋を破壊した点。
これはどういう意味があったのであろう。
普通に考えると山間に掛かってる橋が落ちたら村人はかなり困るはず。
しかしそれを見ていた村人はまるで意に介していなかった。
この辺りは特撮とドラマが別撮りだから仕方ないのであろうが、オルフィが優しい怪獣という前提からはちょっと了解しがたい。
解釈的にはもう使われていない不要な橋だから問題ないとでもしとけばいいが、オルフィがそこまで判断して破壊したとは考えにくいので、正直余計なシーンであった。
もう少し本編と特撮の意思の疎通をしてもらいたかったところだ。

その他突っ込みどころ。
捕獲隊の面々にオーケストラの扮装をさせる坂本。
こういう時のためにちゃんと用意していたのか?
オルフィの潜った穴にダイナマイトを仕掛ける坂本。
怪獣軍団の時の海野もそうだったが、民間人が簡単にダイナマイトを入手できる世界だな。
もしかしたら左翼のテロリストを通じて入手しているのか?
桜田淳子の歌を知っているオルフィ。
これについては、本話の中ではオルフィ自作の歌ということで、辻褄は合うだろう。

本話の脚本は石堂淑朗。
石堂氏にしてはいまいち引っかかりのない作品。
テーマらしきテーマもないし、コメディとしても突き抜けきれておらず、せいぜいネッシー探検隊の風刺部分くらいしか引っかかるところはない。
完全に繋ぎで1本書いたという脚本であろう。
オルフィについてはタロウ終盤で顕著な擬人化された怪獣。
まあオウムが言葉を話したり、猿が芸をやったりするのと同じでカーン星人により音楽を仕込まれたと考えれば問題はないが、個人の意思をある程度持ち合わせていることから、宇宙人と言うか、水曜スペシャル的には猿人バーゴンといったところであろう(なんのこっちゃ笑)。

監督の前田勲はシリーズ初監督。
後に怪獣タイショーなどのコメディ回を担当するが、本話は初監督作品のためか若干大人しめの演出。
この辺りは初めてなので無難に演出したのであろう。
とはいえ全体のテンポは良く、コメディの演出としては合格点であろう。
本話はタロウ終盤の特徴である怪獣を殺さない話。
怪獣を殺すか否かについては登場人物の気まぐれというか、その場のムードで適当に決まる印象があるが、その点本話のオルフィは完全に被害者であり、殺さない必然性は描けていたと思われる。
その分話自体は若干生ぬるいが、これもタロウ終盤のカラー。
実相寺、佐々木作品のようなテーマや風刺はないものの、子供向けとしては十分及第だと思う。

タロウ第48話 タロウ全話リストへ タロウ第50話