怪獣サインはV


データ

脚本は阿井文瓶。
監督は前田勲。

ストーリー

宇宙から巨大なボール状の物体が落ちてくる。
ボールは離陸寸前のジャンボ機にぶつかり、ジャンボ機は大破。
さらに空港内のジャンボ機を次々と破壊する。
ボールは怪獣ガラキングの丸くなった姿だった。
街を破壊し暴れまわるガラキング。
再びボール状に戻りマンションを破壊する。
逃げ惑う市民。
スチュワーデスの採用試験を受けるため上京していた少女ユキ。
ユキは転倒して泣いている子供を助けて一緒に逃げる。
「コラ怪獣。私は女なのよ。私の負ぶってるのは子供なのよ。そんな弱いものいじめして得意なの」。
怪獣に向って叫ぶユキ。
避難誘導に駆け付けた光太郎は老人ホームの前で怪獣に文句を言うユキを目撃する。
「何をボヤボヤしてるんだ。こんなところで立ち止まってないで、早く避難してください」と光太郎。
「あなた目が悪いの?脚の弱い老人たちが中にいるのよ。怪獣と戦うのがZATでしょ。交通整理なんかしてなくていいわよ」とユキ。
「ZATの任務は市民の安全を守ることです。君こそ怪獣を怒鳴ったりして、もし怪獣が怒って向ってきたらどうするんだ」。
喧嘩になる2人。
怪獣が近づいてきたため老人ホームの中へ逃げるユキ。
ユキに援護するよう言われた光太郎は怪獣を攻撃する。
ガラキングは球状のガスタンクを掴むと空に投げ上げボール遊びを始めた。
スカイホエールが近づくと嫌がる素振りを見せたことから、荒垣はガラキングがジェット音を嫌うのではと考える。
できるだけ接近して攻撃するZAT。
老人ホームではユキが怪獣の方を応援していた。
ミサイル攻撃は効果ないと見て、レーザー攻撃に切り替えるZAT。
ダメージを受けたガラキングはボールになって空の彼方へ逃げていく。
怪獣が負けたと残念がるユキ。
「私ね、つい弱い方の味方をしてしまう癖があるの。それに怪獣が好きなの」とユキ。
「若い娘が何という」とお婆さん。
「だって怪獣ってかわいいのよ」。
驚き呆れる老人たち。
ショックで倒れてしまったお爺さんの看病をするユキ。
その様子を見て感心するホームの職員。
「田舎で看護婦やってましたから」とユキ。
職員に東京見物に来たのかと問われ、スチュワーデスの採用試験を受けに来たと答えるユキ。
そこへユキに助けられた少年がお礼を言いに現れる。
その少年はもっちゃんと名乗りお礼を言って去っていく。
ユキも荷物を持って立ち去ろうとするが、そのときお爺さんがうめき声をあげた。
とっさに脈をとるユキ。
お爺さんの仮病に気づいたユキだが、試験の日までホームに泊まることにする。
食事の手伝いをするユキ。
仮病を使ったお爺さんは、飛行機嫌いの怪獣が出るご時世だから空に飛びあがるなんて危ないことはやめた方がいいとユキに言う。
「仮病を使ったって何したってもう駄目よ。私がここにいるのは試験の日まで。旅館代を助けるためなんですからね」とユキ。
それを聞いて寂しい表情になるお爺さんとお婆さん。
翌日、ホームに隣接する屋外コートでバレーボールをする子供たち。
「あの子たちがせめて遊びに来てくれれば、寂しさも紛れるのだが」とお爺さん。
それを聞いたユキは公園に行き子供たちにバレーボールのコーチをする。
子供たちを特訓するユキ。
ユキはホームの老人たちと対外試合をするよう子供たちに言う。
ユキに説得されやる気を出した老人たちは子供たちとバレーボールの試合を始めた。
そこへパトロール中の東と南原がやってきた。
「またいつ出るかわからないんだから、しっかりパトロールしてね」とユキ。
それを聞いてムッとする東。
一緒におやんなさいよというユキに勤務中だからと断る東。
「怪獣退治じゃなくて市民の安全を守るのが仕事でしょ。老人だって市民です。老人を本当に大切にするということは楽しみや生きがいを与えてやらなくてはいけないことだって新聞に書いてあったわ」とユキ。
「そうだ。外部の者たちと一緒に遊ぶことがこの老人たちにとっては何より楽しみだ」。
東と一緒にバレーボールに加わる南原。
「ありがとうユキちゃん。今まではいくら誘っても子供たち来てくれなかったのに」と職員。
「都会の子は核家族とかでおじいさんやおばあさんの良さがわからないのよ。かわいそうだわ」とユキ。
「あなたのような人がずっといてくれると、ここもずいぶん明るくなるんだがねえ」と職員。
ユキのスチュワーデスの試験は明日に迫っていた。
その時、空から再びボール状のガラキングが襲来する。
そこへ試合で使っていたバレーボールが飛んでいく。
それをキャッチしたガラキングはボールを使って遊び始めた。
急いで老人と子供を避難させる東たち。
ガラキングはそのボールを「ボールを返しなさい」と絶叫するユキの方へ投げつけた。
見事レシーブして返球するユキ。
負けまいと何度もボールを投げつけるガラキング。
しかしユキはそれを全て打ち返した。
そのやりとりを目で追う東と南原。
「なんだありゃ」。
ホエールからその様子を見てつぶやく荒垣。
「彼女は怪獣を食い止めてるんですよ」と北島。
「コラ怪獣。あんたなんかに負けないわよ。このサーブを受けてごらん」。
怪獣に向ってサーブを打つユキ。
二度目のサーブを受け損ねたガラキングは再び暴れ始める。
攻撃するホエール。
ホームに迫ってくる怪獣に対して長刀や鍬で防戦しようとする老人たち。
ボール状になったガラキングを攻撃しようと接近したホエールとコンドルだったが、逆にガラキングの火花攻撃を受け墜落してしまう。
地上から攻撃する東と南原だったが、南原が転倒して怪獣に踏まれそうになる。
それを見てタロウに変身する東。
ガラキングと格闘するタロウ。
タロウはストリウム光線をガラキングの顔面に撃つが、ガラキングはなおも攻撃してきた。
ガラキングを投げ飛ばし、ダメージを与えたところで再びストリウム光線を撃とうとするタロウ。
そのときタロウはユキの怪獣を殺さないでという声を聞いた。
弱ったガラキングはボール状になり、それをタロウは宇宙へ投げ飛ばす。
スチュワーデスの試験のため荷物を持ってホームを出ていくユキ。
老人と子供たちはそんなユキを見送りに集まる。
「ユキちゃん頑張るんだよ」とお爺さん。
「一番で受かるよう祈ってるからね」とお婆さん。
ユキが去ろうとすると、他の老人と子供たちが急にあちこちが痛いと騒ぎ出す。
その様子を見ていたZATの隊員たち。
「老人を本当に大切にするためには楽しみや生きがいを与えてやらなくてならない」と東。
「やりがいのある仕事だと思うけどな」。
迷いを吹っ切って笑顔になるユキ。
ホームに戻るユキ。
「おじいちゃん、おばあちゃん。今からZATと試合よ」。
皆に交じってバレーボールの試合をする隊員たち。

解説(建前)

ガラキングは何物か。
まず空から落ちてきたところから地球産の怪獣とは考えにくいであろう。
ボール状になって落ちてきたことから、おそらくこの姿で宇宙をさまよい大気圏を突破してきたものと考えられる。
ではどこから飛んできたのか。
ガラキングは自らの意思でボール状になり空を飛ぶことができる。
ただ、その推進力は謎。
ムルロアのように羽があればいいというものではないが、ボール状では方向を変えることも困難と思われるので、やはり何かのきっかけで宇宙に放り出されて、そのまま地球の引力に引かれて落下してきたと考えるのが妥当であろう。

またガラキングはボール状になったり火花を散らしたり戦闘能力もかなり高い。
おそらく元は宇宙人が作った生物兵器で、それが宇宙に投棄されて地球に落下したのではないか。
そう考えると宇宙に放り出してしまえば、以後再び地球に落下しない限り新たな危害を加える恐れは低いであろう。
タロウがそこまで考えていたかはわからないが、無罪放免にした判断の根底にはそのような読みもあったのかもしれない。

感想(本音)

今で言うところのコラボ作品。
もちろんコラボ相手は当時TBSで放送していた「サインはV」。
ゲストも当然主役の坂口良子。
ウルトラでこれだけあからさまなコラボは今までレビューした中では記憶にない。
ウルトラマンエースで刑事くんの桜木健一が出たりはしてたが、ここまで露骨ではなかった。
ある意味異色中の異色な作品であろう。
こういう話をあまり真面目に突っ込んだり批判したりしてはいけないとは思うが、正直話としては滅茶苦茶。
ギリギリのところで成立はしているが、かなり無理のある話なのは否めない。

今の視点からこの話を見て気になるのは、やはりユキの自由が否定されているように見える点。
見方によっては情にほだされてユキが自分の夢を捨てたようにも見える。
また女性の職業としてスチュワーデスより看護師やホームの職員のほうが肯定的に描かれているのも時代を感じさせる。
フェミニストならずともそこに女性に対する古い束縛のようなものを感じるのは無理もないだろう。
私も久々に見たところ、その辺りが凄く不快に見えた。
老人を孤独で寂しい存在と捉え、女性はそういう老人を助けるべきだという主張が透けて見えたからである。

しかしそれは私の早合点だった。
ユキは周りに懇願され自分の夢を絶ったのではなく、むしろ周りに本当にやりたいことを気づかせてもらった。
実は女性は解放されねばならない、職業人として世界に羽ばたいていかねばならないという偏見で見てたのは私の方だったのである。
そしてそれはユキの偏見でもあった。
本話ではユキがスチュワーデスを志した動機は一切語られていないが、ユキが看護師を志し実際に職についていた動機についてはその言動で語られている。
ユキも当時のウーマンリブの風潮に乗せられていただけかもしれないのである。

普通に考えれば、入社試験の直前に老人のためにバレーボール大会なんか企画したりしない。
百歩譲って、仕方なくホームに滞在してまかないの手伝いをするくらいはあるのかもしれないが、孤独な老人のためにバレーボール大会なんて面倒なことするはずがないのである。
しかもユキはそれに夢中になり楽しんでいる。
だからこそ次のセリフが生きるのである。
「老人を本当に大切にするということは楽しみや生きがいを与えてやらなくてはいけないことだって新聞に書いてあったわ」。

この時点でこの仕事にやりがいを感じている以上、本当に自分がやりたい仕事が看護師や老人ホームの職員であることは明らかなのである。
おそらくスチュワーデスは単なる憧れに過ぎないであろう。
単にドラマで見ただけかもしれないし、都会に憧れていただけかもしれない。
その動機が語られてないくらいだから、言ってみればその程度なのである。
劇中でもバスガイドよろしく観光地を案内する練習をしていたが、逆にそのことがスチュワーデスという仕事に対する思い入れのなさを感じさせる。
いや、そんなこと解説されなくても見てればわかるよという人もいるだろうが、一応私なりのドラマ解釈なのでご参考に願いたい。

ドラマ的にはこれで一応筋は通っているのだが、やはり怪獣とバレーボールをするのは滅茶苦茶。
当然バックにはサインはVのテーマ。
怪獣も旅客機爆破、団地大破で、人的被害が相当出てるのに無罪放免。
坂口良子がゲストで怪獣と遊ぶのに、その怪獣が最後爆殺されるのはあんまりだということで無罪放免になったのだろうが、とにかく後期のタロウは怪獣を見逃すことが多い。
宇宙に追放してしまえば、ある意味死刑ではなく無期懲役みたいなものなのでいいのかもしれないが、私のような死刑存置派にとっては若干釈然としない展開である。

今回は老人ホームが中心の話であり前半は完全に坂口良子中心であった。
その結果白鳥姉弟の出番はなし。
ドラマ的には無理やり健一君を絡ませるよりは老人中心にした方が、テーマがぶれない分正解だったと思う。
老人ホームで気になったのは老人が皆やたらと元気なところ。
あれなら普通に一人暮らしできそうなものだが、当時の老人ホームってああいう施設だったのであろうか?

最後の別れのシーンでユキを引き留めたお爺さん、お婆さんがユキの試験合格を祈ってたのはよかった。
本心ではホームに残って欲しいのに敢えてユキの幸せを願う。
ユキはそういう二人の心情も理解したうえでホームに残ることを選択したのであろう。
もちろん喧嘩してた光太郎のアドバイスも効いたであろう。
そりゃスチュワーデスのほうが華やかでかっこいいし、老人ホームの職員は地味で世界も狭いが、本人がやりたいのなら何も問題ないはず。
前述したようにその辺りは深く考えない方が視聴態度としては正解であろう。

ユキは老人や子供という弱いものいじめをする怪獣に向って大声で非難したが、怪獣がZATやタロウに攻撃されると今度は怪獣の方を応援した。
常に弱者の味方=老人や子供の味方ということなのだろうが、この辺りの感覚は正直理解し難い。
怪獣を殺さない伏線なのかもしれないが、ちょっと一貫していないように見えてしまった。
ユキの優しい性格を強調したかったのかもしれないが、この点についてもあまり深く考えない方が正解であろう。

どうもとりとめのない感想になってしまったが、今回はこれくらいにしておく。
そしてここまで敢えて書かなかったが、本話は結局坂口良子がかわいい。
これにつきる(笑)。
この頃はサインはVで売り出したばかりであるが、この後金田一シリーズの映画などで大活躍するのは皆さんご存知の通り。
正直ウルトラであからさまなコラボは気に入らないのだが(ティガに初代マンが出るとかは別ですよ)、当時のアイドル女優さんがゲスト出演してるというだけである意味貴重な回であろう。
あんまり細かいことは考えずにかわいい坂口良子を見る回と割り切って視聴すべき(!)。

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