必殺!流星キック


データ

脚本は上原正三。
監督は筧正典。

ストーリー

怪獣現るの連絡がMATに入った。
怪獣は第二原子力発電所に向かっているという。
郷はアロー2号で怪獣を攻撃するが、怪獣の出す光線に撃墜されてしまう。
ウルトラマンに変身する郷。
しかしウルトラマンは怪獣の角から出る電流に邪魔され思うように攻撃できない。
おまけにスペシウム光線やその他のビームは怪獣のバリアーに防がれてしまった。
なすすべもなくやられるウルトラマン。
角で足を貫かれ、怪獣に突き飛ばされたウルトラマンはそのまま姿を消す。
一方怪獣もそのまま地底に潜り姿を消した。
負傷した郷は病院に運びこまれる。
「ウルトラマンが負けた。それにしてもバリアーで防御するなんて、何て恐ろしい奴だ」。
足を痛め思うように歩けない郷。
「ちくしょう。一体どうすりゃいいんだ」。
MATの調査により、アロー2号から放射能が検出された。
怪獣はどうやらウランを食べるらしい。
その頃アキと次郎は郷の入院する病院にお見舞いに向かっていた。
その道中、2人は丘の乗るビハイクルに遭遇する。
アキと次郎は丘のビハイクルに同乗し、郷のいる病院へ。
病室に入ると次郎はアキの作ったおはぎを郷に渡す。
おはぎを手にした郷は丘に怪獣の事を聞く。
仕事の話だからとアキに席を外すよう言う郷。
察したアキは次郎を連れて帰ろうとするが、次郎は
「郷さん、このお姉ちゃんが好きになったんだろ」と言う。
丘から怪獣が放射能を吐くことを聞いた郷は「次は第一発電所だ」と言う。
1人空き地でギターを弾くアキ。
次郎に事情を聞いた坂田はアキに
「郷って奴はそんな薄っぺらい男じゃない。どうやったら怪獣を倒せるか。そのことで頭が一杯なんだよ」。
その夜怪獣に敗北した時の夢を見る郷。
「そうだ。奴を倒すにはバリアーを飛び越せばいいんだ」。
MATは近くの土地を調査し放射能反応を検出する。
「やはり第一発電所に接近している」と加藤。
その時本部から郷が病院からいなくなったと連絡が入った。
連絡を受けた加藤は坂田の下へ。
坂田はアキらに聞くが知らないと言う。
加藤が帰った後、坂田は昔のことを思い出し、郷が平井峠に行ってるんじゃないかとアキに言う。
その頃郷は平井峠で丸太を抱え足腰を鍛えていた。
ウルトラマンが勝てないなら俺が勝ってやる。
そのためにはバリアーを飛び越えるジャンプ力を身につける必要があったからだ。
郷は坂田に受けた厳しい特訓を思い出していた。
「その程度の体力ではとてもフォーミュラのレースには勝てんぞ。立つんだ、郷」。
郷はテントを怪獣に見立てそれを飛び越える訓練をする。
一方MATもバリアー対策のため真上からの攻撃を訓練していた。
坂田に郷の様子を見に行くよう言われたアキは、次郎と一緒に平井峠に向かう。
郷を見つけた2人はその様子をジッと見守る。
郷は小さな谷をジャンプで飛び越えようとしていた。
しかし足を痛めているため、なかなか上手くいかない。
遂に谷を飛び越えるのに成功する郷。
「やった。やったぞー」。
「何で郷さんあんなことするんだ?」と次郎。
「怪獣に勝つために自分を鍛え直してるのよ。よっぽど強い精神力がないと出来ないことだわ」。
「私って馬鹿ね」。
すっかり元気になるアキ。
「一体どうなってるのかね?」
訝しがる次郎。
一方パトロール中の岸田と南は怪獣が発電所に向かってくるのを発見する。
アローの編隊を見た郷は怪獣出現を悟り現場に向かう。
アローは真上から怪獣を攻撃するが決定的なダメージを与えることは出来ない。
その時1人郷が怪獣に向かって飛び掛って行った。
しかし跳ね返される郷。
その時郷は光に包まれた。
ウルトラマンが登場すると、すぐさま防御バリアーを張る怪獣。
ウルトラマンは前回の敗戦を思い出していた。
離れて隙を窺うウルトラマン。
遂にウルトラマンは意を決し、空高くジャンプした。
見事流星キックが怪獣の角を粉砕する。
角を失った怪獣はバリアーが張れなくなり、地中に逃げようとする。 ウルトラマンは逃げる怪獣にスペシウム光線を放ち、見事怪獣を撃破した。
郷救出に向かった隊員たちは倒れてる郷を発見する。
「よくやった。立派だったぞ」と加藤。
「ウルトラマンが来なかったらやばかったぞ」と上野。
しかし加藤は
「今日はウルトラマンだけの活躍ではない。我々が心を1つにして戦ったおかげだ。ウルトラマンと我々MATのチームワークの勝利だ」と言う。
「これで東京も停電せずにすんだ」。
満足気に引き上げる隊員たちであった。

解説(建前)

ウルトラマンが受けた足の傷をそのまま受け継ぐ郷。
前回郷が受けた足の傷はウルトラマンに影響がなかった。
これはおそらく傷の程度によるのだろうが、ウルトラマンの受けたダメージの方が郷に伝わりやすいのであろう。
一方郷の受けた精神的ダメージはストレートにウルトラマンに伝わるようだ。
それはまた別の機会に言及する。

アロー2号はキングザウルス3世の放射能光線を浴びたが郷は被爆していなかった。
これはMATアローにかなり精巧な放射能防御対策が施されていることを示す。
同様に付近に巻き散らかされた放射能もある程度MATが除去したのではないか。
隊員服自体にもそれなりの対策がなされているのであろう。

ウルトラマンは何故空から攻撃せずわざわざジャンプしてキックをしたか。
これは相手の角を折るためには相手の一瞬の隙を突かねばならないため、一旦空を飛んでからキックしてもバリアーや光線で防がれる可能性があるからであろう。
郷のした特訓は直接役に立ったわけではないが、ウルトラマンにバリアー対策のヒントを与えたことは間違いない。
その気持ちに応えるため敢えて蹴り技を使ったとも考えられる。

もちろん他にも対策があったのは間違いない。
例えば空を飛んで上からビームを浴びせるとか、背後に回ってビームを浴びせるとか。
しかし空を飛びながらのビームは怪獣に命中させるのは難しいし、上にバリアーを張られるおそれもある(怪獣が上を向くとか)。
背後に回るのが1番確実なようだがこれとてバリアーをどこに張られるかわからないし、何よりそういう戦法はウルトラマン自身あまり好まないだろう。
ジャンプしてバリアーを飛び越え角を折る。
結局それが最もリスクの少ない選択肢だったのではなかろうか。

感想(本音)

帰ってきたウルトラマン唯一の直接スポ根を取り入れた話。
帰ってきたウルトラマンはよくスポ根ものの影響を取り沙汰されるが、それはあくまで坂田や加藤との師弟関係や郷の成長に関してそのエッセンスを取り入れただけで決してスポ根ものではない。
もちろん当初はこういう展開を多く書く予定だったのかもしれないが、今回の話があまり評判が良くなかったのであろう。
そこですかさずスポ根路線を諦めた脚本家やプロデューサーの嗅覚は流石である。

今回の話、他のMAT隊員についてはほとんど描かれていない。
唯一描かれてるのは丘隊員くらいか。
大全によると、脚本には丘隊員が郷について「あの目が好きだわ。いつも宇宙を眺めてるみたい」と言うセリフがあったという。
これはアキの嫉妬や不安を助長する狙いだったと思われるが、丘隊員の本作での位置づけが垣間見えるようで興味深い。

すなわち恋敵までは行かないものの、郷とアキの恋愛の妨げになり、逆にそのことによって2人の存在を近づける役割。
しかしこのセリフがカットされたことにより、その要素は結果的に生かされずに終わった。
これは監督やプロデューサーサイドがあまりにも恋愛物に偏るのは危険と判断したためであろう。
個人的には上原氏の生々しい脚本をオブラートに包んだ筧監督の判断は正解だったと思う。

因みに今回丘隊員が取り上げられてるのは、前回までで他の隊員の性格付けがある程度なされたため、残る丘隊員の役割をはっきりさせる意図だったものと思われる。
結局その伏線はあまり生かされず、普通の女性隊員になってしまったが。
その辺り丘隊員は1期のフジ隊員やアンヌ隊員に比べ不遇な扱いになってしまった。

「郷さん、このお姉ちゃん好きになったんだろ」と無神経な発言をする次郎。
郷の特訓を見て機嫌を直したアキを不思議がったり、上原氏が次郎に与えた役割は視聴者の子供を代表する無邪気な少年。
そしてその無邪気さを狂言回しにして話を動かしていく役割。
上原氏は子供の内面を描くことにはあまり興味がなかったようだ。
その辺り田口氏とはかなり違う。
市川氏もこどもを出すのは嫌いだったそうで、その辺り2期でも前期と後期で作風が異なる大きな要因だろう。

以下ツッコミを少し。
郷のまま怪獣を飛び越えようとする郷。
はっきり言って馬鹿。
しかしあれじゃ変身がバレバレでは?
隊長の「よくやった。立派だった」も意味不明。
大して活躍していないMATの割りに「チームワークの勝利」と言う加藤隊長の真意や如何に?
自分たちの真上からの攻撃がウルトラマンのヒントになったと思ったのだろうか。
坂田の郷に対する特訓はスポ根そのもの。
スタッフが当時の流行を意識してたのが窺える。
郷の特訓を見て郷に惚れ直すアキが目茶目茶かわいい。
1人落ち込みギターを弾くシーンなど、この時点でのアキの重要度がわかるエピソードだ。

本話はスポ根、恋愛を正面から取り上げたもので、結果的に「帰ってきたウルトラマン」全体では異色作の位置づけになっている。
ただし恋愛に関しては監督やスタッフの意向か、ややぼやかしたものとなった。
これは後半のアキ降板を考えると結果的には大正解であった。
と同時にスポ根路線を捨てたのも、結果的には大正解であったと思われる。
以後「帰ってきたウルトラマン」はテロチルス編を経て恋愛に関しては隠し味程度にとどめている。

そしてそれは以降のシリーズにも影響を与えた。
ダンとアンヌに始まったウルトラの恋愛はその後も成就することなく、平成に入ってティガのダイゴとレナまで待つことになる。
この辺りの是非は個人の価値観によるだろうが、ウルトラがこどもに定着していく過程においては恋愛を大きく取り上げなかったことはプラスに作用しただろう。
現在ならともかく当時はそういう恋愛物はこどもにとっては何とも気恥ずかしいものであった。
スポ根を捨て恋愛を抑え、以後主人公と周りの人間関係の軋轢を中心に据えた作劇は後のシリーズにつながる重要なフォーマットとなったと思われる。
以後の「帰ってきたウルトラマン」及び2期ウルトラシリーズの方向性を決定した点で、本作は重要なエピソードと位置づけられる。

新マン第3話 新マン全話リストへ 新マン第5話