落日の決闘


データ

脚本は千束北男。
監督は大木淳。

ストーリー

竜神岳方面で群発地震が続いていた。
原因を調べるため変装して調査に向かうMAT隊員たち。
竜神村に住む太郎少年はいたずら大好き。
この日もドライブのアベックに嘘の道を教えるいたずらをしていた。
その頃太郎の父作太は都会から来た婦人に太郎のいたずらについて苦情を言われていた。
息子たちが太郎に騙されてマイマイという馬の糞につく虫を持って行かされ恥をかいたという。
そこへ帰ってくる太郎。
しかし太郎は居合わせた駐在が機転を利かして家に入る前に逃げていった。
その時また地震が発生。
婦人はこんなに地震が多いなんて聞いてなかったと怒りながら帰って行く。
駐在によると太郎が人の家のペルシャ猫のひげを全部刈ってしまったと言う。
そこへ登山客に変装した郷が訪ねてきた。
一方太郎は駐在にいたずらについて咎められていた。
「お前誰かに何か言われたんじゃないのか」と駐在。
「やっぱりあの話は本当なんだね」と太郎。
その頃郷は作太から10年前の地震の話を聞いていた。
作太は10年前トンネル工事中に地震に遭い、その時亡くなった太郎の実の父親に代わって太郎を育てていると言う。
太郎も父親が本当の父親でないことを知っていた。
それを駐在に話す太郎。
村に到着した伊吹は村民にMATが調査に来たことがばれないようにと言う。
一方上野1人村への到着が遅れていた。
駐在の案内でトンネルに向かう郷。
地震波を調べた南はその特徴から生物の仕業であると分析する。
竜神トンネル付近に怪獣が潜む可能性が高いという南。
駐在とトンネルに入る郷。
そこへまた地震が起こる。
横穴を見つける2人。
郷はそこへ1人で入っていった。
すると南も調査のためトンネルにやって来た。
横穴を進んで行った郷は氷に包まれた怪獣を発見する。
その時再び地震が起こった。
郷は横穴に閉じ込められてしまう。
一方怪獣を父親の敵と考えた太郎は怪獣の元へ向かった。
氷に包まれた怪獣を地上から攻撃するMAT。
しかし怪獣はお尻をこちらに向け発火性のあるガスで反撃。
そこへようやく上野が到着。
上野は怪獣に爪弾きされ宙に舞う。
しかし上手いことに背負っていた爆弾が怪獣に命中した。
怪獣はその衝撃で片腕を飛ばされる。
勝ったと喜ぶ隊員たち。
しかし伊吹は怪獣の心臓が動いていると警戒する。
一方竜神トンネルで気を失っていた郷の所へ太郎が来た。
ラッパを吹いて郷を起こす太郎。
その時トンネル内の壁が崩落。
そこに氷漬けになった太郎の父親の姿が現れた。
その頃怪獣は幼体から成体に脱皮を遂げていた。
再び地震が起きウルトラマンに変身する郷。
ウルトラマンは巨大化せずそのまま太郎を穴から連れ出す。
そしてトンネルの外に出て巨大化すると、キングマイマイに光線を発射。
しかしキングマイマイは宙に浮かびそれを交わす。
格闘戦に持ち込むウルトラマン。
するとキングマイマイはあっさり倒されてしまう。
夕焼け空の下、様子を見届け飛び立とうとするウルトラマン。
しかしその時後ろから不意に糸を吐きつけられた。
糸に絡まり身動きが取れないウルトラマン。
カラータイマーが点滅する大ピンチだったが、何とかブレスレットで危機を脱出する。
最後はブレスレットを怪獣の腹に投げ入れ、そのまま爆発させた。
太郎と2人彦太の墓参りをする作太。
「これからおらのことなんて呼んでくれんだ」。
「やっぱり父ちゃんさ」。
2人の親子としての絆はますます深まった。
晴れ晴れと村を後にする郷たちであった。

解説(建前)

何故太郎は氷壁に閉じ込められているのが自分の実の父親とわかったか。
これはおそらく友達に実の父の事を聞き、写真を見せてもらったのだろう。
小さな村である。
あれだけの事故は当然語り草になっているはずで、それが太郎の耳に入らないはずはないであろう。
太郎がぐれているのは、それを正直に作太が打ち明けてくれないからとも思われる。

キングマイマイについて。
キングマイマイは幼体のまま氷漬けにされ、いわば冬眠状態だったものと思われる。
とすると、相当昔からそこに眠っていたのであろう。
それが気温の上昇で徐々に活動を始めていた。
成体になるまで後少しとなり、地上に出てきたのであろう。
飛ばされた腕は折りたたまれて収納されていたと考えられる。

感想(本音)

映像の美しさが魅力のエピソード。
またキングマイマイが変態したり、おならをしたり、不意打ちをしたりとなかなか個性豊かに描かれていた。
怪獣に重点を置いた点では初代マン的であり、その観点からも十分成功作といえる。
ただやはりそこは帰りマン。
少年の屈折した心情を中心に、人間ドラマがしっかり描かれている。

まず今回は初っ端から笑わせてくれる。
MATが乗り込むと村民がパニックになるからという理由で隊員たちは変装させられしかも電車で現地に向かうという。
隊長は半ばレクリエーションのつもりだったのかもしれないが、いつもと違う展開はなかなか楽しい。
そして道に迷ってやばい状態になる上野。
ここは完全にギャグシーンのはずだが、演出か演技か、上野がただ危ない人にしか見えないところが不気味だ。
そして怪獣に飛ばされて空を飛んでいく上野。
御丁寧にリュックに背負っていた爆弾が怪獣に命中して怪獣の腕が吹っ飛ぶおまけつき。
初手柄かと思ったのも束の間で、結局変態により無駄に終わる。

しかし一連のギャグシーンはかなりシュール。
これは脚本の飯島さんの意図か監督の大木さんの狙いか。
飯島さんの狙いだとすると「侵略者を撃て」のイデ隊員を彷彿させるが、それとはかなり異なった演出である。
2人の共作により生まれたキャラなのだろう。
ただ今までの上野隊員とはやや違うので違和感はさすがに感じる。
強いて言えば初期の占い好きの頃の雰囲気であろうか。

キングマイマイについてはやはり脱皮するシーンが秀逸。
この展開は子供心にも強く印象に残った。
こういうこれまでにない試みがあったからこそ、キングマイマイが名怪獣の一つになったのであろう。
そして死んだ振りをしての不意打ち。
どう考えても3分以上戦ってるやんという突っ込みは置いといて、これも子供心に結構印象に残っている。
御丁寧にマイマイの顔アップに不気味な笑い声のような摩擦音。
夕景の美しさとは裏腹に緊迫したシーンである。

今回は夕景だけでなく、竜神村の大自然の描写が美しい。
そして大木監督の一斑体制だからこその、特撮と本編との見事な融合。
飛んでいく上野や対照的なセピア色の10年前の事故。
少年と育ての父との絆。
30分番組にしてはなかなかに贅沢な内容となっている。
ただそれだけに弱点もある。
それはどの要素もやや未消化であることだ。

特に太郎のいたずらから、実の父への想い、育ての父への想いの部分がもう一つ上手く描けていない。
それは氷壁の中に閉じ込められた父との再会シーンに最もよく現れているだろう。
あくまでそこを中心にしたくなかったのかもしれないが、子供心にはその再会シーンより、いつもと違って等身大のままトンネルを出て行くウルトラマンの方が遥かに印象に残っている。
この辺りはやはり帰りマン的要素を無理やり脚本に盛り込んだ弊害なのであろう。
一方で上野のシーンもやはり唐突な印象は免れず、シュールさのみ際立ってしまった。

今回のエピソードは前後を重いエピソードに挟まれていることから、配置的にはベストである。
ただし単品で見た場合、それほど傑出したエピソードとは言えないであろう。
それでも特撮や映像など見るべきものは多い。
正直個人的には次のエピソードよりよっぽど覚えており、子供に訴えかける力はなかなかのものがある。
そういう意味ではウルトラシリーズとしては成功なのかもしれない。

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