怪奇!悪魔のすむ鏡


データ

脚本は田口成光。
監督は岡村精。

ストーリー

ゲン、トオル、カオル、百子、猛は公園でペーパークラフトを飛ばして遊んでいた。
遠くの方へ飛んでいってしまうペーパークラフト。
そのペーパークラフトを拾い上げる和服の婦人。
そこへカオルがやってきた。
「なんてかわいいのかしら。そっくりだわ。亡くなった娘にそっくり」。
カオルを見て驚く婦人。
「すみません」とカオル。
カオルが気付くと、カオルは婦人と二人だけの不思議な世界に迷いこんでいた。
「お母さん」。
婦人に抱きつくカオル。
手を取り合う二人。
しかしカオルが握っていた手はいつの間にかゲンのものに変わり、カオルは現実に引き戻される。
そこへトオルたちがやってきた。
「カオルって名前なの」と婦人。
カオルを呼びに来たゲンは婦人が宇宙人であることに気が付く。
去っていく婦人を追おうとするカオル。
引き止めるゲン。
「また、邪魔をするのね。ゲン兄ちゃんの馬鹿」とカオル。
カオルを百子たちに預けて婦人の後をつけるゲン。
地下道に入って行く婦人。
すると婦人は鏡の中に姿を消してしまった。
母親の写真を見るカオル。
母親の顔はさっきの婦人にそっくりであった。
鏡に向かって母の形見の口紅を使うカオル。
「お母さんはこれをいつもこうして使っていたんだわ」。
すると何処からかさっきの婦人の声が聞こえてきた。
「お母さん?」
探し回るカオル。
鏡の中にさっきの婦人を見つけるカオル。
「いらっしゃい」と婦人。
躊躇うカオル。
「大丈夫。そのままいらっしゃい。さあ、早く」。
「お母さん」。
しかしカオルは婦人に誘われるまま、鏡の中の世界へ入っていった。
鏡の中の世界で母親とそっくりの婦人と楽しく遊ぶカオル。
その夜、カオルは遂に帰ってくることはなかった。
カオルの母親の写真を見たゲンは、昼間の婦人とそっくりなのに気付く。
すると鏡の中からカオルの歌が聞こえてきた。
鏡の中で楽しそうにする二人を見るトオル。
しかし婦人はその鏡を内側から破壊する。
不思議な現象は街の様々なところで起こり、次々とMACにその報告が入ってくる。
「マザラス星人だ」とダン。
「マザラス星人は鏡の世界に住んでいて、しばしば人間の子どもをさらうそうだ」。
「じゃ、カオルちゃんは、鏡の中にずっと」とゲン。
「おそらく帰ってくることはできないだろう」とダン。
「お前の気持ちはよくわかる。しかしできないことはできないんだ」。
「そんなバカな」。
それを聞いて基地を飛び出すゲン。
スポーツセンターに来たゲンは一人落ち込むトオルを見つける。
スポーツセンターの体育館の鏡を拳で割るトオル。
それを見たゲンは何とかカオルを助けようと鏡の世界へ行こうとする。
しかしそこへ来たダンはゲンを制止する。
「あそこにいるのはマザラス星人だ。たとえ行ってもカオルちゃんを帰すようなことはしまい。第一、帰ってくることはできん」。
しかし「やってみなければわかりません」とゲンは鏡の中に突入する。
鏡の中の世界は一面の砂漠であった。
遠くから聞こえるカオルの声。
一緒に楽しく笑うマザラス星人の声も聞こえてきた。
二人を見つけるゲン。
しかし二人はドンドン遠くへ行ってしまう。
何とか二人に追いつくゲン。
「カオルちゃん。さあ帰ろう」とゲン。
「嫌よ。私帰らないわ。ゲン兄ちゃんはどうしてそんなに私の邪魔ばかりするの?私、お母さんにやっと会えたのよ」とカオル。
「カオルは私の娘よ」と星人。
「マザラス星人め。カオルちゃんを返せ」とゲン。
「私のおかあさんに何てこと言うの」とカオル。
星人は鏡を太陽に翳して怪獣スペクターを呼び出す。
「スペクター。この男を追い払っておくれ」。
ゲンに襲い掛かるスペクター。
ゲンはスペクターの崩した砂の中に生き埋めになる。
「ゲン兄ちゃん」とカオル。
「お前にこの幸せを壊されてたまるものですか。カオルちゃん。さあ行きましょう」と星人。
躊躇するカオルに「あなた、私とあの人とどっちが大事なの」とカオルを連れ出す星人。
ゲンは鏡を使って鏡の中に入れたのだから出るときも鏡を使えばいいと考え出す。
池のほとりで花を摘む二人。
そこへゲンが来てカオルを連れ出そうとする。
「お母さん。助けて~」とカオル。
「お母さんなんかじゃない。騙されてるんだ」とゲン。
ゲンは強引にカオルを引っ張っていく。
嫌がるカオル。
「カオルちゃん。よく見るんだ。これが本当のお母さんだよ」。
ゲンは本当の母親の写真をカオルに見せる。
鏡を使ってその写真を焼き払う星人。
「お前を生きては帰しません。鏡の世界からは帰しません」。
スペクターを呼び出す星人。
逃げる二人。
カオルは元の世界へ帰るのを拒否する。
「カオルを連れ帰れるものならそうしてごらん。鏡の中を見るがいい」と星人。
鏡の中では地上へ飛び出したスペクターが街を破壊する光景が映っていた。
「お兄ちゃん」。
カオルはスペクターに襲われるトオルの姿を見て思わず叫ぶ。
「カオルちゃん。こっちにいらっしゃい」。
カオルを取り戻そうとする星人。
しかしカオルはそれを拒絶する。
「嫌。おばさんは私のお母さんじゃないわ。本当のお母さんなら、お兄ちゃんも私もかわいいはずよ」とカオル。
それを聞いて倒れ伏す星人。
星人は般若の顔になり巨大化した。
杖を振り回す星人。
気を失うカオル。
「カオルは誰にも渡さない。カオルは死んだ娘にそっくりなんだ」。
レオに変身するゲン。
「レオ。私の折角の幸せを壊したお前が憎い。死ね」と星人。
カオルを手の中で庇いながら戦うレオ。
星人の杖に苦戦するレオ。
何とか身をかわすレオ。
高笑いする星人。
するとトオルを呼ぶカオルの声が。
レオはレオマントを使って巨大な鏡を作り出す。
そしてその中に突入するレオ。
一緒に外の世界へ行こうとする星人だが、鏡は目前で消え、そのまま鏡にぶつかり絶命する。
外の世界でスペクターと戦うレオ。
最後は手刀でスペクターを倒す。
カオルたちは改めて母のお墓参りに行く。
「鏡の中の宇宙人は、カオルちゃんを見て、胸が締め付けられる思いだったんだろうな。気持ちはわかるが、許してはいけないことだ」とダン。
「お母さん」。
お墓の前で星人との楽しい時間をを思い出し、涙を流すカオル。
「お母さーん」。

解説(建前)

マザラス星人は何者か。
マザラス星人の娘はカオルそっくりだったという。
とすると、星人は人間に近い容姿を持つ種族なのだろう。
巨大化の能力はあるようだが、般若のお面は単なる武装ではないか。
日本の文化に精通していることから、かなり以前から鏡の中の世界に住んでいたものと思われる。

街の中で起きたという不思議な現象とは何だったのか?
カオル以外にも星人に連れ去られた子どもでもいたのだろうか?
しかし、星人は恐らく一人であることから、何人もの被害者出たというのはおかしい。
そもそも複数の星人が一斉に子どもをさらい出すのは不自然極まりない。
これはおそらく、子どもの歌声があちらこちらの鏡から聞こえてきたというに過ぎないだろう。
当然その声はカオルのものである。

レオは何故元の世界に戻れたのか。
ダンによると星人は過去にも子どもをさらって、その子どもは二度と元の世界には戻れなかったという。
ただ、星人自身は鏡の中と外を自由に行き来できたので、出入り口さえ見つかれば戻ってくること自体は可能なのであろう。
レオはマントの超能力でその境界を作り出し、そこを通って生還することができた。
今までさらわれた子どもは、星人が帰さないのもあったが鏡の中の過酷な環境に適応できず死んでしまったのではないか。
星人が子どもをさらい続けるのは、さらってきた子どもが長生きできないのもあるであろう。

感想(本音)

幻想的な話で解釈が少し難しい話。
本話の脚本も田口氏だが、タイショー、アトランタ星人、マザラス星人の三部作は同じ人が書いたとは思えないほど毛色の違う話である。
しかもいずれの話とも完成度は高く、本当に全部田口氏が書いたのかと思わず疑いたくなる。
まあ、こういう児童文学系の話は田口氏の真骨頂ではあるのだが、カオルの母親への思慕をこういう形で物語にした点、評価できる作品であろう。

本話の監督は岡村精氏。
バクタリの回などでも見られたシュールな演出はなかなか巧み。
昔の作品だが、鏡の中で戯れる二人の映像は前衛的で今見ても古さを感じない。
大人になってウルトラを改めて見返した時、意外と映像が凝ってることに驚かされる。
まあ、当時のウルトラはゴールデンの看板番組だったからこれくらい力が入るのも当然だが、知らず知らずのうちにこういう作品を見ていた自分たちの子ども時代は恵まれていたなと思う。

本話はカオルのほぼ単独主役回。
降板が決まっていたかどうかは知らないが、実質的に最後の見せ場となった。
しかし、カオル役の冨永美子氏(現冨永み~な氏)の演技力はなかなか凄い。
今や国民的アニメの声優として有名な同氏だが、やはり子どもの頃から演技の才能があったのだろう。
因みにカオルが劇中で歌う「大の字の歌」は冨永氏自らが作った歌とのこと。

本話のポイントはやはりカオルが兄トオルを思って正気に戻るところであろう。
星人にとってトオルは関係ない他人であるが、カオルにとってはかけがえのない兄である。
星人が本当にカオルの母親ならトオルにとっても母親のはず。
当たり前のことだが、この辺りはつぼを押さえていて良い。
いくらゲンが真剣に説得しても、やはり家族の絆にはかなわないということだろう。

ゲンがカオルを助けようとするシーンでは、砂丘の斜面をカオルが引きずられてちょっと気の毒だった。
その後もゲンに引きずられ続けたので、擦り傷とかは結構できたのではないか。
見ててちょっとかわいそうだった。
また、本話のロケは鳥取砂丘とのことだが、ゲンもカオルも目に砂が入って大変だったとのこと。
冨永氏によると、目に砂が入って開かなくなった時、母乳が目にいいからとたまたま現場にいたおばさんに母乳を差してもらったらしい。

カオルちゃんが母親の形見の口紅を差すシーンはちょっと大人向けの演出。
岡村監督は少女の表情にこだわりのある演出をするが、この辺りのシーンは監督の趣向が出たのであろう。
今回はトオルの出番は少なかったが、カオルを思って鏡を割るシーンなど重要な役どころを演じていた。
2人の兄妹愛というのもレオのテーマの一つ。
このテーマはカオルが死んでからも描かれることになる。

本話のテーマはズバリ親子愛。
幼いカオルにとって、ほとんど記憶にない母親の思い出というのはやはり大事なのだろう。
考えてみれば、この歳で両親を失ったカオルは本当に不憫。
今までそのことをあまり表に出さなかったが、母親そっくりの人が出てきて自分の中に押さえ込んできた感情が爆発したのであろう。

一方、マザラス星人はどういう事情があるかわからないが、やはり自分勝手。
ただ、子を思う親というのは案外自分勝手なものなので、星人を人間に置き換えても十分成立する話であろう。
マザラス星人の変身体も単に般若の仮装に過ぎないので、あまり宇宙人という感じがしない星人でもある。
怪獣を操ってなかったら、ウルトラでなくても良かったほど。

前述したように本話の脚本は田口氏。
鏡の中の世界と言うとミラーマンを思い出すが、ちょっとホラー風味のファンタジーはレオの持ち味でもある。
タロウがもっとベタな妖怪譚が中心なのに対して、宇宙人が中心のレオはもう少し西洋のホラー風味な話が多い。

本話でレオの中期はほぼ終わり。
前回でゲンと百子の関係に一応の決着をつけ、本話でカオルの母への思慕を描いた。
さらに、次のババルウ編ではレオとウルトラ兄弟及びダンとの決着もつけている。
トオル以外のテーマは一応回収が済んだといえるだろう。
重要なテーマの回収としてはよくできたエピソード。
鏡の中の世界という設定が上手く生かされており、手堅い一本である。

レオ第36話 レオ全話リストへ レオ第38話