怪獣ひなまつり


データ

脚本は阿井文瓶。
監督は山際永三。

ストーリー

ひな祭りを祝う3人の姉妹。
嫌がる末の妹に白酒を飲ませる長女。
それを渋い顔で飲み干す妹。
3人はひな祭りの歌に合わせて踊り始める。
そこへ近所の悪ガキたちが集まってきた。
「太郎ちゃん、女」と冷やかす悪ガキたち。
実は末の妹は末の弟の太郎が女装した姿であった。
道具箱からスパナを取り出す太郎。
それを振り回し悪ガキたちを追い払う。
窘める姉たち。
悔しくて涙ぐむ太郎。
太郎は突然狂ったように山本リンダの物まねをして歌い踊る。
呆然とする悪ガキたち。
拍手喝采する姉たち。
「太郎ちゃんは長男。今にお家のご主人になるんですからね」。
「無事に大きくなってもらいたくて大切にしてるのよ」。
着物を脱ぎ棄てて、悪ガキたちに石を投げつける太郎。
そこへパトロール中の光太郎が通りかかった。
「僕は強いんだ。ままごとなんか好きでやってんじゃないや」と太郎。
一人で泣いている太郎に光太郎が声を掛ける。
「みんなにからかわれたけど、よく我慢したね。感心したよ」と光太郎。
「ほんとは僕だって」。
「わかってる。乱暴するとお姉ちゃんたちが心配するもんね。同じタロウなんだから、ウルトラマンタロウみたいに本当は強くても普段は優しくしなくちゃね」と光太郎。
「でも僕悔しいや」と言い、走り去る太郎。
その時、ZAT本部から怪獣出現の報が入る。
宇宙怪獣ベロンは何よりもお酒が大好きで、大酒を飲んで酔っぱらって迷い込んだのがこの地球であった。
酒を求めて暴れまわるベロンを攻撃するZAT。
ホエールからの攻撃を受け座り込むベロン。
さらにコンドルがレーザーを浴びせる。
攻撃を受け逃げ惑うベロン。
すると突如煙に包まれ姿を消してしまった。
ベロンはレーダーに映らず瞬間移動ができる特殊能力の持ち主であった。
他の地区へ瞬間移動したベロン。
ZATもすぐ移動するが、ベロンはまた姿を消してしまった。
追いかけても追いかけても姿を消すベロン。
その頃一人河原を歩いていた太郎は5人の宇宙人と遭遇する。
その宇宙人はファイル星人といい人間の子供そっくりの容姿をしていた。
5人が皆楽器を持っていたことから、五人囃子のようだなと太郎。
星人たちはベロンを追って地球へ来たという。
ベロンを連れ帰る手伝いをして欲しいとファイル星人。
「ZATでダメなのに、僕にできるわけないよ」と太郎。
ベロンを捕まえないと帰れないと星人たち。
ファイル星人の作戦はベロンを酔っぱらわせ踊らせ、いい気持ちになって寝込んだところを捕まえるというものであった。
そこへZATのホエールがやってきて、ベロンを攻撃する。
また姿を消すベロン。
太郎はファイル星人と一緒に家に戻り、姉に頼んで白酒を大量に作った。
ビニールプールを持ち出しそこにありったけの白酒を注ぐ太郎たち。
お酒の匂いに釣られて姿を現すベロン。
ベロンはビニールプールを掴むと一気に酒を飲み干した。
すかさずサングラスをかけた太郎はファイル星人や姉たちと一緒にフィンガー5の曲を歌い踊りだす。
一緒に踊り出すベロン。
そこへZATのホエールとコンドルが飛んでくる。
「何だあの子たちは。攻撃できないじゃないか」と荒垣。
子供たちを避難させるため着陸する光太郎と北島のコンドル。
いくら踊ってもベロンが眠らないことから、踊りをやめる太郎。
「ちっとも寝ないじゃないか」。
「お酒、足りないかな」とファイル星人。
そこへ光太郎と北島がやってくる。
「何をしてるんだ。危ないじゃないか」と光太郎。
「白酒をもっと飲ませればあいつは寝ちまうんだ」と太郎。
「ほんとうかい?」と北島。
「ベロン、お酒、好き。酔っぱらう」とファイル星人。
「副隊長。変な話なんですがね。スカイホエールで白酒が合成できますかね?」
荒垣に連絡をとる北島。
話を聞いて頷く森山。
太郎たちはベロンの口を上に向けるため、山本リンダのマイクパフォーマンスを真似て歌い踊る。
遂に上を向くベロン。
そこにホエールから白酒が投下された。
美味い美味いと白酒を飲むベロン。
さらに手に持った瓢箪で酒を受ける。
悪酔いしたベロンはさらに暴れまくった。
ベロンを落ち着かせようと歌い踊る太郎たち。
しかしベロンの攻撃を受けホエールが墜落してしまった。
子供たちを逃がしてタロウに変身する光太郎。
ベロンを痛めつけるとタロウはキングブレスレットをバケツに変形させ、バケツの水を浴びせた。
寝込んでしまうベロン。
タロウは寝込んだベロンを持ち上げるとそのまま宇宙へ飛び去る。
ベロンと一緒に宇宙へ帰っていくファイル星人たち。
空から手を振るファイル星人たちを見送る太郎と姉たち。
悪ガキたちとも仲直りした太郎は光太郎、北島と一緒に踊りながら家路に着くのであった。

解説(建前)

ファイル星人はなぜ太郎にベロンを捕まえる手伝いを頼んだのか?
まず星人が日本語を話せた点については、ウルトラの世界では特に問題にならないであろう。
けだし、ウルトラの世界では地球語は全宇宙に広まっていると言っても過言ではないからである。
そして単語と文法さえわかればその翻訳は機械に任せればよい。
google翻訳が当たり前の現代。
宇宙人のテクノロジーがあれば、翻訳など造作ないことである。

では、星人たちが太郎に協力を頼んだのはなぜか。
たまたま初めて出会った地球人であったからという可能性も考えられるが、それにしては歌って踊るという太郎を知ってるかのような依頼である。
これはやはり太郎が歌い踊る姿を見たことから太郎に頼んだのであろう。
また自分たちの身の安全を考えると、大人よりも子供の方が頼みやすい。
そこで太郎を待ち伏せして頼んだのであろう。

ファイル星人たちはなぜベロンを捕まえに来たのか。
この辺りの経緯は星人の口からは語られていないが、普通に推測するとベロンは星人のペットのような怪獣なのであろう。
普段は大人しいのだが、酒を飲むと豹変して暴れ出す。
星人たちがベロンを連れ帰る責任を負わされていたことから、お酒を与えたのは彼らではないか。
一応管理者である星人が引き取りに来ていたことからベロンは無罪放免となったが、あるいは宇宙の裁判所のようなところでお灸を据えられている可能性もあるだろう。
少なくとも同様な事件を起こさないと保証できなければ、殺処分もやむを得ないと思われる。

感想(本音)

色々な意味でタロウらしい話。
ただし、若干ネガティブな意味も含まれる。
個人的にこの話を初めて見たのはおそらく小学校高学年だったため、正直あまりいい印象は残っていない。
やはりフィンガー5や山本リンダを子供たちが歌い踊るというのは見ていて恥ずかしい。
しかも酔っ払い怪獣って。
子供、特に高学年の子供はこういうのは気恥ずかしくてあまり好きではないと思う。

と、マイナス評価から書き起こしたが、大人になった今見ると、これはこれで結構面白いと思った。
まず冒頭のひな祭りのシーン。
今はやりのLGBTの話かと思ったが、さすがにそれはなし。
太郎が無理やり女装させられてることから、姉たちの趣味かと思いきや、姉のセリフからは単に大切に育ててるだけとのことだった。
男の子が主役でひな祭りというのは無理があるのでこういうシーンを入れたのであろうが、なかなか思い切った展開。
この辺りの展開は脚本にあったのか、あるいは山際監督の発案なのかはわからないが、いずれにせよ倒錯的な映像はウルトラでも例を見ないもので、この辺りは山際監督のセンスが光っていると言えよう。

ただ、その後の展開はかなり強引。
太郎が悪ガキたちにからかわれるのは自然な展開であるが、突然山本リンダを踊り出すのはさすがに頭がおかしいであろう(笑)。
これは当然後半の伏線なのであるが、説明不足のため唐突な印象は免れない。
太郎が歌い踊る理由についてはあるいは脚本で言及されていた可能性もあるが、あまり説得力がなかったのか、本編の映像では語られなかった。
こちらも山本リンダやフィンガー5を歌い踊るというのが先にありきだったのかもしれない。

本話の問題の一つに姉たちが弟に女装させて自分たちの玩具のように扱っている点が虐待ではないかというのがある。
ただ、太郎の性格はスパナを持って暴れたり石を投げたりなかなか好戦的なので、普段から女性らしさを強いられているというのはなさそうだ。
しかし姉たちはなぜ太郎にあんな格好をさせたり、暴力を振るうことを咎めたりするのであろうか?
本人たちは太郎を大切にしてるとのことだが、穿った見方をすると、将来当主になる弟を今のうちに手なずけておこうとしてるようにも見える。
まあ、この辺りは親の影響や意向が大きいだろうので、それを無視して語っても仕方ないであろう。

相変わらずこういう場面に偶然遭遇する光太郎。
まあ、これは作劇上の都合なので、スルーしておく。
ただ、いつもなら話に絡んでくるさおりと健一が今回は出ていなかった。
単にスケジュールの都合なのか、話に絡ませるのが難しかったのか。
正直無理に絡ませる必然性は感じられないので、ストーリー上は特に違和感はなかった。
太郎を演じた子役は他にあまり出演作はないようであるが、意外に芝居は上手かったと思う。
女装もそれほど違和感ないし、見た目も悪くないのでもう少しドラマに出てても良さそうなものではあるが。
まあ、昔は今ほど子役事務所が整備されていなかったので、早々に止める人も多かったのであろう。

ベロンについてはやはり同じ阿井脚本のモットクレロンとの類似性が注目される。
食いしん坊怪獣がいたから今度は呑兵衛怪獣ということでもないであろうが、前者が塩漬けにされたのに対して、後者はただバケツで水を掛けただけという点、若干弱い。
タロウではモチロンなどこういう擬人化された怪獣がやたら出てくる印象があるが、この辺りは1期ファンから見るとふざけてる、そんな怪獣は怪獣じゃないって印象になると思われる。
個人的にもやはり王道な怪獣の方が好きではあるが、シリーズも初代マンから数えて5作目となると、正直怪獣のネタ切れになるのも仕方ないであろう。
最近のウルトラは昔の遺産を上手く活用するなどその辺りは小慣れてきてる感があるが、当時はまだまだ遺産も少なく、新しいものを生み出すのに四苦八苦していたと思われる。
レオが星人を単なる通り魔化して人間ドラマに比重を置いたのもそういう事情もあるであろう。

話は逸れたが、書いていて怪獣の擬人化ってどこから始まったのだろうと考えてみると、実は初代マンのガヴァドンやシーボーズがそれなんじゃないかと思い当たった。
ギャンゴなんかもユニークな怪獣であったし、ウルトラQまで行くとカネゴンもいるし、ウルトラではないが円谷はブースカも作ってたわけだし、何もタロウから特別変わったわけではない(当たり前なんだけど)ということがわかる。
ZATの白酒作戦や鳥もち作戦も初代マンのスカイドンに対する作戦と本質的には変わらないし、そう見るとやはりタロウはシリーズ10周年記念作で原点回帰というのがよくわかる。
ただし、スカイドンもシーボーズもガヴァドンも佐々木守脚本なので、それを正統とすることにはかなりの疑義を感じるが。
そう言えば以前にイベントそのものと言ったテンペラー編の脚本は佐々木守であった。
如何にもタロウらしい作品と言われるが、そういう意味では佐々木守らしい脚本だったとも言えよう。

本話は見たらわかるが、完全にギャグ編。
まあタロウの場合ギャグか真面目かわかりにくい面があるので、ホエールで白酒を合成できると聞いても通常運転に見えてしまうが(笑)、森山隊員が頷くシーンはやはり笑ってしまった。
ベロンに白酒を飲ませすぎて暴れ出すシーンで挿入される宇宙人の「飲み過ぎだ」というアップのシーンもギャグのそれだし、宇宙人と太郎の出会いのシーンでのシーソーなど山際監督のセンスであろう。
劇伴もモチロン編と同じものを使うなど、こちらは音楽監督の仕事であろうが、コミカルな雰囲気を盛り上げていた。
極めつけはフィンガー5と山本リンダ、金井克子らの楽曲であるが、前二者は世代じゃなくても知ってるが、金井克子となると私的には「パールライス」のCMのイメージしかない(笑)。

冒頭でネガティブな意味でタロウらしいと書いたが、それはやはりベロンが実質的に無罪放免にされた点にあるだろう。
解釈ではその辺りをフォローするために宇宙の裁判所とか適当なものを持ち出したが、制作側は当然そこまで考えていないと思われる。
ガヴァドンやシーボーズは基本街を破壊しなかった。
少なくとも破壊する意思は持っていなかったのであるが、ベロンは酔っ払いが暴れる如く街を破壊して回った。
人的被害も相当出ていたと思われる。
普通ならタロウに爆殺されても文句は言えないであろう。

ではなぜベロンは無罪放免になったのか。
これはまずファイル星人という保護者がいた点。
ただ、これも法律の世界だと管理者責任は免れない。
この辺りはファイル星人を子供にすることで(単なる偶然であろうが)上手く誤魔化したと言えるであろう。
そしてベロンが酔っぱらっていたというのも大きな要因である。
当時は今と比べてお酒に寛容な社会で飲酒運転なども当たり前に行われていた(もちろん違反ではあったが)。
酒の席だから無礼講という言葉もあり、酔っぱらっての非行は許される傾向にあったのである。
ベロンについても酒さえ飲まなければ害がないという判断がなされたのであろう。

あと、これは初代マンからの伝統でもあるが、擬人化された怪獣は基本的には殺されないというのもある(ジャミラはそれを逆手にとって悲劇性を演出していたが)。
これは擬人化された怪獣を殺すと余計に残酷に見えるというのもあるだろうが、基本的には愛玩用の動物か害獣かの区別に従っているのであろう。
ただ、タロウはきさらぎ星人を見逃したり、特に後半、怪獣に対して寛容になった。
一応懲らしめて罰は与えているが、再犯防止の対策は取っておらず問題が残るところである。
この辺りは視聴者側からの要請のようであるが、「ウルトラのクリスマスツリー」のような話もあるので、その場合はあまり街を破壊しないよう配慮して欲しかった。

本話の脚本は阿井文瓶。
後半は実質的なメインライターと言っていいくらい、脚本を書いている。
ただ、この頃はまだまだ本人も手探りの状態であったのだろうが、苦しい話も多い。
この辺りはプロデューサーサイドからの要請に従って書いていたのもあるだろう。
本話も童謡縛りという結構無茶な条件の中で、強引に白酒で話を組み立てるなどかなり頑張ってるとも言える。
個人的にはタロウは初期の妖怪譚的な話や王道バトルものの方が好きではあるが、次回作が決まった繋ぎの時期に作品世界を広げようと色々試したこと自体は評価できるであろう。

本話の監督は山際永三。
既述のように、遊び心満載の演出はさすがであった。
山際監督は後に児童ものを多く手掛けるように、子供の演出は得意。
本話も太郎はじめ子供たちが生き生きと描かれており、昭和40年代の風景とも相まって何ともノスタルジーを感じさせる。
昔のドラマはそのまま当時の映像資料でもあるので、そういう視点で楽しむのも一つの見方であろう。

本話についてはあるいは子供向け過ぎて恥ずかしいと思う人もいるかもしれない。
しかし、逆に大人の目線で作品を見ると、子供向けにしっかり作られているのがわかるであろう。
それをどう評価するかは個人の自由であるが、私は意外と子供の頃見た時より楽しめた。
まあ、子供向けのドラマなので子供に受けないと意味はないのであるが、これは子供の年齢や個人の性格等で変わってくるので一概に論じるのは難しいであろう。
少なくとも今見る限りは当時の小さい子供には受けたのではないか。
前述したようにベロンを無罪放免にした点など問題もあるが、シリーズ後半の作風の中では一応及第点は与えられる話だと思う。

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