怪獣を塩漬にしろ!


データ

脚本は阿井文瓶。
監督は真船禎。

ストーリー

緑のない星からビタミンCを狙って宇宙人が来襲。
迎撃するZAT。
宇宙人の乗った宇宙船は爆破炎上した。
しかしその時サッカーボールほどの物体が太陽光に紛れて放出される。
それに気づかないZAT。
PTAの会合の通知を渡しに八百屋を訪れるさおり。
「武志ちゃんは?」とさおり。
武志は八百屋の息子で健一の友達。
白鳥家に遊びに来るほどさおりたちと親しかった。
裏の柿の木のお守りをさせていると武志の父。
理由を尋ねるさおり。
「八百屋の倅のくせにして野菜が嫌いだって飯を食わねえもんですから」と父。
「この前家に来たときには、何でもよく食べていたのに」とさおり。
「あっしの料理の腕が悪いんですかね」と父。
武志はつい三か月前に母親を亡くしたばかりだった。
店の裏へ行くさおり。
そこにはつまらなさそうな様子の武志が。
さおりが声を掛けると、武志は急に元気な声で歌い出す。
「お父さんに謝ってあげるから家へ入んなさい」とさおり。
「折角涼みながら星の観察してたのに。ま、お姉ちゃんの顔を立てとくか」と武志。
「武志ちゃん。人間は死ぬとお星さまになるのよ。星になったお母さんが見てるんだから、いい子にならなくちゃダメじゃない」とさおり。
「お姉ちゃんて、案外非科学的なこと言うんだね」と武志。
武志が店に戻ると「男が食いもんのことでごちゃごちゃ言うのがみっともねえってことがわかったか」と父に叱られる。
「いくら八百屋だってね。売れ残りのニンジンやイモばっかりじゃうんざりだよ」と武志。
自分の部屋へ上がって夜空を見つめる武志。
「人間が死んだって星なんかになるわけないじゃないか」。
涙を流す武志。
「母ちゃんの煮た大根は美味かったな」。
すると突然サッカーボールのようなものが武志の目の前に降ってきた。
物干しざおでボールを突く武志。
武志の部屋へ飛び込むボール。
武志が跳ねるボールを捕まえると中から宇宙怪獣が誕生する。
食べ残しの夕食の野菜の煮物を持っていく武志。
喜んでそれを食べる宇宙怪獣の子供。
武志は宇宙怪獣を洞窟に匿い、毎日大量の野菜を持っていく。
成長して徐々に巨大化する怪獣。
「モット、モット」と叫ぶことからモットクレロンと命名する武志。
「もっと体が大きくなって自分の星に帰れるようになったら、僕も一緒に連れて行ってくれないか」と武志。
「さおりさんに言われてから、遠い星に本当に母ちゃんがいるような気がするんだ」。
「モット、モット」と強請るクレロンのために野菜を取りに家に帰る武志。
家に帰ると父に店の手伝いをするよう言われる。
おやつを頼んでも店のみかんやりんごを食えとそっけない。
「母ちゃんは菓子を作ってくれたぞ」と武志。
「父ちゃんは母ちゃんじゃない」と父。
「父ちゃんは僕のことなんか全然かわいくないんだ。仕事ばかり手伝わせて、店の方が大事なんだ」と思う武志。
父を突き飛ばして野菜を持ち逃げする武志。
「父ちゃんなんか大嫌いだ」。
その頃さらに巨大化したモットクレロンは野菜を求めて八百屋のトラックを襲撃していた。
爆破炎上するトラックの荷台から落ちた野菜を食べるクレロン。
翌日武志が洞窟に行くと、そこに巨大化したクレロンが。
「昨夜の野菜泥棒はやっぱりお前か」と武志。
「何がモットだ。人に迷惑掛けて平気なのか」。
しかしクレロンは武志に向かって放屁し、さらに石を投げつけてきた。
「育ててやった恩を忘れやがって。俺はお前の父ちゃんなんだぞ」。
武志が家に戻ると、武志の父が必死に野菜を片づけようとしていた。
野菜を片づける手伝いをするよう言う武志の父。
「父ちゃんは僕より野菜の方が大事なのか」。
家を飛び出す武志を追う父。
「あの怪獣は僕が育てたんだ。野菜のおかずは食べたふりして皆あいつに食べさせたんだ。あの怪獣に母ちゃんとこに連れてってもらおうと思ったんだ」と武志。
「父ちゃんなんか大嫌いだ。野菜しかかわいがらないじゃないか。離してよ。母ちゃんとこへ行くんだ」。
「ばか!」。
頬を殴る父。
ホエールとコンドルで攻撃するZAT。
しかしクレロンの吐き出す青い汁を浴び苦戦する。
「武志。母ちゃんがいなくてさびしいとか、父ちゃんが一緒に遊んでくれないとか言う前に、あれを見てみろ」。
クレロンと戦うコンドルを指さす武志の父。
「男はな、泣き言を言う前にまず戦うものなんだ。力いっぱい戦うものなんだ。お前が怪獣を育ててしまったんなら、お前が退治するしかしょうがないだろ。わかったか。わかったら父ちゃんと一緒に戦うんだ」。
クレロンをおびき寄せるために店の野菜をばら撒く父。
「店より野菜より俺のが大事なんだね」と武志。
「当たり前じゃないか」と父。
喜ぶ武志。
青い汁を浴び視界を失ったホエールとコンドルから脱出する隊員たち。
一方武器を作りクレロンを待ち受ける武志たち。
近づいてきたクレロンに竹やりを突き立てる2人。
しかし突き刺さったやりと一緒に2人も宙づりになってしまった。
クレロンが暴れたはずみで投げ飛ばされる2人。
そのままクレロンの口の中に飛び込んでしまった。
それを見てタロウに変身する光太郎。
タロウがクレロンに蹴りを入れるとはずみで2人は地面に投げ飛ばされた。
青汁まみれの2人。
クレロンの吐き出す青汁を浴びて苦戦するタロウ。
「そうだ、塩漬けだ。塩漬けにしてやるんだ」とタロウ。
体の熱で青汁を乾燥させるタロウ。
そのままクレロンにそれを浴びせる。
それを吸い込むクレロン。
さらにタロウは町の雑貨屋から塩を取り出すと、それをクレロンに向けて放った。
塩を吸い込むクレロン。
ふらつくクレロンを大きな樽に投げ込むタロウ。
タロウはクレロンの体を押し潰して体内の青汁を絞り出す。
体内の青汁を絞り出されたクレロンは元の大きさに。
こうして地球上のビタミンCを根こそぎ奪おうとした宇宙人の企みは阻まれた。
武志はクレロンの土産にと野菜を投げる。
それをクレロンに持たせるタロウ。
タロウがクレロンを空に投げると、「モット、モット」と言いながらクレロンは宇宙に帰っていった。
ある朝、店の手伝いをする武志。
そこへZATの隊員たちが買い物に来た。
一緒に登校しようと健一が武志を誘いに来る。
野菜をバリバリ食べるようになったと武志。
「おじさんのお料理の腕は上がったわけね」とさおり。
「違う。僕が作ってやるの」と武志。
「それが酷い味でしてね」と父。
「嘘だよ。今朝なんか随分沢山食べたじゃないか」と武志。
「無理して食ってんの」と父。
「嘘ばっかり言って。父ちゃん、昼の分も煮てあるから残さず食べるんだぜ」と武志。
元気よく学校へ走って行く武志と健一。

解説(建前)

モットクレロンは何物か。
野菜を食べて成長することからロボットの類ではなく生物の一種であるのは間違いないであろう。
ただ、ビタミンCを吸収することに特化していることから、何らかの遺伝子操作がなされた可能性は高い。
吸収したビタミンCを青汁として保存しそれを絞り出すのも容易であることから、やはりビタミンCを集めるために改造された生物と考えるのが妥当であろう。

クレロンを送りこんだ宇宙人はクレロンが成長したところで連れて帰る算段だったのであろうが、ZATに阻まれて作戦は失敗した。
しかし、そもそもクレロン1匹送りこんだところでビタミンC不足は解消できないのではないか。
これはやはり宇宙船には無数の卵があって、日本中にクレロンの卵を送りこむ予定だったのであろう。
ただいずれにせよあっさり迎撃されては元も子もない。
ビタミンCが足りないという危機的状況は同情に値するが、あまりにも正面突破過ぎた。

感想(本音)

ぶっ飛んだ話というイメージの割にはオーソドックスな話。
怪獣を育てるという「のび太の恐竜」的な展開もあるが、そのテーマを広げることもなく普通に退治した。
まあ、最後はお土産まで持たせて返してはいるが、レオのタイショー編辺りと比べると、その別れも取ってつけた感は否めない。
この辺りはまだまだ駆け出しの脚本家。
そこまで要求するのは酷であろう。

本話の少年主人公武志はタロウではお馴染みの片親設定。
しかしさすがにこの設定は使いすぎ。
前回も母親がいなかったし、両親揃ってるほうが珍しいくらいではないか。
単に役者の節約なのかもしれないが(笑)、ちょっとネタ切れ感は否めない。
親子の情愛はタロウの基本テーマではあるが、さすがにここまで繰り返すと食傷気味である。

と、やや辛口で始まったが、特に不満点があるわけではない。
いつものタロウの話ということで、タロウが好きなら十分満足できる作品であろう。
ただ、これをタロウの代表作として紹介されるとさすがに抵抗がある。
結局この話の肝は最後の塩漬けのシーン。
正直、ここだけを取り上げると悪ふざけとしか見えない。
そういう誤解を招く恐れがあるという点、評価に困る作品ではある。

今回ZATはいきなり宇宙人の宇宙船を撃破。
珍しく活躍するが、クレロンの卵を見落としたのはミスであった。
しかしクレロンの卵はレーダーに反応しなかったのであろうか?
あまりに物体が小さいとレーダーが反応しないのか?
ただ、隕石のような鉱物と違い有機体である動物の卵の場合は鳥などと区別が難しい。
キャッチできないのはそのせいであろう。

今回はやはりモットクレロンに尽きるだろう。
「モット、モット」と野菜をねだる姿は完全にギャグ。
ただ、急に巨大化してトラックを破壊するなど、ギャグの割には人を殺したりもしている。
この辺りは当時の緩さであろうが、タロウワールドの人間は異常に身体能力が高いので、乗員はあの爆発でも死ななかったと解釈しておこう。
武志父子もクレロンから投げ出されても地上に無事着地していたし。

武志役の子役はタロウ3回目の出演の矢崎知紀くん。
グロスト編に出たばかりなのに子役の人手が不足していたのであろうか。
タロウは子供中心のドラマが多いので、ゲストの子役のやり繰りが結構大変なのかもしれない。
wikiで矢崎君を調べると特撮作品にかなり出ている。
結構人気の子役だったようだ。

本話の監督は真船禎。
巨大化したクレロンから逃げるシーンなどお得意の手持ちカメラの撮影があったが、全体的にはおとなしめの演出。
まあ、脚本の方がぶっ飛んでるから、普通に演出したのであろう。
テンペラー編のようなお遊びは少なかった感じだ。
脚本は阿井文瓶。
クレロンを塩漬けにするアイディアは面白かったが、ドラマ自体はオーソドックス。
正直、まだまだテンプレをなぞっているだけで、ドラマ的な深みは乏しい。

本話は前述したように意外と普通の話。
タロウがストリウム光線でクレロンを倒していれば、そこまで印象に残る話にはなってなかっただろう。
そういう意味では塩漬けにしたのは正解とも言えるが、ただ、やはり大人視点からは塩漬けにすることにもっと必然性が欲しい。
ストリウム光線が通用せず大ピンチになるが、ふとしたことで武志が言ったことを思い出しそれをヒントに塩漬け作戦を考えるとか、それくらいの伏線は張って欲しかった。
タロウがいきなり「そうだ、塩漬けだ。塩漬けにしてやるんだ」と言い出すのはさすがに唐突すぎるであろう。

タロウ終盤はモットクレロンを筆頭に個性的な怪獣が沢山出てくる。
これはこれで面白いが、ややストーリー的に行き詰った感じは否めないだろう。
路線変更はないと言われるタロウ。
しかし同じような話を1年間続けていてはネタも切れる。
個人的には初期の正統派な話が好きなのだが、ある程度作風が変わるのは仕方ないだろう。
ただ、やや低年齢向けのエピソードが多い終盤ではあるが中には骨のある話も結構ある。
その辺り気を抜かずにしっかり見ていきたいところだ。

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