ウルトラの命を盗め!


データ

脚本は石堂淑朗。
監督は筧正典。

ストーリー

ZATでは半年に一度、隊員たちの体力テストが行われる。
隊長と副隊長は指揮能力が重視されるため免除されているが、新任の二谷副隊長は若い者に負けられんとトレーニングを積んでいた。
二谷がランニングしているところを散歩中の東が目撃。
感心する東。
そこへ本部からレーダーが異常を捉えたと連絡が入る。
それは月の近くで戦う怪獣ドロボンと新マンの姿であった。
新マンに光線を浴びせ追跡を逃れるドロボン。
地球に飛来したドロボンは「タロウ出てこい」と夜の街を彷徨する。
ドロボンは宇宙戦争の混乱の中を抜け出し、新マンを騙して、タロウを探しに地球に来たのだった。
夜明けとともにZATはホエールとスワローで出撃。
「もの凄いエネルギーです。今まで現れた怪獣の中でも一番」と森山。
「タロウ出てこい」とドロボン。
「奴はタロウを狙っているんだ」と北島。
厳しい表情になる東。
とうとう街を破壊し始めるドロボン。
攻撃を仕掛けるZAT。
至近距離からドロボンの頭にミサイルを撃ち込むよう指示を出す二谷。
「これ以上は危険です」と東。
「ナポレオンの言葉に不可能はなかった。ZATの言葉に危険はない」と二谷。
接近したホエールはドロボンの持つ金棒で叩き落されてしまう。
さらに二谷の乗るスワローも消息を絶った。
隊員たちが連絡を取るも二谷から応答はない。
とりあえず地上から攻撃する隊員たち。
一方、ドロボンを追って地球に来た新マンは郷秀樹の姿となってドロボンの近くに来ていた。
ドロボンから受けた攻撃で深手を負った郷はフラフラしつつ、ドロボンに近づく。
ウルフで攻撃する東と北島。
東はドロボンの左手のカンテラの中に捕まっている二谷を発見する。
「畜生、弔い合戦だ」と北島。
しかし二人の乗ったウルフはドロボンに踏みつぶされてしまう。
タロウに変身する東。
しかし二谷を人質に取られたタロウはドロボンを攻撃できない。
「タロウ。俺がいるために攻撃できないんなら俺は死ぬ。後を頼むぞ」。
ZATガンをこめかみに当てる二谷。
しかしガンはエネルギー切れで発射しなかった。
「こんなものがなくても、死のうと思えば死ねるんだ」。
スワローのエンジンを噴射してドロボンの手を引き離そうとする二谷。
堪らずドロボンはスワローを捕えたカンテラを投げ捨てるが、カンテラには紐が付いており二谷は逃げられない。
どうすることもできずに飛び立つタロウ。
地上に戻った東は負傷した郷を見つけ話しかける。
「俺のヘマでとうとう奴を地球まで逃がしてしまった」と郷。
「あいつは一体何のつもりで僕を狙ってるんでしょう」と東。
「今宇宙に戦争がある。その戦争にお前を引っ張り出して味方にして助太刀させようとしているんだ」。
「そんなことを僕がすると思ってるんでしょうか?」
「あいつの手の中には副隊長という切り札がある」。
考えがあるという郷と一緒にドロボンに近づく東。
「死ぬこともできんのか」。
嘆く二谷。
「手も足も出ないとはこのことか」と北島。
「もうZATもおしまいだ」と南原。
「ウルトラマンタロウもやっぱり神様じゃないのね」と森山。
ますます暴れるドロボン。
「いいな。打ち合わせ通りにやるんだぞ」と言い残し変身する郷。
「ウルトラマン。また会いましたな」とドロボン。
二谷を返すよう交渉する新マン。
「よしよし。お前で我慢しよう」。
ドロボンは二谷の捕まったカンテラを新マンに渡すと新マンのカラータイマーに手をかけそれをもぎ取ってしまった。
それを胸に装着するドロボン。
仰向けに倒れる新マン。
タイマーを抜かれた新マンはぺしゃんこに萎んでしまう。
それを見てタロウに変身する東。
一方救出された二谷は自分の軽率な行動で皆に迷惑をかけたことを詫びる。
新マンのタイマーを付けたドロボンは新マンの力も手に入れ二人力。
タロウはとても敵わない。
またストリウム光線も新マンのタイマーを破壊する恐れがあり使えない。
タイマーのエネルギーが切れるまで、ドロボンの攻撃に耐えるタロウ。
その頃、ZAT本部から応援機のホエールが到着。
ドロボンのカラータイマーも赤に変わった。
攻勢に転じるタロウ。
ZATもそれを援護する。
ドロボンの胸からカラータイマーを引き抜いたタロウはそれを新マンの胸に戻す。
復活する新マン。
「タロウ、あとは俺がやる。ウルトラマンを早く太陽に戻してくれ」と二谷。
ZATのとどめの攻撃で爆発するドロボン。
新マンと一緒に飛び立つタロウ。
東が基地に戻ると二谷は隊員の席に座っていた。
「副隊長失格だって、いつもの席を変えたの」と森山。
「隊長が死ねば副隊長が指揮を執り、副隊長が死ねば北島さん。北島さんがダメなら南原さん。ZATの規則はそうでしょ」と東。
「副隊長は死ぬまで副隊長です。あそこに座ってないときは死んだときです」。
東の説得で元の席に戻る二谷。
隊員たちに定時のパトロールに出るよう指示する二谷。

解説(建前)

新マンはなぜカラータイマーを取られてペシャンコになったのか?
カラータイマーの役割はウルトラマンにエネルギーの限界を知らせること。
とすると単なる報知器と考えられそうだが、私はタイマーはむしろエネルギーを供給する装置そのものと考えている。
すなわち、タイマーは充電池のような役割を負っており、タイマーからのエネルギーでウルトラマンは活動する。
実際、ウルトラの父はヒッポリト編でタイマーを掲げてエースにエネルギーを与えた。
初代マンもタイマーを破壊され完全に活動を止められた。
そしてドロボンはタイマーからのエネルギーを得てパワーアップした。
やはりタイマーはウルトラの命そのものなのである。

そしてそのエネルギーの源はウルトラの星ではウルトラスパーク、地球では当然太陽である。
私見ではウルトラマンが普段人間の姿をしているのは、巨大のままでは地球に留まれないというのももちろんあるが、むしろエネルギーの消費を抑えて、体に太陽エネルギーを蓄積するためと考えている。
そして、その貯めたエネルギーを一気にスパークさせて巨大化する。
変身アイテムは言わばスパークするための種火を起こす火打石の役割であろう。
そして戦闘中は燃焼を継続させるエネルギーをタイマーから供給している。
したがって、そのタイマーがなくなると、燃焼させるエネルギーがなくなりいわば空気が抜けたような状態になって萎んでしまうのであろう。

しかし、そのように考えるとウルトラの父や初代マンが萎まなかったことの説明ができない。
そもそもエネルギーの供給が遮断されても中のエネルギーがすぐなくなるわけではない。
それこそガスが穴から抜けていくというような状況でもない限り、すぐに萎みはしないのである。
ここで私は今回の新マンのケースとウルトラの父、初代マンのケースとの重大な違いに気が付いた。
すなわち、父と初代マンは死んでしまったが新マンは死んではいなかったということである。

持って回った言い方になってしまったが、私の結論は新マンは自ら萎んだという解釈。
すなわち、タイマーがなくなった状態が長く続くと本当に死んでしまうので、エネルギーを消費しない仮死状態で生命を維持するため敢えて萎んだのである。
そしてタロウがタイマーを取り戻してくれるのを待った。
実際死んでしまっては作戦としては意味はないので、そこまで計算されていたのであろう。
あるいはドロボンとの交渉において、タイマーと副隊長を交換すると提案していたのかもしれない。
タイマーのエネルギーがすぐ切れることを知らなかったドロボンはその提案に乗った。
普段は弱点になる地球上での活動制限を逆手にとった見事な作戦といえるであろう。

感想(本音)

これも私のトラウマ話の一つ。
というか、石堂先生何回目ですか?(笑)
新マンバラバラ、タロウ首ちょんぱ、新マンペシャンコ(新マンが多いなw)。
この後レオバラバラもあります(笑)。
幸いレオバラバラを見たのは大人になってからですが、子供の頃見てたら確実にトラウマでしょうね。
この話を見たのは小学校高学年でしたが、それでもトラウマですからね。
悪趣味にもほどがあります。
因みにブニョの話は子供の頃の再放送では飛ばされてたはず。
実はコロタン文庫のストーリー紹介でレオがバラバラにされるというのを見ていたので、結構楽しみにしてたりしました(笑)。
子供って怖いもの見たさでそういうエピソード見たいって思っちゃうんですよね。
あれ?
じゃあ、石堂先生は正しいのかも(笑)。
思い出話はこれくらいにして、本題に入ろう。

本話は新マンおよび郷秀樹の出演に注目が集まりがちだが、ストーリー面では二谷新副隊長が中心となっている。
三谷昇氏演じる二谷副隊長は荒垣副隊長役の東野氏の怪我により急遽出演が決まり僅か3話の出演であったが、本話でその印象を強く残した。
本話が二谷副隊長用のエピソードとして書かれたのかは不明だが、軍人然とした荒垣より気弱な感じの二谷によりマッチする話なのは間違いないであろう。
ただ、二谷はある意味荒垣より過激なところもある。
「ナポレオンの言葉に不可能はなかった。ZATの言葉に危険はない」とエースの高倉長官も真っ青な特攻を指示するなど、見た目によらずタカ派。
荒垣ならもう少し部下の言うことを聞くであろうが、この辺りは暫く実戦から離れていた影響もあったのかもしれない。

結果的に無理な特攻が祟って自ら捕虜になってしまう。
軍人らしく自殺しようとするがそれもできず、ウルトラ兄弟まで苦しめる始末。
このシーン、意味ありげな郷のアップで郷が二谷の自殺を妨げたと解釈できそうであるが、そこまで考えて演出していたのかは不明。
仮にそういう演出意図だとしても、ダンならいざ知らず、郷がそんな能力を使ったことはないので、解釈としては成り立ちがたいであろう。
私は素直にザットガンのエネルギー切れと解釈しておく。

南原の「もうZATもおしまいだ」という言葉に象徴されるように、これは完全にZATのミス。
ZATは攻撃できず、街は破壊され、ウルトラマンまで犠牲に。
本来ならZATは副隊長のことは無視して攻撃しないといけないが、結局攻撃してもドロボンは倒せないので、この判断は正解であろう(笑)。
この後世間から相当非難されたと思われるが、まあいつものことだしと諦められるのがオチであろうか。
一応ドロボンは倒したしね。

ドロボンは今までの怪獣の中でも最高のエネルギーを持つ怪獣と劇中で言及されている。
あのバードンより上というのだから大したものだ。
ただ、そのエネルギーにはどういう意味があるのか?
ドロボンは確かに強い怪獣であったが、二谷を人質にしていなければそこまで強いとは思えない。
結局エネルギーと強さは比例しないと考えるのが妥当であろう。
ドロボンは意外と攻撃力はなく、防御力も乏しい。
肉弾戦では最強かもしれないが、総合力ではやはりバードンの方が上だと思われる。

ウルトラの世界では宇宙戦争が頻発している。
ヘルツもメドゥーサ星から逃げてきたし、後にL77星も滅ぼされている。
人心が荒廃しているのか、単に昔から戦争が繰り返されているのか。
いずれにせよ、新マンが宇宙戦争に対して介入を続けているのは確かなようだ。
郷秀樹役の団次郎氏は二期ウルトラ皆勤賞。
まあエースの時は偽郷秀樹であったが(笑)、それだけキャラとしても役者としても人気があったのであろう。
ただ、この時期の郷さんは若干スリムさに欠けるきらいはあるが。

ドロボンは最初タロウを捜すだけで街は破壊しなかった。
ZATが朝まで出撃を待ったのは、下手に刺激しないようにという意図があったのであろう。
一応夜の間に一般人は避難したと思われる。
因みにウルトラの世界では怪獣が頻繁に現れるので、地下にシェルターみたいなものが作られている可能性は高い。
あと、破壊された街の復興が異様に早いことから、建築や土木の技術は相当進んでいたと考えられる。

本話での大きな疑問の一つに、なぜ隊長がこの非常事態に出てこないのかというのがある。
ナレーションで忙しかった(笑)というのはなしにして、出てきたり出て来なかったりというのはもはや隊長と呼べないのではないか。
というか自ら(今回のナレーションは何故か名古屋氏)隊長は指揮能力が重視されるため体力テストは免除されると言っておきながら指揮しないというのは(笑)。
この辺りは演者の都合なのでどうしようもないが、せめて隊長が応援機を手配したとセリフに入れるなど、存在を感じさせる描写は欲しいものである。
まあ、病気療養中で無理はできないとでも裏設定するのが無難であろう。

ドロボンにウルフを踏みつぶされて変身する東。
でも、一緒にいた北島はどう考えても戦死だろう。
もちろんタロウが助けたのであろうが、もはやその描写もしないほど適当になってしまった(笑)。
今回森山隊員は皆と一緒にパラシュートで脱出していたが、それではスカートの中身が見えてしまう。
もちろんスパッツとか履いてるのだろうが、どう考えても戦いに行く服装ではない。
お偉方の好みか(笑)。
今回は白鳥姉弟の出番はなし。
このストーリーでは仕方なかろう。

本話の脚本は前述したとおり、石堂淑朗。
石堂氏の脚本はウルトラマンを必要以上に痛めつけたり、その存在をマイナスに捉えたり、王道から外れたものが多い。
本話においても地球はタロウを捜しにきたドロボンの巻き添えを食って破壊された。
普段散々お世話になってるからタロウを非難する意見は出てこないだろうが、タロウという戦力があるために攻撃される。
一見左翼的にも見える脚本である。

ただ、ドロボンは宇宙戦争の助っ人にタロウを連れて行こうとしたのであるから、戦力を保持していることを理由に攻撃されたというわけではない。
あくまでタロウという存在は防衛に徹しているので、石堂氏もことさらに戦力を否定しているわけではないのは明らかであろう。
むしろ石堂氏の脚本の根底にあるのは強いものに対する茶化し精神。
怪獣が異常に大きくてウルトラマンが矮小化されるのも同じ精神であろう。
本話の「ウルトラマンタロウもやっぱり神様じゃないのね」というセリフもその一つ。
最後はもちろんウルトラマンなのでカッコよく終わりはするが、敗北描写が妙にこなれているせいか、何となくモヤモヤしたものが残るのも確かである。
敗北描写があってこその逆転のカタルシスという考え方もできるが、石堂氏の作品からそのようなカタルシスをあまり感じられないのは私の感性が歪んでるせいだろうか?

本話のテーマは一応自己犠牲。
タロウの邪魔にならないよう自決しようとした二谷。
その二谷を助けるためにタイマーを奪われた新マン。
ただ、正直そのテーマはぼやけてしまっている。
それだけ新マンペシャンコのインパクトは大きかった。
ストーリー的にはそれなりに盛り上がったが、正直子供向けとしては見どころに乏しい。
後年トリビアでネタにされていたり、ちょっと残念な話というのが正直なところだ。
本話の意義としては二谷副隊長の見せ場を作ったというのがあるが、全体としては最終回前の異色作という程度で、問題作というレベルには達していいないというのが私の結論である。

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