ウルトラの父と花嫁が来た!


データ

脚本は阿井文瓶。
監督は筧正典。

ストーリー

突如街中に出現した怪獣リンドンは街を破壊。
直ちにコンドルとホエールが出撃。
レーザーとミサイルでリンドンを攻撃する。
前に倒れこんだリンドン。
とどめを刺そうと近づいたコンドルは、急に立ち上がったリンドンの口の中に突っ込んでしまった。
中に乗っていた東と南原は脱出しようとするが、リンドンの口に挟まれて脱出できない。
自爆しかないと南原を説得する東。
「99%はコンドルともに木っ端微塵だ」と南原。
1%にかけようと東。
南原が自爆スイッチを押した瞬間コンドルは大爆発。
しかし同時に東がタロウに変身し南原を助け出した。
リンドンと戦うタロウ。
コンドルの爆破で深手を負っていたリンドンはタロウの敵ではなかった。
最後はハンドナイフでリンドンの首を切断する。
そのまま飛び去るタロウ。
リンドンの死体はその場に放置され、緑色に変色する。
隊員たちが基地に戻ると見慣れない中年の隊員が一人デスクに座っていた。
「おお、来とったか」と朝日奈隊長。
新隊員を紹介する朝日奈。
「宇宙ステーションに行った荒垣の代わりに来た、新任の副隊長二谷だ」。
「二谷です。よろしく」。
隊員たちに挨拶する二谷。
そこへ内線電話が掛かってくる。
南原の母親が応接室で待っているとのこと。
すぐ応接室へ行く南原。
再会を喜び合う2人。
そこに一人の若い女性がいた。
南原の母親が連れてきた女性は珠子といい、南原の幼馴染だった。
美しく成長した珠子を見て驚く南原。
珠子は父親を亡くしたばかりだという。
南原の母親は、亡くなった球子の父と南原の父が決めた二人の婚礼の約束を果たすため、東京に来たのであった。
「お前だって子供んころから、球ちゃんばお嫁さんにするっちゅうて言い暮らしちょったろうが」と母親。
「そんなままごと遊びを真に受けられちゃ」と南原。 しかし母親は生まれた時から二人は許嫁と聞く耳を持たない。
本人の意思も聞かないで乱暴じゃないかと南原。
「じゃあお前、球ちゃんば嫁さんにするっちゅうのが嫌じゃあちゅうとね?」と母親。
「珠ちゃんが嫌ということじゃないんだ」と南原。
忠男ちゃんにも都合があると庇う珠子。
「自分の一生の問題は自分で決めたいんだ」と南原。
「親不孝もん」。
激高した母親は、1日だけ待つので明日決めるようにと強く南原に言う。
その後、東とホエールでパトロールに出る南原。
怪獣の死体を見て、生き返る恐れはないと本部に報告する東。
南原から突然結婚について聞かれた東は笑いながら、
「そんなことを考えるには若すぎますよ。それに、こんな危険な仕事をしていちゃ、お嫁さんを貰ってもハラハラさせるだけですもんね」と答える。
同意する南原。
東は珠子が南原のお嫁さん候補であることに気づき、
「かわいらしいお嬢さんじゃないですか。きっといい奥さんになりますよ」と言う。
まんざらでもない表情の南原。
翌日珠子と二人で会う南原。
「昨日も言ったけど、僕は決して君が嫌だというんじゃないんだ」と南原。
「いいんです。その話は」と珠子。
珠子は故郷に帰る前にお別れの挨拶に来たという。
「お袋に心配かけまいと思って強がりを言ったけど、ほんとは命からがらタロウに助けられんだ」と打ち明ける南原。
「怪獣が出るたびに命懸けなんだ。それなのにお嫁さんなんか貰えっこないだろ。ごめんね。今はそんなことを考えられもしないんだ」。
頷く珠子。
南原が倒した怪獣を見学して九州に帰ると珠子。
リンドンの死体を見物する南原の母と珠子。
他にも大勢の見物客がいた。
その時、切断されたリンドンの首が突如動き出し胴体に合体する。
復活して暴れまわるリンドン。
大急ぎで逃げ出す見物客たち。
逃げる途中、疲れて倒れてしまう南原の母親。
母親をおんぶして逃げる珠子。
逃げ遅れた二人はリンドンに踏みつぶされそうになる。
ビルの中に逃げ込む二人。
そこへ疲れたリンドンが座り込んだ。
攻撃チャンスだが、2人がいるためにZATも攻撃ができない。
南原と東は二人を助けるためビルに突入しようとするが、ビルの上で暴れるリンドンによりビルは崩れだす。
ホエールで攻撃してリンドンを誘き出すよう隊長に依頼する東。
「言うに及ばん」。
リンドンを攻撃する朝日奈。
その隙にビルに突入した2人は母親と珠子を助け出す。
母親を庇って逃げる珠子はリンドンの破壊した陸橋のコンクリート片の下敷きになってしまう。
リンドンが迫る中、タロウに変身しようとする東。
しかし球ちゃんを助けてほしいとすがりつく母親がいて変身できない。
そこへ突如ウルトラの父が現れた。
父はウルトラフェザーという羽状の武器でリンドンを倒す。
南原に抱きかかえられ意識を取り戻す珠子。
「ZATの仕事がどんなに大変なものかよくわかったわ。私、忠男ちゃんの許嫁だったというだけで誇りをもって天国に行ける」と珠子。
「おばさん。母さんと呼んでいい?」
「よかよ」と母親。
「お母さん。私、忠男ちゃんのお嫁さんにはなれなかったけど、親孝行できた」
「珠ちゃん。君は僕のお嫁さんだ」と南原。
それを聞いて微笑む珠子。
珠子はそのまま死んでしまった。
怪獣は倒れても珠子の命は永久に失われてしまった。
これでは何もならないではないか。
父に向って嘆き祈る東。
すると父は月桂冠のようなものを珠子に向って放り投げる。
その光により蘇る珠子。
「あ、生き返った」と南原。
地元に帰り、仏前で結婚式を挙げる珠子と南原。
そこに隊員服姿の東、北島、森山も参列する。
慣れない正座で足が痺れる隊員たち。
そこへ僧侶が突如振り向き「喝」と叫ぶ。
驚いて倒れる隊員たち。
「要するに二人は今日から夫婦じゃ。力を合わせて頑張んなされ」と僧侶。
「はい」と南原。
起き上がる隊員たち。

解説(建前)

リンドンは何物か。
突如現れたので、宇宙怪獣とも地球怪獣とも判断がつかない。
ただ、背後に宇宙人や異次元人の影は見られないので、超獣の類ではないであろう。
宇宙から来襲したシーンもなかったので、一応地球怪獣としておく。

リンドンは何故蘇ったか。
首を切断しても死なない昆虫などもいることから、本当は死んでなかったと考えることも可能だが、首が急に動き出して蘇生するのは無理がある。
やはりマグネドンのような無機物が怪獣になった例と考えるのが妥当であろう。
ただ、それだと父が爆破したところで、また復活する可能性がある。
実はあたかも人間がロボットに乗り込むように、中に本体となる怪獣がいたのではないか。
それを見抜いた父はピンポイントでウルトラフェザーを本体に刺したのであろう。

珠子は何故蘇生したか。
そもそも珠子が本当に死んだか否かもあの状況からではわからないが、ナレーションが言うからには死んでしまったのであろう。
ただ、普通に現代の医学なら死んだ直後に蘇生することは不可能ではない。
心肺停止ならAEDという手もある。
人間でも可能ならウルトラの父がそれをできても問題はないだろう。

ただ、仮に心肺が蘇生しても、死の原因となった負傷が治らなければ、結局死んでしまう。
そこは父が超能力で治療したのであろう。
状況からはわかりづらいが、珠子の意識はしっかりとしていたので、内臓を損傷して死亡した可能性が高い。
父は珠子の傷を治してから、心肺を蘇生させたのであろう。

それは人助けをして命を落とした珠子へのご褒美。
もちろんタロウの頼みもあっただろうが、新マンもエースも人や動物を助けようとして命を落とした若者に命を託したことから、ウルトラの国ではこのような行為は高く評価されているのであろう。
珠子が死亡直後であること、手術をすればすぐ治る程度の負傷であったこと、珠子が人助けをして死亡したこと、このような条件が揃って珠子は生き返ったのだと思われる。

感想(本音)

メインライターの田口氏や主なスタッフは次作ウルトラマンレオの制作に取り掛かっていたため、ある意味消化試合的なエピソード。
とりあえず、客演にしよう。
じゃあ、最近出てないウルトラの父にしよう。
この前北島メインの恋愛話を作ったので今度は南原をメインにした話を作りたい。
じゃあついでに一度だけ出た母親も出演させよう。
こういう会話がなされたかはわからないが、タロウでやりたいことはほぼやり尽くして、軽い気持ちで作ったように見える。
個人的にもあまり引っかかりのないエピソードだ。

リンドンについては解説を読んでいただければわかるが、正直よくわからない怪獣。
まあ、ドラマに沿って動いていただけで、蘇生能力もあまり意味はないし(怪獣の死体を見学しなくても襲われるシチュエーションは作れる)、適当に暴れていただけにしか見えない。
しかも意図的に二人を襲ってるし、単なるドラマの盛り上げ役。
最初は首を切断されて放置され、復活したと思ったら爆死。
怪獣とはいえ何とも不憫である。
ところでバラバラになったのがくっつくというのは石堂氏の専売特許のはず(笑)。
ただ、オカルト的な雰囲気が皆無だったので、やはり石堂氏の作風とはちょっと違うかな。
あと、見た目は何となくシーゴラスに似てると思った。
角とか鳴き声とか。

東と南原がコンドルを爆破して生存するのは無理があり過ぎ。
しかも思ったよりすごい爆発で、あれじゃ1%も生存可能性はないであろう。
まあ、東は自分が南原を助けられることを知っていたので、実際は99%生き残る可能性があったのだが。
変身がバレバレなのはいつものことなので突っ込まないが、最後南原の母親がすがりつく状態で変身できなかったのは、さすがにそこまでは無理という判断であろう。
それでもいつもなら構わず変身してたような気もする(笑)。

本話から唐突にZATステーションに異動になった荒垣に代わり二谷副隊長が登場。
残り3話での交代劇に違和感しかないが、演者の怪我では仕方ないであろう。
東野氏もさぞや心残りだったと思われる。
二谷副隊長演じる三谷氏は「帰ってきたウルトラマン」ゴキネズラ編でピエロに扮して登場したのが印象深い。
ピエロだから当たり前なのだが、セリフは一切なかったのが不気味であった。
その頃と比べると今回はコミカルな副隊長役なので、親しみが持てる。
短い出演だったが、次のドロボン編では印象に残る役どころを演じて存在感を示した。

本話は前述したように大した引っかかりもないエピソードであるのだが、興味深いシーンはいくつかあった。
その中でも怪獣の死体見物は今まで描かれてなかっただけに新鮮であった。
見てると屋台というか売店まで出てるし、九州から来た珠子がわざわざ見物して帰るというのだから、この頃はすっかり東京の名物になっていた可能性が高い。
一応ボルケラーとか九州に出現した例もあったが、基本怪獣は東京に集中する。
この辺り、東京は怪獣を引き付ける何かがあるのであろう。
因みにボルケラーが出現した時も南原の母親は被害に遭っていた。
親子ともどもつくづく怪獣に縁が深い。

ところで、どうせこういう描写を入れるのなら、怪獣の死体の後始末についてもなんらかの言及があればよかったと思う。
そこまで踏み込めば、別の意味でこの話はもっと評価される話となったであろう。
そこがちょっと惜しい。
そもそもタロウがいつもの爆殺ではなくああいう死体が残る倒し方をしたのが悪いのであるが、これはストーリーの都合上仕方ない(笑)。
東は本部に生き返る可能性はないと自信満々に報告していたが、いくら自分が倒したからって余裕もちすぎであろう。
お前がちゃんと始末してれば珠子さんも死なずに済んだのに。

今回久々隊長出演は東野氏怪我による急遽の依頼であろう。
しかも何故かナレーションまで担当。
名古屋氏はタロウ出演についてはほとんど覚えてないそうだが、新マンのナレーションはどうなのだろうか?
まあ、ナレーションは映像見なくてもできるので、覚えてない可能性高いが。
そもそも多忙な人だし。
瑳川さんはそこまで多忙ではないので、しっかり映像まで見てるイメージ。
隊長1年、ナレーション2年もやってれば、印象に残るだろうと。

本話のヒロインの珠子については、今ではあまりいないぽっちゃり顔だなあと思った。
最近の女優さんはシュッとしたスマートな人の方が多いから、昔のドラマだとこういうぽっちゃりな人が多くて驚く。
さおりさん役も二代続けてぽっちゃりだし、多分一般女性にもこういうタイプの人が多かったのだと思う。
肝心のドラマの方は、やはり1話で再会して、死亡して、結婚するのは詰め込み過ぎ(笑)。
あと、女性は結婚して幸せになるという価値観は時代を感じさせる。
いい奥さんになるとか。

正直今の視点で見ると、古いというか恐らく若い人には理解できないストーリー展開だと思われる。
しかしこれは別にタロウだからではなく、当時の大映ドラマとかでも大差ない。
死ぬ人が死ぬ直前までしっかりとセリフ喋って急に事切れるのは当時のお約束みたいなものなのだ。
それは刑事ドラマのような大人向けのドラマでも変わらない。
だから、これはタロウの脚本の出来云々の話ではなく、当時のドラマはこんなもんだったということである。
ただ、やはり死人を復活させるのはあんまり意味がないと思った。
本当なら命を取り留める展開にするだろうが、父が出るので蘇生する脚本にしたのであろう。
こういう禁じ手は正直あまり使わない方がいいと思う。

最後の二人の結婚式は仏前だったのが意外だった。
ロケ先の都合なのか、南原が仏教徒の設定だったからか?
一応モブとして親族らしき人も映っていたが、やはり隊員服で参列する隊員たちは目立つ。
これは恐らく、全員が休暇を取って九州に行くわけにはいかないので、3人は東京からパトロールついでにホエールで飛んできたのであろう。
南原はさすがに休暇を取って準備をしていたと思われるが、しかし結婚したらどうせ東京に住むのだからこちらで披露宴をすればいいように思うが。
まあどうでもいいことなので、これ以上突っ込むのはよそう。

本話で見逃せないポイントの一つが隊員の結婚問題。
確かにあんな危険な業務をしてたら、結婚には二の足を踏むのも理解できる。
ただ、MATステーションにいた梶隊員やZATステーションの佐野隊員など家族を持っていた例もあるので、これはやはり各人の価値観によるのだろう。
隊長クラスになると妻帯者が大半だが、彼らのようにずっと前線にいるのは稀ではないか?
大方の隊員は体力的にも徐々に内勤にシフトするのが普通だと思う。

本話の脚本はすっかり終盤のメインライターとなっている阿井文瓶氏。
まだデビューしたばかりなのに、これだけの量の脚本を任されるのは大変だと思う。
しかも坂口良子やウルトラの父などゲストも上から決められての執筆だと思われるので、苦労もひとしおであったろう。
本話の脚本は今の目線からは正直誉められたものではない。
それは多くの人が感じていることであろう。
ただ、それは前記したように時代の違いも大きい。
「キチガイ」という単語を普通に使っていい時代。
男女雇用機会均等法などもない時代である。

父親を亡くした珠子は今なら一人で働いて食べていくしかないが(弟、妹がいたら養わなければならない)、当時はいい人がいれば結婚するのが普通だったのである。
その辺りの価値観の違いは前話でも見られたが、正直今の若い人には理解できないであろう。
そんなに若くない私でもあまり理解できないが、子供の頃は違和感は持っていなかった。
それだけ当時のドラマやバラエティが同じ価値観で作られていたのであろう。
山口百恵が21歳の若さで結婚、引退して家庭に入るのが普通だと思われた時代。
女性の婚期をクリスマスケーキに例えても許された時代だからこそ、本話のような話も普通に受け入れられたのである。

かように本話は当時の普通の感覚で、普通に楽しめるドラマを志向して作られただけの話と思われる。
スタッフも次の作品が決まりリラックスして作ったのではなかろうか。
ドラマはあまりにテンプレ過ぎて面白みに乏しいが、怪獣の造形も案外よく、破壊シーンは予算が余ってるのかというくらいにド迫力である(バンク映像も多いが)。
そして何より演者の皆さんたちが頑張っている。
こういう話は細部にいちゃもんつけるより、そういう軽い気持ちで見るべき作品である。
もちろん、気に入らない人は気に入らないだろうが、そういう人は無理に見る必要もない。
理解できない人に理解しろと言っても無駄なのだから。

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