怪獣大将


データ

脚本は阿井文瓶。
監督は山際永三。

ストーリー

タロウに変身する東。
タロウは遠い宇宙から地球を狙って近づくゴルゴザウルス2世を発見し、先制攻撃に向かったのであった。
左腕を負傷しながらも勝利するタロウ。
それは誰も見ていない孤独な戦いであった。
地球にも脅威が迫っていると感じたタロウはすぐ地球へ帰還。
左腕に包帯を巻きZAT基地へ出勤する東。
風呂場で転んだと言い訳する東に、ZAT隊員たるもの常にベストコンディションでなければいけないと荒垣。
ZATはレーダーで怪獣の気配を察知していたが、それだけで住民を避難させるのは混乱を招くと慎重に調査する。
付近をパトロールする東と南原。
すると工場の砂利山の上でお山の大将の歌を歌いながら涙ぐむ少年を見かける。
東が声を掛けると、その少年は走り去った。
ZATのレーダーは確実に怪獣の存在をキャッチしていたが、その位置までは特定できない。
徹夜でパトロールする東と南原。
夜が明け健一の通う小学校の前を通ると、サッカーをする健一がサッカーボールを持って道路に出てきた。
サッカーをする少年の中に昨日の少年を見つける東。
「沢口君が泣いたりするわけないよ」と健一。
健一によるとその少年の名は沢口竜一といい、運動も勉強も優秀で先生に怒られても一人だけ泣かないような子だという。
あんなところで一人で泣くような弱虫には見えないと南原。
しかし東は「弱虫じゃないから泣いたんでしょ。僕にはわかります」と答える。
講堂で一人素振りをする竜一。
他の生徒と打ち合うよう先生に注意されるが、相手にならないと言って言うことを聞かない。
慢心するなと言い、自ら相手をする先生。
しかし竜一は先生と同様面をつけずに戦い、あっさり先生の竹刀を弾き飛ばしてしまった。
講堂を出る竜一。
すると女の子の悲鳴が聞こえてきた。
その女の子は足を怪我しており、倒れて立ち上がれなくなっていた。
女の子の傍に怪獣の子供を見つけた竜一は竹刀で怪獣の子供を退治する。
さらに卵から羽化する怪獣の子供を退治する竜一。
そこへ健一が駆け付けて、殺さない方がいいと竜一を止める。
しかし竜一は取り合わない。
倒れていた女の子を起こしてあげる竜一。
それを見た健一たちは、竜一がその岡井れい子という女の子のことが好きなんだと噂する。
その直後、地割れがして校庭から怪獣が出現。
子供を殺されたゲランが怒って地上に現れたのだ。
竹刀を投げつける竜一。
それを見つけた先生は竜一を引っ張って一緒に逃げる。
逃げる途中、倒れているれい子を見つけた竜一はれい子に肩を貸して一緒に逃げる。
先生の指示で講堂へ逃げ込む生徒たち。
ZATが攻撃に向かうが、学校には生徒が残っており迂闊に攻撃できない。
いったん引き上げるZAT。
それを見て不安がる生徒たち。
「私、脚を怪我してるから逃げられないわ。一番先に食べられちゃうわ」。
泣きながら竜一に言うれい子。
「岡井さん、泣くなよ。僕が死んでも君を守るから安心してろよ」。
「本当?」とれい子。
頷く竜一。
「でも、どうしてそんなこと言うの?」
「どうしてってそうしたいからさ」と竜一。
怪獣が首から上しか出していないのはまだ冬眠から覚めきれてないからだと竜一。
また居眠りするに違いないから、その時に逃げ出そうと提案する。
竜一の言う通り居眠りを始める怪獣。
皆でこっそり逃げ出す生徒たち。
竜一はれい子をおんぶして歩くが、「早くしてよ。しっかりしてよ。先生に負ぶってもらった方がよかったわ」と言われてしまう。
れい子が持つ松葉杖をバケツに引っ掛け転んでしまう竜一。
その音に怪獣が目覚めてしまった。
慌てて講堂に戻る生徒たち。
竜一が卵を叩き潰したから親が怒って出てきたんだと健一。
他の生徒も竜一が悪いと非難する。
「そうよ、沢口君が悪いのよ。自分ばかり強くて勉強ができると思って、みんなのこと考えないからこんなことになるのよ」。
れい子にまで非難される竜一。
堪える竜一。
その頃東は校庭のトランポリン目掛けてコンドルから飛び降りる。
見事着地する東。
東は日本刀を持って怪獣へ切りかかる竜一を見つけ助けに向かう。
怪獣の瞼に日本刀を突き刺す竜一。
暴れ狂う怪獣を攻撃するZAT。
しかし怪獣の背中の棘から出る光線を受けて墜落してしまう。
日本刀を地面に突き刺し怪獣をおびき寄せる竜一。
怪獣は日本刀を踏みつけて、さらに暴れ狂う。
逃げ場を失った竜一を見てタロウに変身する東。
痛めている左手を噛まれて悶絶するタロウ。
タロウは格闘するうちに、ゲランが冬眠中に巨大化した爬虫類だと気づいた。
卵と一緒にゲランを氷漬けにするタロウ。
そのまま宇宙空間へ放置して、長い冬眠を続けられるようにする。
その行動が認められ、羨望の眼差しを受ける竜一。
「竜ちゃんと一緒に帰るんじゃないの?」
れい子をからかう健一。
「駄目よ。あんな人をハラハラさせるような人は」とれい子。
剣道部の部員にさよならと挨拶され、それに応える竜一。
「あいさつしたぜ」と驚く部員たち。
いつもの砂利山へと登る竜一。
そこへお山の大将を歌いながらZAT隊員たちがやってきた。
微笑む竜一。
東が声を掛けると
「僕はタロウが好きさ。いつもたった一人で戦うもんね」と竜一。
「だけど、偶には人の前で大声で泣いてみるのも、さっぱりするものだぜ」と東。
しかし竜一は高らかに笑いだす。
そしてお山の大将を歌い元気に去っていく竜一。
「頑固な子だ。いや、漢だな」と荒垣。

解説(建前)

ゲランは何物か?
単に巨大化した爬虫類なら背中から光線を出したり口から火を吐くなんて不可能であろう。
やはり怪獣であることに間違いはない。
ただ、そもそも怪獣とは何なのか?
大きい爬虫類や鳥類である恐竜とどう違うのか?
実はあまりにも当たり前の前提過ぎて、シリーズ中、怪獣の定義が明確にされたことはない。
したがって、具体的な例から帰納的に定義するしかないであろう。

独断と偏見で一応怪獣の特徴的なものを挙げてみる。
基本的に同種の仲間というのはいないか、いても数匹程度。
火を吐くなど、普通の生物では考えられないような武器を有する。
ロボット怪獣は別として、見た目は恐竜に近い。
以上から大まかにまとめると、恐竜等の爬虫類や鳥類の突然変異で特殊な能力を持った個体ということになろうか。
では、そのような突然変異はどうして起こるのか?
これは一概には言えないだろうが、一番多いのはやはり特殊な宇宙線等の影響であろう。
とすると、ゲランの子供たちは遺伝子的には怪獣にならない可能性の方が高い。

感想(本音)

教育的な話で苦手な人は苦手そうな話。
私も大人になって見直すまでは、正直あまり好きな話ではなかった。
でも、大人目線からは、もう少し色々頑張ってみようと思える作品。
別に私が沢口くんみたいな正義感の強いかっこいい男というわけではないのだが、世の中の理不尽さというものは子供より大人の方がより理解できるもの。
そういう意味では案外大人向けのエピソードである。
もちろん、制作側にそういう意図はないでしょうけどね。

本話は唐突に怪獣との戦闘から開始されるが、これはウルトラでは割と定番。
ちょっと考えただけでも、セブンのアロン、新マンのロボネズ、エースのサボテンダーが思い浮かぶ。
そして怪我をするのもロボネズ、サボテンダーと同様。
ただ、その戦闘の意味はそれぞれ違う。
セブンの能力を測るために出てきたアロン、郷秀樹が怪我をしたことで飛行機事故の難を逃れるなどその後の物語が展開していくロボネズ、倒し損ねたために再度戦うことになったサボテンダー。

一方ゴルゴザウルス2世はタロウに怪我を負わせはするが、その怪我は物語上大した意味はない。
この戦いは単にタロウの孤独を描くために挿入されたのである。
当然それは本話のテーマである少年の孤独とシンクロしている。
このように怪獣との戦いをテーマそのものと関係づけるというやり方は如何にもタロウらしい。
ある意味捨て試合的な戦いであるが、孤独に戦うヒーロー=漢の姿はしっかり描かれていた。

本話のテーマは優等生の孤独的なものもあるだろうが、やはり男の生き様。
今ではかなり時代錯誤的なテーマであり、フェミニストが激怒しそうなテーマであるが、「お山の大将」はさすがに当時の子供でも古いのではないか?
私は72年生まれだが、「お山の大将」の歌なんて聞いたことないぞ。
その数年前に生まれた劇中の子供たちがそれを知ってるとは正直思えない。
この辺りはやはり脚本家の阿井文瓶氏の感覚であろう。
阿井氏は世代的には軍国教育を受けた世代ではないが、周りの大人はそういう人が多かったので「お山の大将」のような歌も周りから聞かされたのではないか。
レオのアブソーバ回でも述べたが、阿井氏は意外と右寄りな感性を持っている。
まあ右寄りと言っても左ではないといった程度なのだが、作家には左の人が多い印象なので、阿井氏は比較的一般人に近い感性を持っていると言えよう。

と、何の根拠もなく氏について語ってしまったが話を戻すと、本話の沢口少年は男たるもの弱い者を助けなければならないとか、人前で涙は見せないとか、人の批判にはグッと堪えて自らの行動や態度で結果を出さなければいけないとか、やたら男たるものこうでなくてはならないといった考えを持っている。
そういう家庭で育てられたのだろうが、それができるくらい優秀というのがまず前提にあるだろう。
ただ、意外と傲慢なところもある。
怪我してる女の子に優しい割には自分より実力の劣る仲間と剣道の練習をしないなど、人を見下したところもある。
これも相手に怪我をさせてはいけないという弱者へのいたわりであろうか。
この辺りは何でもできる優等生の危うさというものも感じられる。
そして、それが後々自分の身に返ってきてしまうが、それは後で述べるとしよう。

本話でもう一人キーとなるキャラは岡井れい子さん。
この子がまた女の狡さを体現したような、ちょっと子供には分かりにくいキャラをしている。
一応本話のヒロイン的な扱いなのだが、子供向けドラマにありがちな真面目で優しい優等生的なキャラではなく、かと言って意地悪キャラでもない微妙な存在。
堅物で男臭い性格の沢口君の相手役としてはある意味絶妙とも言えようか。
この子を演じた子役の子が少し気の毒でもあったが、個人的には単なるいい子ちゃんよりも印象に残った。
ちょっとした恋愛ドラマ風でもあり、いい隠し味にはなっていたと思う。

ただ、恋愛に関してはやはりメインテーマではないのか、正面から描かれてはいない。
まあ、態度だけ見てると好意を持っているようにしか見えないが、沢口君的にはそれは怪我をした女の子=弱者一般に対する態度なのであろう。
それを個人レベルに落としてしまうとテーマが成り立たないので、その辺りは微妙に曖昧にされている。
ただ、個人的にはもう少し2人の関係性を描いて欲しかったというのはある。
岡井さんのセリフからは2人はクラスメイトなのだろうと推測はできるが、それ以上の関係は読み取れなかった。
惚れた女に「ハラハラさせる人はダメ」と言われても涼しい顔で耐える沢口君。
それも十分漢の要素の一つと言えるであろう。

本話のクライマックスはやはり沢口君が皆から非難されるところ。
確かに怪獣の子供を殺して親を怒らせた非はあるが、それも元々は岡井さんを助けるため。
その岡井さんにまで非難されるのだから、立つ瀬がないとはこのことであろう。
ただ、それも沢口君の普段のやや傲慢な振る舞いが招いたものであることは否定できない。
この辺りに優等生の孤独というものがよく表れている。
実社会でも付き合いが悪いと、とかくこういう局面では孤立しがち。
それは大人の世界も子供の世界も変わらないであろう。

では、そういう場合どうやって切り抜ければいいのか。
やはり結果を出して能力を認めさせるしかない。
本話の沢口君は無謀ではあったが、それを身を以て示した。
まあ、実際怪獣を退治したのはタロウであるが、その辺りは結果オーライ。
勇気ある行動で怪獣と戦い、事態を収束させたというだけで十分なのである。
かくてヒーローとなった沢口君であるが、孤独なのは変わらない。
その気持ちがわかる光太郎は沢口君に泣いてもいいと言うが、逆に沢口君は笑い飛ばした。
この辺り、今のドラマだと泣かせたりさせそうなところであるが、最後まで漢を貫く沢口君はかっこいい。
やっぱり漢たるものこうでなくては。

ところで沢口君はタロウが一人で戦うと言っているが、その辺りはちょっと疑問。
最初の宇宙での戦いは確かに孤独だったが、普段はZATやウルトラ兄弟、父、母の助けを借りている。
この辺りはタロウの今までの路線に対するアンチテーゼなのだろうか。
タロウでの行き過ぎたファミリー路線への反省からレオは企画されたという。
この頃はレオの制作は決まっていたはずなので、そういう現場の雰囲気もあったかもしれない。
いずれにせよ、昨今の友情や仲間を前面に押し出すヒーローものとは一線を画していると言えよう。

その他、気になった点。
岡井さんのスカートがやけに短い(笑)。
当時ミニスカは流行っていたとはいえ、さすがに年頃の女の子には恥ずかしかったのではないか。
実際スカートを気にするシーンも見られ、今ではちょっと考えられないかなと思う。
ZATは怪獣の居場所が特定できないからと市民に避難勧告をしなかった。
これ自体は妥当と言うか仕方ない判断だと思うが、これが裏目に出るところがZATのついてないところ。
しかしこの状況で隊員たちが徹夜でパトロールとかブラックにもほどがあるであろう(笑)。

タロウは最後ゲランを宇宙で冬眠させてやるが、これって実質的には殺してるのと変わらないのではないか?
この展開は初代マンのガヴァドンからの伝統なので今更ではあるが、子供の頃は特に気にしてはいなかった。
まあ、子供ってそういう綺麗ごとに騙されやすいからね。
今回も二期ウルトラのレギュラー子役西脇君がちょい役で出演。
相変わらずキンキン声でウザい感じのキャラを好演していた(笑)。
学校にちゃんと行ってるのか?と言いたくなるくらい出演してるが、関係者の子なのだろうか?
その後はテレビ界からは消えてしまったが、個人的にはあの人は今で取り上げて欲しい人の一人である(笑)。

本話の脚本は前述した阿井氏。
ウルトラっぽくない話であるが、少年ものとしてはよく書けておりかなり小慣れてきた印象。
タロウの基本的な路線とはやや違うが、子供向けの良質な作品と言えよう。
監督は少年もの得意な山際氏。
おませな女の子の描写などは、やはり上手い。
ウルトラシリーズとしてはやや異色であるが、子供向けドラマとしてはなかなか完成度は高いと思う。

本話のテーマは前述したとおり、漢の生き様。
タロウではロードラ回など既にフェミニズムの隆盛を背景にした作品もあったが、本話もそういう背景を意識した作品であろう。
当時から既に男の弱体化は始まっていたのである。
ただ、フェミニズムは左翼思想と相性がいいはず。
とすると、基本的に左の人であるはずの山際監督がこういう時代錯誤なテーマの作品を撮っているというのが少々意外に感じられた。
当時はまだまだ左翼とフェミニズムは別物だったのだろうか?
まあ、あまりこういう問題を掘り下げると別のサイトになってしまうのでこれくらいにするが、当時既に漢の危機が始まっていたことは確かであろう。
今更ではあるが、沢口君の生き様を見習って漢を目指したいと思った(なんちゅう締めだよ(笑))。

タロウ第46話 タロウ全話リストへ タロウ第48話