白い兎は悪い奴!


データ

脚本は石堂淑朗。
監督は筧正典。

ストーリー

60年に一度地球に接近するというハーシー大彗星。
ZATの隊員たちは宇宙テレビでその様子を観察していた。
かねてから地球を見たいと思っていた宇宙人の少年ピッコロ。
ピッコロは知り合いのハーシー大彗星の尻尾に飛び乗り地球へ向かっていた。
ハーシー大彗星に起こされ目を覚ますピッコロ。
「人間っていったいどんな格好してんのかなあ」。
超能力で団地に住んでる少年の姿を見つけるピッコロ。
「僕と似てるなあ」。
少年に手を振ろうとしてうっかり彗星から転落するピッコロ。
ハーシー大彗星から流星が分離したことをキャッチするZAT。
ピッコロは流星となって地上に落下する。
団地に住んでる少年の名前は太一。
太一はその様子をウサギを抱えて見ていた。
ウサギを抱えてアパートに戻る太一。
しかしそこにはウサギ嫌いの大家が待ち構えていた。
「ネズミの次はウサギか」と大家。
すいませんと太一。
「すいませんで住むならば医者はいらん。すぐ捨てなさい」と大家。
「このアパートでは生き物を誰も飼ってはいかんことになっとる。汚れるからね」。
すると部屋から太一の母親が出て来る。
すぐにウサギを捨てないと部屋を出て行ってもらうと大家。
「庭つきの一軒家ならなあ」。
母親に愚痴る太一。
煙突の上から街の様子を眺めるピッコロ。
そこへ何処かからウサギが飛んできた。
ウサギを抱えるピッコロ。
その夜、大家はウサギを持ったピッコロに追いかけられる夢を見る。
「ウサギが大嫌いなんだ。生き物も大嫌いなんだよ」。
ピッコロに助けを請う大家。
目覚めた大家は太一の持つウサギを逆恨みする。
その頃ZAT基地では怪獣の気配をレーダーで探知していた。
「グラフに異常が現れ始めたのは昨夜大流星が光ってからなんです」と森山。
パトロールに出る東たちに特に流星の落下した地域を警戒するよう指示する荒垣。
その頃太一は母親からウサギを飼うなら大家にバレないよう箱の中で飼うよう注意されていた。
しかしウサギは太一が目を離した隙にアパートの外に出てしまう。
そこへ大家が帰ってきた。
ウサギを追い払おうとする大家。
車の下に入ったウサギを捕まえようとする大家。
しかし太一に邪魔され逃げられてしまう。
すぐさまウサギを追い詰める大家。
捕まえようとした瞬間、今度は煙突の上から様子を見ていたピッコロに邪魔されウサギは姿を消してしまった。
その場にいた太一にウサギをどこに隠したか問い詰める大家。
「知りません」と太一。
そこへ再びピッコロがウサギを大家の頭の上に投げ返す。
驚く大家。
ウサギに恐れをなした大家はその場を逃げ出した。
「よしよし」とピッコロ。
ZATの車を見かけた大家は、ウサギが怪獣になって姿を消したり現れたりしたと必死に訴える。
「それ、手品か何かの話ですか?」と北島。
「本当にぱあっと消えたの」と大家。
煙突からその様子を見ているピッコロ。
「あれがZATか。なるほど。こいつは用心しないといかん。せっかくのお忍びの旅がおじゃんになる」。
太一少年に本当にウサギが消えたのか尋ねる東。
否定する太一。
「本当に消えたんですよ、ZATさん。早く殺してくれ。ああ怖い」と大家。
「そのウサギ、ちょっと見せてくれないか」と北島。
そこへ大家が嫌がる太一からウサギを奪い取る。
ウサギを消して見せると空高く放り投げる大家。
しかしウサギは消えずにそのまま落ちてくる。
危うくキャッチする東。
「おじさん。出鱈目言っちゃ困りますね」と北島。
「これは間違いなく普通のウサギだ」。
太一にウサギを返す東。
「どうして君たちは撃たなかったか」と大家。
「いいじゃありませんか、大家さん。あの少年は本当に動物が好きなんですよ」と東。
「もうZATには頼まん」と言い残し去る大家。
部屋に戻った太一。
「よくやった。ちょっと危なかったけどお前が普通のウサギじゃないってことはZATにもわからなかった」とウサギを誉める。
「また消えて見せてくれ」と太一。
それを見ていたピッコロは仕方なくウサギを瞬間移動させる。
その頃東と北島の乗っていたウルフの計器が異常を感知していた。
しかし周りには異常は見られない。
不思議がる2人。
一方ピッコロは特殊な望遠鏡で東の正体がタロウであることを見抜いた。
「そうか。彼がウルトラ王国の6番目の子タロウか。ま、こんなところで対立するのはなしにしようぜ」。
呟いて煙突から飛び立つピッコロ。
夕方、大家は帰宅する太一の母親に声を掛け、アパートで動物を飼うことを認めると告げる。
大喜びする母親。
「やっぱりね。店子の権利ですからね。ペットを飼うことは」と大家。
お礼を言って家に帰ろうとする母親。
すると大家は母親を呼び止め、ウサギの餌にするため、乾燥させた野菜で作ったという団子を手渡す。
喜んで帰っていく母親を見送る大家。
「食べる。コテン」。
ほくそ笑む大家。
帰宅した太一の母親は、大家がウサギを飼うことを許可してくれたと太一に伝える。
「あんたがあんまりかわいがるんで、かわいそうになったんでしょう」と母親。
「そうじゃないさ。このウサギが怖くなったのさ」と太一。
大家からもらった餌を太一に渡す母親。
「いよいよ逆に、ご機嫌取りか」。
ご満悦の太一。
その頃ピッコロは地球の様子も大体わかったと帰る準備を始める。
しかし突如ピッコロは苦しみだした。
太一のウサギが毒の餌を食べたのだ。
「ちきしょう。餌に毒が入ってたんだ」。
悔しがる太一。
「あんな小さな動物に毒を盛るなんて」。
「くそう、人間め」。
怒りのあまりバランスを崩しマンションの屋上から落下するピッコロ。
ピッコロは巨大化して暴れ始めた。
付近を警戒していた北島と東が駆け付ける。
手に持った木づちでガスタンクを破壊するピッコロ。
辺り一面火の海となる。
その様子を見ていた太一。
「怪獣がこのウサギの仇を取りに来たんだ」と言う。
ZATの攻撃を木づちで打ち返すピッコロ。
東と北島はピッコロが太一の家の方角へ進んでいることに気が付く。
「怪獣、もっと暴れろ。暴れるんだ」と太一。
そこへ駆けつける東と北島。
「怪獣は人間の心に付け込むんだ。一人でも怪獣の見方をすると大変なことになるぞ」と東。
「プチは死んだ。殺されたんだ。こんな地球、どうなったっていいんだ」と太一。
「さあ来い。ウルトラマンタロウ」。
東を指さすピッコロ。
それを見た周りの人たちも東がタロウじゃないかと言いたてる。
「僕は違うよ」と言ってその場を去る東。
「じゃあ、あんたがウルトラマンタロウ?」
残された北島は周りの人からそう言われる。
建物の陰に逃げ込む東。
「よし、ウルトラマンタロウになってやる」。
変身する東。
「ウルトラマンタロウ。こんな下らぬ星。腐った心の地球人。よおく守っているな」とピッコロ。
「一体、どこの宇宙人だ」とタロウ。
「俺はピッコラ星雲のプリンス、ピッコロだ」。
ピッコラはタロウを卑怯者呼ばわりして、殴りかかる。
さらに鼻からミサイルを出すピッコロ。
それを交わして飛び蹴りを浴びせるタロウ。
倒れたピッコロもすかさず帽子をノコギリ状にして投げつける。
それをジャンプして交わすタロウ。
帽子を飛ばせないよう、アロー光線を帽子のコントローラーに浴びせるタロウ。
「ウルトラマンタロウなんか負けろ」と太一。
「わかったぞ。君が怒ったわけは。それはもちろん、一部には汚い心の人もいる。しかし多くの人間は皆美しい心を持っている」。
「嘘つけ。地球なんか嫌いだ。地球人は汚い」。
「その汚さも、美しい心を引き立てるためにあるんだ」とタロウ。
「嘘だ」。
襲い掛かるピッコロ。
しかし疲れからピッコロは倒れてしまう。
「少ない悪人のために、多くのいい人を見捨てるわけにはいかないんだ」とタロウ。
顔面にパンチの連打を浴びせるタロウ。
さらにタロウの蹴りでピッコロはダウンする。
「わかったよ。助けてくれ」とピッコロ。
「ちょっと遊びに来ただけだろ。地球のことは僕に任してくれ」とタロウ。
「わかった。じゃあ俺帰る」とピッコロ。
疲れて動けないというピッコロを空に投げてやるタロウ。
ピッコロは再びハーシー大彗星に跨り星に帰っていった。
反省した大家は犬をかわいがるなどすっかり変わってしまった。
動物だらけになるマンション。
「よかったなプチ」。
新たに飼い始めたウサギを抱きかかえる太一。
一方ZATの隊員たちは宇宙カメラでハーシー大彗星にまたがるピッコロを見送っていた。

解説(建前)

煙突の上にいたピッコロの下へ飛んできたウサギは何物か?
これは物語の展開上太一の飼っていたプチと解釈するのが素直であろう。
では、プチはどうやって煙突の上まで飛んできたのか?
まさかプチが本当に超能力を持ったウサギで自ら飛んできたということはありえないので、やはりピッコロがウサギを見つけて超能力で移動させたと解釈するしかあるまい。
小動物が好きなピッコロが太一の持っているウサギに興味を持って見たくなったというところであろう。

大家はなぜピッコロの夢を見たか。
これはやはりピッコロの超能力によるものであろう。
ピッコロは透視能力や念動力を持っている。
それは起きている間は人間には感じられないものであるが、五感がほとんど働いていない寝ているときには逆に感じられるのであろう。
人間の持つ第六感、セブンセンシズ的なものかもしれないが、大家の潜在的なウサギに対する恐怖心が合わさって、ああいう夢になったのだと思われる。

ウサギが毒を盛られたとき、なぜピッコロも苦しんだのか。
これもやはりピッコロの超能力の影響の一つであろう。
ピッコロは太一のウサギが気になって常にその居場所を感知していた。
そのある意味レーダー的なものがウサギの死の苦しみをキャッチしたのであろう。
ウサギの苦しみに同期したピッコロは自らも苦しみ屋上から転落。
そこで我に返って暴れだしたのであろう。

感想(本音)

悪い人間まで守る必要はあるのかという問いかけを含んだ異色作。
石堂氏らしい、路線に否定的な疑問を投げかけるストーリーとなっている。
ただ、その問いかけが成功してるのかと言われるとやや疑問。
悪いのは大家一人なのに街を破壊しつくすのは短絡的だし、太一みたいに心の優しい少年の存在も無視されている。
しかも太一が何の根拠もなくピッコロがウサギの仇を取ってくれると応援したり、粗が多い。
同じようなテーマに取り組んだ「怪獣使いと少年」と比べると、その描き方の差は歴然だろう。

といきなり辛口になってしまったが、エピソード自体はなかなか面白い。
今じゃピッコロというとナメック星人とか神とかそっちを連想する人が多いと思うが、個人的にはこちらのピッコロの方が元祖。
まあ、見た目的にはピノキオなのだが、今までのウルトラシリーズではあまりいないタイプ。
ウルトラシリーズよりもブースカとかウルトラQの世界観に近い怪獣であろう。
ただ、子供心にピッコロの人間体はちょっと不気味だった。
今ならキモかわいいとして許容されるのかもしれないが、怪獣体がゆるキャラ系なので余計に不気味さが引き立つ(笑)。

本話で目を引くのはやはり大泉氏演じる大家であろう。
大泉氏はウルトラシリーズには度々出演しているのだが、本話が一番コミカルな役柄。
ただ、何を演じても胡散臭くなるというのは氏の持ち味であろう。
本話でもその胡散臭さのおかげで、ウサギを毒殺するという行為がそれほど残酷には感じられなかった。
これが如何にも悪役という人が演じるともっと暗い話になったと思われるので、このキャスティングは正解であろう。

本話の中心はマンションでペットを勝手に飼ってもいいか。
この大家は昔から動物嫌いっぽいので、太一たちは初めからペットを飼ってはいけないと知っていたはず。
こう言ってしまうと身も蓋もないが、理は大家側にあると思われる。
それなのに、何故か大家は悪い人扱い。
もちろんウサギを毒殺するなんて言語道断ではあるが、再三の注意にも関わらずネズミやウサギを飼う太一にも非はあるだろう。
最後は大家が改心してめでたしめでたしとなってはいるがこの豹変は唐突だし、太一がピッコロの力を借りて力づくで大家にペットを飼うことを認めさせた形になっている点、疑問が残る。

ピッコロは自らをピッコラ星雲のプリンスと呼んでいる。
そしてウルトラの星をウルトラ王国と呼んでいる。
しかしウルトラの星には王はいない。
これはどうしたことか。
脚本を書いた石堂氏がウルトラシリーズの設定を知らないというのもあるだろうが、筧監督はじめスタッフが知らないはずがないので、やはり意図的にウルトラの星を王国に擬した可能性が高いであろう。

ウルトラ兄弟に関してはゾフィ初登場以来、宇宙の警察組織的な役割が与えられていた。
それが新マン、エースで兄弟、そしてタロウではファミリーの要素が重視されるようになったため、ウルトラ兄弟はただの警察組織ではなく、もっと個人的な繋がりのある組織と見なされるようになったのである。
そしてその究極が王家の一族なのであろう。
この時点でそういう構想があったか否かは不明にして知らないが、雑誌展開でそれらしいものはあったのかもしれない。
結局、それまでの設定を反故にするわけにいかず兄弟はあくまで仲間という位置づけに留まったが、後にウルトラマンキングが登場する辺り、ウルトラ王国という設定はそれなりに議論されていた可能性はあるだろう。

ピッコロは東を指さしてウルトラマンタロウと言っている。
ある意味これだけ大勢の人間に正体がバレたのは初めてであろう。
もちろんピッコロの言うことなんて当てにならないので、東たちが釈明すれば済む話なのだが、その辺りは結局スルー。
まあ、書くまでもないということだろうが、北島が市民に疑われる展開というのはちょっと面白かった。
この辺りは単なるギャグ展開なのだろうが、見てる方はちょっとドキッとしたのでスタッフの遊び心でもあったのであろう。

本話の脚本は前述したとおり石堂淑朗。
一応「因幡の白兎」をモチーフに脚本を書いたようだが、テーマ的にはほぼ無関係。
一応ピッコロ=大国主命が白ウサギを助けるという体裁はとっているものの、実際には前述したとおり「悪い人間まで守る意味はあるのか」というのがメインテーマであろう。
ただ、テーマが消化しきれていないのも先に書いた通り。
ただ、こういうテーマに取り組んだ点は評価したい。
普通ならなかなか答えが出せないテーマだと思うが、子供にもわかりやすく答えを出している。
「怪獣使いと少年」が問題を投げかける形で終わったのに対して、子供向け番組としてはある意味潔い描き方であろう。

そして、その答えもなかなか奥が深い。
汚いものがあるのは美しいものを引き立てるため。
一見子供騙しに見えるが、確かに全てのものが美しければ、相対的に美しいものはなくなってしまう。
一面の真理を捉えてはいるだろう。
そして、同様に悪がなければ善もない。
逆もしかり。
図らずも本話のテーマはウルトラ兄弟の存在意義にまで及んでいるのではないか。
さすがにそこまで意図して書いてはいないだろうが、石堂氏だけに穿った見方をしてしまう。
全体的には粗が多いが、そういう一筋縄でいかない部分を感じさせるのは、さすが石堂氏ともいえるであろう。

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