母の願い 真冬の桜吹雪!


データ

脚本は阿井文瓶。
監督は深沢清澄。

ストーリー

大熊座の小宇宙M81の爆発を観測するZAT。
「宇宙に異変が起きた後は、どんな奴が地球に紛れ込んでくるかわかったもんじゃない」と荒垣。
ZATは緊急警戒態勢に入る。
しかしその夜、M81から何物かが屋敷の塀の中へ忍び込んだ。
昼間、塀に落書きをする子供たち。
友達に何を描いてるのかと聞かれて、寅年だからトラを描いていると正博。
しかし友達から猫にしか見えないと馬鹿にされてしまう。
1人絵を眺める正博。
「本当だ。猫にしか見えねえや」。
その時正博は塀に不思議なシミがあるのを発見する。
怪獣の絵みたいだと正博。
シミをチョークでなぞり始める正博。
それを見守る仲間たち。
そこへパトロール中の光太郎と北島が通りがかる。
「うまいもんですねえ」と光太郎。
「しかし、怪獣は絵だけの方がいいな」と北島。
そこへ塀の持ち主の婦人がやってきた。
「うちの塀に落書きしちゃいけません」と怒鳴る婦人。
しかし絵に夢中の正博は婦人に捕まり耳を引っ張られてしまう。
落書きを消すように言われる正博。
正博は婦人の手を噛んで逃げる。
光太郎と北島に助けを求める正博。
「相手は怪獣ママギラスじゃないか」と正博。
追いかけてくる婦人にアカンベーをしてる子供たち。
入院している母親の病室に入ってくる正博。
「今、僕怪獣と戦ってきちゃった」と正博。
しかし母親にあまりいたずらをしないようにと諭される。
「今日は上手く描けたんだけどなあ」。
病室の窓からさっきの絵を眺める正博。
母親に自分の描いた怪獣ゴンゴロスの絵を見て欲しいと言う正博だが、母親はお花が見たいと言う。
「桃や桜や菜の花。来年はもう見られないかもしれないわね」と母親。
そこへ看護婦が入ってきて急いで窓を閉める。
「お母さんに寒い風がどんなに悪いかわからないの」と看護婦。
正博は仲間と一緒に花を買いに花屋に行ったが、お金が足りずに花を買えなかった。
代わりにチョークを買ってきて、塀一杯に桜の絵を落書きする正博たち。
近所の人たちも見物に訪れる。
そこへ塀の持ち主の婦人が現れた。
逃げる子供たち。
桜の絵を見て、なかなか綺麗だと婦人。
しかし怪獣の絵を見て「こっちは嫌らしいわね」とキックする。
その時怪獣の絵の目が光った。
驚く婦人。
「とにかく明日は子供たちを捕まえて消させなくっちゃ」。
翌日母親の病室に来た正博は、母親のベッドを窓際まで押して行き、塀に描いた桜の絵を見せる。
喜ぶ母親。
一方、婦人は塀の前で子供たちを待ち伏せしていた。
するとまた怪獣の絵の目が光る。
怪訝に思う婦人。
塀の中で実体化する怪獣。
怪獣は巨大化し、はずみで婦人は木の枝に吊るされてしまう。
通報を受け出動するZAT。
怪獣は太陽のエネルギーを受け蘇ったのだった。
アドバルーンを食べる怪獣。
空から攻撃するZAT。
お尻からガスを噴き出す怪獣。
強烈な匂いに苦しむ隊員たち。
さらに口から炎を吐いた。
しかし怪獣は再び塀の中に戻ってしまう。
着陸して絵を包囲する隊員たち。
そこへ正博を引き連れて婦人がやってくる。
「この子があの絵を描いたんですよ」と婦人。
「まだ別に絵が怪獣になったという証拠はないんですから」と光太郎。
「あたしがこの目で」と婦人。
「しかし子供の描いた絵が」と荒垣。
「皆さんはどうして銃を構えて、あの絵を取り巻いてるんですよ」と婦人。
正博にどこの子かと尋ねる婦人。
「母ちゃんは病気が重いんだ。あの桜並木だって、母ちゃんのために」と正博。
それを聞いて病院へ連れて行こうとする婦人。
「僕が描いた絵が動き出したんだから僕が消してくる」と正博。
正博が服で絵をこすると、再び怪獣が巨大化した。
地上から攻撃するZAT。
正博は隊員の制止を振り切って再び塀に落書きを始めた。
タロウの絵を描き上げる正博。
「タロウ!出てきてよ」と正博。
ホエールとコンドルに乗り攻撃する荒垣たち。
光太郎は正博を救出するため地上に残る。
ミサイルが通用しないためレーザーでの攻撃に切り替えるZAT。
しかしどんな攻撃をしても手ごたえがない。
塀の絵から蘇った怪獣の特異な体質にZATは気づかなかったのだ。
とうとう墜落する2機。
タロウが出てこないなら僕が一人で怪獣をやっつけてくると正博。
それを見て塀の絵を背にタロウに変身する光太郎。
ゴンゴロスと格闘するタロウ。
怪獣の動きを止め透視するタロウ。
怪獣の正体を見極めたタロウは怪獣に水流を吹きかける。
こいつは落書きを消すようにやっつければいいのだ。
タロウが怪獣をなでるように触ると、怪獣は落書きが消えるようにかき消された。
残った魂だけが分離して空を飛ぶ。
ストリウム光線を放つタロウ。
魂は爆破し、その残骸が花吹雪となって舞い落ちた。
「ありがとう。タロウ」と正博。
桜の枝を1本、正博にプレゼントするタロウ。
それを病室の母親に持っていく正博。
それを眺めて嬉しそうにする母親。
「タロウがくれた花だもん。病気もすぐよくなるよね」と正博。
「でも皆さん。本当は正博がご迷惑をお掛けしたんじゃないでしょうか」。
「そんなことはありません。正博君の絵がなくても怪獣は出てきて結局は暴れたんですから」と荒垣。
「むしろ、正博君の描いたウルトラマンタロウの絵が怪獣をやっつけたんですから、正博君は大手柄なんです」と光太郎。
「ありがとうございます」と母親。
「僕はねえ。大きくなったら偉い画家になるって決めたんだ」と正博。
「でも、もう怪獣の絵は描かないんだ。上手く描きすぎて本物が出たら困るもんね」。
「じゃあ何を描くのかな」と南原。
「決まってるわよ。花でしょ」と森山。
頷く正博。
「でも正博。画家になるんなら、まず図画の成績を3か4まで上げなくちゃね」と母親。
帰っていく隊員たちを見守る母子。

解説(建前)

ゴンゴロスは何物か。
塀に潜り込んだ際に怪獣のシミができていることから、元々こういう姿の怪獣とも考えられるが、やはりシミは偶然あの形になったと考えるのが素直であろう。
M81の爆発に伴い何かが地球に飛来した。
ZATが爆発を観測した直後に地球まで届いていることから、普通の物質とは考えづらい。
やはり宇宙線の類と考えるのが妥当であろう。
地球まで届いた宇宙線は塀のコンクリートにぶつかり一体化した。
その際、怪獣ゴンゴロスとして転生したのであろう。

ではなぜゴンゴロスは巨大化したのか。
ゴンゴロスは太陽光がないと巨大化できない。
そこでこのように考えることにする。
すなわち、ゴンゴロスの実体はいわば雲のような水蒸気の集まりで、太陽光をプリズムのように反射することにより大きなゴンゴロスの像を結んでいた。
タロウが落書きを消すようにゴンゴロスを消すことができたのも、周りの水滴を振り払ったためであろう。
ただ、それだと炎を吐いたり、ガスを噴き出したりしたことが説明できないのではないか。
この点については、一応合体したコンクリートが実体を持っていることから、コンクリートに含まれている物質を元に炎やガスを合成したと解釈すれば問題はないだろう。

感想(本音)

単純なストーリーと意味不明な怪獣という取り合わせは初期阿井脚本ではお馴染み。
親子愛と高橋仁くんというと、阿井氏のデビュー作「君にも怪獣は退治できる」を思い出させるが、前者が父子愛ならこちらは母子愛。
所謂タロウらしいエピソードということになるであろうか。
ただ、個人的にはこの時期の阿井脚本はあまり好きではない。
それは怪獣があまりにも妖怪化しているから。
路線変更がないと言われるタロウであるが、実は初期は強豪怪獣対タロウという王道回帰的な側面があった。
その辺りこの時期のタロウは少々拍子抜けなところは否めないであろう。

本話でまず指摘されるのは落書きが怪獣になるという点が、初代マンのガバドンと同じではないかという点。
しかし、ガバドンが子供の夢の具現化であったのに対し、ゴンゴロスはただの外部から来た怪獣であるという点、本質的に異なる。
また、ゴンゴロスは子供の書いた落書きではなく、元は解釈にも書いたように宇宙線が合体したシミであった。
正博はただそれをなぞっただけに過ぎない。
ただ、脚本を書いた阿井氏のインタビューによると、落書きが怪獣化するというコンセプトを佐々木守氏に話したところ、そんなのはとっくに俺がやったぞと言われたとのこと。
とすると、コンセプト自体はやはり落書きが怪獣化するという点共通ではあるようだ。

しかし、私はこの話を見てまず新マンの「キングストロン」の話を思い出した。
こちらは宇宙怪獣クプクプの破片が壁と一体化して怪獣になったということであったが、本話はこちらの方に近いのではなかろうか。
ただ、ゴンゴロスの特異なところは、最後落書きを消すようにして消えていったところ。
この辺りはタロウ世界ならではだが、もはや生物であるという点は完全に放棄していると言えるだろう。
この辺りはウルトラを見ていなかったという阿井氏独特の感性であろうが、何をやっても二番煎じになってしまう時期だけに、一応プラスに評価すべきであろうか。
ただ、ベタなドラマ部分といい、話の重みに欠けるのは否めないだろう。

本話は塀の持ち主の婦人がやや悪役っぽく描かれているが、子供に馬鹿にされた上に落書きされでは、やはりこの婦人は完全に被害者であろう。
それなのに怪獣ママギラス呼ばわりは気の毒であるが、豪邸に住んでいる金持ちというだけで悪役にされがちな時代だけに仕方ないといったところであろうか。
一方正博の母親もこれまたベタな病床の母。
桜の花が見たいというのは完全に死亡フラグなのだが、この後母親はどうなったのか。
ドラマ的にはハッピーエンドを予感させるような明るいエンディングであったのだが、冷静に考えてもタロウが与えた桜の枝だけで病気が治るわけはなく、やはり長くはないであろう。
そういう気持ちで見ると、なかなか味わい深い趣のあるラストである。

正博役はウルトラシリーズ何回目の登場かわからなくなってきた高橋仁くん。
高橋くんと言えばやはりバキシム、コオクスの魔少年ぶりが印象深いが、この時期になると割と普通な腕白少年役が嵌るようになってきた。
レオのサタンビートル回ではまた違う意味で屈折した少年役だったが、この時期の特撮界における高橋くんの活躍ぶりは特筆に価するであろう。
一方今回は白鳥姉弟の出番はなし。
話に絡ませづらかっただけかもしれないが、結果的には出なくて正解といったところか。

本話の脚本は阿井文瓶。
前述したように、やや苦手な部類の脚本だ。
レオの頃になると強豪怪獣と児童文学のバランスのいい良作をいくつも書き上げる阿井氏だが、この時期はやはりまだテンプレ通りに展開するのがやっとという感じ。
演出の問題もあろうが、最後の全員が集まって会話をするシーンもベタだし、ちょっと子供向けを意識しすぎてる嫌いはある。
ただ本話の場合実は母親の病状は何も変わりなく、その辺りの余韻を残しているのがせめてもの救いか。
これで病気まで完治してワッハッハではさすがにどうかと思うので。

タロウ終盤は田口氏が次作の準備ということもあり、阿井氏と石堂氏の脚本が多い。
取り分け阿井氏はほぼメインライターかという多作ぶりだ。
正直まだまだ脚本のレベルは高いとは言えないが、お得意の児童文学ネタなど阿井氏の持ち味が徐々に出てくるし、阿井氏の成長という視点から見るとなかなか楽しめる時期ではある。
また、相変わらず石堂氏は問題作を送り出すし、大原氏も最後に人間の業を問う作品を送り出すなど、タロウ終盤は意外とバラエティに富んでおり、見どころは多いであろう。
確かに私のような初期のハード路線が好きな者には温くて見てられない話もあるが、基本は妖怪変化と家族愛とコメディなので、その点一貫はしている。
タロウのレビューもあと僅かなので、その辺りを楽しみつつ書いていきたいと思う。

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