木枯らし怪獣!風の又三郎


データ

脚本は阿井文瓶。
監督は筧正典。

ストーリー

健一たち気象観測班は屋上で雲の形を観測していた。
望遠鏡を覗き込む健一。
健一が関係のない風景ばかり見ていると、班の女子に雲を見るよう注意される。
雲を怪獣に見立てて悪ふざけする健一たち。
また女子に怒られた健一は渋々望遠鏡を覗く。
すると、突如黒雲が凄い勢いで噴出した。
驚く健一。
健一がふと屋上の端を見ると、いつの間にか黒い傘を差した少年が。
不気味がる健一たち。
「きっとドンちゃんだわ」と少女。
その少年はドンちゃんといい、先月同じクラスに転校してきたという。
「空想屋か。変な奴さ。昼間から夢を見て寝ぼけてるみたいなんだ」とヒロちゃん。
父親の都合で転校を繰り返しているという。
ドンちゃんは、授業中に教壇に立ち「この教室は本当は宇宙船だ」と言い出すなど奇行が目立ち、またウルトラマンより怪獣が好きという変わった少年であった。
友達がいないドンちゃんを不憫に思った健一は観測の仲間に入れてやることにする。
望遠鏡を覗き込むドンちゃん。
「空想屋。怪獣グロンが襲撃してくるのが見えるだろ」とヒロちゃん。
するとドンちゃんは空に向かって手招きを始めた。
「ドンちゃん何が見えるんだい」と健一。
ドンちゃんは健一に望遠鏡を覗くよう代わってやる。
望遠鏡を覗き込んだ健一は巨大な目玉のようなものを目撃する。
驚いてひっくり変える健一。
他の男子も望遠鏡を覗き込み次々とひっくり返る。
そこへ先生がやってきた。
先生は嵐が来るからすぐに家に帰るようにと健一たちに言う。
健一は怪獣の目が見えたと先生に言うが、信じてもらえない。
望遠鏡を片付けて家路につく健一たち。
その頃ZATは気象庁の依頼を受け嵐の動きを観測していた。
東北地方から発生した嵐が猛スピードで南下していたのだ。
コンドルでの出動を志願する光太郎たち。
しかし荒垣は嵐の正体がわかるまでは動いてはダメだと却下する。
そこへ嵐の中心に生物の気配がするとの報告が入った。
出動する隊員たち。
一方健一はドンちゃんと一緒に帰宅の途中だった。
そこへヒロちゃんが仲間を従えて現れた。
ドンちゃんが怪獣を呼んだと言いがかりをつけるヒロちゃん。
ドンちゃんに掴みかかろうとするヒロちゃんを止めに入る健一。
しかし健一はヒロちゃん一行に引き倒されてしまう。
その時急に風が吹き多くの枯葉がヒロちゃん一行に降りかかってきた。
枯葉が目に張り付いて周りが見えなくなるヒロちゃん一行。
一行はそのまま逃げ去ってしまう。
知らない間に姿を消したドンちゃんを探す健一。
するとドンちゃんはいつの間にか木の枝の間に座っていた。
驚く健一。
健一が降りるように言うと、ドンちゃんは傘をパラシュートのようにして木から飛び降りた。
「さっきの木の葉は君がやったのかい」と健一。
すると、ドンちゃんは傘を回転して落ち葉を舞わせて見せた。
忍者みたいだと喜ぶ健一。
望遠鏡の中に見えた目もドンちゃんの仕業かと心配になる健一。
しかしそのことをドンちゃんに聞いてもドンちゃんは答えない。
そこへ地上パトロール中の森山隊員がやってきた。
「早くお家に帰らないと怪獣に食べられちゃうわよ」と森山。
嵐の真ん中に怪獣が潜んでいると森山。
森山は家まで送っていくと言うが、健一はそれを断った。
健一が改めてドンちゃんに怪獣のことを問い詰めると、ドンちゃんは再び傘を回し始める。
さらに風が強くなる中、いきなり団地の屋上へと走り出すドンちゃん。
ついていく健一。
2人が屋上に着いたと同時に嵐の中から怪獣グロンが現れた。
グロンは口から強風を吹き出して街を破壊する。
空から攻撃するZAT。
ZATの攻撃を受けて倒れるグロン。
勝利を喜ぶ荒垣たち。
しかしグロンは急に透明になって地面に潜伏したかと思うと、団地に潜り込んで屋上にいる健一たちを捕えてしまった。
グロンの頭の上で人質となる健一たち。
頭を攻撃できず苦戦するZAT。
グロンの吹き出す強風を受け墜落するホエール。
脱出する荒垣たち。
「僕たちがいるから攻撃できないんだ」。
墜落するホエールを見て呟く健一。
こうもり傘で一緒に飛び降りようとドンちゃんに提案する健一。
「二人で飛び降りるのが無理なら君だけでも」と健一。 しかしドンちゃんはそれに抵抗する。
「ドンちゃん。こいつの足の下で家が潰されていくんだぞ。君ん家だって、僕ん家だって今に潰されちゃうんだぞ」。
ドンちゃんを説得する健一。
健一は授業用の大型三角定規を取り出して、グロンの頭に突き立て始めた。
最初は健一を止めようとしたドンちゃんも、それを見て傘をグロンの頭に突き刺す。
「ドンちゃん。こいつは君が呼んだんじゃないんだね」と健一。
地上から攻撃する荒垣たちはグロンの吹き出す風に苦戦する。
グロンの口を塞ぐようコンドルの光太郎と北島に指示を出す荒垣。
コンドルごと突っ込んでグロンの口に栓をしようと光太郎。
「冗談言うなよ」と北島。
しかし光太郎は作戦を決行する。
塞いだ口の中でミサイルを発射するコンドル。
痛がって暴れるグロン。
グロンはコンドルを鷲掴みにして投げ捨てる。
脱出する光太郎たち。
さらに健一たちもドンちゃんの傘で飛び降りる。
それを見た光太郎はパラシュート上でタロウに変身。
二人を助け出すタロウ。
グロンと格闘するタロウ。
グロンは電柱を口に咥え、それをタロウめがけて噴出した。
電柱を交わしつつグロンが息を吸い込むタイミングを待つタロウ。 タロウはグロンが大きく息を吸い込んだとき、すかさずキングブレスレットを投げつけた。
口を塞がれ吸い込んだ空気を吐き出せないグロン。
グロンは自分の吸い込んだ空気で風船のようになり宙へ浮かぶ。
空気の圧力で爆発するグロン。
翌日、健一は校門でドンちゃんが来るのを待っていた。
そこへZATの隊員たちがやってくる。
「怪獣相手に大活躍した子が今日は元気がないじゃないか」と荒垣。
「ドンちゃんがまだ来ないんだ」と健一。
そこへ気象班の仲間がやってきた。
仲間の女子からドンちゃんが遠くの山の中の学校へ転校したことを知らされる健一。
「面白い奴だったのになあ」と男子。
その時急に木枯らしが吹いた。
空に浮くドンちゃんのこうもり傘を見つける健一。
「ドンちゃん。戻っておいでよ」と叫ぶ健一。
「健ちゃん。僕も怪獣よりウルトラマンの方が好きになったよ」と答えるドンちゃんの声。
「ドンちゃーん」手を振る健一。
「健ちゃーん」。
「北島さん。何か見えますか?」と南原。
「いや。東見えるか?」と北島。
「いえ」と光太郎。
「副隊長。何か見えるんですか?」と北島。
「見えない」と荒垣。
「しかし、我々に見えないからといって、あそこに何もないとは言えんぞ。大人になってしまうと、段々見えなくなっちまうもんもあるんだよ」と荒垣。
「さようならー」。
空にこだまするドンちゃんの声。

解説(建前)

グロンを呼んだのはドンちゃんか?
ドンちゃんが手招きをした直後に望遠鏡にグロンの目玉が映ったことから、ドンちゃんが招きよせたようにも見える。
しかし、ドンちゃんが手招きをする前から黒い雲は噴出していたこと。
またドンちゃんがグロンを傘で攻撃したこと、怪獣よりウルトラマンが好きになったと言ってることから、グロンとドンちゃんには直接の関係はないと考えるのが妥当であろう。
手招きをしたのは、単に怪獣好きのドンちゃんの願望が動作に現れただけに過ぎないのではないか。

では、ドンちゃんは何者であろうか。
まず風の精という説であるが、それだとそもそも転校を繰り返してまで学校に通う理由がわからない。
それに風の精が全国を渡り歩くのも不自然。
したがって、風の精という可能性は低いであろう。
では、宇宙人なのか?
これに関してはミステラー星人の娘という前例があるので学校に通っても不思議はない。
ただ、ミステラー星人の娘の場合は完全に学校には馴染んでいた。
ドンちゃんのように何処へ行っても異端児扱いでは、学校へ通う意味もなかろう。
したがって、ドンちゃんは人間と考えるのが素直である。

ドンちゃんはこうもり傘で宙を舞うことができる。
また、木の葉を自在に操ることもできた。
このことからは、何らかの超能力者と解釈できそうである。
ただ、ドンちゃんの能力はいずれもこうもり傘を経由している。
したがって、こうもり傘に不思議な力が秘められているだけで、ドンちゃん自身は普通の子供と考えることは可能であろう。
実際健一と一緒にグロンから飛び降りたときも、こうもり傘のおかげで二人とも宙に浮いてるように見えた。

ただ、それだとこうもり傘をどうして手に入れたかという問題も出てくる。
偶々拾っただけと解釈することも可能であるが、その可能性は低いであろう。
ドンちゃんは転校を繰り返している。
その原因はやはりドンちゃんの不思議な能力にあると思われる。
もしドンちゃん自身は普通の子で傘に力があるのだとすると、親がそれを持たせるはずがない。
やはりドンちゃん自身に超能力があり、傘はそれを助けるアイテムと考えるのが素直であろう。

では、なぜドンちゃんは学校で超能力を使ってしまうのか。
これはやはりドンちゃんが普通の人間とは違うというのが大きい。
クラスメートが証言してるように、ドンちゃんはかなり奇行の目立つ少年である。
すなわちどうしてもクラスで浮いてしまう。
また、見た目からもわかるが、かなりひ弱な少年である。
これらの事情から、自分の身を守るために超能力を使わざるを得ないのである。

では、ドンちゃんは突然変異で超能力者になったのか、親も超能力者の超能力一族の人間なのか。
この点、超能力者の一族の人間ならもっと世間に溶け込むよう親が教育するであろう。
したがって、ドンちゃんは突然変異の可能性が高い。
ただ、それでも傘の問題は残る。
あのこうもり傘が特殊なものだとすれば、誰がそれを作ったのかという疑問が残るのである。
もちろん普通の傘がドンちゃんの超能力に感応してるだけと解することも可能である。
ただ、映像を見てる限りはそこははっきりしない。

そこで、このように解釈するのはどうだろう。
あの傘はドンちゃんの父親である宇宙人が残していったものだった。
超能力少年と言えば思い出すのが、ウルトラマンレオのウリーである。
ウリーについても宇宙人と人間のハーフと解釈した。
ドンちゃんにもその解釈は可能なのではないか。
このように解すれば、ドンちゃんの戸籍があるのも、母親が奇行の目立つ息子を学校に通わせるのも筋が通る。
そして、本能的にウルトラマンより怪獣が好きというのも合点が行くのである。
以上よりかなり強引ではあるが、ドンちゃんは宇宙人と地球人のハーフであると解釈しておく。

感想(本音)

阿井氏得意の児童文学的エピソード。
タイトルにある通り「風の又三郎」を下敷きにしていると思われるが、直接的な関連はあまりない。
せいぜい又三郎が結局普通の人間なのか風の精なのかわからなかった点が似てるくらいであろうか。
ドンちゃんの名前についても、「風の又三郎」と関連はなかった。
ドンちゃんが何者かについては一応上記のように考察したが、まあ定番の謎の転校生ものということであまり考えても意味はないと思う。
帰ってきたウルトラマンの白鳥エリカと同じで。
そういうものの大元が「風の又三郎」というのはあるのかもしれないが。

本話は何と言っても謎の転校生ドンちゃんに尽きるだろう。
終始無言で如何にも浮世離れしたキャラのドンちゃん。
やはりタイトルからも風の精というイメージ。
佐川氏のナレーションもそうだったし。
ただ、クラスメートの話でドンちゃんの色々な発言が出てきたことから、言葉を話せないという設定にはしていなかった。
ラストシーンまで無言だったのも単なる演出だったのであろう。

理由はわからないがウルトラマンより怪獣が好きというドンちゃん。
クラスメートから空想屋と言われていたように誰にも相手にされていなかったが、おそらくドンちゃんは他の学校でもそういう扱いだったのであろう。
しかし健一はそんなドンちゃんも仲間に入れてくれた。
また、いじめっこからも庇ってくれた。
人と違うことからあまり友達はいなかったと思われるドンちゃんにとって、健一は初めての友達だったのだろう。

ただ、それでもドンちゃんは終始無言で健一に完全に心を許したわけではなかった。
しかし、それも徐々に融解していく。
その転機になったのはやはり健一と一緒にグロンに傘を突き刺すシーンだろう。
それまでのドンちゃんはやはり排除される側の怪獣に感情移入していた。
しかし、この時の健一の説得や友情により、それが間違いであることに気づいたのである。
望遠鏡でグロンを見てそれを誘い出すような仕草をしたドンちゃんはもうそこにはいない。
排除され虐げられたからと言って、復讐が正当化されるわけではないのだ。

最後去って行くドンちゃんは初めて健一に話しかけた。
このシーンはやはりドンちゃんが健一に心を開いてお互いの心が通じ合ったという演出なのであろう。
ウルトラマンの方が好きになったとドンちゃん。
おそらくそれまでは暴力で怪獣や宇宙人を排斥する存在としかウルトラマンを見ていなかったのであろう。
しかし、その背後には命の危険にさらされている人間がいる。
そういう当たり前のことにドンちゃんは気づくことができたのである。

また、最後は荒垣もいい味を出していた。
ちょっとためて「見えない」。
しかし続けて「しかし、我々に見えないからといって、あそこに何もないとは言えんぞ。大人になってしまうと、段々見えなくなっちまうもんもあるんだよ」。
ウルトラマンである光太郎ですら見えない世界。
この辺りも含めて、やはり本話は良質な児童文学だと思う。

ドンちゃんのキャラに持っていかれてちょっと扱いが地味になってはいるが、グロンもなかなか面白い怪獣。
木枯らしの中心にいるところなどバリケーンに似てるが、台風が南から来るのに対して木枯らしは北からと差別化されている。
この辺りは「風の又三郎」モチーフだから東北なのだろうが、怪獣まで風をモチーフにしたのは主題をより強調するためであろうか。
ドンちゃんと怪獣の関係をミスリーディングするために風をモチーフにした可能性もあるが、さすがにそこまで考えていたかはわからない。
また、口に電柱を咥えて吹き出すのは、こちらは「木枯らし紋治郎」からのネタであろう。

今回健一が気象班に入っていることが判明。
しかし健一がドンちゃんを知らなかったことから、一人だけ別クラスのようである。
余談だが、謎の転校生と天体望遠鏡で思い出したのがうちの子にかぎっての「転校少女にナニが起こったか」。
まあ、本話は恋愛話ではないのだが、あの転校少女は私の解釈では精霊的な何かだと思うので、やはり「風の又三郎」が元ネタな点、共通しているであろう。
話を戻すと、いくらドンちゃんが変人で怪獣を手招きしたからって怪獣を呼び出したというのは言いがかり過ぎ。
ヒロちゃんは子分まで連れてドンちゃんを殴りにくるとか、意外と武闘派であった。

本話は阿井氏の2本目の脚本であるが、1本目がタロウテンプレな話だっただけに今回の方がより阿井氏の個性が出ていると言っていいだろう。
氏の持ち味は何と言っても子供たちの心の交流劇。
この辺りは児童文学に造詣の深い氏の真骨頂だろう。
また、氏の描く教訓は佐々木・実相寺の左翼的なものに対して、どちらかというと保守寄り。
まあ、実際の氏の思想は知らないのだが、ウルトラマンを肯定する結論は子供番組としては正当であろう。
本話は風の又三郎をモチーフにうまく怪獣や子供たちの交流を描いている。
ファンタジーの要素もあり、気楽に楽しめる好編として評価できる1本であろう。

タロウ第31話 タロウ全話リストへ タロウ第33話