あぶない!嘘つき毒きのこ


データ

脚本は大原清秀。
監督は筧正典。

ストーリー

ある日、住宅街の真ん中に巨大なきのこが出現した。
ZATの攻撃をものともしない巨大きのこ。
巨大きのこはZATが散布した薬品を毒と化して街中にばら撒く。
スワローを撃墜された光太郎はタロウに変身。
タロウは手から出した炎できのこを炙り、きのこは溶けてなくなった。
しかし、小さいきのこが一つだけ生き残る。
健一のクラスメート武田大介は苦手の理科で80点を取って先生に褒められた。
母親にテストを見せようと、上機嫌で家に帰る大介。
しかし母親の残した書置きには今日もパートで帰りが遅いと記されていた。
一人で公園で時間を潰す大介。
拗ねた大介はテストを紙飛行機にして飛ばすが、その飛行機がたまたまパトロール中の光太郎たちの車に飛び込む。
その名前を見て健一のクラスメートだと思い出す光太郎。
ブランコに乗る大介を見つけた光太郎と南原は車を降りて、大介に家に帰るよう忠告する。
しかし話を聞いた光太郎は大介を気の毒に思い、植物の声が聞こえるという植物トランシーバーを貸してやった。
植物トランシーバーで街の植物の声を聞いていた大介。
すると助けを求める植物の声が聞こえてきた。
声の主はきのこでアスファルトの下で干からびて死にそうになっているという。
きのこの言うとおり水をかけてやる大介。
するときのこは成長してアスファルトを突き破った。
自分を食べてもいいというきのこの申し出を断る大介。
そこへ大介の知り合いの3人組の中学生が通りがかった。
一人がきのこを拾い上げる。
3人はレコードを聞くため、大介の家にあるステレオを使わせろと脅す。
渋々承知する大介。
3人は約束の時間を過ぎても帰ろうとしない。
懇願する大介をおさえつけ、植物トランシーバーを取り上げる3人。
「俺たちの言うことを聞いたら返してもいいぜ」。
何でもするという大介にさっきのきのこを食べるよう命令する3人。
しかし本当に食べようとする大介に驚く3人。
毒だったらどうするんだよと止めようとするが、大介は構わずきのこを食べた。
すると大介はきのこ人間の姿に変ってしまう。
驚いて逃げる3人。
鏡で自分の姿を見て驚く大介。
そこへさっきのきのこが話しかける。
「お前は今日からきのこの奴隷なのだ。さあ、水のたっぷりある所へわしを連れて行け」。
きのこに操られて姿を消す大介。
翌日、大介を探す光太郎と南原。
そこへ例の中学生たちが通りがかる。
中学生の手にある植物トランシーバーに気が付く南原。
光太郎は3人を問い詰め、大介が変なきのこを食べてきのこになったことを聞き出す。
植物トランシーバーを返して逃げ出す3人。
半信半疑の2人は植物トランシーバーで大介を呼び出すことにする。
光太郎の呼びかけに答える大介。
「僕、お化けきのこに捕まっちゃったんです」と大介。
大介は暗くて水の音がする場所に捕まってると光太郎に知らせる。
しかしそこでトランシーバーが故障してしまった。
大介の無事を知らせに大介の家へ向かう二人。
その頃大介の母親は大介のテストの答案を見て、パートに出たことを後悔していた。
大介の母親を励ます大介の父。
紅茶を飲む二人。
大介の家の前に着く光太郎。
ブザーを押すが反応がない。
ドアが開いていることに気づいた光太郎は中に入る。
すると居間にはきのこ人間と化した2人がいた。
驚く光太郎。
そこへ南原がやってきて、団地中の人がきのこになってると知らせる。
その光景を見た光太郎は、この間のお化けきのこの生き残りの仕業だと考える。
大介の家の水道の水を見て、団地中の人間がきのこになった理由を悟る光太郎。
水道水からきのこの毒素が広まったと考えた2人は団地の給水塔へ向かう。
そこへ荒垣たちも到着。
給水塔を攻撃しようとするZAT。
しかし給水塔の中からきのこ怪獣マシュラが出現した。
マシュラの撒く水を浴びる荒垣たち。
すると荒垣、南原、北島の3人はきのこ人間になってしまう。
マシュラの撒く水を浴びないように車に逃げ込む光太郎。
一方空からは森山がホエールでマシュラを攻撃する。
マシュラは目から光線を放つとそれを浴びたきのこ人間たちが一斉に歩き出した。
浄水場の方角に向かってると森山。
それを聞いた光太郎は浄水場にきのこの毒素が入ると東京中の人間がきのこになると警戒する。
行進するきのこたちを説得して止めようとする光太郎。
しかしきのこになった荒垣たちは光太郎に殴りかかりそのまま行進を続けた。
諦めてタロウに変身する光太郎。
タロウはキングブレスレットの力で行進するきのこ人間の動きを止めた。
マシュラと格闘するタロウ。
マシュラのパワーに圧倒されるタロウ。
しかしタロウはマシュラを投げ飛ばすとキングブレスレットを掲げてマシュラを乾燥させる。
干からびて粉となるマシュラ。
するときのこ人間にされていた人たちも元の姿に戻った。
両親の下へ戻る大介。
パートを辞めるという母親に、もう一人で寂しくないと大介。
「だって、タロウがいるもん」と大介。
きのこ怪獣の滅びた跡にはたくさんのマツタケが生えてきた。
美味しそうにマツタケ料理に舌鼓を打つ光太郎と森山。
きのこなんて見たくないという荒垣たち。
しかしとうとう匂いに我慢できなくなった荒垣たち
マツタケ料理を食べる隊員たち。

解説(建前)

マシュラは何物か。
地球のきのこの突然変異と考えることも可能だが、さすがにここまでの変異は考えにくいので、無難に宇宙きのこと解釈しておく。
おそらく隕石か何かに乗ってきた宇宙きのこが地球の栄養分を吸収し、異常に成長したのであろう。
植物と動物の中間的な性質を持つ宇宙きのこがその本能に基づき仲間を増やそうとした。
ただ繁殖力そのものはそれほど強くなく、マシュラの仲間自体を増やすというよりは奴隷であるきのこ人間を増やすという目的であろう。

マシュラが倒されたらきのこ人間が元に戻ったのはなぜか?
マシュラは怪しい光線できのこ人間を操ることができる。
ただ操ることができるのは体のみで、大介が光太郎と会話できたように精神や脳のレベルまでは支配できない。
きのこ姿はあくまで人間の体を拘束するという効果しか持ってないのである。
マシュラの胞子のようなものが人間の体に入るとそれはきのこに成長し一瞬で人間を拘束する。
ただ、それもマシュラあってのもので、マシュラが出す指令波のようなものがなくなると、きのこ自体も無能力化し一瞬で消えてしまうのであろう。
厳密には人間の体に胞子は残るが、それも自然に排出されると考えられる。

感想(本音)

なかなかよくできた話。
本話の脚本は大原清秀氏。
バサラやマンダリン草に続いて植物系の怪獣。
植物系の怪獣が好きなのだろうか?
話の内容はコメディでもあり妖怪譚でもありホラーでもある。
デッパラス編の青春ドラマ、バサラ編のホラー、メフィラス篇の少年ドラマ等々、守備範囲の広い氏の面目躍如といった感じか。
相変わらず解釈に困る部分はあるが、話の筋的には非常にわかりやすく見やすいエピソードである。

本話はいきなり怪獣と戦うという変則パターンで始まる。
このパターンはシリーズに1回はあるという感じで、セブンだと「セブン暗殺計画」、新マンでは「郷秀樹を暗殺せよ」、エースだと「サボテン地獄の赤い花」、レオだと「セブンが死ぬとき東京は沈没する」などが挙げられようか。
パッと思いついた話を挙げただけなので他にもあるかもしれないが、初代マンではこの掟破りのフォーマットはさすがになかったように記憶している。

本話の面白いところはきのこの生き残りがある意味パワーアップするというところにあり、これは初代ではガバドンのパターンに近い。
まあ、そもそも最初の戦いに意味はあるのかという問題もあるのだが、それも一応回収できてるので、物語的な破綻はないだろう。
すなわち、タロウは最初火あぶりでマシュラを倒した。
しかしこれが失敗だったのである。
焼却という手段だとどうしても生焼けというか焼け残りができてしまう。
だから、最後は乾燥させたのだ。
これだと生き残りが発生する可能性はほぼなくなる。

単にストリウム光線を浴びせたら逆にマシュラの細胞がバラバラに散らばってしまうだろう。
この辺りちゃんと怪獣の特性を考えた戦い方をしている辺り芸が細かい。
そして倒し方を変えることでタロウが2回戦う理由づけを一応行っている。
本当はただの視聴者サービスなのだろうが、戦闘が被らないように配慮することでうまく回収している。
また、最初に巨大きのこを出すことでマシュラのキャラがうまく引き立ったという面も大きいだろう。

本話のお笑いポイントはやはりZATの隊員がきのこになって歩き出すシーンだろう。
仲間の隊員が敵に操られる展開は新マンのナックル星人編などでも見られたが、きのこに操られるところがZATらしいところか。
むしろヤメタランスの方が近いかもしれない。
また、このシーンは同時にホラーでもある。
人がきのこになるホラーといえば、あのマタンゴを思い出す。
円谷英二が特撮を担当したマタンゴが本話の下敷きになってるのは間違いないであろう。

最後マシュラの死んだ跡からは、マツタケがたくさん生えたという。
このオチもタロウではお馴染みで、ガンザとの対戦の後カニが大量にとれたというのがあった。
子供向けでわかりやすいオチではあるが、ただ何でマツタケが大量発生したのかは謎。
マシュラの死骸が直接マツタケに変ったのか、マシュラの死骸の影響で近くにあったマツタケが急成長したのか。
いずれにせよ、あまり食べたくない気がするのは私だけだろうか?

その他のポイント。
大介をいじめる中学生の一人に「怪獣使いと少年」の良君が。
妙にいじめ役が嵌ってたと思うのは私だけか?
ただ、この3人は不良というよりは割と普通の中学生という感じで、キャロルのレコードで踊り狂うという当時で言う「今どき」の中学生といったところか。
荒垣たちがきのこになったので、森山隊員がコンドルで出動。
一人で怪獣と戦う森山隊員は何気にスペックが高い。
今回はさおりの登場はなし。
健一もワンシーンのみであり、ちょっと絡めにくかったか。
まあ、いつも無理やり絡めてくるので、偶にはいいと思うが。
大介の母親の話でお隣の田口さんとか石堂さんが出てきたのは面白かった。

本話のテーマは一応母子の情愛と大介の成長。
ただ、このテーマに関してはしっかり描かれたかというと正直微妙。
最後大介は母親の気持ちを汲んで「タロウがいるから寂しくない」と言うのだが、その心境の変化は唐突で心情の変化の過程は全く描かれてない。
中学生3人が家に来た時も母親が帰ってきてくれることばかり考えており、光太郎たちと出会った後も何も変わっていなかった。
視聴者側は大介の失踪後に反省する母親を見てるので違和感は少ないが、大介がそれを知る由もなく、さすがに無理がある。

ただ、本話でそのテーマの比重を軽くしたのは結果的に成功だったと思う。
すなわちテーマに比重を置きすぎると肝心のコメディ部分やホラー部分が軽くなってしまい、作品のバランスが悪くなる。
完全に娯楽編の作りの本作でそれは致命的であろう。
結局本話では大介が理科で高得点を取った理由は明かされなかった。
しかしそれでよかったのである。
母親はテストを見て自分の行いを反省した。
一方大介の方も自分の甘さに気づいた。
そこまで描けていれば、娯楽編の本話としては十分なのである。

本話のプロットは前述したようにマタンゴの影響を受けてるのは間違いない。
ただ、ストーリー自体はコメディタッチでマタンゴのような重いテーマではない。
また、最初に戦いを持ってくるなど色々工夫も見られるだろう。
ウルトラシリーズもさすがに何年も続くとネタが切れてくる。
そういう厳しい条件の中でもまだまだやれることはあるのだなあと正直感心させられたエピソードであった。
シリーズものだとどうしても後の方が不利となる。
しかしその中でもいいものを作ろうというスタッフの努力は無視してはいけないだろう。
本話はタロウ中盤にして、しっかりとタロウしている。
あまり有名な話ではないが、タロウをあまり見たことがない人にもぜひお勧めしたいエピソードの1つである。

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