ベムスター復活!タロウ絶体絶命!


データ

脚本は田口成光。
監督は山本正孝。

ストーリー

宇宙空間を漂う不気味な赤い球体。
それはかつてエースに滅ぼされたヤプールの生き残りが乗る宇宙船であった。
ヤプールは地球のありとあらゆるエネルギーを吸い取るべく、宇宙怪獣ベムスターを地球へ送り込む。
寺で多くの子供たちと相撲を取る青年。
名は海野といい、寺で子供相手に塾を開いていた。
塾の生徒である健一は海野に挑みかかるがあっさり投げ飛ばされてしまう。
その様子を木の陰から見ている2人の子供。
「ひろし、あきら、どうしたんだよ」と海野。
「洋服が汚れるとお母さんに怒られるからな」とあきら。
「僕は本に書いてあることだけを覚えればいいんだ」とひろし。
「子供が元気よく遊べば服が汚れるのは当たり前じゃないか」と海野。
2人を引きずりだし投げ飛ばす海野。
「今日はこれで終わりにしよう」と海野。
健一に「明日はどんな授業?」と聞かれて、「明日はみんなで漫画を見ることにしよう」と海野。
健一たちが寺から出てくると、光太郎が健一を迎えに来た。
海野を紹介する健一。
光太郎がZATの隊員であることを自慢する健一。
すると一人の少年が自分のお父さんはZATの第一ステーションの隊長だと名乗り出る。
「君は佐野さんの息子さんかい」と光太郎。
「うん、お父さんのこと知っているんですか」。
「ああ、大知りだ」と光太郎。
光太郎が基地に戻ると、第一ステーションが月の裏側に隠れたまま連絡不能となっていた。
宇宙探索へ出る光太郎と南原。
しかし第一ステーションは見つからない。
その時、第一ステーションから異常事態発生の報が入る。
光太郎たちが現場に到着すると、ベムスターが第一ステーションを腹の口から飲み込んでいた。
攻撃する東と南原。
しかしステーションを飲み込むとベムスターは忽然と姿を消す。
ZAT基地ではベムスターの過去の映像を見て、対策を練っていた。
ベムスターを倒すためには新マンが使ったウルトラブレスレットのような武器が必要だと荒垣。
早急にブレスレットと同等の威力を持つ兵器の開発を進めるよう指示する。
荒垣と一緒に佐野邸を訪れる東。
2人を出迎える佐野の息子トオル。
客間に通された2人は佐野の妻に佐野の死亡を伝える。
ショックを受ける妻。
トオルにそのことを伝える妻。
「主人はZATに勤めているのだから、いつかはこういうことがあるかもしれないと申しておりました。覚悟はできております」と妻。
泣くトオルに対して、「男の子は滅多なことで泣くものじゃありません」と妻。
海野の塾から帰る健一は、ひろしから第一ステーションが全滅したことを聞かされる。
「ZATはだめだよな。いつも怪獣に負けてばかりいらあ」。
「健一君自慢のZATは手も足も出ないじゃないか。あんなものあったってなくたって同じだよな。俺たちにはウルトラマンタロウがついている。困ったときにはいつでも来てくれる」とあきら。
走り去る健一。
それを聞いていた海野は「ばかもん。君たちは何てことを言うんだ」と一喝する。
佐野邸からの帰路、落ち込む健一を見かける光太郎。
「ZATなんて何だ。トオル君のお父さんまで犠牲になって。何もできないじゃないか。僕は世界で一番ZATが強いと思ってたのに」と健一。
それを聞いた荒垣。
「おい東。ベムスターはどうしてもZATがやっつけなければならんな」。
遂に恐れていた事態が発生する。
ベムスターが地球へ侵入し、下妻山のガスターミナルを襲撃した。
新兵器を携えて出動するZAT。
ガスタンクを腹から飲み込むベムスター。
ZATはウルトラブレスレットと同じ威力のノコギリを使って攻撃。
しかし空振りに終わりビルを切断してしまう。
再度アタックするZAT。
しかしベムスターの腹に当たったノコギリは刃が砕けてしまう。
壊滅するガスターミナル。
「同じことを二度繰り返すほどわしの頭は悪くはない」。
勝ち誇ったヤプールはベムスターを一旦引き上げる。
あきらとひろしから、またZATが失敗したと揶揄される健一。
「ZATが弱いことを認めろよ」とひろし。
「今度なんてウルトラマンタロウも呆れて助けにも来なかったしな」とあきら。
「タロウが来れば一発で怪獣なんてやっつけるのにな」とひろし。
「タロウが一番強いかもしれないけど、ZATだって一生懸命やってるんだ」と健一。
「そうだ、その通りだ。一生懸命やることが大切なんだ。ZATだってそのうち必ずウルトラマンタロウ以上の力を持つようになるだろう。しかし努力もしないで勝てるようにはならん」と海野。
タロウは困ったときにはすぐ来てくれると言うひろしを一喝する海野。
「人間誰だって一生懸命になれば、怪獣の一匹や二匹やっつけることができるもんだ」。
「じゃあ、海野さん怪獣をやっつけることができるの?」
「できる」と海野。
白鳥邸に帰った光太郎。
そこには佐野の息子も来ていて、健一、さおりと紅茶を飲んでいた。
「二人ともZATのこと怒ってるのよ。どうして怪獣を逃がしたんだって」とさおり。
「今、ZATは新しい作戦を立ててるんだ。今度は必ずやっつける」と光太郎。
早くやっつけないと寺小屋塾の海野さんが先にやっつけちゃうよと健一。
すると大きな地震が起き、本部からベムスター出現の報が入る。
現場へ急行する光太郎。
そこには遠巻きにベムスターを見物する寺小屋塾の子供たちもいた。
タロウ早く来いと子供たち。
そこへ海野が現れた。
ダイナマイトを持って怪獣の方へ向かっていく海野。
「海野さん、本当にやる気だぜ」とひろし。
「海野さんが死んだら君たちの責任だぜ」と健一。
海野を止める光太郎。
「やらしてくれ。俺がやらなければ子供たちはダメになる。理屈じゃないんだ」。
「死んでしまうぞ」。
「死んだっていいんだ。子供たちが俺の気持ちをわかってくれれば」。
格闘する2人。
光太郎は海野を組み伏せるも足で蹴飛ばされ海野に逃げられてしまう。
建物の屋上からベムスターの口の中に飛び込む海野。
持っていたダイナマイトを口に仕掛ける海野。
光太郎は海野がベムスターの口から転落しそうになっているのを見てタロウに変身する。
すぐ海野を助けるタロウ。
しかし海野は「タロウのバカヤロー」と叫ぶ。
ベムスターと格闘するタロウ。
しかしベムスターのパワーに圧倒される。
口の中の爆弾を吐き出すベムスター。
爆弾は地上で爆発した。
さらに猛攻を続けるベムスター。
初代よりパワーアップしたベムスターの前に手も足も出ないタロウ。
タロウは絶体絶命のピンチに陥る。

解説(建前)

ベムスターは何物か。
初代のベムスターをヤプールが復活させたとも解釈できるが、初代はバラバラになって炎上しており復活は容易ではない。
また、見た目もかなり違うことから、やはり初代とは別個体をヤプールが強化改造したものと解釈するのが妥当であろう。
ヤプールの残党が新たに宇宙でベムスターを捕獲して改造したか、以前改造したものを使っているのかは不明。
ヤプールが改造したのなら超獣と呼ぶのが妥当とも言えるが、他の生物と融合させたわけではないので、一応怪獣の本質は失われていないのであろう。

ZATがセブンが新マンにブレスレットを渡した時の映像を持っていたのはなぜか。
まず地球上での戦いの映像とブレスレットの分析データについては入手は容易なので問題ないだろう。
一方セブンがブレスレットを渡したのは太陽のかなり近くの星と思われるので、その映像を入手するのは非常に困難である。
ましてやMATステーション壊滅直後であるし。
ただ、MATは後にV1という宇宙ステーションを有していたことから、複数のステーションを有していた可能性が高い。

またMATは各国に支部を持っている世界的組織でもあるので、他国のMATのステーションから情報提供を受けた可能性もある。
トップシークレットで簡単に見れる映像ではないが、非常時ということで貸し出してもらえた。
MATとZATで組織は一見違うが、ECがEUに発展解消したように組織としての継続性はあるのであろう。
参加国や組織が増えるたびに、改編が行われているのではなかろうか。

海野はどこからダイナマイトを入手したか。
ダイナマイト片手に怪獣に向かう様はほとんどテロリストなので、そういう仲間から入手したとも考えられるが、さすがに塾の先生がそんなことはしないだろう。
やはり建築関係の知り合いがいたと解釈するのが妥当である。
しかしいくら建築関係者でも資格のない人間にダイナマイトを横流ししていいはずはない。
好意的に解釈すると実家が土建業ということになろうが、非合法に入手した可能性も否定できないであろう。

感想(本音)

テーマ的にはウルトラでお馴染みの、ウルトラマンがいたら人間は必要ないんじゃないかというもの。
そのタロウ的解釈とでも言おうか。
タロウ的であるがために生身の人間が怪獣と戦うという無茶な展開になってはいるが、常々書いているように、タロウの世界ではあたかも桃太郎が鬼と戦うように人間が怪物と戦う世界観なので気にしてはいけない。
また、ZATもしっかり活躍しているので、そこまで荒唐無稽ではないだろう。
説教臭い話なので好き嫌いが分かれるかもしれないが、子供向けとしては特に問題はない。
そのメッセージについては後々解釈することにして、感想を述べて行こう。

まずヤプールの復活はやはりエースファンには嬉しい。
あの声も健在であるし。
しかしなぜにヤプールとベムスター?
また、ヤプールは同じ失敗を繰り返さないとあたかも初代のベムスターも操ってたような言い分だが、制作者が勘違いしているのだろうか。
まあ、言葉のアヤとでも解釈しておこう。
ヤプールが宇宙船に乗ってるのもちょっと違和感あるが、宇宙仮面やサイモン星人の例もあるので特に問題はない。
どっちの世界にも出現できるのがヤプールであるが、3次元世界ではちゃんとした実体が必要というのはありそうだ。

ベムスターの造形ははっきり言って初代と比べるとかなり雑。
特にお腹の口の布きれ感は半端ない。
また人相も悪く、初代の愛らしさは失われている。
ただ、タロウ怪獣全般に言えるのだが、チープな中に何とも言えない味があるのも確か。
このベムスターもある意味その味のおかげで初代との差別化に成功したとも言えるであろう。
しかしこのベムスターはZATが用意したブレスレットと同等の破壊力のノコギリをいとも簡単に破壊してしまった。
弱点を克服したベムスターはかなり強い。
映像的にはちょっとやり過ぎというくらいタロウが一方的にやられていたが、実は改造ベムスターはタロウ怪獣でもトップクラスの実力の持ち主なのかもしれない。

ZATステーションは1号というように、複数あるのは間違いない。
西田が赴任したのは別のステーションなのであろう。
また、後に荒垣が転任するのも別のステーションと思われる。
しかし、MATステーションに始まり、宇宙ステーションの戦死率は異常。
まあ、宇宙というだけで危険なのに、怪獣や宇宙人が頻繁に地球に来る世界だから当然と言えば当然だろう。
もちろん地上戦でも危険は変わらず、常に死を覚悟していた佐野隊員のように命がけでなければできる仕事ではない。
昔の武士や軍人の世界であるが、佐野の妻も如何にも武士の妻という感じの人で放送当時でもかなり古風な家であろう。

今回は何と言っても大和田獏氏演じる海野の活躍に尽きるだろう。
もはやあそこまで行くとキ○○○としか思えないが、人間一生懸命やることが大事という信念は間違ってはいない。
ただ、怪獣を倒せるというのはあきらたちに言われてつい言ってしまったのだろう。
海野はZATが将来ウルトラマンタロウを超える力を持つだろうと言っていた。
また、タロウに助けられて「バカヤロー」と言うなど、普段から人間がタロウに助けられている現状に不満を持っていた。
そういう背景があったからこそ、自ら怪獣を倒そうと思ったのだろう。
海野はおそらく怪獣と一緒に自爆するつもりだったと思われる。
タロウに「バカヤロー」と言ったのは、あるいはその邪魔をされたというのもあったのかもしれない。
ただ、自爆しては教育としてどうなのか。
結果的に海野は死ななくて正解だった。

ところで海野は何者なのだろうか。
寺で私塾を開いていることから寺の住職かとも思われるが、塾の授業に仏教的な要素は特に見当たらないので、場所を借りてるだけにも見える。
光太郎のように日本や世界を放浪して、この寺に居候してるだけではないか。
しかし、海野の無茶ぶりは第一話の光太郎を見るよう。
あのまま死んだらウルトラマンにしてやってもいいくらいだが、今は空きがないのでやはりただの犬死になるだろう(笑)。
寺小屋はやたらと繁盛していたが、これはおそらく月謝が格安なのと、ある意味学童保育的な意味合いもあったのではないか。
若しかすると寺小屋自体は子供を預かるために寺が運営していて、そこへ居候として転がり込んだのが海野なのかもしれない。

今回は子役が印象に残った。
レギュラーの健一君は相撲でランニングシャツが破れるくらいの熱演だし、トオルくんもなかなかいいキャラだったが、やはり何と言ってもひろしとあきらだろう。
正直劇中でどっちがひろしでどっちがあきらかわからなかったが、一応海野が名前を呼ぶときに向いた方向でデブがあきらでメガネがひろしと推測。
まあ、この際どっちでもいいのだが、特にデブの方が厭味ったらしい物言いが光っていた。
2人とも悪気がなく、ある意味視聴者の子供たちの代弁となってるところも面白い。
結構正論だし。

寺小屋の子供たちに光太郎の自慢をする健一君。
この辺りは後の伏線なのは間違いないであろう。
しかし「世界で一番ZATが強い」って健一君は今まで何を見てきたのか(笑)。
一方ZATは今回のテーマとの関係上大活躍。
いきなりブレスレットと同じ強度のノコギリを作ったのは凄い。
しかし件のブレスレット授受の映像はやはりツッコミどころだろう。
ビデオのない時代というのもあり、単なる視聴者向けのサービス映像なのだが、あからさまにモニターに映していては解釈せざるを得なくなる(笑)。
まあその辺はあまり気にしないでおこう。

本話のテーマはタロウがいたらZATは必要ないのではという定番のテーマ。
またプロットはベムスターが初登場した「ウルトラセブン参上」を踏襲しつつ、ヤプールを絡ませるなど如何にもイベント編という豪華な作り。
前話の解説でも触れたが、本話は復活シリーズでは一番しっかりした脚本になっている。
人間の心に挑戦するヤプールと子供たちの心の弱さを絡めるところも上手い。
ただ、やはり海野の行動は常識的には無茶苦茶。
前述したが、あれではただの特攻だろう。
海野の熱意と行動でひろしとあきらが変っていくというところはドラマとして面白いと思うが、海野の行動は今の視点からは辛い。
光太郎との格闘シーンも当時なら定番だろうが、今ではネタ扱いは免れまい。

かようにやり過ぎが目立つ本話だが、あまりその辺に拘るのも間違いだろう。
本話の魅力はテーマやドラマよりは、イベント編としての楽しさ。
再放送世代の私の子供の頃の感想も、やはり怪獣軍団対タロウというところにあった。
正直、テーマ的には説教臭いし、ZATが急に強くなるのも子供心にご都合主義を感じた。
しかし、そういう不満も吹っ飛ぶくらい娯楽編としてよくできているのである。
ドラマ性やテーマがいくら優れてたって、娯楽としてつまらなければ子供向け番組としては失格。
本話の魅力はその辺のバランスの良さにもあるだろう。

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