怪獣の笛がなる


データ

脚本は田口成光。
監督は筧正典。

ストーリー

ある夜、オカリナの練習をする亜理人。
父親にうるさいと言われた亜理人は「これは宿題なんだよ父ちゃん。文句があるなら先生に言ってよ」と言う。
しかし赤ちゃんが寝付かないことに感情的になった母親は、オカリナを取り上げそれを床に投げつける。
オカリナが壊れたことに対して弁償しろと亜理人。
その場は父親に収められるが、オカリナは壊れてしまった。
明日の朝練習すればいいという父親にオカリナが壊れてしまったと亜理人。
しかし父親は「死んだお祖父さんの形見があるんだ」と笛を渡す。
「これは全然違う笛だよ」と亜理人。
「いいじゃないか。たかが学校の教材なんだから。それよりこれは名人の笛なんだぞ」と父親。
父親によると、山の石で作られたこの笛は、笛の名人として有名だった祖父が山で死んだときもしっかり握り締めていた名笛だという。
笛が吹けないと先生に怒られると、夜中家を抜け出し近所の資材置き場でオカリナの練習をする亜理人。
その夜、亜理人少年の家の近くは強い風が吹いていた。
名人の笛の音を出すことに成功する亜理人。
しかしそのとき怪獣が姿を現す。
怪獣に追われる亜理人。
そこへZATが通りかかり、亜理人は怪獣が出たと光太郎たちに言う。
しかし怪獣の姿が見えないことから2人は信じない。
「勉強熱心なのはいいけど、寝ぼけちゃいけないよ」と南原。
結局調査をしても怪獣は見つからなかった。
ZATの隊員たちは亜理人が音楽が嫌いだから嘘を言ってるのではないかという。
放課後、亜理人はオカリナを持って来なかったことを先生に注意される。
「お父さんが笛ならなんだって同じだといいました」と反論する有理人。
笛を練習したという亜理人に笛を吹いてみるように言う先生。
上手く吹けなかった亜理人は怪獣が出たからと言い訳する。
笛はこうやって吹くんですと亜理人の笛を取り上げる先生。
しかし音が出ず、健一と有理人は家に帰ることを許される。
白鳥家で笛の練習をする亜理人たち。
上手く吹けない亜理人は怒って笛を投げつけて割ってしまう。
そこへやってきた光太郎は、亜理人が昨夜の少年であることに気付く。
笛を直した光太郎は、お祖父さんが笛の名人なら亜理人も笛の名人かもしれないと言う。
勇気付けられて笛を吹く亜理人。
しかしそのとき怪獣オカリヤンが出現した。
家が揺れ外に逃げる健一たち。
光太郎は皆を逃がして怪獣を攻撃する。
暴れまわる怪獣。
知らせを受け現場に急行するZAT。
ミサイルで攻撃するZAT。
「どうして俺のところばっかし怪獣が出るんだろう」と亜理人。
怪獣は姿を消すが、ZATは昨夜の怪獣と同じ怪獣と知り原因が笛だと推測する。
亜理人の家を訪ねる光太郎。
亜理人の母親の話を聞いた光太郎は、亜理人の祖父が怪獣に踏み潰されて死んだのではないかと考える。
亜理人が笛の練習をしている資材置き場に行く光太郎。
光太郎は笛の練習を止めるように亜理人に言う。
そこへ怪獣が出現。
さらに怪獣は風がパイプを抜ける音に惹かれて住宅地に向かう。
皆を助けるため笛を吹く亜理人。
怪獣は笛に誘き寄せられ2人に迫る。
亜理人を逃がして怪獣を攻撃する光太郎。
しかし亜理人は転んだ拍子に笛を壊してしまう。
怪獣に踏みつけられそうになる光太郎。
光太郎はタロウに変身した。
オカリヤンの投げつける火薬玉を喰らうタロウ。
タロウを援護するZATはオカリヤンをロープで動けなくする。
タロウブレスレットでオカリヤンの口を封じるタロウ。
ロープを切られて地面に倒れるオカリヤン。
タロウの攻撃で歯が折れるオカリヤン。
最後はハンドビームで止めを刺す。
相変わらず上手くオカリナが吹けない健一。
一方、亜理人はすっかり笛の名人になっていた。
ZATからお礼に貰ったという笛を得意げに演奏する亜理人。
基地でオカリナを練習をする光太郎。
亜理人の持っていた笛は怪獣の歯で出来ていたことがわかり、談笑する隊員たち。

解説(建前)

オカリヤンは何物か。
オカリヤンが現れたのはやはり亜理人の笛が原因と思われる。
すなわち、オカリヤンは非常に優れた聴覚の持ち主で、一定の周波数の音だけに反応する性格を有していた。
それで亜理人の笛の音に釣られて山からやってきたのだろう。

ただ、それだけだと単なる偶然ということになってしまう。
おそらくオカリヤンは自分の歯を加工して演奏する亜理人の祖父の演奏が気に入っていたのであろう。
そして何かの事情でうっかり祖父を踏み潰してしまったが、その周波数だけは覚えていた。
オカリヤン自身はあまり悪意のある怪獣ではないが、うっかり祖父を踏み潰したり、街を破壊したりと知能はあまり高くないものと思われる。

感想(本音)

素朴な話。
こういうのが嫌いな向きには興味を持てない話かもしれないが、個人的にはこういう牧歌的な話は嫌いではない。
インパクトはないが、悪くはない話であろう。
田口氏らしい作品ではある。

冒頭、民家の軒先でオカリナを演奏する少年、そして優しい父親、ちょっとうるさい母さん、赤ん坊の泣き声。
時代を感じさせるシーンだが、我々世代には懐かしさもある映像だ。
1期ウルトラは近未来を舞台に設定していたが、2期の70年代の設定は我々世代のリアルな記憶ともシンクロし、1期にはない味わいになっている。

最近は「3丁目の夕日」とか「官僚たちの夏」とか、昔を懐古する作品が増えているが、人間ある程度年を取ると昔が懐かしくなるもの。
特に子どもの頃見た作品はある種原体験ともなっており、それを共有しているというのは無意識のうちに仲間意識みたいなものを醸成するであろう。
我々世代で言うと、ウルトラ、ヤマト、ガンダム、ドリフ、ひょうきん族、ザ・ベストテン辺りがそれに該当するだろうか。
生まれた頃からテレビのある世代というのは我々がほぼ最初の世代であり、その影響や社会的な意味というのはこれから研究が進んでいくと思われる。

話は逸れたが、当時の住宅事情でオカリナの練習という宿題は厳しい。
まあ、今と違い空き地が多かったとはいえ、東京だとそこまで空き地は多くなく、資材置き場というちょっと危険な場所で練習する亜理人少年は不憫であった。
立派な洋館で防音もしっかりしてそうな白鳥家とは雲泥の違いである。
やっぱりタンカーの船長というのは儲かるのだろうか。

今回健一たちの音楽の先生役を演じたのは、丘隊員を演じた桂木美加氏。
前の番組のレギュラーが出演するのはシリーズものではお馴染みだが、この役はややチョイ役気味で残念。
美川隊員役の西恵子氏が重要な役だったので、ちょっと期待外れではある。
ただ、アップのシーンやギャグシーンもあり、映像的には西氏より見せ場はあったかもしれない。

オカリヤンは正直行動原理もよくわからずあまり印象にない怪獣。
ただそのルックスはインパクトあった。
悪意のない怪獣であり最後はややかわいそうな気もしたが、ほっといたら危険なので退治するのはウルトラでは基本。
以前迷い込んだ鯨を助けようとして漁師が命を落としたという痛ましい事件があったが、巨大な生物は人間にとっては存在そのものが危険。
過度なヒューマニズムは欺瞞でしかない以上、ウルトラであまりその辺りを深刻に考えるのは良くないであろう。
後半では怪獣を助ける話が増えてくるが、ウルトラマンだからこそ簡単に助けられるのであり、それをあまり安易に描いてしまうとバランス的にはどうかと思う。
その辺りはまたそのうち語りたい。

今回のテーマは自分を信じて諦めずコツコツ努力するということ。
まあ、亜理人が急に笛を吹けるようになったことからそのテーマが描けていたかは微妙だが、一応本人の努力により吹けるようになったのでよしとしよう。
今回でさおりさん役のあさかまゆみさんは降板。
1クールの契約ということで仕方ないが、やはり途中で役者が代わるのはあまり良くないので最後まで続けて欲しかった。
私は子どもの頃、さおりさんが代わったことに気付かず、しばらく出番がないだけかと思ってました。
所謂大人の事情という奴ですが、1年ものの特撮に出続けるだけでも大変というのがよくわかりますね。

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