怪獣の虫歯が痛い!


データ

脚本は田口成光。
監督は深沢清澄。

ストーリー

その日ZATは九州で大演習を行うことになっていた。
水中ロケットを怪獣に見立て、宮崎の何処かに怪獣が上陸するという想定である。
演習の指示を出すのはZATステーションの西田。
光太郎は西田の指示により水中にロケットを撃ち込む。
しかしそのロケットは偶々水中で餌を待ち構えていた怪獣シェルターの歯の間に挟まってしまった。
宮崎でロケットを待機するZAT。
しかし西田によると、ロケットは宮崎に上陸するはずが進路が変わったという。
青島に移動する隊員たち。
南原は光太郎にしっかりロケットを打ち込んだのか文句を言う。
しかしまた予定が変わって速度が落ちたという。
宮崎出身の南原は母親に会う約束になっていたが任務がなかなか終わらない。
そこへ南原の母親がやってくる。
久しぶりの再会を喜ぶ2人を見た荒垣は南原に早朝まで特別休暇を与える。
海中でもがき苦しむシェルター。
食事をし、買い物に行く2人。
しかしその時ZATから連絡が入り、上陸の予定が早まったという。
ロケットを待つ隊員たち。
すると隊員たちの前に、怪獣シェルターが現れた。
ZATステーションに確認を取る荒垣。
西田によると、ロケットに間違いないという。
怪獣はロケットが歯に挟まって痛がっていた。
「あのロケットを取ってやれば怪獣はまた海に戻っていくんじゃないですかね」と光太郎。
荒垣は光太郎にロケットを取ってやるように命じる。
ホエールからクレーンを出してロケットを挟み込む光太郎。
しかし怪獣の抵抗でなかなか進めない。
エンジンを全開にして引っ張る光太郎。
しかし挟んだのは怪獣の歯だった。
歯を引っこ抜かれて怒り狂う怪獣。
怪獣は炎を吐いて暴れだす。
何でも咥え込む習性のある怪獣はホエールにも噛みついた。
墜落するホエール。
宮崎の市街地へ向かって移動する怪獣。
それを追うZAT。
町を破壊する怪獣。
デパートの屋上でアイスを食べていた南原の母は、メガネを落として逃げ遅れてしまう。
そこへ迫る怪獣。
警官から老婆が一人逃げ遅れていると聞き、助けに行く光太郎と南原。
2人は母親を発見するが、屋上に怪獣が接近してきた。
ZATが攻撃をして食い止めるも、怪獣は炎を吐いて暴れる。
錯乱した南原の母は屋上の観覧車に乗り込んでしまう。
それを追って観覧車に乗り込む南原。
タロウに変身する光太郎。
タロウは逃げ遅れた2人を助けて怪獣にストリウム光線を放つ。
しかし怪獣に光線は効かなかった。
炎を吐いてデパートを爆破するシェルター。
シェルターはタロウの手にも噛みついた。
手がなかなか抜けないタロウ。
タロウはシェルターを投げ倒して手を引き抜くと、電線を使ってシェルターを感電させた。
そしてタロウがシェルターの背後からキックするとロケットが歯から飛び出す。
タロウはZATにロケットに爆薬を詰めてシェルターにぶつけるよう指示。
ロケットがぶつかり大破するシェルター。
船で帰還する南原を見送る母親。

解説(建前)

何故シェルターの歯に挟まったロケットはなかなか抜けなかったのか。
光太郎が間違えて歯を抜いてもロケットが取れなかったことから、これは前歯ではなく奥歯に挟まっていたのだろう。
喉に刺さっていたとも解釈できるが、それだとかなり深く刺さる必要があり、角度からもやはり奥歯に挟まったとするのが穏当である。
シェルターは普段から魚を捕食しており、魚をすり潰すための奥歯が発達していたものと解される。
それでは何故タロウが後ろから蹴っただけで取れたのだろうか。
これはおそらくシェルターが炎を吐くうちにロケットが熱で変形し、外れやすくなっていたためであろう。

感想(本音)

まず思うのは、やっぱりシェルターが不憫であるということ。
ボルケラーも不憫であったが、人里近いところに生息してることからまだ仕方ない面もあった。
それに比してシェルターは、ZATの演習に巻き込まれなければ殺されることもなかったため、人間の身勝手さが目立つ。
ただ当然のことながら、スタッフがそこまで考えて作品を作ったということは考えられない。
私自身も子どもの頃、特にそういう点につき気にしたことはないし、ウルトラシリーズとしては特別問題のある描写ではないのであろう。
結局大人の目から見てどうかという問題に帰着すると思われる。

それでは大人目線から見てどうか。
まずZATの演習であるが、まさか水中に放ったロケットが怪獣の歯に挟まるなんて予想できないので、この点につき過失を認めるのは難しい。
そして、怪獣の歯に挟まったロケットを抜くなんていうのはZATには不可能に近く、おまけに危険も伴うのでそれに失敗したことを責めるのも酷に過ぎよう。
以上からZATを責めるのはやや酷のように思われる。

それではタロウはどうか。
タロウは結果的にシェルターのロケットを取るのに成功している。
そしてタロウならシェルターを元の生息地に戻してやることも不可能ではなかった。
それなのにタロウは、ZATに演習を兼ねてロケットを使ってシェルターを爆破させている。
これは印象としてはかなり残酷である。

ただシェルターはかなり凶暴な怪獣である。
そして海に生息しているということは、船舶に危険が及ぶ可能性も否定できない。
したがって、そのまま海に返すというのも現実的には難しいであろう。
加えて手負いの状態でもあることから、爆破という選択肢は致し方ないともいえる。
もちろんシェルターを無害化して宇宙に送るという技もタロウなら可能かもしれないが、そこまで気が回らなかったとしてもタロウを責められまい。

まあ、問題はそういうところにはなくヒーロー物としてこの展開はどうかというところにあるが、子どもが気にならないならそれほど目くじらを立てる必要もないと思われる。
実際怪獣との共存というのは難しいテーマであり、あまり御都合主義ばかりだと子どもは返ってしらけてしまうので、このような処理も不当とはいえないであろう。
ただ、以後この反省から怪獣を生かす方向に路線を転換するので、その処理の仕方というのは今後の注目点としてしっかり見ていく必要はある。
シェルターについてはそれくらいにして、その他の感想。

今回は南原の母親がいい味を出していた。
怪獣に気付かないのはほとんど呆け老人だが、これくらいの演出は話の展開上仕方ないであろう。
北島と南原を間違えるのはお約束だが、なかなかコミカルでよかった。
またラストの息子を送るシーンも人情ものとしては、いい落とし方であろう。
隊員が母親と再会するという話は案外少なかったので、新鮮な面もあった。
フルハシとか南の時は親は出てこなかったし。

今回もロケ地は宮崎。
今回はホテルやデパートなど、タイアップものらしい描写が多かった。
やはり前回とセットなのだろう。
ZATの演習はわざわざロケットを怪獣に見立てて、それを迎え撃つというもの。
そこまで凝る必要はあるのか疑問であるが、ロケットの性能実験も兼ねていたということで正当化しておこう。
今回は健一さおりの出番はなし。
まあ、この時期そんなに長期に休みを取ることは出来ないので妥当であるが、2人が全く出ないのは序盤では珍しい。

今回は唐突に宇宙に飛ばされた西田が再登場。
この回を挟むことによって急に隊員が代わった不自然さは払拭された。
まあ話の最後では放置されていたが。
荒垣は南原に特別休暇を与えるという人情家の一面を見せている。
ただ、演習中にそんなことしていい権限があるのだろうか?
ところで、今回も隊長は出てなかったけど、庶務に追われているのか?

デパートの屋上の観覧車、えらいスピードで回転してたけど、あれは乗ってる人は相当Gを感じると思うぞ。
タロウは電線を抜いてシェルターを感電させるという無茶ぶり。
まあ、シェルターはストリウム光線に耐えるくらい只者ではなかったのですけどね。
「怪獣の虫歯が痛い」というタイトル。
ちょっとあんまりな気もする。
被害者なのに。

正直シェルターが気の毒だが、上述したように不可抗力であるのでその点についてはあまり言わないことにしよう。
ただ、話の演出的には基本コメディであるためZATの態度が不謹慎にも見えかねない。
その辺りは、もう少し配慮の必要があったと思われる。
とはいえ、この話自体は人情コメディということもあり見ててなかなか楽しかった。
ストーリーもシンプルで破綻もなく、及第の出来といえるであろう。
被害者ながらもシェルターはなかなか強敵でかつキャラも立っており、本話はタロウらしい楽しめる話に仕上がっていると思う。

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