牙の十字架は怪獣の墓場だ!


データ

脚本は木戸愛楽(大原清秀)。
監督は山際永三。

ストーリー

日本アマチュアボクシングの新人王決定戦を2日後に控える光太郎。
光太郎は試合に備えた減量に苦戦していた。
その姿を見たさおりと健一は自分たちも減量に付き合うという。
「君たちが試合に出るわけじゃないじゃないか。遠慮せずに食べろよ」と光太郎。
「いっそ試合なんかやめて、食べたいだけ食べたら」とさおり。
本物のボクシングの試合を近くで見たことがないというさおり。
「だって嫌いなのよ、殴り合って血を流すなんて。光太郎さん。そんなこと何のためにやるの」とさおり。
「なんのためって、いつどんなことがあっても最後の最後まで戦い抜くためさ」と光太郎。
健一とロードワークに出かけた光太郎は、神社の境内で次の対戦相手稲垣と鉢合わせた。
「その二枚目面を叩き潰してやるから覚悟しとけ」と稲垣。
ロードワークの帰りに、健一と銭湯に入る光太郎。
すると大きな地震が起きた。
地震は東京の地下に潜り込んだセイウチ怪獣デッパラスが引き起こしたものだった。
衝撃で銭湯の底が抜けて湯船から海水があふれ出す。
潜って調査した光太郎だったが、底が何処まで深いのか確認できなかった。
報告を受けた朝比奈は隊員たちを呼び戻すことにする。
その頃ZATの隊員たちは川辺に遊びに来ていた。
ボートで競争する男性隊員たち。
すると川面に怪獣が現れた。
それに気付かずボートを漕ぎ続ける南原。
南原は怪獣にぶつかってしまい、大慌てで川に飛び込む。
橋を破壊し大暴れするデッパラス。
それを見て出動するZAT。
しかし光太郎は減量のためフラフラしていた。
周りのものが食べ物に見えてくる光太郎。
ナパーム弾を打ち込むコンドル。
しかし怪獣には効かない。
怪獣はZATの攻撃を物ともせず、昼寝を始めた。
するとコンドルに乗ってる光太郎の様子がおかしい。
空腹のため幻覚が見える光太郎。
ダッチロールを始めたコンドルは、デッパラスの攻撃を受け墜落した。
パラシュートで脱出し、辛くもデッパラスの攻撃を逃れる光太郎。
デッパラスがガラスに映る自分の姿を気にしているのを見た光太郎は、ミラー作戦を思いつく。
巨大な鏡をデッパラスの前に吊り下げ、撹乱するZAT。
ZATは鏡に映った自分の姿に興味を示したデッパラスを埋立地に誘導する。
デッパラスは鏡を追いかけ、埋立地に転落した。
さらにミサイル攻撃を加えるZAT。
怪獣を爆破するZAT。
新人王決定戦の当日。
ZATの隊員たちも光太郎の応援に駆けつけた。
試合を怖がっていたさおりも応援に駆けつける。
一方その頃埋立地の穴の中で爆破されたはずのデッパラスが再生していた。
ZAT基地に京浜地区に怪獣が現れたと連絡が入る。
試合中の光太郎を残して出動するZAT。
荒垣はさおりと健一に、光太郎を来させないように言い残して試合場を去る。
ZATの隊員たちが帰ったのが気になって形勢不利になる光太郎。
ZATは再びミラー作戦を決行するが、鏡を覚えたデッパラスは見向きもしない。
セコンドから怪獣が出たと聞かされた光太郎は、相手に試合を中断するように頼む。
頼みを聞いてもらえなかった光太郎は相手をノックアウト。
カウント中に控え室に戻って隊員服に着替える。
試合に勝った光太郎はそのまま出動しようとするが、空腹で倒れてしまった。
それを見て介抱するさおりと健一。
その頃ZAT基地はデッパラスの攻撃を受けていた。
急いで空へ飛び立つZAT基地。
一方光太郎はさおりの作った料理を食べていた。
大急ぎで食べ物を口に放り込む光太郎。
光太郎は山盛りの食べ物をあっという間に平らげ、そのまま出動。
タロウに変身する光太郎。
タロウはパワーアップしたデッパラスの火炎攻撃に苦戦。
さらにデッパラスの牙が腹部を貫通する。
それに耐えるタロウ。
タロウはデッパラスの牙を手で折るとそれを投げつけ、最後はストリウム光線で止めを刺す。
怪獣の2本の牙で十字架を作るタロウ。
次の試合に備えてロードワークに出る光太郎。
自転車でロードワークについてくるさおり。
「さおりさんはボクシングが嫌いだったんじゃないのか」と光太郎。
「ううん。でもなくなっちゃったの、あれから。一番男らしいスポーツだと思うわ」とさおり。

解説(建前)

何故デッパラスは再生したか。
これはやはり完全には死んでいなかったと考えるのが妥当であろう。
おそらくデッパラスは頭部に重要な器官が集中しており、頭部さえ無事なら再生が可能なのであろう。
最後はストリウム光線で頭部もろとも木っ端微塵にされたことから、再生が不可能になったものと思われる。

タロウは牙が腹部を貫通しても何故大丈夫だったか。
これはやはり急所を外していたと考えるのが妥当であろう。
一応意識を失いかけていたので、激痛はあったものと思われる。
ウルトラ一族に内臓というものがあるのか否かはよくわからないが、今回は上手い具合に臓器が傷つくのを免れたのだろう。
その結果、光太郎にも影響が出なかったものと考えられる。

感想(本音)

色々な意味でバランスのいい話。
傑作とまでは言えないが、十分佳作と評価できるエピソードであろう。
脚本は木戸愛楽氏。
後に大原清秀名義で脚本を書いているので、何故この名前を使ったのかは謎だが、ウルトラ初登板ながらツボを押えた脚本でなかなか面白かった。
ウルトラに新しい風を吹き込んだ点、評価できるであろう。

まずこの話の中心は光太郎のボクシングの試合。
試合そのものは比較的あっさりだったが、それまでの減量の過程やその減量苦と怪獣との戦いの絡ませ方はなかなか上手かった。
光太郎が戦う理由もさりげなくテーマ性を持ち込んでおり秀逸。
「いつどんなことがあっても最後の最後まで戦い抜く」。
タロウで何度も出てくるテーマである。

ただ本話においてテーマはそれほど重要ではない。
すなわち、ボクシングの試合もあっさり光太郎が勝っており、最後の最後まで戦い抜く必要はあまりなかった。
あまりテーマばかり追い求めると話のバランスが崩れるので、このまとめ方は良かったと思う。
テーマはラストの練習を続ける光太郎で十分表現できてるので、破綻はない。

本話の魅力の1つに怪獣デッパラスとZATの攻防がある。
鏡に興味を持つデッパラス。
そしてそれを見てミラー作戦を実行するZAT。
この辺りの駆け引きも十分見ごたえがあった。
ZATは怪獣相手に色々な作戦を実行する組織である。
そしてその作戦は胡椒作戦やミラー作戦など子どもにもわかりやすいものである。
そしてそれでいて作戦が理に適っているのだから、文句のつけようがない。

普通ならそこで終わってもいいのだが、それではウルトラマンとして成り立たないのでデッパラスは再生することになる。
怪獣が再生するのは既にライブキングで描かれているが、デッパラスの再生シーンもなかなか面白い。
生々しい脳みそのようなものが見えたかと思うと、炎に包まれ閃光とともに合体。
この辺りの演出は不気味さもよく出ており、なかなか秀逸だと思う。

ZAT隊員の休日の様子も面白い。
今回は女性隊員が多く出てきたが、彼女たちはおそらく通信専門なのであろう。
ホエールを操縦できる森山隊員はやはり女性隊員の中では異色なのだと思う。
また怪獣にぶつかっても気付かない南原など、南原の持つとぼけた味わいがよく出ている。
この辺りのノリは、初代マンのイデに通ずるものがあろう。
朝比奈隊長役の名古屋氏も、お馴染のとぼけた演技で楽しませてくれる。

前述のように本話の魅力は様々だが、個人的に最大の魅力は青春ドラマとして面白いところだろう。
まあ、こう言うとウルトラマンと関係ないじゃないかと言われそうだが、その辺りは人それぞれなので、仕方あるまい。
ドラマ重視で作品を作っている以上、その出来が作品の評価を左右するのはある意味当然である。

ボクシングと恋愛を扱ったエピソードは既に帰ってきたウルトラマン27話で描かれていた。
同エピソードは市川森一氏の捻りの効いた脚本で、青春ドラマとしてなかなかよく出来ている。
対して本話は比較的ストレートで王道的な話。
その点物足りなく感じる人もいるかもしれないが、王道であろうと話としてよく出来てれば問題ないわけで、本話も十分その水準に達している。

すなわち、本話においてはさおりが主人公の恋人役として十二分に存在感を発揮していた。
ボクシングを怖がってそれに反対するのもかわいければ、最後に「一番男らしいスポーツだと思うわ」というのもかわいらしい。
ジレンマの回ではちょっと狂信的な愛を感じさせたが、今回はもっと素朴な普通の女の子としてのかわいさを発揮していた。
主人公の恋人役というポジションを与えられながらもややお飾りっぽい扱いだったさおり。
その魅力を引き出した点、ドラマとして評価できよう。

そして光太郎の爽やかさカッコ良さ。
本作が青春ドラマとして完成度が高いのも、その辺りが上手くミックスされたからであろう。
ただこの路線はさおり降板とともになくなってしまう。
帰りマンでは一応ドラマ的には収集されたが、タロウにおいてはその辺りややぼやけてしまった。
子どもだった当時でも、何となく理解できた2人の恋愛。
本話は結果的にその路線の集大成となってしまった。
その点、面白い中にも一抹の寂しさを感じるエピソードでもある。

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