怪獣島SOS


データ

脚本は伊上勝。
監督は本多猪四郎。

ストーリー

MAT隊員南はアローに乗りニューヨークからの帰還の途上にいた。
「隊長きっとかーすけになって怒ってるだろうな。なにしろ俺が無断で郷の代わりにニューヨークに飛んじまったんだからな」。
南は隊長に無断で郷が命じられたモンスターソナーをニューヨークから持ち帰る任務に就いていた。
郷はその日が誕生日の次郎とハイキングに行く約束をしており、郷にも内緒で気を利かせたのだった。
その日郷が朝目を覚ますと机には南の書置きが置いてあった。
「次郎君によろしく。南」。
郷は丘から南が自分の代わりにニューヨークに飛んだことを聞く。
郷は約束通り次郎らとハイキングに行った。
日本に近づきMATに通信を入れる南。
「どうしたの南隊員。定時通信も入れないで」と丘。
「隊長の顔が目に浮かんでしまってね」。
「私の顔がどうしたって。命令違反の罰として1ヶ月間外出禁止だ」と加藤は冗談半分に言う。
しかしその時異変が判明した。
南のアローが暴風圏に接近してるという。
その頃郷は次郎とアキと山にハイキングに来ていた。
次郎は郷にプレゼントされたアローのプラモデルで喜んで遊ぶ。
「そのプラモデル南さんが塗装してくれたんだぞ。子供との約束は守ってやるものだ。そう言って無理に隊長に頼んでくれた。いい先輩なんだ南先輩は」。
一方基地では南がマッハの壁に突入し行方不明になっていた。
本部に連絡しそのことを知る郷。
急いで本部に戻る郷だったが、アローとジャイロが解体整備中で捜索に加われない。
5時間は掛かると言われ、自ら組立てを手伝う郷。
「南隊員は俺のために遭難したも同じだ。俺の手で助け出す。無事でいてください」。
その頃島に不時着した南は3人の男女に助けられ、小屋の中のベッドで眠っていた。
南が目を覚ますとその3人は「私たちは海底資源の調査をしている者です」と名乗り、南がMATの隊員だと知ると、山から怪獣のうめき声のようなものが聞こえるので調べて欲しいと言った。
怪獣の声が聞こえるという岩山に入る4人。
洞窟の方から物音が聞こえるとその中に入って行く。
ソナーに反応がなく、洞窟の奥の隙間風が音の正体だと安心する4人。
しかしその時突然地震が起き、ソナーに反応がキャッチされた。
4人が洞窟の奥を見ると眠っている怪獣の姿が。
小屋に戻った南は「いつ目を覚まし暴れるかもしれない。穴を塞ぐダイナマイトがあれば」と言う。
「地質調査用のダイナマイトがありますが」と調査員の1人。
しかし南は高熱のためその場に倒れてしまった。
傷口からばい菌が入り、破傷風になっていたのだ。
不時着したアローの無線を使い、本部に連絡する3人。
その頃機体の組立てを終えた郷は、丘から渡された南の破傷風の血清を携え、島に向かって飛び立った。
「郷君、無茶するな。そのままでは燃料が足りないぞ」と整備員。
「帰りのことを考えなければ島には十分に行けます」。
一方南は何とか持ち直し、3人と一緒に洞窟でダイナマイトを仕掛けていた。
しかし怪獣はダイナマイトの爆発とともに目を覚まし、地上に出て暴れだしてしまう。
その時郷のアローが島に到着。
怪獣を見て攻撃する郷。
しかし燃料が足りなくなり、アローは墜落してしまう。
落とした血清を拾おうと必死の郷。
しかし怪獣が間近に迫って来た。
ウルトラマンに変身する郷。
ウルトラマンは血清を南の下に転がし、怪獣と格闘する。
戦いの中火山が噴火し地震が激しくなる島。
カラータイマーが赤に変わったウルトラマンはスペシウム光線を発射し見事怪獣を倒した。
地震が激しくなる中、崖に追い込まれてしまう5人。
その時島に向かっていた隊長らのジャイロが姿を現した。
ジャイロに救出される郷と南。
他の3人も一緒に空路島を脱出するのであった。

解説(建前)

モンスターソナーが最初反応を示さなかったのは何故か。
これはダンガーが洞窟の奥にいたため岩盤に遮られたためであろう。
地震で岩盤が崩れることにより漸く怪獣を感知できた。
逆に言うとこのソナーは何か障害物があると格段に精度が落ちる代物だと思われる。
以後ソナーが登場しないのはもう少し精度を上げるために改良していたのか、単にMATがソナーを信用していなかったのかのいずれかであろう。
実際以後の怪獣でソナーが役立ちそうなのはエレドータスくらいであり、シーゴラスやテロチルスなどは距離的に感知できなかったのではないか。
あの至近距離で怪獣を感知できないのではあまり使えるものではないであろう。

郷のアローが加藤らのジャイロより早く島に着いたのは何故か。
これはやはりジャイロに比べてアローの方が各段にスピードが速いことによるのだろう。
加藤らが見当違いの方向を探してたのもあるかもしれないが。
郷がアローをあっという間に組立てたのはメカニックとしての腕もあろうが、やはりウルトラマンとしての超能力に負うところ大であろう。
ウルトラマンの力を借りることにより常人離れした集中力、正確さ、スピードといったものを発揮できたのだと思う。

感想(本音)

シリーズ初の郷以外の隊員が中心になる話。
南の兄貴的キャラが遺憾なく発揮され、孤島での冒険もの的な要素も加味された、娯楽編として見所の多い話である。
本話の脚本は仮面ライダーのメインライターでお馴染み伊上勝氏。
伊上氏については大全など各自参照していただきたいが、これだけの内容を無理なく盛り込んで尚且つ、娯楽性を損なっていない点さすがと言うべきだろう。

本話の監督は本多猪四郎。
本多氏は本話をもって帰ってきたウルトラマンのローテから外れるが、本話も含め初期の温かい雰囲気を作るのに貢献していた。
これは他の監督に比べ、明るめのライティングを使っていたことにもよるのだろうが、それ以外にもアキや次郎のほのぼのとした描写が「帰ってきたウルトラマン」初期のコンセプト、ホームドラマ的設定にとてもマッチしていたことにもよるのだろう。
いわゆる小市民的描写に長けた同監督ならではである。

しかし「帰ってきたウルトラマン」の路線が色々変わることによりドラマはどちらかと言うとハードな方向に転がって行った。
この時期に本多監督が離脱したのは時期的に正解だったのではないか。
本多監督の個性が生かされる話は最終クールまで待たねばならず、結果あの素晴らしい最終回を再び本多監督で締めれたのは計算か偶然かはさておき、「帰ってきたウルトラマン」最大の幸運だったのかもしれない。
では以下内容について。

まず郷とアキ、次郎のハイキングのシーン。
水筒に水を入れ忘れるという大ボケをかますアキちゃんがかわいい。
そして水を汲みに行く郷さんを見て次郎君の突っ込み「僕だって痺れるんだから姉ちゃんが痺れるのも無理ないや」。
この辺り脚本ではかなり次郎君のキャラが違っており、現場で本多監督が変更したセリフなのだろう。
4話の「郷さん、この女の人が好きになったんだろう」と対応する次郎君のませたキャラがよく表れたセリフになっている。
それにしても郷は7話に引き続きやたらアキらとハイキングに行っている。
まあこれは本多監督が2本撮りしてるんだから仕方ないのかもしれないが。
しかし単なる水汲みも鍛錬の場にしてしまう郷さんって何者。

南の不時着した孤島に調査に来ている海底資源の調査隊は如何にも怪しい連中だ。
あの少人数で軽装備で何をしているのだろう。
その割には強力なダイナマイトまで持っているし。
宝探しに来てる3人組といった方がしっくり来たかも知れない。
まあ彼らが悪人じゃ話は進まないんですけどね。

今回MATの他の隊員はあまり目立たない。
岸田や上野はほとんど印象に残らなかった。
強いて言えば丘隊員くらいか。
これは南に焦点を合わせるためあえて他の隊員を描かなかったのだろう。
郷はいつも通り目立っており、他の隊員の分を南が持っていったということではないか。
しかし南は1週間で70時間以上もフライトしているにも関わらず、なかなかタフである。
まあ、隊長もそこまで行くまでに気づけよなという気もしますが。

ダンガーはたてがみのあるなかなか面白いデザイン。
しかしダンガーが暴れだしたのは眠ってるところにいきなりダイナマイトを仕掛けられたのだから、何処となく気の毒だ。
たまたま不時着したほとんど人のいない孤島の怪獣を殺す必要はあったのだろうか。
怪獣=悪という固定観念がこの世界の共通認識になっていることをうかがわせるエピソードである。
ところでオープニング直後のダンガーの映像は何?
子供の頃驚いた記憶があります。

今回は坂田も登場せず、南以外の隊員の出番も少ないことからここまでの路線とはかなり異なる作風になっている。
これはもちろん脚本家によるのだろうが、6話で一たび完成した世界観からの脱却という点ではシリーズの幅を広げる好脚本だったといえるだろう。
「帰ってきたウルトラマン」前半は異例と言えるほど上原氏の脚本が多いため、とかく1つの作風に染まりがちであった。
その中でこのような主流から外れるエピソードを書いた伊上氏の手腕はさすがであり、その使命を見事果たしたといえるだろう。

ただし伊上氏は多忙のためか今後49話まで脚本の参加はなく、シリーズ全体に大きなインパクトを残すまでには至らなかった。
確かに伊上氏の作品は娯楽に富み楽しめる好編が多いが、シリーズ的には市川氏、石堂氏という大人向けライターの参加が深度を深めたと思われるので、伊上氏の参加がこの程度にとどまったのはあるいは正解だったのだろう。
しかし本話を見ると伊上氏が積極的に参加する「ウルトラ」もまた見たかったものである。

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