地獄からの誘い


データ

脚本は斉藤正夫。
監督は松林宗恵。

ストーリー

ある夜、不気味な怪獣が地底科学センターを破壊した。
その数日後、小泉博士が真珠湖で自殺と報道される。
それを見て憤る上野。
「先生が自殺なんてするはずがない」と上野。
そこへ小泉チドリという女性から電話が入った。
隊長から小泉博士の自殺について調べるよう指令を受け、チドリに会いに行く上野。
上野とチドリは幼馴染で上野はチドリのことを「チーちゃん」と呼んでいた。
博士の自殺が信じられない2人。
そこへ急にかまいたちが発生し、チドリが空へ舞い上げられてしまう。
それを受け止める上野。
その事件を本部に報告し、真珠湖へ向かう2人。
上野がチドリに入れ込んでると軽口を言い合う隊員たち。
それを聞いた伊吹は隊員たちに、小泉博士が上野の命の恩人であり父親代わりである旨語る。
それを聞いて反省する隊員たち。
南は博士の足取りを写した写真が一般人から送られてきたと隊長に報告。
すぐ現像に回すよう指令を受ける。
真珠湖へ行った2人は博士の足取りを聞き、その現場へ向かう。
チドリが崖っぷちに立つと、途端にがけが崩れチドリは落下しそうになる。
それを助ける上野。
チドリによるとここ最近不思議なことばかり起きるという。
2人は車での帰り道、山が急に崩れそれに巻き込まれそうになる。
辛くも危機を逃れる2人。
チドリを本部で護衛することにした上野。
しかしチドリが寮に連絡しようと電話ボックスに入ると、急に煙が発生した。
助けを求めるチドリ。
そこへ更に不審な男が銃撃をしてきた。
反撃した上野はその男を銃殺。
何とかチドリを助け出し、男の正体を確かめに行く上野。
しかしその男は何と上野の恩師小泉博士であった。
謎の超音波に錯乱する上野。
そこへ郷が駆けつけて、上野を殴り気絶させる。
本部では参謀が今回の件についてMAT解散もありうると話していた。
小泉博士の胸からは上野の弾丸が見つかったのだ。
牢獄に入れられる上野を見舞う郷。
チドリのことを心配する上野。
チドリは丘隊員の自宅に預けられていた。
MATの解散を心配する上野。
その夜、チドリは1人で家を抜け出し街を彷徨っていた。
それを偶然見つける郷。
郷は車に轢かれそうになるチドリを助ける。
その車には白い顔をした不気味な怪物が。
チドリは無意識の内に街を彷徨っていたという。
丘の家までチドリを送る郷。
基地に戻った郷は南から送られてきた写真を見せられる。
その写真には郷の目撃したのと同じ白い顔が。
しかし参謀はこれでは上野の疑惑は晴れないとし、正午までに政府に証拠を提出するという。
もう一度資料を見せてもらうよう頼む郷。
そのスライドを見た郷は、弾丸が上野のものと逆巻きであることを指摘。
弾丸は地底人が上野を貶めるために似せて作ったものだった。
釈放される上野。
写真を見たチドリはその写真に写っている謎の怪物をキングボックルという。
キングボックルは地底人類で、小泉博士の研究ノートをチドリが持っていた。
家に戻り資料を上野、郷に渡すチドリ。
それはまさに小泉博士を襲った怪物そのものであった。
その時突如地震が発生。
建物が沈み始める。
混乱して銃を発射する上野。
上野を殴り気絶させ、ウルトラマンに変身する郷。
キングボックルと格闘するウルトラマン。
するとキングボックルは赤い煙を出し始めた。
形勢不利になるウルトラマン。
そこへアローが救援に駆けつけた。
しかしキングボックルが肩のアンテナを回転させるとウルトラマンは地中に沈んでしまう。
街を破壊するキングボックル。
その時ウルトラマンはチドリの言葉を思い出す。
小泉博士の研究によるとキングボックルは目が見えず、こうもりのように自ら超音波を発生させ、その反射を頼って行動するというのだ。
回転して地面から脱出し超音波を発生させるウルトラマン。
最後はブレスレットで止めを刺した。
郷は名誉の戦死を遂げたのではないかと岸田。
しかし微笑んで地上を指差す伊吹。
そこには無事に帰還した郷の姿が。
博士の資料によりキングボックルの謎を解明するMAT。
しかし地底人類キングボックルの挑戦は続く。

解説(建前)

キングボックルは何故上野のMATシュートの弾丸の形を知っていたのか。
これは普段の戦闘の時に採取したと考えるのが妥当であろう。
では何故、その巻き方を間違えてしまったのか。
これはやはり目が見えないため、失敗してしまったのではないか。
若しくは時間がなくて焦って失敗したとも考えられる。
いずれにせよ、キングボックルはかなり高度な科学技術を持っているようだ。

キングボックルがチドリを襲ったのは何故か。
チドリを殺すつもりならもっと容易に出来ると思われるので、これは脅しのつもりなのであろう。
すなわちチドリの持っている資料が狙いと思われる。
では何故チドリの部屋に忍び込んで家捜ししなかったのか?
これは難しいが、キングボックルはチドリがまさか自分の部屋にそんな大事な資料を持ってるとは思わなかったのではないか。
MATに知り合いがいることから、MATに資料があると思ったのであろう。

キングボックルが上野に博士殺害の嫌疑を掛けさせたのは何故か。
これはおそらく上野及びMATの存在が邪魔であったからであろう。
ボックルは博士を拉致殺害しても資料が見つからなかったので、チドリを拉致し資料の在り処を白状させる作戦に切り替えた。
そこでチドリが電話ボックスに入ったところを襲ったのであろう。
上野を陥れるのは、チドリの拉致に失敗した場合の保険の作戦だったものと思われる。

感想(本音)

正直筋がゴチャゴチャしていてわかりにくい話。
ボックルの行動原理もよくわからないし最後は投げっぱなしだし、内容としては支離滅裂。
ただ上野を主役に恋愛も絡め、サスペンスの色も添え、意欲は十分買えるものとなっている。
あまり深いことを考えなければそれなりに楽しめるのではないか。

まずいきなりキングボックルが現れて研究所を破壊するのは良かった。
冒頭にいきなり怪獣が出るパターンはたまに見られるが、事件から話をスタートさせるのはサスペンスの手法としては王道だと思う。
ボックルが煙に紛れて消えるのも良い。
ただサスペンスを狙ったなら正体が一般人が撮った写真でばれるのは正直脱力もの。
子供の頃、写真で正体が判明するシーンを見て、今までの苦労は何だったんだと思ったのを記憶している。

今回、上野を演じる三井氏の演技がもう一つだった。
珍しい主役回に意気込んだのだろうが、最初から力が入りっぱなしで見ていて疲れる。
もう少しナチュラルな演技指導が出来なかったのだろうか。
当時ならああいう演技は許容されるが、今の視点ではやはり辛いだろう。
チドリの方は無難にこなしていただけに、その点惜しまれる。

伊吹隊長は上野と小泉博士の事情をよく知っていた。
これは前任者の加藤から聞いたのか、伊吹個人が聞いて知っていたのか。
伊吹と小泉が個人的な知り合いの可能性もあるので断定は出来ないが、いずれにせよ、隊長の懐の深さの窺えるシーンで、久々に存在感を感じさせた。
「チーちゃんて何だ」のとぼけた味わいもよく、名優の面目躍如といえるであろう。
そしてさらに注目すべきは郷が戦死したのではという岸田に対する伊吹の態度。
郷の生存を確信するかのようなその態度は、やはり郷の正体に気づいていることを窺わせる。
それまで伏線らしきものはあったが、地味ながら今回でそれをしっかり回収したといえるであろう。
最終回ではそれほど取り上げられないが、今回で十分ではなかろうか。

今回郷は上野を二回ノックアウトしている。
一回目は錯乱した上野を正気にするためで仕方なかったが、二回目は完全に自分が変身するためであった。
ウルトラ一族が自ら変身するために周りの地球人をノックアウトするのは実は珍しい。
もしかすると二期ウルトラでは唯一かもしれない。
確かに上野も動揺しており郷が変身しないと厳しい状況ではあったが、それでも大抵上野が助かり郷だけ生き埋めになって変身が王道なので、今回は珍しいシチュエーションであった。
しかし上野は郷のことを忘れたかのように、ウルトラマンが勝った時はしゃいでいたが、何を考えていたのであろうか?

今回はルミ子、次郎の登場はなし。
前回見せ場が多かったので、今回は仕方あるまい。
上野とチドリを中心にするには何とも絡ませづらいのは確かだ。
一方佐竹参謀は久々の登場。
そして久々のMAT解散論は初期を思い出させた。
ただ上野の個人的失態からの解散論ではドラマ的な展開は乏しい。

今回のエピソードは銃弾の巻き方が逆であるとか、ボックルが何故かチドリを彷徨わせてひき殺そうとしたところに郷が都合よく通りかかるとか、ボックルの写真があっさり撮られているとか、御都合主義的展開が多い。
確かに、冷静な目で見ると内容の粗が目に付く。
とは言え、そのサスペンス的な展開や上野とチドリの恋愛など、少し対象年齢高めのストーリー展開を目指した点は評価できよう。
願わくばもう少し練られたものにして欲しかったが、「帰ってきたウルトラマン」最終クールは「狙われた女」など意外とアダルトな作風のものも多い。
その辺りはもう少し見直される必要があると思う。

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