大怪鳥テロチルスの謎


データ

脚本は上原正三。
監督は山際永三。

ストーリー

船上パーティーの若者たちに海中から迫る黒い影。
それは恋人の由紀子を工場の社長の息子に奪われ復讐に燃える三郎の姿であった。
三郎は自ら作った時限爆弾を船体にセットし、その場を離れる。
しかし爆弾が爆発する直前、空から巨大な鳥が舞い降り由紀子達は海に投げ出されてしまった。
そして巨大な鳥はクルーザーに衝突。
船は直後に大爆発する。
目的を達し満足気に車で引き上げる三郎。
「ざまあみろ。俺にだってやれるんだ」。
しかし三郎は警戒検問に引っかかり捕まってしまう。
そして犯行を自供し事件は一件落着するかに見えた。
数日後、MATの郷の下に一本の電話が入る。
「恋人からだぞ」と上野。
「恋人?」と怪訝顔の郷。
電話の相手がアキと分かると「何だアキちゃんか」と言う。
アキの話によるとアキの友人が郷に会いたがってるという。
怪獣を見たとのことだった。
アキとともに由紀子に会いに行く郷。
由紀子によると三郎の時限爆弾は怪獣が襲って来た後に爆発したとのことだった。
被害者の由紀子が犯人を庇うのを訝しがる郷にアキは、三郎が由紀子の幼馴染だと告げる。
そこへ由紀子の婚約者の横川が現れた。
横川は三郎が自分たちを妬んで事件を起こしたと言い、由紀子を自分の別荘へ連れて行く。
爆発したクルーザーを調べる郷。
郷は圧力が上から掛かったらしいことを突き止める。
辺りには季節外れの雪が舞っていた。
留置所の三郎に会いに行く郷。
三郎は由紀子に「かっこ悪いから嫌いになった」と言われ、復讐したという。
自分でやったと主張する三郎だったが、郷から由紀子たちが死んでいないことを告げられると、怪獣の仕業と言い始める。
由紀子と三郎の証言が共通することから郷は由紀子を訪ね、調査に協力するよう説得する。
それを止めようとする横川。
しかし由紀子はサングラスを外し、ボートの郷を追いかける。
その時郷のボートからは赤い煙が。
ボートに近付いた由紀子は目を傷めてしまう。
目が見えなくなり入院した由紀子を見舞うアキ。
郷を責める横川だったが由紀子は「ボートに近付いたのは私よ」と郷を庇う。
ある夜旅客機の墜落事故が発生。
交信記録から事故は巨大な鳥の仕業らしいことがわかる。
ヨット事件との共通点を聞かれた郷は、両者は夜に起きたことから鳥は夜行性で、音に反応するのではないかと推測する。
その時郷の下に三郎が脱走したという連絡が入った。
郷はすぐに由紀子の下に駆けつける。
「行かないで。この間郷さんが海に来た時私はあなたを選びました。いつまでも側にいて、お願い」と郷を引き止める由紀子。
その様子に腹を立てた横川はアキに「朝から晩までああやっていちゃついてるんだ。恋人ならしっかり捕まえてくれないと困る」と言われる。
郷は加藤に「MATの隊員が息子の婚約者をそそのかしている」と苦情が来てるという。
心外だと憤る郷。
その夜パトロールに行った上野と南は怪鳥に遭遇。
テロチルスはビルに糸を吐きつけ巣のようなものを作り、さらに攻撃を仕掛けた自衛隊機を墜落させる。
翌朝空から雪が落ちてくるのに気付いた次郎は、ビルが巣のようになっているのを発見する。
雪は排気ガスと反応して有毒ガスになる性質を持っていた。
坂田家に戻った郷はアキが傘で雪を集めるのを止めさせる。
排気ガスと化合すると猛毒になると注意する郷。
「郷さんの知ったこっちゃない」というアキの頬を郷は思わず殴ってしまう。
「素直なアキちゃんはどこに行ったんだ」と郷。
その時由紀子から電話が掛かってきた。
由紀子によると、雪は硫黄の匂いがし、ヨットハーバーにも雪が降っていたという。
気流を遡れば噴火口が見つかると郷。
複雑な思いで郷を見送るアキ。
「東北辺りでは風花といってね。青空なのに雪がちらつくことがある。その風花を見るともう冬が来たんだなとそう思うんだ」と坂田。
手漕ぎ船で悪島に向かう郷。
山を登った郷は火口にテロチルスが住んでいるのを発見する。
郷の連絡を受け出動するMAT。
MATは空からミサイルで攻撃する。
崖から落ちた郷はウルトラマンに変身。
怪鳥テロチルスを迎え撃つウルトラマン。

解説(建前)

三郎は本当に無罪なのだろうか。
ヨットの爆発では死者が3名出たという。
しかし死因は明確には語られていない。
それではその死因は何なのだろうか。
まずテロチルスがヨットに衝突したことが原因とも考えられるが、由紀子達は海に投げ出されただけで、直接危害を加えられたわけではない。
したがってその後に起こった大爆発が直接の原因となるだろう。

それではその爆発の原因は何なのだろうか。
普通に考えれば三郎の爆弾が原因とも考えられるが、由紀子らの証言では爆発は怪獣のせいだという。
確かに爆弾にしては威力が凄すぎる。
とするとやはりテロチルスが衝突した衝撃でエンジンがやられ、それが大爆発したということになるだろう。

ただしその場合、三郎の爆弾によってもエンジンに引火し大爆発する可能性はあったと思われる。
またヨットを大破させるだけの威力が爆弾になかったとしても、船体に穴を開ければ船が沈没する可能性はあるわけで、全く無罪というわけにはいかないだろう。
3名の死とは刑法的な因果関係がなく既遂の罪責が問われないとしても、人の死を引き起こすだけの危険性ある行為は行っている以上、殺人未遂の罪責は免れない。
船には複数人の若者が乗っていた以上、それなりの量刑になるものと考えられる。

感想(本音)

もはや子供向けとは思えない話。
内容的には特捜最前線の方が近いかもしれない。
グドン・ツインテール編、シーモンス・シーゴラス編に続く前後編。
今回は怪獣が1匹なのが特徴である。
そして内容について見ると、グドン・ツインテール編ではMAT、シーモンス・シーゴラス編では高村親子に主眼が置かれていたのに対し、今回のテロチルス編では三郎と由紀子を軸に郷とアキを絡ませ複雑な青春群像を描いている。
この点、子供向け特撮番組としてはかなり異色な内容であろう。
私自身本エピソードについては子供心にあまり楽しめず、妙に渋い印象だけが残っている。
以下細かい点を。

まず警察について。
1週間も被疑者を留置しておきながら、未だ誰にも接見させてないのは何故だろうか。
犯人が犯行を自供している以上、特に問題があるとは思えないのだが。
これはおそらく警察が無理やり三郎を犯人に仕立て上げるため、もう少し都合のいい証拠を収集する必要があったためだろう。
あるいは由紀子らの生存がわかると脱走する恐れがあるからかもしれない。
まあいずれにせよ弁護士に接見させてない時点で明らかに違法なのだが。
あっさり撃墜される自衛隊とともに、上原氏の対国家観がわかるエピソードである。

今回、三郎の取調べシーンに代表される山際監督の細かい演出が光っていた。
大全にも詳しいが、取調べシーンでの杭打ち機の音。
エレドータス編のアメリカンクラッカーと同様、何となく不安にさせるような、落ち着かないような心理を効果的に演出していたと思う。
また三郎が脱走するシーンではカメラを三郎と一緒に走らせ画面をぶれさせていた。
これにより、三郎の焦燥感、持って行き場のない情熱を見事表していたと思う。

今回のエピソードの主役はやはり由紀子だろう。
三郎が脱出したと知ると自分を助けて欲しいと郷に頼りだす。
どう考えても身勝手な女なのだが、これは横川が頼りにならないというのを直感的に悟っていたからではないか。
由紀子は決して恵まれた境遇に生まれ育ったわけではない。
三郎とは幼馴染で似た境遇で育ったことから付き合っていたが、由紀子は心のどこかで自分の境遇からの脱出を願っていた。
だからこそ自分より強い者にそこから自分を連れ出して欲しかったのだろう。
横川の場合はお金、郷の場合は男としての逞しさ。
いずれも恋人を奪われたからといって爆弾を仕掛ける三郎にはないものである。
もちろんそれは由紀子のわがままなのであるが、彼女の境遇を思うと一概に責めるわけにはいかないだろう。
ただ彼女の問題は他力本願なところで、そのことについては後編ということで。

今回はアキがヒロインとして重要な役割を担っている。
今まで郷に冷たくされて落ち込むことはあったが、他の女性に嫉妬することはなかった(丘隊員に対して少しあったが)。
今までは郷の仕事や流星号にかける情熱を理解し許していたアキだが、相手が女性だとそうは行かなかったのだろう。
本エピソードは郷に対して高校生のような憧れに似た恋愛感情を抱いていたアキが、より生々しい大人としての恋愛感情を抱くようになるという点、重要なエピソードである。

一方郷は上野に「恋人から電話」と言われてすぐにアキと分からなかった。
これは少し問題があるが、この時点ではアキは妹と恋人の中間のような存在だったのであろう。
グドン・ツインテール編との整合性が気になるが、この時点ではまだ明確に恋愛対象とはなっていなかったようである。
本話を境に郷もアキを恋人として意識するようになる。
その辺りしっかり描かれているとは言い難いが、本エピソードは2人の関係を進展させる点、重要な意味を持つ。

「帰ってきたウルトラマン」のテーマの一つにアキとの恋愛がある。
それは今までやや漠然としていたが、本話ではそれを正面から描いた。
結果的に子供向けを完全に逸脱してしまうが、それはアキとの恋愛を子供向けの軽いものにしまいという上原の思いによるのだろう。
結果的に悲恋に終わる2人だが、初期の隊員対立劇にも見られる本作のシリアスさ。
言い換えると真摯さというものが大人になった今こそダイレクトに伝わってくるのである。

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