盗まれたウルトラ・アイ


データ

脚本は市川森一
監督は鈴木俊継

未確認飛行物体が落下したという通報を受け、現地を調べに来たフルハシ、アマギ、ダン。
本部のソガが落下地点を特定できないことに苛立つアマギ。
「防衛基地のレーダーには何千という怪事件がキャッチされてるんですよ」とソガ。
「だからコンピューターがあるんだろ。お前みたいなウスノロがよくもウルトラ警備隊員になれたものだ」とアマギ。
「アマギいい加減にしろ」と窘めるフルハシ。
2人は警察からの情報を頼りに近辺を捜索する。
すると一台のダンプが近づいてきてすれ違う。
「今の、女に見えなかったか」とフルハシ。
「ああ。イカす女の子だった」とアマギ。
「畜生。ダンプなんか運転しやがって」とフルハシ。
談笑する2人。
発光体を見かけた2人はその近辺で車を降りる。
すると斜面をよじ登る瀕死の男の姿が。
「光の。女が」。
そう言い残し息絶える男。
近くには猛烈な噴射の後を窺わせる煙が。
アマギはポインター2号のダンに若い女を検問で止めるよう連絡する。
女が乗ったダンプの前に立ちはだかるダン。
しかしダンプはダンに構わず突っ込んできた。
飛び避けるダン。
ダンはすかさずポインターでダンプを追跡するが、飛行物体から光を照射され過って崖に転落してしまう。
ポインターから投げ出され意識を失うダン。
ダンは朧げな意識の中、ダンプを運転していた少女マヤがウルトラアイを盗むのを目撃する。
プラネタリウムに紛れ込み、そこから母星へ通信を送るマヤ。
怪電波をキャッチする宇宙ステーションV2。
「マゼラン星雲?」
「任務を完了したとか言ってましたが、一体何のことでしょう」。
警備隊基地に連絡するV2隊員。
怪我の治療を終えたダンに謝るソガ。
「すまん。俺がモタモタしたために、怪我をさせてしまって」。
「うっかりしてた僕が悪いんです」とダン。
胸のポケットに手を当てるダン。
『きっと見つけだしてやる。あの顔を忘れるもんか』。
「怪電波の発信源はK地区のプラネタリウムセンター。恐らくもういないだろう。見たとおり娯楽場が多い。隠れ場には持って来いの地域だ」とキリヤマ。
「ボーリング場にジャズ喫茶。地下に潜ればアングラバー」とアンヌ。
「こいつは若い子ですね。ダンプに乗ってた子も17、8でした」とフルハシ。
K地区の電波を漏らさずキャッチする態勢を整え、レーダー網にかかるのを待つ警備隊。
4日目の午前2時、遂に電波をキャッチ。
発信源のスナックノアに向かう隊員たち。
基地に残り電波を分析するアマギ。
「アマギ、どうだ」とキリヤマ。
「確かにマゼラン星に向けられてます」とアマギ。
「通信の内容は?」
「迎えはまだか。迎えはまだか。その繰り返しです」とアマギ。
スナックノアではバンドの生演奏に合わせて若者たちが踊り狂っていた。
私服で侵入していたダンは踊るマヤを見つけるとテレパシーで話しかける。
『聞こえるか。僕がわかるか』。
『誰?地球人ならテレパシーは使えないはずよ』。
『わかったわ。あなたはセブンね』。
『ウルトラアイをなぜ捕った』。
『それが私の任務だから』。
『なに!地球を侵略するつもりなのか?』
『こんな狂った星よ。見てごらんなさい、こんな星。侵略する価値があると思って?』
笑うマヤ。
「迎えはまだか。迎えはまだか」とダン。
ダンはリズムボックスが怪電波の発信源であることに気付く。
それを悟られ逃げ出すマヤ。
他の隊員にそのことを伝えるダン。
照明を銃で撃ち踊りを止めるソガ。
基地に戻りリズムボックスを分析するアマギ。
「このリズムです」。
「これを繰り返しマゼラン星に送るんだ」とキリヤマ。
すると返信が入る。
「恒星間弾道弾既に発射せり。迎えに及ぶ時間なく」と分析するアマギ。
「恐らく何か特殊な任務を負ってやってきたんだろう」とキリヤマ。
「迎えには来ないってどういう意味なの」とアンヌ。
「裏切られたんだよ。自分の星に」とダン。
分析の結果ミサイルはあと7時間で地球に到達するという。
その時V2から巨大なミサイルが接近している旨連絡が入る。
V2目掛けて飛んでくるミサイル。
V2は応戦するもミサイルにより破壊されてしまう。
ホークで出動する隊員たち。
しかしキリヤマと一緒にホーク2号に乗るように言われたダンはウルトラアイを取り返すため単独行動をとる。
ダンが来ないため発信できない隊長機。
苛立つキリヤマ。
キリヤマからダンを探すよう言われるアンヌ。
しかしダンは見つからずアンヌが代わりにホーク2号に搭乗する。
ホーク1号に連絡を取るキリヤマ。
「敵は手ごわいぞ。慎重に行動しろ」。
一方ダンはアングラバーに来ていた。
踊っている若者たちの中に入るダン。
すると皆ウルトラアイらしき眼鏡をつけていた。
若者にもみくちゃにされ気を失うダン。
1人取り残されるダン。
ダンは11時を告げる時計の音で目を覚ます。
そこへマヤが入ってきた。
「ダン」。
対峙する2人。
するとマヤは振り向きざま銃を発射。
ダンも銃を構えるが、マヤの方が一瞬早く、銃を撃ち落とされてしまう。
一方ホークはミサイルにレーザー攻撃を仕掛けるが、ミサイルはびくともしない。
地球へ向かって直進するミサイル。
午後11時半。
『この星の命も午前0時で終わりです』とマヤ。
『君も死ぬのか』。
『私は仲間が迎えに来てくれるわ』。
『誰も来ない。君は初めから見捨てられていたんだ』。
通信の刻まれたパンチカードを手渡すダン。
驚いてそれを手に取るマヤ。
自分が見捨てられたことを知るマヤ。
『この星で生きよう。この星と一緒に』。
ウルトラアイをダンに返すマヤ。
セブンに変身したダンは宇宙へ飛びミサイルの中へ飛び込む。
セブンは中の機械を操作してミサイルを反転させることに成功した。
地球を離れていくミサイル。
一方マヤは時計の針が12時を指す直前、ジュークボックスのボタンを押す。
すると煙が噴き出しマヤは消失。
ダンがバーに戻るとそこにはマヤの着けていたブローチが落ちていた。
『なぜほかの星ででも生きようとしなかったんだ。僕だって同じ宇宙人じゃないか』。
雑踏を抜け、ポインターに乗り込むダン。
走り去るポインター。

解説(建前)

マゼラン星人は何者か。
これについては情報が少なすぎて解釈はほぼ不可能であるがマヤのセリフから推測すると、地球を狂った星と見ていること、そんな星に存在意義はないと考えていることがわかる。
ではなぜそのように判断したのか。
これはやはりマヤ以外にも地球に工作員を送って調査していた可能性が高いであろう。
乱暴な話であるが、先に地球に来ていた工作員は主に日本の政治文化を調査し、地球は侵略する価値のない星と判断した。
そして地球破壊の障害となるウルトラセブンの存在を知り、その正体がウルトラ警備隊員のモロボシダンであると知ったのであろう。
未確認飛行物体をウルトラ警備隊に調査させたのもダンを誘き出すため。
マヤがウルトラアイを盗むと、先に来ていた工作員はその飛行物体に乗りそのまま母星に帰還したのであろう。

ただこのように考えると、なぜマヤがウルトラアイを奪取した後地球に残ったかの説明が苦しい。
そもそもウルトラアイを破壊してしまえば、ダンはもはやセブンに変身できないはずである。
これについてはこう考えるしかあるまい。
ウルトラアイが頑丈過ぎてどうやっても破壊できないと。
しかしそれなら母星に持っていくという手もあったはずである。
それをしなかったのは、やはりウルトラ兄弟に攻め込まれるのが怖かったからであろう。
またウルトラアイを何処かへ隠してもダンが超能力で見つけてしまう恐れがある。
実際ダンにそんな能力があるかはわからないが、マゼラン星人がそう考えたとしても不思議ではない。
結局マゼラン星人としてはマヤがウルトラアイと心中してくれなければ困るということだったのであろう。

マヤがダンプを運転していたのはなぜか。
これは地上からダンを追って、飛行物体と協力してウルトラアイを奪うためであろう。
車の運転ができたのは、マゼラン星で訓練を受けたからと思われる。
先に地球に来た工作員がアングラバーを秘密基地にしたり、地球(日本)の言葉や文化を母星に報告していた。
それを基にマヤは訓練を受けたのであろう。
あるいはかわいい少女の姿も報告を基に変身した仮の姿の可能性もある。
マヤがプラネタリウムから電波を発信したのはなぜか?
電波はバーのリズムボックスからも発信していた。
やはり同じ場所から発信したのでは足がつくので、違う場所から発信したのであろう。

アングラバーで若者が皆ウルトラアイらしき眼鏡をつけてダンに襲い掛かったのは何故か。
これは一種の催眠術であろう。
マヤが飲み物に混ぜるなり煙を吸わせるなどして若者を催眠状態に陥れた。
ダンが自分を探してバーに来るのは予想できたのであろう。
ウルトラアイを探しに来たダンを小ばかにする意図もあったのかもしれない。
あるいは自分が母星に帰るまでの時間稼ぎだったのであろう。
ダンが倒れた後、催眠状態の若者たちを店から追い出した。
もしかするとマヤがこのバーの実質的オーナーだったのかもしれない。
もちろんそれは先に来た工作員が準備したのであろうが。

マヤが最後に消失したのはなぜか。
まずあのジュークボックスであるが、任務に失敗した時の自決用に作られていた可能性が高い。
ウルトラアイを盗み出すのに成功したマヤは本来なら飛行物体に乗ってそのまま帰還するはずだった。
しかし何らかの原因で取り残されてしまう。
おそらく機体にトラブルが発生した等の嘘をつかれて置き去りにされたのであろう。
それでもマヤは母星を信頼していた。
ミサイル発射の通信を聞いていなかったマヤは自分の命が後数時間で消えるとは思いもしなかったのである。

しかしダンに手渡されたテープを見てマヤは真実を知る。
ダンにウルトラアイを返したのもせめてもの母星に対する反抗の意思表示か。
ただ、母星を裏切った以上、もはや母星には帰れない。
かと言って1人狂った星に残されても生きていく自信もない。
同じ宇宙人でもダンは地球を守ってるのに対し、自分は地球を破壊しようとしていた。
やはりマヤ自身、そういう自分が許されるとは思えなかったのであろう。
悲しいがマヤにはそれ以外の道はなかったのである。

感想(本音)

名作ではあるが、細かい粗は結構多い。
上記のように解釈はやや苦労した。
ただ、他の話のような致命的な粗はなく、やはりよくできたストーリー。
ウルトラセブンにおける市川脚本の中では一番の作品であろう。
とはいえ、子供がこれを楽しめるかとなるとおそらく無理。
私自身も子供の頃この話を見た記憶がない。
見ているはずなので、やはり理解ができなかったのであろう。
ただ、セブンの視聴対象は中学生も含んでいるので、そういう意味では本来のターゲットに向けた作品とも言える。
怪獣が出ない話を書いてくれと注文されてこんな話が書けるんだから、やはり市川森一は凄い。

本話でまず気になったのはアマギのキャラ(そこ?)。
まさかアマギの口から「ウスノロ」とか「イカす女の子」という言葉が出てくるとは。
「悪魔の住む花」(監督は同じ鈴木氏だが)でのロマンチストアマギを知ってる者としてはやや幻滅なセリフである(笑)。
アマギは有名な「700キロを突っ走れ」や「空間X脱出」などの臆病キャラの印象が強いが、本話ではどっちかというとできるエリートという扱いだった。
市川氏は「ひとりぼっちの地球人」でもアマギを冷静なエリートキャラとして描いており、あくまで初期設定を基に描いているものと思われる。

市川脚本ではキリヤマとクラタ、フルハシと母親、ソガと一宮などの人間関係が中心になることが多いが、今回は遂に主役のダンの番である。
相手は同じ宇宙人のマヤ。
市川氏は後年ウルトラマンエース第7話で山中の婚約者マヤを登場させているが、これは市川氏にとってマヤという名前が宇宙をイメージさせるからだそう。
詳しくは市川氏が監修に参加している(と言ってもインタビューに答えてるだけだろうが)「ウルトラシリーズサブキャラ大事典」を参照いただきたい。

話は逸れたが、ダンが宇宙人であることから苦悩するというのはセブンの特徴の一つ。
ただ解説でも述べたように、セブンは地球を守るために敢えて正体を隠して暮らしているだけであり、マヤとはかなり境遇が異なる。
ダンは単に母星に裏切られたマヤに同情しているに過ぎないであろう。
正直、同じ宇宙人云々というのは唐突な感じがした。
そこまでそういう展開だったっけと。

本話は個人と国家やもっと大きな善と悪というテーマの方が大きいであろう。
狂った星だから(と判断したから)破壊していいという発想が何よりも狂っている。
マゼラン星にとっては秩序が何よりも優先する。
そのためには地球やマヤという個はどうなってもいい。
当時問題になっていたベトナム戦争と重ねたのかは定かではないが、大義のために切り捨てられる個人の悲しさ。
そういう普遍的なテーマを描いているからこそ本話は名作たりうるのである。

マヤを演じたのは当時高校生の吉田ゆり。
工作員が成年男子でも成り立つテーマだとは思うが、儚い少女が演じることにより本話はより魅力を増した。
少なくともマヤが中年のおばさんでは本話はここまで物悲しくはならなかったであろう(笑)。
無垢な少女だからこそ盲目的に国(星)を信じて行動したことに説得力が出る。
そして彼女の個はイコール国(星)であったため、裏切られたことにより個まで失われたのである。
ある意味カルト的な話であるが、国家主義というのは一種のカルトであるから強ち解釈としては間違ってはいないであろう。

本話で一番スリリングな場面は実はダンが隊長の命令を無視してマヤを探しに抜け出したところ(笑)。
あれって後からどう言い訳したのであろう。
乗ってる円盤が爆破されても無事帰還するダンのことだから今さら何をいわんやであるが、苛立つキリヤマを見てるとこっちも冷汗が出た。
ここでアンヌが気を利かせてホークに乗るシーンで一息ついたが、普通ならダンは懲罰ものである。
まあその辺りは敢えて描いてないだけかもしれないが、言い訳としてはマヤを見つけてミサイルを止める方法を聞き出そうとしましたってことくらいか。
それなら隊長にそう言うのが筋なので、やはり処分は免れないであろう。

今回は怪獣の出ない話ということでセブンが格闘するのは弾道ミサイル。
中に侵入して方向を変えるしかないという時点でかなり頑丈なミサイルである。
ただし地球に近すぎたためセブンが破壊を回避したという可能性もあるので、妖星ゴランほどのスケールはないかもしれない。
いずれにせよV2は破壊してるし(V3じゃなくてよかったw)やはり強敵だったのは間違いないであろう。
一方的宇宙人であるマゼラン星人はマヤ以外は姿を見せなかった。
しかもマヤは最後まで人間の美少女。
ゼラン星人みたいに死んでから正体を現したりしたら幻滅なので、消えてしまうラストは情緒があってよかった。
まあ、完全に人間ドラマだね。

本話で注目されるのはプラネタリウムやアングラバーなどの当時のリアルな文化が見られる点。
さすがに海外セールを意識してるセブンだけあって畳とかちゃぶ台は出てこなかったが(笑)、アングラバーなんてのは「ゴジラ対ヘドラ」くらいでしか見たことないので新鮮であった。
と言ってもセット撮影で実際のアングラバーとはかなり違うだろうが。
あとジュークボックスは私のような団塊ジュニア世代ではほぼ見たことがない。
巷で「I」がないことから「愛」がないとか「アイ」がないという解釈もあるようだが、恐らく「1」と「I」が似てるからという解釈が正解であろう。
最後ダンが彷徨う雑踏のシーンは新宿でのロケらしい。
タロウ最終回もそうだが、こういう街中を歩くシーンはゲリラ撮影だろうな。
今回もかなり引きで撮影していたし。
ストーリー的には特に必要のないシーンであるが、このシーンはダンの心情とも合わさり、マヤの悲劇性を描く上でなくてはならないシーンであったと言えるであろう。

本話の脚本は前述したとおり市川森一。
監督は鈴木俊継。
このコンビだと「V3から来た男」や「月世界の戦慄」などキリヤマ&クラタ話が多いが、本話はかなりテイストが違った。
鈴木監督は「超兵器R1号」や「悪魔の住む花」も監督しており、ミリタリーものから文明批判的なもの、果てはメルヘンチックなものまでどんなテーマでも手堅くこなせる職人派の監督として個人的には評価は高い。
本話もダンの苦悩やマヤの儚い美しさ、悲しさなどがよく出ていたと思う。
実相寺監督とかだと大傑作になるか、やり過ぎておかしくなるか、どっちの可能性もあるので(笑)、本話は鈴木監督の抑えたトーンで正解だったと思う。
もちろん市川氏の脚本も前述のように素晴らしく、本話はやはりセブンを代表する1本であることは間違いないであろう。
ただし、怪獣が出ない話の方が評価が高くなるのはセブンの問題点でもあり、弱点でもある。
今でこそ評価は高いが子供番組としてはやはりジレンマであったろう。

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