月世界の戦慄


データ

脚本は市川森一。
監督は鈴木俊継。

ある日、地球防衛軍の月基地が謎の大爆発を起こした。
宇宙ステーションV3で部下のシラハマとともに休憩をとるクラタ。
シラハマは自ら作った遠隔指示器でポットを宙に浮かせクラタにコーヒーを注いでみせる。
10万キロの範囲までコントロール可能だとシラハマ。
「後で教えてくれ」。
感心するクラタ。
そこへ月基地爆破の報が入る。
一方ウルトラ警備隊にも月基地調査の命令が入り、ダンとキリヤマが月に向かう。
ステーションホークで月に向かうクラタとシラハマ。
クラタは無線でキリヤマに連絡を取る。
「こちらホーク1号。クラタ、暫くだなあ」とキリヤマ。
「ああ。一緒に宇宙に出るのは三年ぶりじゃないか」とクラタ。
「そうだな。そうだ。あれはヘルメス惑星のザンパ星人を全滅させた、あれ以来だな」。
「あの時の戦いに比べりゃあ楽な仕事だ」とクラタ。
集合地点を確認するキリヤマ。
「調査時間は二時間。それ以上遅れると月の夜に巻かれるから遅れるな」とクラタ。
「誰だって零下180度の真っ暗闇なんてゾッとしないからな」。
笑うキリヤマ。
それを聞いて不安な表情になるダン。
談笑する2人に隠れてシラハマは密かに遠隔指示器を使いホーク1号の空気コックを操作する。
胸が苦しいとキリヤマ。
キリヤマがタバコを吸おうとライターの火をつけると異常に炎が燃え上がった。
「酸素だ。酸素が流れ過ぎている」とキリヤマ。
ダンに酸素の排出を止めるよう指示するキリヤマ。
『変だ。さっき確認したばっかりなのに』。
訝しがるダン。
さらに機体が大きく揺れ始めた。
警備隊基地でもホーク1号の異常をキャッチする。
必死に機体を点検するキリヤマ。
すると突然揺れが収まった。
加速桿が故障して空中に静止するホーク。
「出発時点になぜもっとよく点検しなかったんだ」。
ダンを詰るキリヤマ。
「それはちゃんと」とダン。
「言い訳は聞かん。すぐ連絡を取って救援隊を呼ぶんだ」とキリヤマ。
警備隊基地に連絡を取るダン。
しかし電波障害で通信が切れてしまう。
心配そうな表情のアンヌ。
「ダン、どうした?」
「連絡不能です。誰がこんなことを」。
「この中には2人しかいない」。
厳しい目でダンを見るキリヤマ。
「隊長」。
「よし、補助ロケットで進もう」とキリヤマ。
一方ソガはステーションホークのクラタに連絡を取る。
キリヤマとの通信が切れてしまったとソガ。
「そうか。しかし時間がない。先に現場へ行く。連絡を待ってくれ」。
通信を切るクラタ。
「ホークが連絡を絶ったらしい」とクラタ。
「どうしたんでしょう」とシラハマ。
「キリヤマのことだ。何とかくるだろう」。
ほくそ笑むシラハマ。
月の引力圏に突入するステーションホーク。
遅れて月の引力圏に入るホーク1号。
「隊長。超音波を逆探知しました。こいつが通信を妨害しています」とダン。
「発信元はどこだ」。
「クラタ隊長のステーションホーク機内から流されてます」。
クラタ機に通信しようとするキリヤマ。
しかし妨害電波に遮断される。
月に着陸するホーク1号。
月面探査車で爆発した基地に向かうクラタとシラハマ。
2人は車を降り基地に入る。
基地の中で隊員の亡骸に手を合わせるクラタ。
背後からクラタに近づき、空気供給管を外そうとするシラハマ。
しかしクラタが立ち上がって失敗に終わる。
さらに基地内を探索する2人。
再び背後からシラハマの手が迫るが、クラタは影を見てそれに気づく。
シラハマの腕を掴むクラタ。
「何の真似だ」。
揉みあう二人。
クラタに投げ飛ばされて階下に転落するシラハマ。
意識を失ったシラハマの様子を確認するクラタ。
するとシラハマの空気管が外れていた。
突然笑いだすシラハマ。
「お前の部下のシラハマならもう2日前に死んでいるよ」。
「なにい」。
「安心しろ。私が人間だったらお前は殺人者だ。3年前、お前とキリヤマのコンビに撃墜された宇宙艦隊の生き残りと言えば思い出すだろう」。
「3年前。ヘルメス惑星の宇宙船団。じゃあ貴様は」。
「お前とキリヤマがもう一度一緒に組む機会を待っていたんだ」。
「復讐か。だったらなぜもっと早く殺さなかった。機会はいくらでもあったはずだ」。
「お前を消せばあいつらのことだ。きっと私を疑うだろう。用心されては厄介だからな」。
そこへキリヤマとダンが近づいてきた。
「さり気なく振舞え。さもないとこれで宇宙へ放り出す」。
遠隔指示器でクラタの銃を奪い取るシラハマ。
再会を喜び握手するクラタとキリヤマ。
クラタの銃がないことに気が付くダン。
またシラハマが手に持つ装置も訝しむ。
「酷い廃墟になったものだな」とキリヤマ。
「またすぐに立ち直るさ」とクラタ。
「隊長。ホークの故障の原因が今わかりましたよ」とダン。
「はっはっは。私にもわかったよ」。
シラハマに銃を向ける2人。
「さあ、手を上げてもらいましょうか」とキリヤマ。
キリヤマたちの後ろに移動するクラタ。
不審な動きをするシラハマを狙撃する2人。
手に持った銃と遠隔指示器を破壊しさらに男の頭部を狙撃。
ヘルメットを破壊されたシラハマはザンパ星人の正体を現す。
向かってくるザンパ星人にとどめを刺す2人。
すると突如大きな地震が発生して怪獣ペテロが現れた。
基地の外に出る3人。
「あいつだ。あいつが基地を」とクラタ。
ペテロは探査車を破壊。
「クラタ。ホークが危ないぞ」とキリヤマ。
「生きていたらまた会おうぜ」とクラタ。
急いでホークに戻る3人。
セブンに変身するダン。
セブンのパンチをもろともしないペテロ。
ペテロの出す水流を浴び倒れるセブン。
一方キリヤマは先にホークにたどり着く。
夜になり気温が下がる月面。
零下180度の中エネルギーがなくなるセブン。
空に浮かぶ地球を眺めるセブン。
一方アンヌも地球から月を見ていた。
ペテロの吐き出すガスを浴びるセブン。
その時月面に隕石が墜落。
その熱を浴び復活するセブン。
セブンがワイドショットを放つとペテロは爆破四散した。
戻らないダンを探しに行こうとするキリヤマ。
そこへダンが戻ってきた。
喜び合う2人。
月を飛び立つステーションホークとホーク1号。
Uターンしてホーク1号と並んで飛ぶクラタ機。
「クラタさん。月に忘れ物ですか」。
ステーションホークに無線するキリヤマ。
「野郎」とクラタ。
地球から月を眺めるアンヌ。
『帰ってくる。きっと帰ってくるわ』。
ダンの無事を祈るアンヌ。

解説(建前)

ザンパ星人はなぜクラタではなくシラハマになりすましたか?
シラハマを殺せるのなら最初からクラタを殺した方が早いように思えるので疑問となる。
これに関してはやはり単純にその機会がなかったということになろう。
まずシラハマを殺した手口であるが、いくら少人数とはいえセキュリティを突破してV3内に入るのは難しい。
とするとシラハマがV3から離れたときに殺したと考えるのが自然である。

シラハマが単独でパトロールしている時に遠隔指示器を使って酸素を過供給させシラハマの気を失わせる。
その後、シラハマのホークに乗り込み殺害。
そして何食わぬ顔でシラハマと入れ替わってV3に戻ってきた。
クラタは隊長なので基本単独でパトロールに出る機会は少ない。
そこでシラハマに目をつけたのであろう。
シラハマの人となりについては無線の傍受などで掴んでいた。
ただしあまり長期に亘るとボロが出るので入れ替わってすぐに月基地をペテロに爆破させたのであろう。

星人がキリヤマとダンのホークの酸素供給管を開いたのはなぜか?
これもシラハマの場合と同様2人を気絶させ、後で殺すつもりだったのであろう。
ただ星人の計算外でダンが宇宙人であるため酸素不足でも気を失わなかった。
またキリヤマがタバコを吸ったことによりいち早く酸素の異常に気付いた。
ホークが月に到着した時点で星人は作戦の失敗を悟ったのであろう。
その後クラタを殺してキリヤマを待ち伏せする作戦に変更したのは見ての通りだが、これも(当然だが)失敗に終わった。

星人が遠隔指示器のことをクラタに教えたのはなぜか。
これはクラタに怪しまれずに指示器を持ち出すためであろう。
また遠隔指示器はペテロを操るコントローラーでもあった。
ペテロが現れたのはコントローラーを破壊され制御が効かなくなったためと思われる。

感想(本音)

キリヤマとクラタの武勇伝が語られるという意味で有名な話。
ザンパ星人を全滅させたというパワーワードが独り歩きしてる嫌いはあるが、これは別に2人で全滅させたというよりお互いが宇宙ステーション隊長、ウルトラ警備隊隊長として部下を指揮したと解釈するのが妥当であろう。
今回の作戦を見る限り、ザンパ星人はそんな容易い敵ではない。
クラタの言葉からも相当激しい戦いであったことが推察される。

脚本はクラタとキリヤマの友情を描かせたら右に出る者はいないという市川森一。
地味な話だがギリギリの線で整合性は保っており、それなりの話に仕上げているのはさすがと言えよう。
また、自分の時は予算を節約することが求められていたという市川氏だが、本話は怪獣は出るわ、月の大掛かりなセットは組むわ、隕石は爆発するわで結構予算を使っているように見える。
ただ、その割に話が地味に見えるのは全体的に画面が暗いのが一因か。

市川脚本ということで「ペテロ」というキリスト教の使徒の名前が使われているのもお馴染み。
ただ、クリスチャンの市川氏が怪獣の名前に使徒の名前を使うのは不思議。
不敬ということにならないのであろうか?
一方ザンパ星人は映画「道」のザンパノから。
これは完全に個人的趣味でつけた名前であろう。

ザンパ星人については作戦面の整合性は解釈でつけたが、やはりクラタとキリヤマに絞って復讐しようという執念は特筆ものであろう。
市川脚本で復讐といえば「ベロクロンの復讐」が思い浮かぶが、あれもヤプール残党が歯医者(敗者と掛けてる?)に扮してまで北斗に復讐するという迂遠なものであった。
まあ物語的に迂遠にしないと盛り上がらないってのもあるだろうが、単純にすぐ殺しても面白くないというのは復讐者の心理でもあるのかもしれない。

本話はかようにクラタとキリヤマに対するザンパ星人の復讐がテーマであるため、ダン以外の警備隊員の出番は少ない。
アンヌだけは別扱いでダンを心配するシーンが度々挿入されるが、これはアンヌを主役にした話を書きたかったという市川氏の個人的な趣味であろうか?
正直あまり意味のあるシーンとは思えないので、この程度にとどめたのは正解であろう。

今回印象に残ったのはキリヤマとダンのホーク内でのやり取り。
酸素の禍供給やその他の異変に対してダンを疑うキリヤマ。
それは「この中には2人しかいない」というセリフで決定的になるかに見える。
しかし、その後キリヤマは微笑んで補助ロケットを使うよう指示する。
一見すると矛盾するようなシーンだが、これはどういう演出意図なのだろうか?
ストーリー的にはキリヤマがダンの失敗を不問に付したとも解釈できそうだが、2人の演技からはそうは見えなかった。
かと言ってキリヤマが第三者が犯人と考えてる風でもない。
ただ、あまりにも事故が重なると偶然とは考えにくい。
とりあえず原因追及はいったん保留にして作戦を進めたという感じであろうか。
一応、その程度の信頼関係はあるというのがわかるシーンではある。

月基地を爆破すればクラタが来るのはわかるのだが、キリヤマが来ることまで星人は予想できたのだろうか?
まあ、それを言い出すとこの話が成立しないので検討すること自体が無意味ではあるが一応解釈すると、その場合はクラタを殺してクラタに化けて地球に戻りキリヤマを殺すつもりだったのであろう。
まあ、クラタとキリヤマが親友というのはわかっていたので、キリヤマが来ることはある程度予測できたのであろう。

本話の一番の弱点は、隕石が偶々落ちてきてセブンが逆転したところ。
準備稿では脱出したホークを遠隔操作しようとザンパ星人が発した怪電波が逸れて隕石を呼び寄せたとなっているが、それでも偶然の範疇は出ない。
またその場合はザンパ星人は暫く生きていることになるので、話のテンポとしても今一つである。
やはり星人はキリヤマたちが倒すのが正しい。
ドラマ的には放映版が正解であろう。

月の夜が零下180度と聞いて青くなるダン。
地球ではせいぜい零下140度であったのだから、ダンが震えるのももっともである。
ただ、宇宙空間はもっと過酷なはず。
しかもセブンは熱さなら太陽の中に入れるくらい強い。
どんな体質なんだといいたくなるが、この辺りは戦闘モードと飛行モード、充電モードで耐熱性が変わるとでもするしかあるまい。
ウルトラマンは超人なので、それでいいんです(笑)。

最後に本話の子供の頃見た感想。
正直あまり印象にない(笑)。
「V3から来た男」はアイロス星人やワイドショットなどそれなりにインパクトあったが、本話は絵面的にも物語的にも地味なので、クラタが出てたことすら忘れてたくらい。
月を舞台にした話というのは定番ではあるが、映像的にはどうしても暗くなるし、隊員たちも宇宙服だから視覚的にも地味。
当時の撮影技術的にはやや鬼門と言えようか。
当時の視聴率16.8%は「水中からの挑戦」の16.7%に次ぐ低さ。
この頃から子供の求める作風との乖離が顕著になってきた。

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