ひとりぼっちの地球人


データ

脚本は市川森一。
監督は満田かずほ。

日曜日の午後、人影のない静かな大学構内を歩く京南大学の学生南部冴子。
冴子が廊下を歩いていると、消灯している研究室から大きな物音が聞こえた。
ドアを開けて中に入る冴子。
暗い部屋の中、窓辺に怪物の姿を見た冴子は急いで教室を後にする。
部屋にいたのは京南大学の物理学教授丹羽。
丹羽は周りを確かめて部屋のドアをそっと閉める。
京南大学は日本の教育機関としては初めての科学観測衛星を打ち上げたことで話題になっていた。
「この衛星の打ち上げをリードした京南大学物理学科の偉業は各界から高く評価され、一介の私立大学に過ぎなかった京南大学の名は一躍世論の注目を集めている」。
誇らしげにその雑誌記事を読み上げるソガ。
興奮するソガに迷惑がるフルハシ。
そこへアンヌが「ソガ君」とソガを揶揄う。
「ソガ君とはなんだ」とソガ。
アンヌの顔を見たソガ。
「きみ、わかってんの?」
「南部冴子さん。京南大学英文科二年生」。
微笑み合う2人。
「何なの、その冴子さんて」とフルハシ。
「未来のソガ夫人。ね、ソガくん」とアンヌ。
照れて口笛を吹くソガ。
「婚約者の大学なんだ」とアマギに自慢するソガ。
しかしアマギはその人工衛星が司令部で問題になっていると窘める。
司令室に入っていくダン。
ダンは機密調査部からの資料をキリヤマに手渡す。
調査の結果、丹羽教授も偽物だとわかった。
「するとスパイか」とタケナカ。
「もしそうだとして、一体どこの国の?それにあの科学衛星は何のために打ち上げたんでしょう」とキリヤマ。
「第一あれは地球の科学力を遥かに超えている」とタケナカ。
「もしかして宇宙人では」とダン。
大学の教材用ということで迂闊には調べられないことから、冴子に白羽の矢が立った。
冴子の手引きで大学に潜り込むソガ。
2人は構内から出てくる丹羽教授とその助手の一の宮の姿を階上から眺める。
一の宮は冴子の高校時代からの先輩で丹羽教授と懇意になってすっかり変わってしまったという。
一の宮は宇宙人に利用されている可能性があるとソガ。
ソガは一の宮を助けるため、冴子に一の宮を正門まで連れ出すよう頼む。
オープンカーで一の宮に近づき一の宮に話しかける冴子。
冴子が丹羽教授のことで話があるというと一の宮は車に乗り込んだ。
「信じていただけないでしょうけど、丹羽教授は宇宙人かもしれない」と冴子。
「それで、ぼくをどこへ?」
「ある人に頼まれてあなたを連れ出すように言われたの」と冴子。
「ある人って」。
「私の婚約者でウルトラ警備隊の隊員です」。
それを聞いた一の宮はハンドルを奪い助手席から車のアクセルを踏み込んだ。
それを見て追いかけるダンのポインター。
車は墓地の木にぶつかり止まった。
車から降りる冴子を捕まえる一の宮。
冴子は足がもつれて倒れてしまう。
「教授が宇宙人だということをなぜ知ってる」と一の宮。
「何ですって。それじゃあなたは」。
「教授が宇宙人ならどうだと言うんだ」。
「だったら、侵略者じゃないの?」と冴子。
高笑いする一の宮。
「宇宙人と言えば、すぐ侵略者か。教授は違う。彼は僕の電送移動機を作ってくれた。地球の学者が見向きもしなかった電送移動の理論もあの宇宙人だけは認めてくれたんだ」。
「あなたは利用されているんだわ」と冴子。
「あたしたちは地球人じゃないの?」
「君たちに何がわかる。僕は人間を信じちゃいない」。
ポインターを見かけて逃げる一の宮。
一方構内では丹羽教授の研究室に入ったソガが教授に銃を向けていた。
「丹羽教授とは仮の名。シリウス系第7惑星のプロテ星人というのが、貴様の正体だろ」。
「で、私がそのプロテ星人であるという証拠は?」
「貴様が打ち上げた科学衛星からプロテ星に送った超音波を逆探知したのが最初のきっかけさ。宇宙人でもない限り地球防衛軍の秘密基地などには用はないはずだ」とソガ。
ソガは麻酔銃を教授に向けて撃つが、全て突き抜けてしまった。
逆に星人のショック光線で気を失うソガ。
倒れてるソガの懐から通信機を取り出し握りつぶす丹羽。
ソガからの通信が途絶えたことからダンに京南大へ行くよう指示するキリヤマ。
ダンはアンヌに冴子を迎えに来るよう伝え京南大へ行く。
一方キリヤマたちは衛星を調査にホーク2号で出動。
その頃ソガは研究室の戸棚の裏の隠し部屋にある電送装置により科学観測衛星内部へと電送されていた。
プロテ星の宇宙船と通信する教授。
教授は地球防衛軍が65分後に到着するので急いで衛星を回収するよう指示する。
教授はソガを記憶探知機が仕掛けられた椅子に縛り付け、ソガの記憶から防衛軍の到着時間を調べたのであった。
電送装置で研究室へ戻る教授。
そこへ一の宮が慌てて戻ってきた。
「教授、すぐ出発しましょう。ウルトラ警備隊が追ってきます」。
「わかってます。宇宙船は30分後に出発します」。
「これで地球を脱出できる」。
笑う一の宮。
「僕たちが行った後この電送装置や科学衛星はどうするんです?置いていくんですか?」。
「もちろん、破壊していくよ。ただ、あの衛星だけは持っていくがね」。
「あんなもの2人でいくらでも作れるじゃありませんか」。
「そうはいかん。あの中には地球防衛軍の各国の秘密基地を観測した戦略資料が収めてあるんでね」。
それを聞いて顔色を変える一の宮。
「科学観測衛星というのは表向き。実は地球侵略のためのスパイ衛星」。
「あれだけの資料がプロテ星へ持ち込まれれば、地球を侵略するなど赤子の手を捻るようなもんだ」と教授。
「あなた。僕の知識をそんなことのために」。
「何を驚いているんだ?君があれほど軽蔑していた地球だ。どうなろうと知ったことではないだろ」。
怒りで教授に掴みかかる一の宮。
「あれほど地球を脱出したがっていた男が、今度はその地球を命がけで守ろうというのか。いやはや。地球人というのは全くわからん生物だ」。
「お願いです。さっき言ったことは嘘だと言ってください。あなたは侵略者なんかじゃない。僕がただ一人信じることのできた優れた宇宙人の科学者だ」。
「君の能力は私も欲しいと思うが、やむをえんな」と教授。
揉み合う2人。
教授は星人の姿になって一の宮に襲い掛かる。
そこへダンがやってきた。
研究室のドアに下ろされたシャッターを銃で破壊し中へ入るダン。
ダンがセブンに変身すると星人は窓を破って外へ逃げ出した。
巨大化した星人と対峙するセブン。
星人は姿を消し背後からセブンを攻撃する。
暗視能力で星人を探知するセブン。
しかし星人は分身して本体を捉えられない。
エメリウム光線も星人の体を突き抜ける。
さらにアイスラッガーで星人の首を刎ねるが、星人はすぐ元の姿に戻ってしまった。
分身する星人に翻弄されるセブン。
その頃ホークのキリヤマたちは星人の宇宙船が衛星を回収する場面に遭遇していた。
宇宙船を追跡するホーク。
プロテ星人の放つリング状の光線をはね飛ばし光線を撃ち返すセブン。
しかし星人は光線を弾き返す。
セブンが戦っていたのは星人の作った幻だった。
「いつまでも私の抜け殻と戦っているがいい」。
丹羽の姿に戻った星人は電送装置へと向かう。
そこへ一の宮がついてきた。
「一の宮くん。やはり私の星へ来たいのか」。
「残念ながら教授。2人同時では再生不能ですよ」。
無理やり教授と一緒に電送装置に飛び乗る一の宮。
再生不能になり電子化されたまま宇宙を彷徨う教授と一の宮。
巨大化した星人は教授の消滅とともに消え去った。
セブンはすかさず宇宙へと飛びソガの捕まった衛星を回収する。
宇宙船はホーク2号が破壊。
京南大キャンパスの屋上で会話するダンとソガ。
「何を考えこんでるんですか」とダン。
「あの天才児のことがふと。生きてたら立派な科学者になったろうにと思ってね」。
「死んだとは限らないでしょう。宇宙を彷徨っているうちに元の姿を取り戻してどこか遠くの星からこの地球を懐かしがって見ているのかもしれないし、あるいはひょっこりまたこの学校へ戻ってくるかもしれない」。
一人構内を歩く冴子。
するとまた部屋の中から物音がした。
ドアを開けようとする冴子。
しかし宇宙人のことを思い出してそのまま歩きすぎる。
物音は春風のいたずらのようであった。

解説(建前)

プロテ星人はどうやって地球防衛軍の秘密基地を調べたのか?
常識的に考えれば丹羽教授にそんなことをする余裕はないはず。
昼は研究室で研究して夜はスパイ活動というのは睡眠を必要としない宇宙人なら不可能ではないが、そこまでする必要もないであろう。
仲間が大勢いるのだから、防衛軍の隊員に化けた星人も潜んでいた可能性が高い。

丹羽教授の所属する京南大学は日本の教育機関としては初めて科学観測衛星を打ち上げたとのことであるが、その費用はどこから出たのか?
衛星の内部構造を見る限り、丹羽教授と一の宮のほぼ私物。
そもそも衛星というより宇宙船に近いし、一の宮の話ではどうやら丹羽と2人で作ったよう。
これだけのプロジェクトなのに大学があまり関与していないのは不思議である。

これはやはり大学のプロジェクトというより丹羽の持ち込み企画であったのであろう。
衛星は先に2人で作り上げていた。
その打ち上げを大学名目でするよう教授会に諮り通した。
構造も打ち上げが決定してから変更したのであろう。
京南大学は私立大学なので、大学の宣伝になるなら細かいことは詮索しなかったのではないか。
あるいはホリエモンのロケットみたいに募金を募った可能性もあるであろう。

電送装置はなぜ2人乗ると再生不能になるのか。
そもそも一度体を電子化して元に戻すのだから、体の部位、器官から身に着けてるものまで全ての位置データを電送前に保存しているはず。
じゃないと目が足の裏に行ったりといった次元ではなく、目を目として再生することすら不可能になってしまう。
理論的には2人を再生できないのなら、人間と衣服を別物として再生することすらできないのである。

これはやはりデータの質ではなく量の問題。
すなわち人間1人のデータは膨大であり2人分のデータは記憶しきれなかった。
小さな昆虫程度なら何匹いようが記憶できるであろうが、人間2人が乗った時点でキャパを超え記憶できなかったのであろう。
本来なら2人が乗った時は電子化されないよう安全装置をつけるべきであるが、市販品ではないのでそこまで気を回さなかった。
もしかすると電送先に一部のデータは電送されたかもしれないが、当然一部では何の意味もない。
実質的に2人は消滅ということになるのである。

感想(本音)

市川森一らしい人間ドラマに重みを置いた話。
本話はあらすじを見ていただいてもわかる通りセリフがとても多い。
アクションよりもドラマを重視しているのがわかるであろう。
セブンもこの時期になると単純な宇宙人との抗争よりは、隊員やゲスト中心の人間ドラマに比重が移っていく。
市川、上原が本格参戦することにより第二期ウルトラの萌芽が出てきたとも言えようか。

本話はタイトルからわかるように孤独な一人の青年を描いた話。
一の宮は優秀な研究者でありながら誰にも理解されない。
刑事ドラマ等でもよくある犯人像である。
一方如何にも悪代官顔をした丹羽はそんな一の宮の才能を評価した。
丹羽を演じるのは後にロボット長官やナックル星人でもお馴染み成瀬昌彦。
よほどこの役が良かったのであろう。
ほぼワンクール後に再び悪役で登板というのは異例である。
それだけ本話でもインパクトがあった。

本話は上記の2人を中心に話が進むが、もう一人重要なゲストがソガの婚約者役の北林早苗。
ソガはサイボーグ作戦で後輩の婚約者が出てきたが今回はソガ本人の婚約者登場である。
北林早苗は私でも名前を知ってるくらい有名な女優さんであるが、NHKの第一回朝ドラに出演していたことから初代朝ドラヒロインと認定されているそう。
「なつぞら」に出演されているのを見たが今でもその上品な風貌はお変わりない。
話は逸れたが本話の冴子は学内でオープンカーを乗り回す勇ましい女性。
恐らくいいとこのお嬢様なのであろう。

京南大学は私立大学とのことであるが、英文科や物理学科があるそれなりに大きな私大のようである。
モデルはやはり早稲田や慶應か?
今なら小型衛星くらいはどこの大学でも打ち上げたりしているようであるが、京南大学が打ち上げたのは地球の軌道を回る人工衛星というよりは惑星探査機に近い。
あんなもの勝手に打ち上げることはできないと思われるので、今さら防衛軍が調査するのは後手に失した感は否めないであろう。

全体的に重いテーマの本話であるが、ソガとアンヌの掛け合い等満田監督らしい演出でその辺りは若干緩和している。
照れて口笛を吹くなんて今じゃ絶対見られない演出であろうが(笑)、ソガの浮かれてる様子がよくわかる。
まあ、それだけに最後の深刻なソガとの対比にもなっているのだが。
そんなソガを慰めようとダンは一の宮は元の姿になって戻ってくるかもしれないと言うが、これは完全に楽観論。
このセリフを聞いて「ダークゾーン」のラストのセリフを思い出したが、これはダンの願望というより視聴者である子供に救いを持たせるだけのとってつけたセリフであろう。
ただし一の宮の行動は電送装置のことを知っているソガが状況から推測しただけと思われるので、本当は生きていたと考える余地はなくはない(現実は別として)。

一の宮の発明した電送装置はかなり凄い。
地球どころか宇宙まで電送できるのであるから、並の技術ではないであろう。
やはりプロテ星の協力なくしては実現不可能だったと思われる。
またソガの記憶を読み取った記憶探知機もかなりのもの。
これだけの技術がありながら機密情報を運ぶのに衛星を使うというのがちょっと解せない。
現代でも莫大な情報をチップに記憶させることが可能であるのに、なぜあんな大掛かりな衛星が必要だったのか?
星人と一の宮が乗り込むためだったのかもしれないが、あまりに大胆な作戦が裏目に出てしまった。

本話はセブンとプロテ星人の戦闘が意外と長い。
プロテ星人の分身など特殊効果もふんだんに使い、夜のシーンであることからなかなか幻想的な雰囲気になっている。
ただ、セブンが建物を壊しまくるのはさすがにどうかと思ったが(笑)。
セブンは後に出てくるガッツ星人のように分身の術を使う相手が苦手のようだ。
プロテ星人の抜け殻と戦ってるのに気づかないなど、一の宮がいなければエネルギー切れで負けていたかもしれない。
かなりの苦戦だったと言ってもいいであろう。

本話の肝はやはり一の宮の心情にあるであろう。
一の宮は研究者として認められなかったことから完全に心を閉ざしている。
唯一心を開くのが宇宙人である丹羽だけ。
どうやら恋人はおろか友達もいないらしい。
まさにひとりぼっち。
家族はいるのかもしれないが、恐らく家でも口を聞かないのであろう。
地球におさらばしたいというのは「怪獣使いと少年」の良少年も同じだが、あちらは正真正銘の天涯孤独。
ただ、あちらはまだ子供だったのでそのうち翻意した可能性はあるが、こちらは既に大人なのでその決心はかなり固いであろう。

私も世間から隔絶して家で引きこもりたいというのはあるが、テレビやネットなどの娯楽から全く隔絶した世界に行って研究に没頭するなんて真っ平ご免。
一の宮は趣味すらなかったのであろうか?
結局一の宮のプロテ星移住というのは一時的な逃避でしかなかった可能性が高い。
一の宮は教授がプロテ星人になった姿を見て驚いていたので、もしかするとプロテ星人は地球人と同じ姿と思っていた可能性もある。
普通に考えたらあんなルックスの宇宙人ばかりいるところに一人で暮らすのは辛い。
その辺りはあまり深く考えていなかったのではないか?
そう考えると、一の宮は単に拗らせてただけという気もしないではない。

とはいえ一の宮が地球人に絶望していたのは確か。
それがこの豹変なのだから、丹羽ならずとも「いやはや。地球人というのは全くわからん生物だ」と思ってしまう。
侵略宇宙人とはいえ丹羽が一の宮の才能を評価していたのは事実。
一緒にプロテ星へ行けば一の宮は自分の才能をフルに発揮して研究に邁進できたはずであった。
それなのになぜ心変わりしたか。
これはやはり、そもそも自分が地球を脱出するのと地球を滅ぼすのが別物ということに尽きるであろう。
引きこもりが社会を拒絶するとしても、自分以外の人間が全員死ねばいいとは思わない。
ツンデレではないが、人間の感情とは奥深いもの。
その辺りの機微を星人には理解できなかったのであろう。

ただ、そうだとしても自分の命を賭けてまでそれを阻止する必要はない。
弱い人間なら自分だけ助かってプロテ星でいい暮らしができるのなら、地球を見捨てて出ていくかもしれない。
そもそも地球の連中には恨みがあるわけだし。
しかし一の宮はそうしなかった。
何故か?
これはやはり研究者としてのプライドであろう。
人間としての誇りと言っていい。
自分のしたことの責任は自分で取る。
一の宮はそういう誇り高き人物だったのである。

本話の脚本は市川森一。
本話では結局星人を倒すのはセブンではなく人間である一の宮で、セブンはプロテ星人の抜け殻に惑わされたままである。
この構図は後の「悪魔と天使の間に」と近い。
「悪魔と天使の間」にではゼラン星人が化けた聾唖の少年を伊吹が撃ち殺した。
本話ではプロテ星人が化けた丹羽教授を一の宮が道連れに心中した。
やはり最後に試されるのは人間の心なのである。
ヒーローとは試される者だと市川は言う。
本話の一の宮もそういう意味ではヒーローだったのではないか。
そして人間誰しも尊厳を失わなければヒーローになれる。
そういう市川の子供に対するメッセージが本話には込められていたのであろう。

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