宇宙にかける友情の橋


データ

脚本は土門鉄郎。
監督は深沢清澄。

ストーリー

久々の休日を百子、トオル、カオルと遊園地で過ごすゲン。
平和な休日を満喫するゲン。
しかし人ごみの中には、アイスを食べるトオルを遠くから見つめる怪しい怪獣の姿があった。
怪獣のぬいぐるみを見に行くトオル。
その中に見覚えのない怪獣の姿が。
その怪獣の仕種を見たトオルは、自分の食べているアイスを怪獣に差し出す。
すると怪獣は美味しそうにアイスを食べ始めた。
トオルが名前を聞くとその怪獣はギロと名乗った。
その様子に気付く、ゲンと百子。
ゲンはそれをぬいぐるみではなく怪獣と見抜き、トオルに離れるように言う。
しかしトオルは言うことを聞かず、ギロと一緒に逃げ出した。
車で2人を追うゲン。
するとギロは泡を浴びせて車を止める。
さらに巨大化したギロはトオルをさらった。
レオに変身するゲン。
ギロと格闘するレオ。
しかしギロは格闘中に姿を消す。
基地に戻ったゲンは、何の作戦もなくギロと戦ったことをダンに責められる。
「この俺が変身を禁止したのはこういう事態を恐れていたからだ」とダン。
「お前が変身すると、怪獣の方も勝とうと思い出すんだ。ゲン、怪獣の手でトオルが宇宙へ連れ出されたらどうなる。お前そこまで考えていたのか」とダン。
その夜ギロは再び遊園地に現れる。
トオルとギロはメリーゴーランドで楽しそうに遊んでいた。
トオルに話しかけるゲン。
「僕も仲間に入れてくれないかな」とゲン。
「おゝとりさん、おいでよ、楽しいよ。ギロはいい奴なんだ」とトオル。
「今行くよ、木馬を一度止めてくれないかな」とゲン。
トオルが木馬を止めようとギロから離れた隙にギロを攻撃するゲン。
攻撃を受けたギロは再び姿を消す。
気を失うトオル。
トオルは夢のなかでギロと遊ぶ。
そこはお菓子で出来た夢の国で、おもちゃが遊びまわっていた。
トオルの脳波を調べるMAC。
昼間何処にいたのかと話しかけるゲン。
「ギロを殺しちゃ駄目だ、僕はギロと仲良く出来るんだよ。ギロはただアイスクリームやお菓子が好きなだけなんだ」とトオルが寝言で呟く。
ギロはこちらから攻撃しないと何もしない特別な星獣ではないかとゲン。
しかしダンは「今にきっと破壊を始める。ギロ星獣も決して例外ではない」と答える。
二本の触手から出す白い液を跳ね返すための特訓を指示するダン。
「星獣の犠牲者がここにいるんだ。新しい犠牲者が出た時お前は指を咥えて見ているのか。この地球はお菓子で出来た国ではないんだ」とダン。
ギロの声に誘われ目を覚ますトオル。
一方ゲンは泡を弾き返す特訓をしていた。
「今のお前のスピードでは奴の吐く液には勝てん。奴の液は一瞬に固まる。そうなったらお前は助からん。固まる前に弾き返さねばならん。回転するスピードを上げるには出来るだけ空気の抵抗を少なくすることだ」とダン。
「体を出来るだけ丸くすればいいんですね」とゲン。
「全身をバネにして遠心力で弾き飛ばすんだ。いいか。星獣を倒すための時間はほんの一瞬しかないんだ」とダン。
「しかしそのギロ星獣はまだ地球を破壊してません」とゲン。
「言葉を慎め。星獣を倒すことだけを考えればいいんだ」とダン。
そこへ百子がやって来てトオルが姿を消したと知らせる。
「おゝとりさん、ギロは平和な怪獣です。地球の人間が攻撃しなければ、決して暴れません。いつまでも人間と仲良くできるのです。今夜もギロが僕を呼んでいます。今日から僕はギロの仲間に入るつもりです」
夢の中で語るトオル。
その夜再びギロが現れた。
攻撃するMAC。
「やめろー!ギロが何したってんだー!」
叫ぶトオル。
一方特訓を完成させたゲンはレオに変身して現地に向かった。
「レオー!ギロが暴れるのを止めて」とトオル。
「レオー、やめてくれー」。
ギロと格闘するレオ。
レオはギロの出す泡を浴びるが、それを回転して弾き返した。
レオがギロの背中を突くと、トオルが中から飛び出す。
トオルを助け出すレオ。
一面の泡の中で戦うレオ。
最後はギロの触手をへし折ると、ギロは泡となって小型化してしまった。
ギロの亡骸にすがりつくトオル。
「泣くのはよせ。君だってMACの仕事の意味はわかってるじゃないか」と大村。
「わからないよ。隊長はどんな怪獣でも全部敵だと思ってるじゃないか」とトオル。
「ギロは地球では何も悪いことはしなかった。攻撃したのはいつもMACの方が先だったじゃないか。僕はもうMACなんかいらない。レオもいらないよ」。
「トオル、君は確かに星獣と仲良くできた。そして広い宇宙に平和で優しい怪獣がいることを知った。それだけでも大発見じゃないか。我々大人も、君から大事なことを教わったと思ってるんだよ」と大村。
ギロと一緒に宇宙に行けば良かったとトオル。
「ギロを生き返らせたらMACを許してくれるか」とダン。
「一つだけ条件がある。たとえ生き返っても怪獣を地球に置くことは許されない。ギロ星獣には宇宙に帰ってもらう。いいか」とダン。
レオに変身するゲン。
レオはギロに光線を浴びせると、ギロは生き返った。
「オーイ!降りて来い。もう一度僕と遊ぼう」とトオル。
「私は君とギロ星獣の友情に打たれた。君は怪獣を愛し、怪獣もまた人間を愛することを覚えた。ギロにこの美しい気持ちを持って宇宙へ帰ってもらおうじゃないか」とダン。
ギロを宇宙へ連れて行くレオ。
「ギロー、さようなら」。
空に向かって手を振り続けるトオル。

解説(建前)

ギロは何者か。
そもそもギロは何処から来たのかもわからない。
何故二子玉川園にいたのかも謎だ。
まず考えられるのは、例の如くマグマ星人が送り込んできたという説。
マグマ星人はギロの特殊な能力に目をつけ地球に送り込んできた。
その能力とは、ギロの人間の夢の中に入り込めるという能力である。
ギロは人間、特に子どもと意思を通じる能力に長けている。
トオルを直接狙ったかどうかは不明だが、人間の子ども全般に甘い夢を見せ子どもをスポイルすることにより、地球侵略を企んだのではないか。

ただ、このようなやり方はおよそマグマ星人の作戦としては異質である。
可能性としてなくはないが、ギロはトオル一人と意思を通じていた感があるので、やはりギロは単独で地球に来たと考える方が素直であろう。
したがって、マグマ星人の手先説は一応却下しておく。

そうなると、ギロは単身地球に乗り込んだと考えられるが、ギロに宇宙を移動する能力があるのだろうか。
最後レオに宇宙に連れられても平気だったことから、ギロは一応宇宙空間でも生きることは出来るようである。
とすると、地力で飛んできた、若しくは地球の近くまで乗り物あるいは隕石などで飛来した可能性が高いであろう。
その場合MACの包囲網を如何に突破したかという問題は残るが、それはいつものことなのでスルーすることにする。
あるいは地球に来た時は隕石に乗るほど小型だったが、地球で成長したということも考えられるだろう。

ギロが生き返ったのはなぜか。
レオがギロを生き返らせたかのようであったが、レオにそんな能力があるのであろうか。
やはりこれは、ギロは死んでいなかったと解釈するのが妥当であろう。
ダンがトオルにギロを生き返らせるといった時、ゲンもそれを受けてすぐレオに変身した。
おそらくゲンは、ダンの発言の真意を理解したのであろう。
すなわち、2人は特別な能力でギロがまだ生きていることに気付いた。
そこでトオルを納得させるために一芝居打ったのである。

レオはギロに回復光線のようなものを浴びせた。
簡単な治療なら、ウルトラの能力があればある程度可能なのであろう。
ギロは肩の触手を切られることにより倒れた。
逆に言うと、触手さえ蘇生してやれば復活は十分可能だったのである。
あるいは触手が本体という可能性もなくはないが、いずれにせよ触手がギロにとって重要な器官であることは間違いあるまい。

ギロは何故トオルに近づいたか。
これは難しいが、私は単純にギロは子どもの様な人懐っこい怪獣なのだと解釈しておく。
ギロはトオルが何の偏見もない素直な心を持った人間であることを直感的に見抜いた。
だから、一緒に遊びたかったのである。
攻撃されても執拗にトオルの夢の中にまで現れ、トオルを仲間にしたいと思った。

トオルをさらったのも、一緒に自分の星へ帰るためではないか。
そう考えると最後脈絡なく巨大化したのも宇宙へ帰るためと解釈できる。
結局MACとレオに邪魔されて目的は叶わなかったが、それが無ければ宇宙へ2人で飛び出していた可能性が高いであろう。
では、なぜギロはレオと戦ったのであろう。
これもただ攻撃されたから反撃したと考えるのが妥当であろう。
ギロの攻撃はせいぜい相手の動きを封じる泡だけである。
相手を倒すことまでは意図していないものと考えられる。

感想(本音)

解釈が凄く難しい話。
とにかく意図的なのか、ギロが何者かがよくわからなかった。
私は一番筋が通りやすくテーマ的にもしっくりくるので好意的に解釈したが、ギロを悪の手先、若しくは悪そのものと考えることも可能であろう。
この辺りは各自の取り方次第である。

今回は一応特訓編だが、内容はかなりファンタジーなものであった。
ちょっと夢の中のシーンなどの特殊効果が今ひとつ見にくいというのはあったが、幻想的なBGMといい雰囲気は十分出てたと思う。
特訓編に少し飽きが来ていたので、こういう話は新鮮であった。
今回はウルトラ初参加の土門鉄郎氏の脚本。
あまり脚本家としての仕事を残していないので評価は難しいが、幻想的な演出と相まって今までとかなり雰囲気の違う話に仕上がった。
及第の出来であろう。

二子玉川園の怪獣ショーのシーンで色々な怪獣のぬいぐるみが出てきた。
ヘルツやベロンといった新しめの怪獣からお馴染みゼットンまで。
ただゼットンの角のフニャフニャぶりは新マン最終話の2代目のゼットンどころではなかった。
とは言え、当時の二子玉川園の姿をこうやって見られるのは貴重だと思う。
何か、昔の遊園地ってこんなんだったよな、と思ったりもした。

ギロ星獣の造形は最初見たときはどうかと思ったが、慣れてくるとなかなかかわいい。
同時に気味悪さもあり、見ようによっては悪い奴に見えるのもなかなかだ。
今回星獣ということで、等身大と巨大化時でギロは姿が変わらなかった。
アンタレスの例もあり星人・怪獣で特にルールはないのだろうが、巨大化しても姿が変わらないところにギロの善玉特性が感じられる。

レオとギロの戦いシーンはシャボンの中でなかなか幻想的。
この辺りの演出は、ギロがいい奴前提のように思える。
一方夢の国の演出はお菓子やおもちゃで幻想的のはずなのだが、妙に色が禍々しくこちらは悪い奴演出に見えないこともなかった。
単に光学合成に失敗しただけかもしれないが、この辺りはこの話をファンタジーにもブラックにもする効果があるだろう。
同様にギロの声も、怖くもありかわいくもある。
これらを総合的に見ると、やはり単なる綺麗な友情の話ではないように感じられる。

今回の特訓は泡を弾くだけのもの。
その泡もそれほど強力なものではないだけに、特訓はちょっとおまけ要素が強かった。
ただレオが何の計画もなく戦って失敗するというのは、まだまだレオが未熟であることを証明していただろう。
こうやってダンの存在意義をさりげなく確認するのはいいと思う。
とは言え、あの場面で何もしないのもトオルのことを考えるとどうかとは思うぞ。

今回はトオル君の演技のよさが随所に見られた。
特にトオルの泣きの演技は歴代の子役でも間違いなくトップであろう。
トオルは今までの子役に比べてもかなり過酷な運命を背負った役柄である。
難しい役柄であるが、新井やすひろ氏は見事にこの役を演じきったと思う。
カオル役の富永み~な氏や後半に出てくる杉田かおる氏ともども、レオの子役のレベルの高さは特筆ものであろう。
ところで、カオルと杉田かおるは偶然なのだろうか?
榊原るみとルミ子さんの符合を思い出すが、こちらはさすがに役名でないので偶然であろう。

ダン隊長は相変わらず厳しい視線で怪獣を見ている。
しかしダンはギロを知っていたのであろうか。
劇中特にそういう描写がなかったので知らないと解釈するのが妥当であるが、知っているとしたら攻撃したのは解せない。
ただ悪い怪獣であると知っていたらゲンにそう言うはずなので、やはり隊長にとっても未知なのであろう。
触手の泡攻撃については、実際にレオに浴びせた泡を分析して対策を立てたと考えることにしよう。

今回の話はギロの正体をぼかした展開や、ファンタジーの中に不気味さのある演出など、話の意図が掴みにくい。
タイトルは友情をこれでもかと強調したものだが、内容がそう単純に割り切れないのは見ていて明らかであろう。
もちろん、互いに信じあうことの大切さ、力で問題を安易に解決することに対する批判などもあろうが、それだけではちょっと物足りない。
本話のテーマはそれだけではないであろう。

では制作側が本話で言いたかったテーマは何か。
これはやはり、子どもを甘えさせては駄目だというレオのメインテーマに関わるものだろう。
すなわち、本話で出てくるギロは決して悪意を持った存在ではない。
無邪気で、優しくて、夢のような世界を提供してくれる妖精のような存在である。
一種のネバーランドと言っていいのかもしれない。
しかしだからこそ危険なのである。

子どもにこういう充足を与えることは決して子どものためにはならない。
トオルは確かに異星人と分かり合えたかもしれないが、その異星人と分かり合うことによりすっかり現実逃避していたのだ。
最後はギロを復活してもらったことにより納得はしたが、ギロが復活した直後はもう一度ギロと遊ぼうとしていた。
これはある種腑抜けな状態といってもいいであろう。
それは家に引きこもり、ゲームやテレビを見て、食べ物にも困らない、過保護な子どもを見てるようでもあるのだ。

本話の表向きのテーマは人間と異星人の友情ということになっている。
しかし本話を見て、それはあまり感じられないだろう。
それはギロが感情をあまり出さないことにもよるが、結局お互い依存しているだけとも取れなくはないからである。
友情がメインなら、もっと王道の演出もあったはずだ。
それなのに敢えてこういう不気味さの残る演出にしたのはなぜか。
これはやはり、善意というものが時には人間を駄目にする危険というものを描きたかったからだと思う。

ギロは子どもの側から見ると理想の存在だ。
しかしそれに甘えてばかりでは人間駄目になる。
秋葉の事件に見るように、現実逃避な人間が増えている昨今。
本話はそういう現実逃避をする子どもたちの増加を予見し、それを戒めた作品とも解釈できる。
あるいは深読みかもしれないが、スタッフは自分たちの作った作品に嵌まって現実が見えなくなる子どもたちに対して、何らかの警戒心を持っていたのではないか。
「この地球はお菓子で出来た国ではないんだ」
ダンの言葉が妙に胸に残る。

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