まぼろしの少女


データ

脚本は阿井文瓶。
監督は外山徹。

ストーリー

「ブラックスターよ。地球の人間どもは我々のことに気がつき調査を始めた。生意気な人間どもをやっつけ、レオを倒すことのできるものよ。ブラックスターの第六の暗殺者よ。来い~。」
地球へ飛来する円盤。
宇宙生物研究所では今まで来襲した円盤生物のあらゆるデータを分析し、ブラックスターの存在を認めた。
しかしその対策は立てられず、仁科博士を中心とした科学者の苦悩は深まるばかりであった。
その夜、大きな揺れを感じたゲンとトオルはベッドから起きだし、円盤が着陸したらしい山の方へ向かう。
心配する咲子たち。
2人は現場付近でフランス人形を持った一人の少女と出会う。
そのとき山の方から円盤が出現。
そのまま飛び去ってしまう。
2人は追いかけるが、円盤を見失ってしまう。
「こんな時間に、あんな子が一人で歩いてるなんて」。
やはりさっきの少女が怪しいとゲン。
「カオルくらいだったね」とトオル。
一方、湖に姿を消したブリザードは湖を凍結させた。
帰路、男性の悲鳴を聞いた2人は現場に駆けつける。
そこには氷漬けにされ死亡した科学者が。
それはブラックスターの研究に携わった科学者で、その夜もう一人ブラックスターに関わった科学者が殺されていた。
翌日、トオルは昨日の少女がいじめられている現場に出会う。
投げ捨てられた人形を拾って少女に返してやるトオル。
「君、昨日の夜の子だよね」とトオル。
「うちはどこだい?君、なぜ返事しないんだい?君、僕の言ってることがわからないのかい?そうなんだね。どこか遠いところから来たんだね」。
「ねえ、君。僕の名はトオル。ト・オ・ル。わかるだろ?」
「ト・オ・ル」と少女。
少女は自分のことを「ま・ゆ・こ」と言う。
「そうか、まゆこか」とトオル。
手をつないで家に帰る二人。
「おいでよ。おばさんやおおとりさんがきっと何とかしてくれるよ」とトオル。
そのとき、人形からブラック指令の声が聞こえてきた。
「間もなく日が暮れる。行け。行って使命を果たせ」。
まゆこを見たゲンは不審に思う。
それを見て逃げ出すまゆこ。
追いついたゲン。
「待て。お前はどこから来た?」
「おおとりさん。この子は迷子なんだ。何も悪いことなんかしてないんだ」とトオル。
「トオル、その子はブラックスターだ」とゲン。
逃げ出すまゆこ。
追いかけようとするゲンを止めるトオル。
翌朝、朝食を食べる美山家。
「ブラックスターを研究してる科学者が狙われてるって、やはり本当なのね」といずみ。
「間違いないと思うけど」とゲン。
「まゆこちゃん、関係ないよ」とトオル。
「トオル、僕もそう思いたいけど、しかしな」とゲン。
調査に出掛けるゲン。
一方トオルはかわいそうな迷子の女の子を探しに行くと一緒に家を出る。
仁科博士の家へ向かう2人。
2人は仁科邸を警備する警官に出会う。
「おおとりさん、ご苦労さま」と警官。
「何か異常はありませんか」とゲン。
「今日あたりは誰も出歩かないようですな。さっき、小ちゃな女の子が通っただけで暇なもんですよ」と警官。
思い当たる二人。
トオルは急いで仁科邸へ向かう。
「まゆこちゃん」とトオル。
その頃邸内では仁科博士がフランス人形に襲われていた。
口から冷凍液を吐く人形。
氷漬けになる博士。
庭にいた二人は博士の悲鳴を聞いて駆けつける。
そこへ窓ガラスを割って人形が飛び出してきた。
「あの子の持っていた人形だ」とゲン。
冷凍液を吐く人形。
「やっぱり」とゲン。
「まゆこちゃん。あの人形に操られていたんだ。まゆこちゃん、悪いんじゃないんだ」とトオル。
冷凍液を吐いて襲ってくる人形。
ゲンは地面の穴に足を取られて倒れてしまう。
宙を浮いて近づいてくる人形。
それを見たトオルは近くの石を人形に投げつけて、ゲンは辛くも難を逃れる。
木の陰に隠れた人形。
するとその陰から人形を持ったまゆこが現れた。
「やっぱり、お前は」とゲン。
人形をかざして冷凍液をゲンに浴びせようとするまゆこ。
「まゆこちゃん。よせ。やめろ」とトオル。
追い詰められるゲン。
そこへトオルが飛び出した。
人形をかざしたまゆこだったが、冷凍液を浴びせるのをためらう。
そこへ指令の声が響いた。
「我々の任務は地球全滅。まゆこ、やれ。やれ」。
人形をかざしてトオルに迫るまゆこ。
そこへゲンが飛びかかって、人形をまゆこから奪った。
人形を叩きつけるゲン。
すると人形は煙をあげて燃え出す。
燃えた人形を拾って逃げるまゆこ。
追うゲン。
まゆこは人形を持ったまま塀を飛び越えると、警備の警官に冷凍液を浴びせて警官を殺害した。
さらに湖の近くへ来たまゆこは「ブリザード」と叫ぶ。
湖から現れる円盤。
円盤の中に吸い込まれて姿を消すまゆこ。
円盤は怪獣体に変身。
さらにブリザードは腹の噴射口から冷凍液を周りに撒き散らし、付近一帯を氷漬けにしてしまう。
レオに変身するゲン。
うつ伏せになりトオルが凍らされるのを守るレオ。
レオはトオルに早く逃げるように促す。
氷漬けになるレオ。
レオは凍った木の棒を投げつけブリザードの腹の噴射口を防ぐ。
レオはブリザードの吐き出す零下100度の寒気に合わせて皮膚を変化させていた。
しかし体を裏返したブリザードは1000度以上の炎を吐き出す。
ピンチになるレオ。
しかしレオは光線をブリザードの腹に浴びせて炎を吹き出せないようにする。
劣勢になったブリザードは円盤体に戻って逃げようとする。
湖に潜った円盤を捕まえようとするレオ。
しかし円盤は炎をあげて燃え始めた。
ウルトラマントで炎を消すレオ。 最後は宙を逃げる円盤を光線で破壊する。
「まゆこちゃ~ん」とトオル。
そのトオルの足元にまゆこの持っていた人形が落ちてきた。
「私は、言葉がわからない。迷子になったらなんとしよう」。
歌を口ずさむトオル。
そこへ美山家の人達が現れる。
「優しい日本の嬢ちゃんよ。仲良く遊んでやっとくれ。仲良く遊んでやっとくれ」と咲子。
「おばさん」。
咲子に飛びつくトオル。
「いいのよ、トオルくん。思い切って泣いていいのよ。それが男の子なんだから」。
複雑な気持ちで空を見上げるゲン。
一方ブラック指令は新たな円盤生物を呼び寄せていた。
「えい。だらしのない。ブラックスターよ。今度こそはレオを倒せるものを地球に送れ」。
第6の暗殺者もレオは倒した。
しかしレオの弱点もブラック指令によって、刻々とブラックスターへ報告されているようだった。
そしてまた一つ。
地球は大丈夫だろうか。
レオは大丈夫だろうか。

解説(建前)

まゆこは何者か。 まず考えられるのはブリザードの分身という説。
これは最後にブリザードに吸収されたことから支持しやすい説であろう。
ただ、この説だとまゆこがトオルに冷凍液を浴びせるのを躊躇したり、自分の意志を持っているかのように振舞った点の説明が難しい。
したがってここでは保留。

次に考えられるのは、実はまゆこは地球人でブリザードに偶々操られたという説。
まゆこは孤児若しくはそれに近い境遇で、偶々人形を拾ったことによりブラック指令及びブリザードに操られてしまった。
例えばバサラのカナエと近いタイプの少女ではなかろうか。
捜索願いが出ていなかったのは世間体を気にした親が警察には言わなかった、若しくは責任を問われるのを恐れた孤児院が捜索願を出さなかったとも解釈できる。

これだとまゆこがトオルに情を感じて攻撃を躊躇った点も説明できるであろう。
この説の弱点は、ゲンが指摘するように夜中にまゆこが山の近くにいた点が不自然であるということ。
また、ブラック指令がまゆこの名前を知っていたことやブラック指令が最初からブラックスターを研究する科学者を殺す計画を立てていたことなどから、そのような行き当たりばったりでまゆこを暗殺者に仕立てあげるだろうかという疑問もある。
したがってこちらも保留。

次に考えられるのは、まゆこが宇宙人であるという説。
古くはセブンのマゼラン星人マヤ、最近ではエースのアクエリウスなど何者かに洗脳されてその使命を果たすために送り込まれた宇宙人というのはウルトラでも定番である。
この場合の使命は科学者とレオ抹殺であろうが、もっと大きく地球全般を悪の星だと思い込まされていた可能性もあるだろう。
ただ、トオルの優しさに触れるうちに自分の使命に対する信念が揺らいできた。
最後はブリザードと一体化することにより振り切ったが、まゆこの中に消化しきれない葛藤があったのは間違いなかろう。

と、色々説が考えられるが、どの解釈でも通用すると思われる。
ただ、私はタイトルの「まぼろしの少女」というのが気になった。
そもそもまゆこという少女はいなかったのではないか。
或いはブラック指令がまゆこと呼んでいたのはあの人形の方だったのではないか。
実はブラック指令の指令を受け暗躍してたのはあの人形の方だった。

ではあのまゆこと名乗った少女は何者なのか。
これはやはり霊ということになろう。
人形好きの少女の霊が偶々落ちていた人形に宿った。
その少女は年端も行かないうちに事故か何かでなくなったのであろう。
あるいは酷い死に方をして世の中を恨んでいたのかもしれない。
その負のエネルギーが人形と一体になって行動を伴にさせたのであろう。

そして少女にはトオルのような兄がいた。
少女はトオルに唯一信頼する兄の面影を見たため、トオルを攻撃するのを躊躇った。
一方大人に対しては不信と軽蔑を抱いていた。
それがあのような残酷な行為につながったのであろう。
そう言えばカオルも亡くなるとき人形を大事にしていた。
もしかするとあの少女は特定の少女の霊ではなくて、かわいそうな死に方をした少女一般の霊だったのかもしれない。

感想(本音)

ほぼ大人になってから初見の話なのだが、ベタだけどいい話。
個人的には名作と言っていいと思う。
結局まゆこが何者かはよくわからないままだったが、ウリンガの話と違ってこの話ではまゆこの正体は大した問題ではない。
それこそ「まぼろしの少女」であり、トオルにカオル及び家族を思い出させるという役割さえ果たせばそれで物語上は十分なのである。

本話のポイントは何と言ってもまゆこのキャラ。
この子役さんはあまり知らないのだが、なかなか目力の強い美少女で、無垢で謎めいたまゆこというキャラによくハマっていたと思う。
こういう子役を使えるか否かがこの物語の成否を分けるので、その点では本話は大成功といえるであろう。
無垢な子供が殺人を繰り返すという、ある意味オーメン的な要素。
いや、むしろ美少女ということならエクソシストであろうか。
また、人形が殺し屋ということならサスペリアでもある(しつこい・笑)。

本話で不気味だったのは、やはりまゆこが持っていたフランス人形。
人形といえば解説にも書いたが、カオルの最期のシーンでお喋りする人形を思い出す。
あの人形もトラウマものだったが、本話の人形もなかなか不気味。
当時は女の子と言えばお人形遊びという程度のものだったのだろうが、人形に魂が宿るというように本来的に人形には霊的な何かが備わっている。
怪奇大作戦でも同じように魂を持つ人形が描かれており、円谷的には結構好きなモチーフなのであろう。

本話は印象的なギターから、映画の「禁じられた遊び」を思い出させる。
死の意味がよくわからない少女という共通点。
ただ、まゆこに関してはブラック指令に操られて殺人を行っているなど、あくまで演出的に似ているというだけに過ぎない。
まゆこが何者かわからない以上、まゆこからテーマを導くのは困難であろう。

やはり本話のテーマはトオルとまゆこ=カオルの関係。
「カオルくらいだったね」というトオルのセリフにあるように、カオルの死後初めてカオルの名前が登場する。
今までトオルはあまり亡くなった家族のことは語らなかった。
それが前話で漸く父の話が出てきた。
トオルの中で徐々に家族、特に妹の死が実感されるようになってきたのであろう。

ただ、当然のことだが、トオルにはもう血の繋がった家族は存在しない。
死んだ妹と重なったまゆこの死。
また大事な人を失ったトオル。
しかしそんなトオルを励ましたのは咲子たち美山家の人々だった。
咲子の胸に飛び込むトオル。
苛烈を極めるトオルの境遇。
そんなトオルに「泣いていいのよ」という咲子。
辛い時は泣けばいい。
シンプルだが、トオルの迫真の演技もあり胸に迫るシーンである。

その他気になった点。
まゆこに凍らされる警察官を演じたのは金八先生や宇宙刑事シリーズでお馴染み鈴木正幸氏。
杉田かおる、新井つねひろと金八レギュラーが3人も出ていたというのはやはり同じTBSだからか。
本話はあゆみの出番はあまりなし。
これはやはりまゆこにスポットが当たってるためであろう。

なぜか美山家の近所に住んでる科学者たち。
咲子の夫は医者ということだから、ある程度偏差値の高い人が多く住んでる地域なのだろうか。
しかし結構露骨に被害者が出ているのに見回りの警官一人というのは警備が手薄すぎるような。
結局ブラック指令の目的である科学者の抹殺はほぼ成功しており今回は痛み分けという気もする。
ブリザードは前面と後面で別人格となっており、アシュランを思い出させる。
というよりアシュランを改造して作られたのだろう。
しかし零下100度と摂氏1000度。
どういう構造しているのだろう?

本話の脚本は阿井文瓶氏。
この時期の阿井氏はアブソーバ編など好編を書いていたのだが、この話とノーバ編でトオルのトラウマを描ききった点、評価は高い。
特に本話はレオの最終盤ということであまり注目されていないが、その抒情的な演出といい、埋もれさすには惜しい一編であろう。

本話のテーマは繰り返すが家族の絆。
カオルと同年代のまゆこに妹の姿を見るトオル。
まゆこがどう感じたかはわからないが、トオルを殺すことを躊躇するまゆこにとっても、トオルは家族を思い出させる存在だったのであろう。
最終的に自分の運命に殉じるまゆこ。
まゆこを失いまた一人ぼっちになるトオル。

しかしトオルには新しい家族がいた。
血は繋がってなくても家族になることはできる。
家族というのは関係性も含めての家族だから、血の繋がりが全てではないのだ。
ベタなシーンだが、咲子たちがトオルを受け入れるシーンには感動する。
ただ、トオルのトラウマはこれで消えたわけではない。
人間それほど単純にはできてないのだ。

その辺りは後にまだまだ描かれるが、とりあえずカオルのことを一旦精算したという意味は大きい。
円盤生物シリーズでは避けては通れないテーマ。
聞くところによると予算削減やカオル役の富永さんの学業の都合でこういう展開になったらしいが、そこで話を断ち切ることなくシリーズに連続性をしっかり持たせた点は評価できる。
本話はトオルのトラウマというテーマを中心にしながら、ある種の児童文学的な美しさをも持っている点、十分名作と言える作品であるのは間違いないだろう。

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