さようならかぐや姫


データ

脚本は石堂淑朗。
監督は中川信夫。

ストーリー

城南スポーツセンターでトランポリンの練習をする弥生。
練習後、弥生は屋上で月に向かって話しかけていた。
「あなたは誰?私に何の用なの?毎月毎月、私の邪魔をしないでください」。
その弥生が突然姿を消す。
目撃者の話によると、弥生は屋上で月を見つめていたという。
百子もここ2、3ヶ月弥生は何となく沈みがちだったと言う。
弥生を心配したゲンは弥生の実家へ行って様子を伺う。
大丈夫だという弥生の父に対して
「この2,3ヶ月何となく沈みがちだなんて言う仲間もいるもんですから」とゲン。
「そりゃ、何てったって年頃の娘だから、時にはつまらんことを考えて沈むこともありますよ」と母親。
「そうですか。ならいいんです」とゲン。
その時本部から月に異常事態が発生したとの連絡が入る。
連絡のブザー音に興味を示す青年。
「そのブザーはなんですか?」
「僕MACの隊員なんです」と言ってゲンは帰っていった。
「弥生のどこがおかしいというんじゃ、おっとう」と青年。
さらに「弥生はおらの嫁っこになるんじゃな」と両親に確かめる。
「あの子はお前の嫁になるんじゃ」と母親。
「月が何じゃあ」。
「こら、月。おらの弥生に妙な真似したら承知せんぞ」。
月に向かって話しかける青年。
ゲンは帰路、弥生を発見する。
しかし弥生はゲンを無視して林の中へ入っていった。
「王女様、いよいよ明日十五夜にお迎えにあがります。この十五年間、王女様のお命を狙う悪い奴らと私どもは戦い続け、とうとう勝ったのです」と月からの声。
「私は地球で生まれて地球で育った普通の女の子よ。何のことだかわからないわ」と弥生。
「王女様。この私の声が聞こえるということは人間ではないということなんです。あなたは我々月の中心に住む、月族の女王になられる方なのです」と月の声。
「いや、いやです。私は人間の子よ。この地球でお嫁に行って赤ちゃんを産む。だから、私を迎えになんて来ないで。そんなことしたら、私死んじゃうから」。
「よせ、よさないか。何のかかわりもない子に変なこと言うな」とゲン。
「王女様、明日必ず迎えに参ります。用意してお待ちになっていてください。必ず」。
言い残して消える月の声。
「大丈夫。誰かが仕掛けをして、いたずらしてるんだよ」とゲン。
「でも怖いんです。ここ半年の間満月が近くなると変な音が聞こえるんです」と弥生。
「何もかも気のせいだ。だって月には生き物は何にもいないんだよ」とゲン。
「そうよね」と弥生。
弥生を家まで送るゲン。
「今のこと誰にも言わない方がいいよ。心配するから」とゲン。
「ただいま」。
家に帰る弥生。
「何処行ってたんだよ」。
心配して弥生を迎える家族。
その頃MACのレーダーは月の裏側に凄いエネルギーを検知していた。
コンピュータによると十五年前にも月面に全く同じ現象が起こったという。
「隊長、かぐや姫です」とゲン。
隊員達はゲンから弥生のことを聞いた。
「そうか、迎えは明日の十五夜に来るというわけか」とダン。
月の表面に噴火らしき現象を観測するMAC。
「そんな馬鹿な。月の火山は全部死火山で活動してないはずだ」とゲン。
拡大して見ると、噴火の中から怪獣らしき物体が空を飛ぶのが見える。
このままだと午後8時前後に弥生の家近辺に落下するという。
月の使者の来襲に備えて家を補強する青年。
「月が呼ぶ。私を呼んでいる。助けて」。
月の使者に怯える弥生。
どこにもやらんと父親。
ゲンたちMACは弥生の家を警備に来る。
「弥生はおらの嫁っ子になるんじゃ」と青年。
そこへ怪獣接近の連絡が。
「ああ、もう駄目だ」と父親。
「月から来た子はまた月へ帰ってしまうんだ。弥生、黙っていて悪かった」。
「お父さん、何を言うんだね」と母親。
「仕方ねえ。これもみんな運命だ。逆らえはしねえ」と父親。
「実は、弥生は、十五年めえのこった。やはり満月の夜だった。ものすげえ稲光が竹やぶの方でしてなあ。その夜は怖くて怖くてよう近よらなんだ。次の日の朝、恐る恐る竹やぶの中にへえってみると。びっくりしたよ。生まれたばかりの赤ん坊が。おらたち夫婦は、女の子が欲しいと思ってたところじゃった。ああ、これぞ、天からの授かりもんと」。
「それが弥生だ」と父親。
「弥生さん。お父さん、お母さん。十五年もの間、弥生さんは人間としてこの地球に暮らして来たんだ。どこにも帰ることなんかないんだ」とゲン。
弥生たち親子の悲しみをよそに、時間はたちまちに流れ、月が昇り始めた。
警戒態勢に入るMAC。
そこへ怪獣が現れた。
外へ導かれる弥生。
怪獣が光を放つと弥生は着物を着た王女の姿となる。
「王女様、お迎えに参りました。さあ。王女様。月族のキララでございます」と怪獣。
「王女様、さ、どうぞ、私めの手に」とキララ。
それを見てレオに変身するゲン。
キララと戦うレオ。
「戦いをやめて下さい。行きます。私が月に行きます」と弥生。
「大丈夫だ。レオは必ず勝つよ、行っちゃ駄目だ」。
弥生を引き止める隊員達。
キララは岩のように丸くなりレオを攻撃する。
「無駄な抵抗はやめろ。王女様は月に帰ると言っておられる」。
「産みの親より育ての親だ。彼女は地球で育ったんだ」とレオ。
「馬鹿。産まなきゃ育てられないんだ。物には順序というものがあるんだ」とキララ。
口から火花を放つキララ。
しかしレオはウルトラマントでキララの攻撃を封じる。
優勢になるレオ。
「お嬢様を返してくれ」。
力を封じられたキララはレオに懇願する。
追い討ちをかけるレオ。
「やめてください」と弥生。
岩のように丸くなって攻撃するキララ。
レオは光線をキララに浴びせる。
「王女様、お帰りください」。
倒れるキララ。
キララは弥生の胸のペンダントに光線を浴びせる。
胸のペンダントは砕かれ、倒れこむ弥生。
飛び去るレオ。
「あのペンダント。あれが壊れたんで心を月に持っていかれたんですよ」と母親。
舞を踊りながら月へ向かって歩いていく弥生。
「私達を見捨てないで」と母親。
しかし弥生は月へ帰っていく。
なす術なく見守るゲンたち。
弥生は家族に頭を下げると、キララと一緒に月へ帰っていった。
「王女様。お待ちしておりました」とキララ。
「弥生!」
弥生の名を叫ぶ青年。

解説(建前)

ゲンは月には生物がいないと言っていたが、これは事実か。
これが事実だとすると月族の存在そのものが否定されることから問題となる。
この点、ゲンはウルトラマンレオだからと言って、全ての宇宙人のことを知っているわけではない。
恐らくゲンは地球で常識とされる知識に基づいてそのような発言をしたのであろう。
月に活火山がないというのも同様。
したがって、この件に関するゲンの発言には根拠といえるものはないと考えられる。

では、ダンは月族のことを知らなかったのか?
これに関しては、ダンは否定するとも肯定するともしていない。
知っていればそのことを言うのがいつものダンなので、やはり月族のことは知らなかったと解釈するのが妥当であろう。
ただ、否定しなかったというのは、その可能性は認めていた。
若しくは何らかの心当たりはあったのだろう。
いずれにせよ、月族を否定する根拠はないことから、キララと弥生は月族ということで問題はないであろう。

では、なぜ月族の存在を知られていなかったか。
これはやはり、キララの言うように月の中心で暮らしていたからであろう。
おそらく、月の地表は人の住むには適していない土地なのであろう。
そこで、月族は地下に人工太陽みたいなものを作ってそこで生活をしていた。
キララの言うところによると、月族は王様を中心にした王政を取っていたようである。
しかし、あるとき自らが王となって月族を支配しようという一派が出てきた。
それで王女である弥生を地球へ避難させたのである。
最終的にはその反乱は抑えられ、弥生を地球へ迎えに来た。
やはり月の安定のためには新しい女王が必要なのである。

弥生には許婚の青年がいた。
しかし、この青年は弥生の両親を「おっとう、おっかあ」と呼んでいる。
これはどういうことか。
これはおそらく、弥生は捨て子、若しくは何処から貰われた養子として育てられていたのであろう。
弥生が月の声を異常に気にしていたのは、自分の出自に自信がないことの表れである。
結局弥生が月へ帰ることを決断するのも、自分が本当の子どもではないと知っていたからではなかろうか。

感想(本音)

レオでは初の石堂脚本。
監督に怪談映画の巨匠中川信夫を迎えて何ともファンタジーな映像となっている。
ストーリーは特に捻りもなく、ほぼ竹取物語と同じ展開。
違うところは許婚がいるところくらいか。
ただ、あまりにストレートな作りに逆に違和感を感じる作品でもある。
その辺り、内容を見ていくことにする。

弥生は城南スポーツクラブの生徒で、トランポリンの実力は相当なものらしい。
ウルフ星人の回でも冴子という体操の選手が出ていたが、こちらも相当な実力であった。
狼男とかぐや姫。
共通点は月ということから、何となくイメージが被る。
脚本家が違うことからただの偶然であろうが、月というものは古今東西、異世界に通じる何かを秘めているのだろう。

弥生のトランポリンが上手い設定は話に特に関係なかった。
単にゲンと接点を持たすためだけの設定であろう。
弥生の外見は周りの人間と変わらず人間そのもの。
本人も自分を宇宙人と意識したことはないようだし、身体検査等で問題になったこともなさそうなので、月族と人間とは元は同じ種族の可能性が高い。
そう言えば、月星人の南夕子も人間とほとんど変わらなかった。
別々の進化の過程を辿ったというよりは、やはり元から同じ種族と考えるのが素直である。

弥生はキララが現れると洋服姿から着物姿へ変身した。
これも月へ帰るとき白いドレス姿になった夕子と似ている。
また、夕子同様、そのままの姿で宇宙空間へと消えていった。
この辺りの特殊な能力は人間と月の人間との違いである。
ここからは推測だが、元は同じ人間でも月星人は人工太陽の光を浴びるうちに特殊な能力を身につけたのではないか。
ただ、それではその人工太陽は誰が作ったのかという問題も出てくる。

人工太陽と言えば、当然思い出されるのがプラズマスパーク。
つまり、ウルトラ一族である。
大胆な仮説だが、ウルトラ一族、月族、地球人は元は共通の祖先を持っていたのではないか。
その共通の祖先が他の星へ植民へ出かけて、それぞれウルトラの星、月、地球へたどり着いた。
彼らはそれぞれ高度な科学を持っていたことから、そこで高度な文明を発達させた。
しかし、ウルトラの星では太陽が爆発し、地球ではオリオン星人によって高度な文明が滅ぼされ(笑)、生き残った者たちは先人の知恵を失った。
また月もルナチクスにより死の星へと変えられた。

ウルトラ族はプラズマスパークを開発し、その危機を乗り越えた。
月族も冥王星へ移住し、人工太陽を開発しその危機を乗り越えた。
人間はオリオン星人が眠ってる隙に、再び地力で高度な文明を作り上げた。
かように、それぞれの星の人間はそれぞれの星で別々の進化を遂げたのである。
かなり話が脱線してしまったが、地球人と月星人が外見も内面もほとんど変わらないのはこういう歴史があったからであろう。
まあ、トンデモな話になってしまったが、あくまで一つの仮説ということで。
ただ、オリオン星人が支配してた頃の地球人は未開人だったかな?
じゃあ、ノンマルトとの激しい戦闘で(以下略)。

さっきも出てきたが、本話の脚本は「さよなら夕子よ、月の妹よ」を書いた石堂氏。
そうすると、当然その話との整合性が気になるところである。
この辺り、石堂氏がどういう意識でこの脚本を書いたのかわからないので、本当のところは永遠の謎である。
単に、民話シリーズだし、かぐや姫で一本書いてくれと言われただけという可能性も高い。
しかし、いくらウルトラに思い入れがない石堂氏でも、「さよなら夕子よ」を書いたことくらいは覚えているであろう。
したがって、エースとレオの世界がパラレルとでもしない限り、その整合性は考えなければいけない。

まず考えられるのは夕子一派と(なんかヤクザの世界みたいだな笑)弥生を中心とする月族の抗争があって、その抗争に月族が勝利したという解釈。
その結果、夕子一派は冥王星へと追いやられた。
ただ、夕子の話では月は人の住めない死の星だったはず。
じゃあ、月の中心に住む月族って何者?
段々わけがわからなくなってきたが、これはこう解釈しよう。
実は夕子一派が知らないうちに、月に戻ってきて人工太陽を作り地下に住んだのが月族であると。

つまり、月族も夕子一派も元は同じ月星人だったのである。
月に住むことができなくなった月星人は一斉に冥王星へ移住した。
冥王星は当然太陽がほとんど当たらないことからそのまま住むには月よりさらに過酷である。
そこで、月星人たちは人工太陽を開発した。
また冥王星にはマグマがあり火山活動があった。
そして何より水があったのであろう。
この辺りは現実とは違うが、フィクションの世界だから現実に縛られることはない。
或いは冥王星にも別の文明があったのかもしれないが、いずれにせよ死の星となった月よりは環境がよかったのであろう。

では話は戻って、月族と対立したのはやはり月へ帰ることを念願としていた夕子一派なのだろうか。
その前に、そもそも夕子は月へ戻ったのであろうか。
この辺り、ウルトラマンタロウの「ウルトラ父子餅つき大作戦」を見る限り、夕子は月へ戻ってモチロンという怪獣を従えていた。
したがって、月へ帰ったと考えるのが妥当であろう。
キララとモチロン。
月族と夕子一派がそれぞれ違う怪獣を従えている。
こう見ると、やはりこの両派が抗争していたと考えることができそうである。

ただ、夕子一派が月を乗っ取るために、弥生を亡き者にしようとしたとか、ちょっとヤクザ過ぎる(笑)。
そもそもそこまでする必要もなさそうだし、やはりこれは月族内部というか、月の先住民同士の争いと考える方が妥当であろう。
王女を亡き者にしようとするというのは後継争いの基本。
夕子一派侵略説も捨てがたいが(笑)、ここは敢えて内部抗争説を取りたい。
そしてむしろ、夕子やモチロンは、月族の抗争の勝利に貢献したと。
その結果、平和を愛する夕子一派と月族は月で共存の道を取ったのである。

何か変な展開になってしまったが、その他の感想を。
弥生の許婚の男は正直あまり魅力を感じない。
「弥生はオラと結婚するんだ」と親が決めた結婚をごり押しするばかり。
この辺りは石堂氏もあまり好意的に描いていないようだ。
弥生も別にこの青年が好きというよりは、単に親が決めたから結婚するという程度にしか見えない。
もちろん一緒に暮らしてきて好意は持っているだろうが、弥生は貰い子という負い目を感じているとも解釈できる。

産みの親より育ての親だというゲンの主張に対してキララは「物事には順序というものがあるんだ」と反駁してる。
最終的に弥生は月へ帰っており、この作品の結論は育ての親より産みの親ということになろう。
この辺りの石堂氏のスタンスは寡聞にして知らないが、世間一般では産みの親より育ての親と言われる方が多いので、この辺りは石堂氏のへそ曲がりな性格が出たとも言える。
もちろんそこまで石堂氏が考えてるわけではなくプロデューサーの意向かも知れないが、いずれにせよ弥生が月へ帰るというのは子どもにはややショックであろう。
ただ、原作のかぐや姫がそういう話なんだから、これも致し方ないであろうか。
許婚の青年に魅力がないのは、やはり月へ帰るという結論ありきなんだろうな。

キララは言葉をペラペラ喋ったり、その愛嬌のある姿からもあまり怪獣ぽくない。
岩に変身してレオを攻撃するなどかなりの実力者なのだが、何処となくユーモラスなのも民話シリーズゆえであろう。
今回は満月の中での戦いということで、光学合成がなかなか綺麗であった。
また、今回の監督ははウルトラ初登板の中川信夫氏。
正直不明にして氏についてはあまり知らないのだが、怪談映画の巨匠ということで全体的に幻想的な感じの演出がなされていた。
怪奇色は次回の方が強いのだが、日本最古のファンタジーといわれる竹取物語の演出としては成功といえるであろう。

本話は上にも書いたが、かぐや姫をストレートにモチーフにしている。
そのため、ドラマ的にはあまり盛り上がりがない。
正直ドラマ的には弥生が月へ帰る必然性は感じられなかった。
かぐや姫だから月へ帰るという以上のものは感じられなかったのである。
そもそも弥生にとっての幸せってなんだろう。
自分は月の女王だから、その運命を受け入れるしかないのか。
この辺りの葛藤もなく、ただペンダントを壊されて自分の意志をなくしただけのように見えるので、弥生が不憫にすら見えるのである。

原作の竹取物語に詳しいわけではないのでよくわからないが、少なくともかぐや姫にはもう少し意志というか、覚悟みたいなものが感じられた。
正直本話のラストはキララに弥生が誘拐されたようにすら見える。
もちろん必死に自分を取り戻そうとするキララの姿に感化されたというのもわかるが、演出的にはちょっと弱い。
まあ、30分の子ども番組なので仕方ないともいえるが、かぐや姫をモチーフにしたとしても、やや消化不良気味であろう。
結局、中川監督の幻想的な演出と、和装の弥生の美しさを見るというのがこの話の正しい鑑賞法とでもなろうか。
個人的には今ひとつというのが、偽らざるところである。

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