ベロクロンの復讐


データ

脚本は市川森一。
監督は菊池昭康。

ストーリー

宇宙パトロール中の北斗。
目の前に流星群が。
流星群はシャボン玉に変わる。
すると、突如シャボン玉の中からかつてエースが倒したミサイル超獣ベロクロンが現れた。
ベロクロンと戦うエース。
「うらめしや~。ウルトラマンエースよ。例えこの身は地獄に落ちようとも、ヤプールの恨み晴らすまでは幾たびとも蘇らずにおくものか。復讐せよベロクロン。エースを地獄に引きずり込め。ヤプールの仲間達が待ってる地獄へ」。
苦しむエース。
女の笑い声。
目を覚ます北斗。
「うなされてたぞ」と山中に言われた北斗は、「ベロクロンの夢を見ていた」と答える。
「俺はベロクロンに殺された。そしてウルトラマンエースの力を得て蘇った。俺にとっては生涯忘れることの出来ない超獣だ」。
回想する北斗。
急に奥歯が痛む北斗。
基地に帰って美川に見てもらうと、大きな虫歯が見つかる。
「今まで虫歯はなかったのに」と北斗。
B地区にパトロールに出た北斗は隊長から虫歯を見てもらうよう連絡を受ける。
Q歯科医院という看板を見つけてビルに入る北斗。
エレベーターで上に上がり、Q歯科医院の中に入った。
中には椅子が1つあるだけで、奥の方から女医が出てきてとりあえず座るよう北斗に言う。
女医は痛みを止める薬を歯に詰めその上にカプセルを被せる。
礼を言い、退出する北斗。
外に出ると、歯の痛みはすっかり取れていた。
パンサーでパトロールを続ける北斗に急に耳鳴りが。
目の前が歪み、ひとまず車を降りる。
すると、街の中にベロクロンの姿が。
「B地区にベロクロン出現」。
基地に連絡する北斗。
しかし基地内のレーダーには何の異常も観測されてなかった。
「見間違いじゃないのか」と隊長に言われ、「確認も何も今目の前で暴れている」と北斗。
すると、基地に警察から連絡が入ってきた。
北斗が街中で銃を乱射しているという。
ビルの屋上でベロクロンを攻撃していた北斗は、周りをいつの間にか機動隊に囲まれていた。
「大人しく銃を捨てなさい」。
「何故俺と一緒に戦わない。さては貴様らも宇宙人だな」。
機動隊に銃を向ける北斗。
その時、竜が銃を発射し北斗の銃を叩き落した。
「君たちは誰の見方か。あれが見えないのか」。
機動隊に掴みかかる北斗。
しかし竜の説得に従い、基地に戻る。
「もし人身事故でも起こしてたらTACの隊員でもブタ箱行きだぞ」と山中。
北斗は謹慎を言い渡される。
精神鑑定の結果、北斗の精神は正常。
美川は「一種のノイローゼじゃないか」と言う。
しかし幻覚を見る前北斗が歯医者に行ったことに引っかかった竜は、今野にQ歯科医院を調べるよう命ずる。
一方北斗も歯医者を疑い、Q歯科医院に向かう。
今野が調べると、B地区にQ歯科医院という歯医者は存在していなかった。
その時基地にB地区にベロクロン出現の報が入る。
一方パンサーの北斗はベロクロンを目撃する。
「これは幻覚だ。もう騙されないぞ」と超獣に近付く北斗。
その頃基地では昔のベロクロンを研究し、弱点の胃袋を攻撃することを決めていた。
ベロクロンに近付いていった北斗は、ベロクロンが放ったミサイルの衝撃で吹っ飛ばされてしまう。
TACはベロクロンにミサイルを撃ち込むが、ベロクロンのレーザー光線にスペースはやられてしまう。
その頃衝撃で吹っ飛ばされていた北斗の歯のカプセルが取れた。
炎に巻かれた北斗はエースに変身。
ボクシングや相撲で戦い、優勢に立つエースであったが、あらゆる物体を気化させるというベロクロンの胃袋から出る毒の泡にもがき苦しむ。
何とかそれに耐え、ベロクロンの角を抜き、それを突き刺すエース。
ベロクロンの亡骸を最後は宇宙へと運んでいった。
北斗は再びQ歯科医院を訪れる。
「肝心な所ではずれちまったんですよ。おかげで命拾いしましたがね」と北斗
「今日はあなたの正体を見届けたいと思ってね」。
女医は能面を被っていた。
銃で面を撃つ北斗。
能面の下から女ヤプールの顔が現れる。
「ベロクロンそっくりの超獣を操って俺の命を狙うからにはヤプールの生き残りに違いない」と北斗。
「これで勝負がついたと思ったら大間違いだよ、北斗星司」。
「勝ち負けはとっくについている。いい加減に諦めたらどうだ」。
「そうだ、お前は勝った。勝った者は生き残り、負けた者は地獄に落ちる。しかしこれだけは覚えておくがいい。勝った者は常に負けた者たちの恨みと怨念を背負って生き続けているのだ。それが戦って生き残っていく者の定めだ」。
銃で撃つ北斗。
そして基地に連絡する。
「Qという歯医者だけど」
「やっぱりそんな歯医者なかったでしょ」と美川。
「あったの?なかったの?」。
「あったよ。そして…」
「消えて無くなりました」。
パンサーで基地に戻る北斗であった。

解説(建前)

最初に見た北斗の夢は何だったのか。
これはヤプールが北斗の歯に仕込んだ虫歯を通じて見せたものと考えられる。
そしてその虫歯は地上にいる時に既に仕込まれていた。
いつかはわからないが、ヤプールならそれくらいのことは容易いであろう。
パトロール中に仕込まれたとしてもいいのだが、北斗は密閉されたスペースの中におり、少し難しいように思う。
ヤプールは何でもありなので、それでも問題はないのだが。
この辺は好き勝手に解釈すればいいだろう。

Q歯科医院は何なのか。
これもヤプールが北斗に見せた幻覚。
ヤプールは北斗の虫歯を通じて北斗の動静を把握していた。
そこで竜の連絡に即座に対応し、北斗に看板を見せQ歯科医院に誘い込んだ。
あの部屋自体は異次元空間に存在しており、部屋のスペースだけを借りたのだろう。
そして歯にベロクロンを見せるカプセルを埋め込んだのである。

ここで気になるのは、カプセルを埋めなくても北斗に幻覚を見せられるならわざわざ歯に埋め込む必要はないのではないかということ。
これはおそらく虫歯だけでは看板や夢の中といった類の幻覚しか見せられないのではないか。
街に超獣を見せるには威力が足りないのである。
あのカプセルで虫歯の幻覚をさらにパワーアップさせたものと考えられる。

ヤプールは何故わざわざ回りくどいことをして北斗を殺そうとしたのか。
これはただ北斗を殺しただけでは復讐にならないから、ベロクロンそっくりの超獣に殺される屈辱を味わわせようとしたのであろう。
(この辺り「ウルトラ38番目の弟」のshoryuさんも同様に指摘)。
しかし、北斗がベロクロンにやられれば自動的にエースに変身するはずである。
あのカプセルはエースにまで効果があったのだろうか。
その辺り作戦的に疑問も残る所である。

北斗はベロクロンに殺されたと言っている。
このことから少なくとも北斗は第1話で死んだことがわかる。
夕子についてははっきりしないが、月星人として分離できたことから生きていたと考えるのが素直ではないか。
8話でも驚異的な生命力を発揮しており、月星人の特殊な力というものが感じられる。

感想(本音)

子供の頃は正直理解不能で不気味さだけが記憶に残っている作品。
話としては面白いのだが、子供にはやや高度かもしれない。
大人になった今こそその面白さがわかる話だろう。
今までこういう復讐ものはなかった。
怪獣退治そのものの是非を問う作品はあったが、悪い敵を倒すのには何の葛藤もなかった。
しかし善も悪もエースは敵を殺しているという事実。
いくら悪人とはいえ、殺されたものは相手を恨むのは当然だろう。
悪人は殺されて当然という勧善懲悪を嫌う市川氏の主張が反映された内容と言える。

以下演出面について。
まず、今回も目を引くのは田渕氏の特異な演出。
相撲、キャッチボール、画面九分割。
話の筋とは関係ないお遊びが炸裂していたが、そのシュールな演出は結果的には全体にマッチしていたように思う。
と言っても、本当はもっとベロクロンの復讐という点にスポットを当てて演出して欲しかったのだが。

最初の北斗の夢のシーン。
エースが戦っているのはベロクロン2世。
細かいとこだが、ここは初代と戦った方がしっくり来たと思う。
まあ、着ぐるみがないのだから仕方ないのだが。
最後に宇宙に運ぶのは田渕流か。
田渕氏は超獣退治を残酷にしたくないというポリシーがあるように感じられる。
遊びっぽい演出や、超獣の弔いや。
ただ、その意図が何処まで実現してるかは疑問である(返って不真面目に感じられる)。

今回女ヤプールが存在感抜群だった。
あの女医のフェロモンは凄い。
肉欲をタブー視するキリスト教徒の市川氏らしい設定。
女のフェロモンに屈すれば地獄に落ちるということだろうか。
もはや子供向け番組とは思えないメッセージである。
一方、演出面も女ヤプールの妖しさを引き出しており、なかなか見ごたえがあった。
特にあの能面。
それだけで彼女が異世界の存在であることをはっきりと感じさせ、その不気味さとともに恨み・怨念を象徴していてよかったと思う。
また女ヤプールが手に持っていた花も、前衛演劇風で面白かったと思う。

そして、今回は北斗の演出も良かった。
まず、街中で銃を乱射するシーン。
完全に狂気のその目はあのヤプールを倒した23話を思い出させる。
(「ウルトラ38番目の弟」のshoryuさんも同様の指摘)。
あの時も北斗は幻覚を見せられた、もしくは異次元の世界に引き込まれたのだが、今回も同じように幻覚を見せられており、ヤプールの攻撃が主に人間の精神を対象にしているのがわかる。
ヤプールは物質的な破壊よりむしろ、こういう精神への攻撃を得意としているようだ。

そして最後の北斗の演出も良い。
これは脚本でもあるのだろうが、淡々とQ歯科医院の消滅を美川に報告するシーン。
サスペンス調のストーリーの最後に相応しい幕切れになっている。
美川の声が遠くなる演出も良い(何処となく女ヤプールの声に聞こえるが)。
そして悪とは言え、敵を殺した直後の北斗の堂々とした態度。
北斗にはヤプールのメッセージは届かない。
いや、そんなことを考えてる余裕はないのだ。
彼はベロクロンに殺されたその時から、逃れることの出来ない宿命を背負ってしまった。
決して報われることのない宿命を。
ある意味彼自身もまた、負けた者として行き続けねばならないのかもしれない。
最後のニヒルな北斗の演出はヒーローとしての孤独さもまた込められていたように思う。

以下細かい点を。
最初の対ベロクロン戦を踏まえて作戦を決めるのは良かった。
そしてベロクロン2世は新たにレーザー光線を持っており、同じように行かないのはなかなか面白かったと思う。
と言うか、ちょっと安直過ぎるぞTAC。
女ヤプールはかなりエロイ。
子供番組でいいのか、こんな話。
しかしあの手に持ったヘラは怖すぎ。
あそこでやられるのかと思わせる演出はなかなか良かった。
今回竜隊長やTACは北斗を信頼してQ歯科医院を探している。
昔ならもう少し邪険に扱われていたのだが、昔に比べて北斗の株が上がっているようだ。
長く戦いをともにして、北斗がチームに溶け込めてるのが窺われる。

今回はヒーローであるエース及び北斗が直接攻撃されている。
しかもそのやり方は何とも回りくどく、そして嫌らしい。
今までエースを殺そうとした敵はいたが、北斗の精神に直接攻撃を仕掛けた敵はいなかった。
この辺り、ヤプールの目的が既に地球侵略ではなく、エースや北斗に対する復讐、怨念に変わっているのが見て取れるだろう。
ヤプールにとって北斗の生死はもはや、どうでも良い。
十字架を背負わせて生き続けさせることにこそ意味があるのだ。
そしてそれがヤプールの真の狙いなら、その目的は半ば達成されたといえそうである。
今までヒーローとしての苦悩に直面する機会が少なかった北斗。
エース終盤に来てその背負わされた重荷の意味に気づかされたのではないか。
そして自分の行為に対する疑問。
弱い者いじめをする敵を倒すのもまた、弱い者いじめではないのか。
エース最終回に向かっての大きな伏線となる48話であった。

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